2019年10月1日「介護職員特定処遇改善加算(以下特定処遇改善加算)」が新たに創設されました。
しかし「令和3年度の介護従事者処遇状況等調査結果の概要」では、27.2%の事業所が加算を取得してないというデータが出ています。
加算要件はそこまで難しくありませんが、事業所の判断に任されているところが多くあり、頭を悩ませる原因になっているようです。
本記事では「特定処遇改善加算」について、算定要件や配分のルールなど基本的な事項のほか、判断に迷う部分もQ&A方式で解説しています。
最後まで記事を読み「特定処遇改善加算」についての理解を深め、介護職員のさらなる処遇改善に取り組みましょう。
参考:厚生労働省
介護事業所向けに、特定処遇改善加算について算定要件や配分の仕方について詳しくまとめました。
<目次>
1.特定処遇改善加算とは
2.現在の算定率と取得しなければいけない理由
3.仕組みの作り方と注意点
①算定要件について
②配分の仕方
4.計画の申請から実績の報告まで
5.令和3年度改定事項
目次
特定処遇改善加算とは「経験・技能のある介護職員」について、今までの介護職員処遇改善加算に加え、さらなる処遇改善を進めるための加算として、令和元年10月の介護報酬改定により創設された制度です。
介護の現場は、深刻な人手不足が問題となっています。
介護労働安定センターが行った実態調査からも、介護サービス事業を運営するうえでの問題点として「良質な人材の確保が難しい」が49.8%と最も多く、次いで「今の介護報酬では、人材の確保・定着のために十分な賃金を払えない」が39.8%となっています。
退職の理由のトップは職場の人間関係ですが「収入が少ない」と回答する者も一定数(14.9%)いるようです。
そのため、介護の現場で長く働く経験豊富な介護職員の処遇を改善し、介護の労働環境をよりよくして介護離職を防ぐことが課題となっています。
特定処遇改善加算が創設されるに至った背景には、慢性的な人手不足を解消し優秀な介護人材を確保する取り組みを、より一層すすめる狙いがあるのです。
参考:公益財団法人介護労働安定センター
公益財団法人介護労働安定センター
特定処遇改善加算は次の要件を満たせば、加算を取得できます。
・現行の介護職員処遇改善加算(I)~(III)のいずれかを算定していること
・介護職員処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取り組みをおこなっていること
・ホームページの掲載等を通じた見える化を行っていること
一つずつ確認していきましょう。
特定処遇改善加算は、既存の処遇改善加算に上乗せする形で加算されます。
そのため、特定処遇改善加算を算定するためには、現行の介護職員処遇改善加算(I)〜(Ⅲ)の算定が条件になります。
職場環境等要件として、賃金以外の職場環境改善の取り組みを行わなくてはなりません。
例えば、研修の実施などキャリアアップに向けた取り組みや、ICTの活用などの生産性向上の取り組みなどが要件です。
特定処遇改善加算に基づく取り組みの見える化については、介護サービス情報公表性度を利用して、以下の内容の公表が求められています。
・処遇改善に関する加算の算定状況
・賃金以外の処遇改善に関する、具体的な取り組みの内容
ただし、介護サービス情報公表制度以外にも、ホームページを用いて情報を公表・公開することで代用できます。
処遇改善加算を算定するためには、職場環境等要件を満たさなければなりません。
職場環境等要件は、以下の表を参考にしてください。
職場環境等要件の区分 | 具体的内容 |
入職促進に向けた取り組み |
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資質の向上やキャリアアップに向けた支援 |
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両立支援・多様な働き方の推進 |
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腰痛を含む心身の健康管理 | 介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、介護ロボットやリフト等の介護機器等導入及び研修等による腰痛対策の実施・短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施・雇用管理改善のための管理者に対する研修等の実施・事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 |
生産性向上のための業務改善の取り組み |
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やりがい・働きがいの醸成 |
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参考:厚生労働省
特定処遇改善加算では、上記表の6つの区分すべてにおいて、それぞれ1つ以上取り組まなければなりません。
また、計画期間中に実施する上記表にある取り組みについては、その内容の全職員への周知も求められています。
特定処遇改善加算は、経験・技能のある勤続年数の長い介護職員の処遇改善が目的です。
「経験・技能のある介護職員」とは、勤続10年以上の介護福祉士が基本となります。
しかし「勤続10年」の判断基準は、事業所の裁量に任されています。
