認知症の高齢者は増加傾向にあり、厚生労働省が発表した「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」では、2012年に462万人だったのに対し、2025年には730万人まで大幅に増加すると推測されています。
参考:厚生労働省
こうした背景から、認知症の知識が豊富で適切な対応ができるスタッフを配置している介護事業所を評価するため、認知症専門ケア加算が設置されました。
今回は、認知症専門ケア加算が算定される要件や必要な研修について詳しく解説します。
目次
認知症高齢者への介護において、正しい知識と適切な技術を持つスタッフがますます必要とされるようになりました。
訪問介護については、令和3年度の介護報酬の改定で「訪問介護」「夜間対応型訪問介護」「訪問入浴介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」が新たに加算の対象となりました。
訪問介護の加算一覧について知りたい方は、加算一覧【訪問介護】令和4年を参考にしてください。
認知症専門ケア加算は、認知症のケアができるスタッフを配置している介護サービスの事業所が算定できるものです。
スタッフは介護経験があり、自治体や国に指定された専門的な研修を受けているなど定められた要件を満たしている必要があります。
以下の介護サービスは、加算の対象です。
・介護老人福祉施設
・介護老人保健施設
・介護療養型医療施設
・介護医療院
・短期入所生活介護
・短期入所療養介護
・特定施設入居者生活介護
・認知症対応型共同生活介護
・地域密着型特定施設入居者生活介護
・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
加算で算定される単位数は、以下の通りです。
介護サービス名 | 認知症専門ケア 加算(Ⅰ) | 認知症専門ケア 加算(Ⅱ) |
---|---|---|
・介護老人福祉施設 ・介護老人保健施設 ・介護療養型医療施設 ・介護医療院 ・短期入所生活介護 ・短期入所療養介護 ・特定施設入居者生活介護 ・認知症対応型共同生活介護 ・地域密着型特定施設入居者生活介護 ・地域密着型介護老人福祉施設入者生活介護 | 3単位/日 | 4単位/日 |
参考:厚生労働省
2021年度の介護サービス別の算定率は、以下の通りです。
介護サービス名 | 認知症専門ケア加算(I) | 認知症専門ケア加算(II) |
介護老人福祉施設 | 92.9% | 4.7% |
介護老人保健施設 | 81.7% | 9.4% |
介護療養型医療施設 | 36.0% | 9.9% |
特定施設入居者生活介護 | 90.2% | 5.1% |
介護医療院 | 53.1% | 10.8% |
通所介護事業所 | 78.0% | 10.3% |
小規模多機能型 居宅介護事業所 | 91.7% | 5.4% |
認知症対応型 共同生活介護事業所 | 88.9% | 7.7% |
加算(I)は、80%を超えている介護サービスがほとんどです。
認知症の高齢者が多く利用していて、対応できるスタッフが求められていることがわかります。
認知症専門ケア加算(I)と(II)の2つの要件があり、それぞれを満たしている必要があります。
詳しく見ていきましょう。
認知症専門ケア加算(Ⅰ)の算定要件は、以下の3点です。
1.認知症高齢者(日常生活自立度3以上)が全体の半数以上
2.認知症高齢者(日常生活自立度3以上)が20名未満の場合、認知症介護実践リーダー研修を受けた者を1名以上配置している
(20名以上の場合は、利用者の人数に合わせてスタッフも増やす)
3.事業所や施設のスタッフに対して、認知症ケアの留意点の共有と技術的指導に関する定期会議を行う
認知症専門ケア加算(Ⅱ)の算定要件は、以下の3点です。
1.知症専門ケア加算(Ⅰ)の算定要件をすべて満たしている
2.「認知症介護指導者養成研修」を受けた者を1名以上配置し、認知症ケアの指導などを行っている
3.介護スタッフや看護スタッフに向けて認知症ケアに関する研修を計画し、実施する(実施の予定があれば可)
認知症専門ケアに関する専門的な研修とは、以下の3つの研修を指します。
1.認知症介護実践リーダー研修
2.認知症介護指導者養成研修
3.認知症看護に関する適切な研修
詳しい内容を解説します。
認知症介護実践リーダー研修では、講義と演習、実習(他施設と自施設)を行います。
・講義と演習 8~10日間ほど
・他施設での実習 複数の実習先から1ヶ所を選ぶ(3~5日間ほどの実習)
・自施設での実習 利用者への対応を自ら設定し、課題に取り組む(4週間の実習)
自施設で課題に取り組むことで、日常的な介護にすぐに活かせる実践的な学びが得られます。
認知症介護指導者の養成研修では、施設で実際に研修の企画や立案をします。
専門的な知識や技術を持った指導者としての活躍が目的です。
実際に研修の企画を考えるなど、実践的に学んで指導者としての学びを深めます。
そのため、認知症対応施設での管理者クラスに向けての指導や、認知症介護実践者研修等の講師を行えるようになります。
下記の課程や研修を終えている看護師は、認知症看護に関する必要な研修を受けたとみなされます。
したがって、加算の算定要件に含まれます。
・日本看護協会認定看護師教育課程「認知症看護」の研修
・日本看護協会認定の看護大学院にて専門看護師教育課程「老人看護」および「精神看護」
・日本精神科看護協会が認定している「精神科認定看護師」
認知症専門ケア加算に関するよくあるQ&Aをまとめました。
常勤等の条件はありません。
しかし、加算される要件を満たすために行う認知症介護に関する研修を事業所内で実施しなければなりません。
そのためには、加算対象の事業所のスタッフであることが必要なので注意してください。
必要ありません。
「認知症介護指導者養成研修」と「認知症介護実践リーダー研修」の両方を受けた者、もしくは「認知症看護に関する適切な研修」を受けた者が該当します。
どちらか1名を配置すると、加算の対象者が20名未満の場合は、認知症専門ケア加算(Ⅱ)を算定できます。
職務や資格等については問われません。
認知症の介護指導者研修を受けて、事業所にて認知症ケアの実施を行っていることがポイントです。
今回は、認知症専門ケア加算について算定のための要件や必要な研修などをまとめてご紹介しました。
認知症の高齢者は年々増加しているので、これからの時代はますます質の高い認知症ケアが医療や介護の現場で必要とされるようになります。
事業所全体で質の高いケアを行うためには、認知症を正しく理解しているスタッフの配置を積極的に行うことと、介護スタッフの育成や指導をすることが大切です。