特定処遇改善加算はキャリアのある介護職員の給料を増やして離職を防ぎ、人材の確保を図るために設けられた制度で、経験・技能を有する介護職員が、月額8万円以上の賃金増または年収440万円以上となる賃金増にする等、具体的な賃上げ額が定められています。
しかし、特定処遇改善加算は介護職員全てに無条件で適用されるわけではありません。
今回の記事では、特定処遇改善加算の対象者、配分のルール等について解説します。
目次
特定処遇改善加算は、処遇改善加算、ベースアップ等支援加算と並び、介護職員の給与や待遇向上を目的とした3つの処遇系加算のうちの一つです。
2019年(令和元年)10月に、⽉額平均8万円相当の処遇改善を⾏うために創設されました。
他二つの処遇系加算と比べて、経験や技能が豊富なベテラン介護職員の処遇改善に重点を置いているという点が特徴です。
また経験・技能のある介護職員の処遇改善に重点を置きつつも、一定の条件のもとでその他の介護職員や、看護師や管理栄養士など、介護士以外の職員の処遇改善も行うことができ、柔軟な運用が可能であることも特徴と言えます。
参考:厚生労働省
しかしそんな特定処遇改善ですが、配分のルールが難しいことから、特定処遇改善加算加算の取得を見合わせている事業所が多くあります。
特定処遇改善加算を算定しなければ、最悪の場合、経験豊富な介護人材が他の算定している事業所に流出してしまうこともあり得ます。
質の高い介護サービスを提供するためにも、特定処遇改善加算の算定は必須と言っても過言ではありません。
▼特定処遇改善加算とは?算定要件や配分ルールなどについて徹底解説!
特定処遇改善加算の配分対象者は以下の三つに該当する職員です。
職員グループ | 定義 |
a.経験・技能のある介護職員 | 介護福祉士であり、かつ経験・技能を有する介護職員 |
b.その他の介護職員 | a以外の介護職員 |
c.その他の職種の職員 | 看護師や、管理栄養士など介護職員以外の職員 |
それぞれ詳しく解説していきます。
介護福祉士であり、かつ経験・技能を有する介護職員が該当します。
経験・技能を有する介護職員とは具体的に、所属する法人等における勤続年数 10 年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能等を踏まえて、各事業者の裁量で配分を行うことが出来ます。
※必ずしも介護福祉士かつ勤続年数 10 年以上の介護職員と設定する必要はありません。
bに該当するのはa以外の介護職員、cに該当するのは看護師や、管理栄養士などの介護職員以外の職員となります。
上記で説明した、
a.経験・技能のある介護職員
b.その他の介護職員
c.その他の職種の職員
のグループそれぞれに対して特定処遇改善加算の配分を行いますが、下表のようにそれぞれに守らなければならない配分ルールがあります。
職員グループ | 配分ルール |
a.経験・技能のある介護職員 | ①aのうち1人以上は、賃金改善に要する費用の見込額が月額平均8万円以上又は賃金改善後の賃金の見込額が年額 440 万円以上であること。 ②bの平均改善見込額より、aの平均改善見込額が高いこと。 |
b.その他の介護職員 | bの平均改善見込額が、cの平均改善見込額の2倍以上であること。 |
c.その他の職種の職員 | cの賃金改善後の賃金の見込額が年額 440 万円を上回らないこと。 |
それぞれについて解説していきます。
①aのうち1人以上は、賃金改善に要する費用の見込額が月額平均8万円以上又は賃金改善後の賃金の見込額が年額 440 万円以上であること。
②bの平均改善見込額より、aの平均改善見込額が高いこと。
上記を満たすことが困難な場合、例外的に管轄している行政に相談を行う事で解決できる可能性があります。
困難な場合とは?
