経口維持加算は、中度から重度の要介護者や認知症高齢者に対してより質の高いケアに取り組むための加算です。対象者が口から食事を摂る楽しみを得られるよう、多職種での連携して支援を行うことを目的としています。
この記事では、経口維持加算の概要について説明したのちに、算定要件、算定手順から計画書の記入例まで詳しく解説していきます。経口維持加算の算定を検討中の方はぜひ最後まで読んでみてください。
目次
経口維持加算とは、入所者や入院患者が認知機能や嚥下機能の低下により口から食事を摂ることが困難になった場合に食事の摂取を支援するための加算です。対象者に適切な環境や体制を整備して、医師などの指示に基づいた支援計画を作成してケアに取り組むことで算定することができます。
経口維持加算の対象者は、まず口から食事を摂取していることが前提になります。
前提を満たす人に、嚥下内のレントゲンや内視鏡・水飲みテスト・反復唾液嚥下テスト・頸部聴診法などの検査をして機能評価を行います。これによって、摂食機能障害や誤嚥が認められた場合に、経口維持加算の対象者となります。
経口維持加算の対象となる事業者は、施設サービスと地域密着型サービスに分けられます。
【施設サービス】
【地域密着型サービス】
経口維持加算を算定するには、まず前提条件を満たす必要があります。それを満たしたうえで、算定要件を満たさなければいけません。
経口維持加算には、経口維持加算(I)、経口維持加算(Ⅱ)の2種類があります。算定要件、算定単位もそれぞれ異なるため、順番に解説します。
経口維持加算を算定するには、以下の5つの前提条件をすべて満たす必要があります。
経口維持加算(Ⅰ)では、嚥下障害によって、管理栄養士による栄養ケアマネジメントだけでは経口維持が難しい利用者が対象になります。算定要件は以下の3つです。
この3つを満たした場合に、1ヵ月につき400単位を加算することができます。
経口維持加算(Ⅱ)の算定要件は以下の2つです。
この2つを満たした場合に、1ヵ月につき100単位を加算することができます。
経口維持加算の算定で必要とされる支援は以下の通りです。
対象者の状況などをもとに、どのようにすれば機能維持、改善ができるかという観点で食事に関する観察を月1回以上行います。また、観察だけでは、正確な状況把握が出来ない場合は、機材を使用することもあります。
観察者の職種差・個人差によって支援に影響しないように、観察ポイントやスケールは統一しましょう。
栄養マネジメントを行いながら、対象者の日常の様子、ミールラウンドでの観察から多職種で会議を月1回以上行います。
経口維持計画の様式例は厚生労働省のホームページで確認できます。
ここからは経口維持加算を算定するまでの流れを詳しく見ていきます。
経口維持加算では、管理栄養士による栄養ケアマネジメントだけでは経口維持が難しい利用者が対象です。具体的には、ミキサー食やゼリー食、ソフト食やとろみ食を摂取している利用者になります。
嚥下評価を行う職種が配置されていない施設では、食物テストや改訂水飲みテストを行うことが一般的です。これは比較的簡単な検査なので、管理栄養士でも実施が可能です。
しかし、管理栄養士では専門的に嚥下機能を評価できないので、より詳しく嚥下機能を評価するためには、言語聴覚士に頸部聴診法や反復唾液嚥下テストでの嚥下評価を行ってもらい、対象者を選定してもらうことが必要です。
また、言語聴覚士がいない場合、認知症の検査において認知機能に問題があり嚥下調整食を提供する必要があるなど、食事に関する認知機能の低下が認められると経口維持加算を算定することができます。
経口維持加算の算定には、医師の指示が無ければ算定を行えません。そのため、嚥下評価などを行った際に経口維持の作成をする必要性がある場合には、医師に進言しましょう。
医師から経口維持計画を作成するよう指示が出ると、計画書を作成する準備に進みます。医師の指示は口頭ではなく、指示が出たことがわかるようにカルテの指示書、食事箋などに記載してもらいましょう。
医師の指示のもと経口維持計画の作成が決まったら、多職種で食事観察を行います。多職種によるミールラウンド(食事の観察)を月1回行うことが必要です。
職種に規定はありませんが、管理栄養士、看護師、介護士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医師、歯科医師、歯科衛生士、薬剤師などが一般的です。出来る限り多くの職種に参加してもらいましょう。
