介護事業所の経営者にとって、運営指導(実地指導)の動向を知ることは重要です。2023年運営指導の動向について、詳しく知りたい介護事業所経営者も多いのではないでしょうか。この記事では、2023年運営指導の動向についてわかりやすく解説します。この記事を読むことで、運営指導に引っかかりやすいポイントと対策を理解できます。
目次
運営指導とは、介護保険制度に基づいた介護サービスを適切に提供するため、国や自治体が介護事業所に対して行う支援のひとつです。原則として、6年に1回の頻度で実施されますが、入所施設系のサービスでは3年に1回の頻度が望ましいとされています。運営指導の目的や実施頻度などについて解説します。
運営指導(実地指導)の目的は、介護サービスの質を確保することと、保険給付の適正化を図ることです。厚生労働省の資料「介護保険施設等運営指導マニュアル 令和4年3月」には、指導の目的に関して以下のように記載されています。
“介護保険制度において、サービスの直接的な担い手である介護保険施設等には、利用者の尊厳を守り、かつ質の高いサービス提供が求められています。国及び地方自治体は、指導により、介護保険施設等が適正なサービスを行うことができるよう支援し、「介護給付等対象サービスの取扱い」及び「介護報酬の請求」に関する「周知の徹底」を図り、「サービスの質の確保」や「保険給付の適正化」が果たされるよう努めなければなりません。”
引用:厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル 令和4年3月」
介護施設が適切なサービスを提供するために、国および地方自治体が実施している支援方法のひとつが運営指導です。介護保険制度は国民の保険料で成り立っています。保険料の給付を受けている介護事業所が、適切な介護サービスを提供できるように支援することも行政機関の重要な役割です。
令和4年度に『実地指導』から『運営指導』に名称が変更されました。名称が変更された理由としては、オンラインでも指導を行うことが出来るようになり、必ずしも実地による指導を行う必要がなくなったからです。実地指導から運営指導に変更されるにあたり、以下の3点において内容が変更されています。
実施指導では、各自治体独自のローカルルールに従って指導を行っている状態でした。運営指導に変更されたあとは、厚生労働省が出している運営指導マニュアルに基づいて指導を行うことが定められています。また、実施頻度に関しても運営指導マニュアルに明記され、マニュアル通りに指導を行うように推奨されています。
運営指導の実施頻度は、原則として6年間の指定有効期間中に1回以上は実施するように定められています。しかし、地域の実情等、必要に応じて複数回実施することも可能です。また、介護施設の形態によっても実施頻度が異なるため注意しましょう。特に、入所施設系サービスや居住系サービスについては、利用者の生活の場であること等を考慮し、3年に1回の頻度で運営指導を行うことが望ましいとされています。
3年に1回以上の実施が望ましいとされる介護保険施設等 | |
サービスの分類 | 介護保険施設等の種類 |
居住系サービス(地域密着型サービスを含む) | 特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護 |
施設系サービス(地域密着型サービス) | 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 |
施設サービス | 介護老人福祉施設、老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設 |
引用:厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル 令和4年3月」
2023年の運営指導でチェックされる主な事項として、個別計画の作成、処遇改善と虐待防止、自然災害対策、感染症対策、人員基準と勤務体制、介護給付費の算定などが挙げられます。各事項の注意点について解説します。
介護サービスを提供する際には、利用者に関する情報を収集し、アセスメントをもとに適切な計画書を作成しなければいけません。運営指導では、利用者ごとのサービス計画に関して確認されます。具体的には、各利用者ごとに以下の情報がまとめられている必要があります。
利用者ごとに個別計画を作成するだけでなく、利用者への説明と同意を得られているかも重要です。同意が得られていない状況では、サービスを提供できません。必ず、利用者へ計画内容を説明し、同意を得たことを書面に残すようにしましょう。
各事業所で処遇改善や虐待を防止するための措置が講じられているかを確認します。具体的には、業務マニュアルに記載しているか、職員研修を定期的に実施しているか、といった内容が重要視されるでしょう。
原則として、事業所内で身体拘束をしてはいけません。しかし、利用者の身の安全を確保するため、仕方なく身体拘束を行う場合もあるでしょう。やむを得ず身体拘束を行う場合、以下の内容について、適切に対処されているかも重要です。
運営指導では上記の内容について確認される可能性があります。特に、身体拘束を実施せざるを得ない状況になった場合、上記の内容を参考に記録を残しておきましょう。
2024年4月よりBCP(業務継続計画)の作成が義務化されるため、これまで以上に自然災害への対策についてチェックが厳しくなることが予測されます。非常災害とは、火災や地震だけでなく、水害、土砂災害等の自然災害も含まれているため注意しましょう。非常災害対策としては、以下の内容について確認します。
前回の運営指導(実地指導)が令和3年介護報酬改定以前だった事業所は、自然災害対策のマニュアルが不十分である可能性もあります。上記の内容を参考に、災害対策のマニュアル等を見直すことをおすすめします。
2024年4月から感染症対策のBCP作成が義務化されます。運営指導でも、感染症対策についてチェックされる可能性は高いでしょう。
感染症対策では、感染経路ごとの対策方法や消毒作業の方法などをマニュアルで示しておくことが重要です。また、新型コロナウイルスの感染者が発生していた場合、感染者が発覚した時点からその後の経緯について、時系列で対処内容を記録しているか確認しておきましょう。