①小規模事業所等で加算額全体が少額である場合
②職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げることが困難な場合
③8万円等の賃金改善を行うに当たり、これまで以上に事業所内の階層・役職やそのための能力や処遇を明確化することが必要になるため、規程の整備や研修・実務経験の蓄積などに一定期間を要する場合
・bの平均改善見込額が、cの平均改善見込額の2倍以上であること。
例えば、cの平均改善見込額を10,000円とした場合は、bの平均改善見込額は20,000円以上でなければいけません。
・cの賃金改善後の賃金の見込額が年額 440 万円を上回らないこと。
※賃金改善前の賃金がすでに年額 440 万円を上回る場合には、cのグループに入ることはできず当該職員は特定処遇改善の対象としてはいけません。
経験・技能のある介護職員は勤続年数に厳しい制限がなく、勤続年数10年に満たなくても、事業所で業務内容・技能等を勘案し対象として構いません。
また、他の法人・事業所での経験を加えて通算することも可能です。
一方、いかに経験豊かな介護職員でも介護福祉士資格の保有は必須となります。
介護福祉士資格が未取得の介護職員は対象となりません。
ただし、同じ事業所に経験・技能のある介護職員がいれば、その他の介護職員も特定処遇改善加算の対象となります。
こちらでは特定処遇改善加算に関する様々な質問に回答しましょう。
A1:介護職員等特定処遇改善加算については、
・ 現行の介護職員処遇改善加算(Ⅰ)から(Ⅲ)までを取得していること
・ 介護職員処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を行っていること
・ 介護職員処遇改善加算に基づく取組について、ホームページへの掲載等を通じた見える化を行っていること
上記を満たす事業所が取得できることから、勤続10 年以上の介護福祉士がいない場合であっても取得可能です。
A2:ホームページがある場合にはそのホームページを活用し、
・ 介護職員等特定処遇改善加算の取得状況
・ 賃金改善以外の処遇改善に関する具体的な取組内容 を公表することも可能です。
その場合、月額8万円の賃金改善となる者又は処遇改善後の賃金が役職者を除く全産業平均賃金(440 万円)以上となる者を設定・確保することは必要か。
A3:経験・技能のある介護職員については、勤続年数10 年以上の介護福祉士を基本とし、各事業所の裁量において設定します。
特定処遇改善加算の趣旨としてはあくまで『経験・技能のある介護職員に重点化を図りながら、介護職員の更なる処遇改善』であり、事業所内で相対的に経験・技能の高い介護職員を「経験・技能のある介護職員」のグループとして設定し、その中で月額8万円の賃金改善となる者等を設定することが基本です。
ただし、介護福祉士の資格を有する方がいない場合や、比較的新たに開設した事業所で、研修・実務経験の蓄積等に一定期間を要するなど、介護職員間における経験・技能に明らかな差がない場合などは、勤続年数10 年以上の介護福祉士を基本とし、各事業所の裁量において設定しなくてもやむを得ないとしています。
提出する処遇改善計画書及び実績報告書には、この基準となる設定の考え方について記載することになっています。また、このような「経験・技能のある介護職員」のグループを設定しない場合は、その理由についても、処遇改善計画書及び実績報告書に具体的に記載する必要があります。
自治体から確認が入った際にしっかりと説明を行えるようにしておきましょう。
経験・技能のある介護職員について、勤続10 年以上の介護福祉士を基本とし、介護福祉士の資格を有することを要件としつつ、事業所の裁量で設定できることとされているが、どのように考えるのか。
A4:「勤続10 年の考え方」については、
・ 勤続年数を計算するにあたり、同一法人のみだけでなく、他法人や医療機関等での経験等も通算する
・ すでに事業所内で設けられている能力評価や等級システムを活用するなど、10 年以上の勤続年数を有しない者であっても仕組みに基づき業務や技能等を勘案して対象とする
など、各事業所の裁量により柔軟に設定可能です。