他の法人での勤務期間も含めることや、医療機関での経験等を加味することも可能です。
また「勤続10年」には満たずとも、その事業所独自の判断基準に基づいて加算算定の基準とすることも認められています。
特定処遇改善加算の計算方法は、現行の処遇改善加算と同様です。
「各事業所の介護報酬」×「各サービスの特定加算(Ⅰ)または(Ⅱ)の加算率」=「加算による収入」
特定処遇改善加算は、1ヵ月分の基本報酬から、処遇改善加算分を除いた加算・減算を足し引きした単位数に、加算率を掛けることで算定できます。
特定処遇改善加算の加算率は、取得している加算の種類や提供しているサービスによって変わります。
詳しい内容は、下記の表を参考にしてください。
サービス区分 | 特定処遇改善加算 | |
加算Ⅰ | 加算Ⅱ | |
訪問介護・夜間対応型訪問介護・定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 6.3% | 4.2% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 2.1% | 1.5% |
通所介護・地域密着型通所介護 | 1.2% | 1.0% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 2.0% | 1.7% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護・地域密着型特定施設入居者生活介護 | 1.8% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 3.1% | 2.4% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護 | 1.5% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 3.1% | 2.3% |
介護老人福祉施設・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護・(介護予防)短期入所生活介護 | 2.7% | 2.3% |
介護老人保健施設・(介護予防)短期入所療養介護(老健) | 2.1% | 1.7% |
介護療養型医療施設・(介護予防)短期入所療養介護(病院等) | 1.5% | 1.1% |
介護医療院・(介護予防)短期入所療養介護(医療院) | 1.5% | 1.1% |
参考:厚生労働省
加算の割合は、加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の2つの区分があります。
加算(Ⅰ)は、サービス提供体制強化加算の最も上位の区分を算定している場合に、算定が可能です。
それ以外は、加算(Ⅱ)となります。
特定処遇改善加算の対象となる職員は、以下の3種類に分けられます。
A:経験・技能のある介護職員
B:A以外の介護職員
C:その他の職種の職員
「A:経験・技能のある介護職員」とは、基本的に勤続10年以上の介護福祉士となります。
勤続年数は、他の法人や医療機関などの経験も通算可能です。
また10年の経験が無くても、事業所の能力評価基準などに基づき、対象にできます。
配分のルールは、以下のようになっています。
・Aのうち、1人以上は月額8万円の賃上げまたは年収440万円までの賃金増が必要
・平均賃上げ額について、BはAより小さくなくてはならない
ただし、次の場合は、月額8万円の賃上げもしくは年収440万円の賃金増の条件を満たさなくても、算定できます。
・小規模事業所で加算額の全体が少額の場合
・職員全体の賃金水準が低く、すぐに1人の賃金を上がることが困難な場合
・賃金改善にあたって今まで以上に階層や役職、そのための能力・処遇を明確化する必要があるため、規程の整備、研修・実務経験などの蓄積に一定期間を要する場合
配分ルールについては、こちらの記事でより詳しく解説しているので、是非参考にしてください。
介護職員等特定処遇改善加算の配分ルールについて徹底紹介!算定要件は?
特定処遇改善加算は、対象の職員や配分ルールなどが、事業者の裁量に任されています。
そのため、各事業所の事情により柔軟な対応ができる反面、基準に則っているかわからず判断が難しい場面も多くあるようです。
ここでは、特に判断が難しい部分をQ&Aで解説します。
加算申請以前に年額440万円以上の者がいる場合は、「月額平均8万円以上」または「年額440万円以上」のものを新たに1人以上確保する必要はなく、現状で加算の算定が可能となります。
「経験・技能のある介護職員」について「月額8万円以上」もしくは「年収440万円以上」の設定・確保が難しい場合、特定処遇改善加算の計画書に3種類の理由が記載された項目があります。
該当する項目にチェックを付けて届け出してください。
特定処遇改善加算対象者の雇用形態については、特に明記されていません。
したがって、基本的に非常勤職員も含まれます。
当加算の算定対象サービス事業所における業務についている場合は、その他の職種に含められます。
具体的には労使の合意のもとで、法人・事業所の判断となります。
特定処遇改善をもらえない人については、こちらの記事を参考にしてください。
特定処遇改善加算は、事業所に判断が任されるなど、とまどう部分も多数あります。
しかし算定自体はそれほどハードルが高い物ではありません。
介護職員の処遇改善のため、しっかりと算定要件等を理解し加算の算定を検討しましょう。