介護事業所を運営するためには、人員配置基準を満たしていなければいけません。運営指導では、人員配置の状況や勤務体制の確保状況について確認します。また、人員配置基準だけでなく、職員の資質向上に向けた支援計画通りに研修を実施しているのかも確認されます。人員基準を満たさないままサービスを提供していた場合、その期間の利用料金について返還を求められる場合もあるでしょう。
過去の人員配置を見直し、運営指導時にすぐ提出できるように準備しておきましょう。
基本報酬や各種加算の算定について、適切に算定手続きを行っているのか確認されます。注意すべき点は、前回の介護報酬改定で見直された加算や新設した加算です。特に処遇改善加算等については、処遇改善計画に基づいた処遇の改善が実施されているのか、計画に基づいた職員研修を開催しているのか、などの点について確認されため注意しましょう。
各事業所によって運営指導で指摘されるポイントは異なりますが、どの事業所でも引っかかりやすいポイントはあります。運営指導で引っかかる主な理由については以下のとおりです。
運営指導で注意しなければいけないのは、契約書関係の不備と請求関係の不備です。契約書や個別計画書に不備があると、利用者から同意を得ないままサービスを提供したものと判断されるため、運営指導において特に注意しなければいけません。また、本来算定できないはずの加算を算定していた、利用者の自費負担分を多く請求していた、などの問題が発覚する可能性もあります。請求関係は、利用者に直接不利益が発生する事項なので、不備がないように注意しておきましょう。
2023年の運営指導(実地指導)における最新の動向としては、自然災害対策、感染症対策、虐待防止、ハラスメントの4つがポイントです。各ポイントについて解説します。
介護サービスは、利用者や家族が生活を送るために欠かせない存在です。大規模な災害が原因で事業が継続できなくなると、日常生活を継続できなくなる方も多いでしょう。
介護事業所で災害発生時の対応方針を確立し、大規模災害時でも利用者に必要なサービスを継続的に提供できる体制を構築しなければいけません。
2023年の運営指導は、BCP作成が義務化される直前に実施されることになります。自然災害対策に関する内容は特に注目される可能性が高いでしょう。
新型コロナウイルスの拡大によって、介護事業所における感染症対策を徹底することが求められています。2023年の運営指導でも、感染症対策マニュアル等に関して重点的にチェックされるでしょう。また、自然災害対策と同様に、感染症対策に関してもBCP義務化前の運営指導となるため、BCPの作成状況と合わせて確認される可能性があります。
厚生労働省の資料「令和元年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」によると、高齢者虐待の相談・通報件数は年々増加しています。年々増加する虐待発生件数に対して、運営指導による対策が急がれています。2023年の運営指導でも虐待防止に向けた職員研修の実施状況や、マニュアルの整備などの対策を実施しているかチェックされる可能性は高いでしょう。
参考:厚生労働省「令和元年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」
介護現場では、利用者や家族等による介護職員への身体的暴力や精神的暴力、セクシュアルハラスメントなどが多数発生していることが実態調査で明らかとなっています。厚生労働省の資料「介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態調査」によると、訪問介護事業所では50%、通所介護事業所では46%の職員がこれまでに利用者からハラスメントを受けた経験があると答えました。これらの実態も踏まえて、ハラスメントに対する措置を講じているのかも運営指導で重要視されるポイントのひとつです。
参考:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」
運営指導で引っかからないためには、以下の3つの要点を確認しておくことが重要です。
運営指導が来た際にまとめて過去の記録をチェックすると、確認が不足してしまう可能性があります。日頃から定期的に書類を管理しておくことで、運営指導前の負担を減らせます。また、ケアプランとデイサービスで作成する計画書における方針の整合性についても確認しておきましょう。
運営指導について、最新の動向だけでなく、基本的な情報について知りたい方も多いのではないでしょうか。運営指導に関する「よくある質問」について解説します。
運営指導によって何かしらの不備があると判断された場合、文書で改善指導を行います。ただし、これは行政指導であり、強制力はありません。しかし、明らかな事務誤りや不正請求が見られる場合、監査を実施します。これらの行政指導に従わない場合は、命令や指定取り消し等の行政処分が検討されるため、注意しなければいけません。
原則として、運営指導を実施するタイミングは、3〜6年に1回以上です。しかし、実際に実施される運営指導の頻度は、自治体や施設の数により異なる場合もあるでしょう。また、事業所の形態が変更した場合や介護保険料制度改正があった場合は、予定よりも前倒しで運営指導が実施される可能性はあります。
この記事では、2023年に実施される運営指導(実地指導)の動向と引っかかるポイントについて解説しました。
運営指導は、サービスの質を確保することと、保険給付の適正化を図ることを目的に実施されます。2023年の運営指導では、自然災害と感染症への対策、虐待防止対策、ハラスメントに関する規定などを重点的に確認する可能性があるでしょう。特に、2024年4月から義務化するBCPを未作成の事業所は要注意です。
運営指導で引っかからないためには、日頃から定期的に書類管理や記録の状況を点検するとよいでしょう。
実地指導とは何か、監査との違いについてわかりやすくまとめています。
<目次>
・実地指導の処分対象となる主な原因
・実地指導とは
・監査とは