他の職員さん達にとっても、公平だと感じられる制度の構築が必要です。
処遇改善後の賃金が、役職者を除く全産業平均賃金(440 万円)以上かを判断するにあたっての賃金に含める範囲はどこまでか。
A5:「経験・技能のある介護職員」のうち、設定することとしている「月額8万円の処遇改善」又は「処遇改善後の賃金が役職者を除く全産業平均賃金(440 万円)以上」の2つにおいて、処遇改善後の賃金額については、手当等を含めて判断します。
また、法定福利費等については、
「月額8万円」の処遇改善については、法定福利費等の増加分も含めて判断し、処遇改善後の賃金「440 万円」については、社会保険料等の事業主負担その他の法定福利費等は含まずに判断することに注意が必要です。
A6:事業所に属する全職員をさし、賃金改善を行う職員はもちろん、賃金改善を行わない職員についても、平均改善額の計算を行うにあたり職員の範囲に含めることとなります。
情報公表制度の報告対象外でかつ事業所独自のホームページを有しない場合、見える化要件を満たすことができず、特定加算を算定できないのか。
A7:ホームページ又は、介護サービスの情報公表制度を活用していることが原則は求められていますが、新規指定事業所等情報公表制度の報告対象となっていない場合は、外部の方が閲覧可能な形で公表することが必要です。
その手法としては、ホームページの活用に限らず、パンフレットに掲載する、事業所・施設の建物内の入口付近など外部の方が閲覧可能な場所への掲示する、等の方法により公表することも可能だとされています。
本部の人事、事業部等で働く者など、法人内で介護に従事していない職員について、「その他職種」に区分し、特定加算による処遇改善の対象とすることは可能か。
A8:当該加算の算定対象サービス事業所における業務を行っていると判断できる場合には、その他の職種に含めることができるとされています。
ただし、直接介護をする職員さんの処遇改善が目的である加算だという事を念頭に、自治体にも従業員にも『直接介護業務について、このような理由でその他職員がサポートしてくれているから支払う』という明確な説明ができるようにしておきましょう。
看護と介護の仕事を 0.5 ずつ勤務している職員 がいる場合に、「経験・技能のある介護職員」と「その他の職種」それぞれに区分しなければならないのか。
A9:勤務時間の全てでなく部分的であっても、介護業務を行っている場合は、介護職員として、「経験・技能のある介護職員」、「他の介護職員」に区分することが可能。
兼務職員をどのグループに区分するか、どのような賃金改善を行うか(時間給で改善するのか、役職で改善するのか等)については、労働実態等を勘案し法人で設定が可能です。
特定処遇改善加算は、介護職員の給与を上げるために介護職員処遇改善加算があるけれど、ベテランの介護職員が辞めないように経験や技能がある介護職員にはもっと給与を上げよう、という制度です。
そのため、介護職員処遇改善加算に該当する事業所は、もっと職場環境を良くすれば、各都道府県や福祉事務所へ申請し、特定処遇改善加算を活用できます。
本制度を設定した厚生労働省で雇用形態は明示していません。
つまり、正規職員に限定されていないので、パート・アルバイトでも対象となる場合があります。
経験・技能のある介護職員であると認められるかどうかは、各事業所の裁量が大きいです。
気になる場合はお勤め先へ一度確認してみた方が良いでしょう。
残念ながら看護師は、経験・技能のある介護職員に該当しません。
しかし、事業所が賃上げする職員の範囲を他の介護職員に拡大した場合、介護福祉士の資格がない看護師も対象となります。
特定処遇改善加算は基本的にキャリアのある介護職員が対象となる制度です。
しかし、事業所は介護職員以外の職員も賃上げする範囲に含めて構いません。
事業主が良好な職場環境になるよう努力すれば本制度を活用し、優秀な介護職員の確保が図れるはずです。
訪問介護の事業者向けに、各種加算と減算の要件や、優先的に取得するべき加算などについてまとめました。
<目次>
1.加算とは
2.訪問介護における加算・減算一覧
3.各種要件と解説
4.優先的に取得すべき加算
5.まとめ