利用者自身で動くことが難しいなどの理由で自宅での入浴を諦めていませんか?そんな方でも訪問入浴介助を利用すれば自宅での入浴が可能です。
今回は、訪問入浴介護の概論からサービス内容・利用料金から利用によるメリットなどを詳しく紹介します。ぜひ、最後までお読みください。
目次
訪問入浴介護は、要介護状態になり、自分自身または家族の介助では入浴が難しくなった場合においても、利用者が可能な限りその自宅で入浴できるように専用の浴槽を持ち込んで訪問し、入浴の介助をおこなう介護保険サービスのことです。
なお、厚生労働省は訪問入浴介護の定義を下記のように示しています。
訪問入浴介護とは、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、居宅における入浴の援助を行うことによって、利用者の身体の清潔の保持、心身機能の維持等を図るもの
引用:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第220回)(訪問入浴介護)」
下記のような方は、訪問入浴介護の利用がおすすめです。
訪問入浴介護を受けるには下記の条件を満たす必要があります。
※要支援1〜2の方は「自宅に浴室がない」などの利用条件が整えば「介護予防訪問入浴介護」の利用が可能です。
訪問入浴介護 | 介護予防訪問入浴介護 | |
利用基準 |
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人員基準 | 看護師または准看護師1人 | 看護師または准看護師1人 |
なお、要介護度は介護にかかる時間を表す下記の「要介護認定等基準時間」を算出し、時間が長くなるほど要介護度は重いと判定されます。
区分 | 介護にかかる時間 | 利用者の状態 |
要支援1 | 25分以上32分未満 | 食事や排泄、入浴など日常生活を送るうえで必要な動作は一人で行えるが、家事を行う際に一部見守りや手助けが必要な場合がある。 |
要支援2 | 32分以上50分未満 | 要支援1同様に日常生活に必要な動作は一人でできるが、立ち上がりや歩行、家事などの際に一定の手助けが必要な状態。 |
要介護1 | 32分以上50分未満 | 基本的に1人で日常生活を送れるものの、日常生活で必要な動作の一部に介助が必要な状態。認知機能の低下がみられるケースもある。 |
要介護2 | 50分以上70分未満 | 要介護1よりも身体機能が衰え、身の回りのことを行う際に見守りの介助が必要。認知機能の悪化もみられる。 |
要介護3 | 70分以上90分未満 | 生活に必要な動作全般に介助が必要。認知症の症状がみられるケースも多い。 |
要介護4 | 90分以上110分未満 | 生活上のあらゆる面で介助を要する。認知機能の著しい低下がある。 |
要介護5 | 110分以上 | 介護なしで生活するのはほぼ不可能な状態。コミュニケーションを取ることも困難。 |
参考:厚生労働省「要介護認定はどのように行われるか」
訪問入浴介護を利用する方は、要介護3以上が約9割を占め、平均要介護度は4.1と厚生労働省が発表していることからも、利用しているほとんどの方が重要介助であることがわかります。
参考:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第220回)(訪問入浴介護)」
訪問入浴介護以外でも入浴を行う介護サービスは多くあります。ここでは、訪問入浴介護以外の介護サービスはどのような入浴介助を行うのか紹介します。
通所介護とは、利用者(要介護者)を老人デイサービスセンターなどに通わせ、当該施設において、入浴・排せつ・食事等の介護、生活などに関する相談および助言・健康状態の確認その他日常生活上の世話、機能訓練を行うものをいいます。
なお、厚生労働省の発表によると、入浴介助を行った場合に算定できる入浴介助加算Ⅰの算定率は91.7%、入浴介助加算Ⅱの算定率は11.9%という割合から、ほとんどの通所介護で入浴サービスを行っていることが分かります。
ただし、通所介護での入浴は一度に入浴する人数・入浴時間・介助者の人数は事業者によって異なるため、一人でゆっくりと入浴したいなどの希望が難しい場合もあります。
参考:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第219回)(通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護)」
通所リハビリも通所介護と同じく、食事・入浴・レクリエーションのサービスを提供しており、利用者が望めば入浴の介助を受けることもできます。
事前までは入浴サービスを行っていない事業所も多かったのですが、年々入浴サービスを行う事業所も増加しており、厚生労働省の発表では入浴介助加算Ⅰの算定率は70.12%、入浴介助加算Ⅱの算定率は16.20%と多くの事業所が入浴サービスを行うようになりました。
ただし、通所介護の入浴と同じように、一度に入浴する人数・入浴時間・介助者の人数は事業者によって異なります。
参考:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第219回)(通所リハビリテーション)
ホームヘルパーの入浴介助は訪問介護で行います。
訪問介護の入浴介助は、スタッフ1名で対応し、自宅の浴槽を使って入浴することになるため、自分自身で浴槽をまたげるなど、比較的介護度が低い利用者が使いやすい介護サービスです。
実際に訪問入浴介護を利用する当日は、基本的には下記の流れです。
予定時間に専用の訪問入浴車で事業所の職員が利用者の自宅に訪問して、入浴介助で使用する浴槽や物品を運び入れます。専用の訪問入浴車には、その日に使うお湯が積まれている場合もあります。
利用者の自宅に到着すると、入浴前後で事故を起こさないために、付き添いの看護職員が事前に血圧・脈拍・体温などの健康チェックを行い、その日に入浴できる状態かどうかを見極めます。