なお、ミールラウンドに、医師・歯科医師・歯科衛生士・言語聴覚士のいずれか1名以上が参加していると、経口維持加算(Ⅱ)も算定できます。
食事観察の際には、食事環境の評価など厚生労働省が示している観点をもとに記録を残しておきます。
食事観察が終わったら、経口維持のための会議を行います。多職種による会議を月1回行うことが算定の要件になります。食事観察の結果、日ごとの介助で気づくこと、体重など身体状態についての変化を共有します。
なお、多職種会議に医師、歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士のいずれか1名以上が参加していると、経口維持加算(Ⅱ)も算定できます。
医師の指示、ミールラウンド、経口維持のための会議をもとに経口維持計画を作成します。厚生労働省から様式例が提示されているのでそちらを参照しましょう。計画書を作成後は、利用者のご家族に計画書について説明をして、家族の同意と署名を貰いましょう。
経口維持計画は、栄養ケア計画に含めてもいいとされています。「栄養ケアおよび経口維持計画書」と1枚の書面にすることで、事務作業を簡略化することもできます。
経口維持加算を算定するにあたっての注意点は以下の通りです。
経口維持加算は毎月算定することができます。しかし、算定要件に、月1回経口維持計画を作成することと明記があるため、ミールラウンド、会議は毎月行う必要があります。その結果を踏まえた経口維持計画を作成しなければなりません。
ミールラウンドや会議を行った記録がないと実地指導や監査の際に証明が出来ないので、記録を残しておく必要があります。日付、食事の調整でケアを行った内容などを記入しましょう。記録記入が業務の負担とならないよう、様式を用意しなくてはいけません。
経口維持計画は、毎月のミールラウンドと会議を踏まえて作成するため、本人や家族からの同意はその都度必要になりますが、現状維持で計画書に変更がない場合には署名は不要になっています。
しかし、食事の摂取の支援方法など、計画書に変更が出た際には、変更した旨を説明し、再度本人や家族に署名での同意を得る必要があります。
経口維持計画書は、厚生労働省などから提示されている様式を使って記入することもできます。また、規定の様式がないので自分で作成することもできます。その際には様式に含まれている項目はすべて入れるようにしましょう。
記入の際は、ミールラウンドなどで観察して気づいた身体状況、栄養状態、食事に関する意向を記入します。観察だけでなく、家族や本人から直接話を聞くことも必要です。
会議後には、ミールラウンドや本人や家族の意向をなどから解決する課題や目標を拾い出し、経口維持計画を記入します。支援の変更があるか否かも記録します。
施設サービス計画書に、栄養ケア・経口維持計画を入れて一体的に作成することもできます。その場合は、経口維持に該当する部分が明確に判断できるようにしましょう。
最後に経口維持加算に関するよくある質問とその回答を紹介します。
医師の所見でかまいません。診断書は必要ありません。摂食、嚥下機能障害の状況やそれに対する医師の指示内容は、カルテや指示箋に記録しておきましょう。
検査の種類によっては実施できる職種が決まっています。嚥下造影撮影(VF)、嚥下内視鏡検査(VE)は医師または歯科医師でなければ実施できません。
そのほかの機能評価は熟練した者であればどの職種でも実施可能ですが、頸部聴診法や反復唾液嚥下テストでの機能評価は言語聴覚士が行うことが望ましいとされています。
算定可能です。平成27年度の介護報酬改定により、重複して算定可能になりました。
経口維持加算では栄養マネジメントが推進され、利用者の栄養状態を保つことができます。また、嚥下訓練や口腔ケア等の支援を行うことによって、利用者が口から食事を摂ることができるようになります。
食生活は生きるために不可欠なものです。そのため、自分で食事をすることから得られる楽しみはうかがい知れません。
利用者が摂食・嚥下機能が低下してしまった場合でも、その方の残存機能や生活能力を活かしてできることを自分で行ってもらい、自分でできることが増えることで、より自分らしくいられるようになるでしょう。