健康チェックの結果、入浴が難しいと判断した場合は、半身浴や清拭に変更されるのが一般的です。
健康チェックの結果、入浴できると判断されたら、事業所の職員は利用者の自宅内に約2畳程度の空間を確保し、その空間にマットや防水シートなどで床を保護してから簡易浴槽の組立を行います。
ひととおり準備が終わったら、利用者の脱衣を行います。訪問入浴介護の利用者は寝たきりの状態であるなど要介護度が高いため、脱衣に介助が必要となることがほとんどです。
浴槽の準備と脱衣が終わったら、介護職員が介助しながら利用者にベッドから浴槽へ移動してもらいます。
その際に転倒などの事故が起こらないように、2人以上の介護職員が注意をしながら介助します。
入浴が始まると、利用者の身体や髪の毛を肌を傷つけないように優しく洗います。ひととおり洗い終えると、浴槽にゆったりとつかってもらいます。その際に、身体に負担をかけない姿勢で入浴できるように、浴槽に取り付けるタイプの入浴枕が用いられる場合もあります。
入浴が終わると、仕上げにシャワーで上がり湯をかけて入浴は終了です。
入浴を終えると、看護職員が再度、血圧・脈拍・体温などの健康チェックや皮膚の確認を行って異常がないかをチェックします。もし皮膚に異常が見られる場合は、必要に応じて軟膏の塗布を行ったり、褥瘡が見られる場合は、その処置を行ったりします。
その後、全て確認して問題なければ着衣を行います。
着衣・看護師による健康チェックと同時進行で、介護スタッフが浴槽などの片付けを行います。
片付けは使用した機材だけでなく、入浴の際に移動した家具なども全て元の位置に戻して、サービスの提供は終了です。
訪問入浴介護の料金と利用頻度は下記のように決められています。
訪問入浴介護の料金は介護報酬で決められた単位数を基準に1〜3割に分類されます。また、全身浴なのか、部分浴・清拭かによっても下記のように料金が異なります。
単位数 | 1割負担 | 2割負担 | 3割負担 | |
全身浴 | 1,266単位 | 1,266円 | 2,532円 | 3,798円 |
部分浴・清拭 | 1,139単位 | 1,139円 | 2,279円 | 3,418円 |
参考:厚生労働省「第239回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料(介護報酬 算定構造)」
介護保険でのサービスを利用する際は、利用者の所得によって1〜3割の自己負担だけで済ませることができます。
しかし、介護保険には財源があるため、自己負担が安いからといって上限なしに介護サービスを利用することはできず、月の上限単位が決められており、その限度単位数を「区分支給限度基準額」といいます。
なお、要介護度別の「区分支給限度基準額」は下記の通りです。
要介護度 | 上限単位数 |
要支援1 | 5,032単位 |
要支援2 | 10,531単位 |
要介護1 | 16,765単位 |
要介護2 | 19,705単位 |
要介護3 | 27,048単位 |
要介護4 | 30,938単位 |
要介護5 | 36,217単位 |
参考:厚生労働省「サービスにかかる利用料 介護保険の解説」
区分支給限度基準額の範囲内でサービスを利用した場合は、1〜3割の自己負担ですが、範囲を超えてサービスを利用した場合は、超えた分が全額自己負担になります。
訪問入浴介護を使用するメリットは多くありますが、主要な内容は下記の通りです。
要介護度が高く、寝たきりの方でも自宅で全身浴が可能なため、身体の清潔を保てます。
身体を清潔に保てず、皮膚に汚れや細菌が付いたままの状態が続くと、褥瘡(床ずれ)や感染症を引き起こす恐れがあるため、身体を清潔に保つことは非常に重要です。また、入浴することで、全身の状態をチェックする機会にもなり、傷や内出血などの早期発見にもつながります。
入浴にはリラックス効果があるため、疲れた身体を休めてくれる効果があります。 さらに、身体を温めることによって、血行が促されたり、筋肉や関節が柔らかくなるなどの効果も期待できます。
家族が自宅で利用者の入浴を介助しようとすると、大きな身体的負担が生じます。また、入浴介助のノウハウがなければ、利用者を転倒させたり、家族自身が転倒したりするなどの事故が発生する危険性もあります。
一方、訪問入浴介護サービスは、専用の浴槽を使用するだけでなく、入浴介助のノウハウも豊富なスタッフが介助を行うため、安全に入浴することができ、結果的に利用者や家族の負担も軽減できます。
訪問入浴介助は介護保険が適用されるため、自己負担額は利用限度額まで1〜3割で済みます。入浴は日常生活において欠かせないため、自己負担額が減ることで安心してサービスを利用できます。
訪問入浴介護の人員基準は、適切な訪問入浴介護サービスを提供するために下記の人員を配置しなければならないというルールが定められています。
また設備基準は、訪問入浴介護を行うために必要な広さを有する専用の区画を設けるだけでなく、浴槽などの設備・備品を用意する必要があります。
看護職員で働く場合は、看護師・准看護師の資格が必要ですが、介護職員で働く場合に必要な資格はありません。
しかし、訪問介護で働くために必要な「介護職員初任者研修」を修了していた方が採用の際に有利になるだけでなく、介護職としての可能性も広がるため資格を取得しておいて損はないのでぜひ取得を検討しましょう。
入浴は日常生活において欠かすことができないものです。また、できる限り自宅で入浴をしたいと希望する方も多いはずですが、要介護度が高くなり介助量が必要になると、自宅での入浴を諦めてしまうケースもあります。
しかし、訪問入浴介護を利用すれば要介護度が高くても自宅での入浴が可能です。利用料金も区分支給限度基準額の範囲内であれば介護保険が適用されるため自己負担額を抑えることができます。
今回の記事を読んで自宅での入浴を希望される場合は、ぜひ訪問入浴介護の利用を一度ご検討ください。