実務者研修とは「介護福祉士実務者研修」が正式名称であり、質の高い介護サービスを提供するための重要な研修です。
また、国家資格である介護福祉士につながるものでもあります。
この記事では実務者研修を受講するための要件や費用、取得をおすすめする理由などをまとめました。ぜひ最後までお読みください。
介護福祉士実務者研修は、2013年3月31日でホームヘルパー1級が廃止された後に設立された資格です。
ホームヘルパー3級、2級、1級は2013年度をもって全て見直しされ、ヘルパー3級は廃止、ヘルパー2級は介護職員初任者研修へ、ヘルパー1級は介護福祉士実務者研修として、転換されました。
これにより介護現場において、介護福祉士国家資格を上位に位置づけ、初任者研修、実務者研修を経験に合わせて取得できるように体系化し、介護職員のスキルアップが明確化されたのです。
介護福祉士国家試験を取得するためには、実務者研修を修了しておかなければなりません。
介護保険法ではサービス事業所に介護福祉士の配置基準が定められていますが、実務スキルのある人材が一定数確保されることで、サービスの質が保証されることになり、利用者の安心へとつながるのです。
なお、ヘルパー1級が実務者研修に置き換えられましたが、介護福祉士国家資格の受験要件には該当しないので、注意が必要です。
介護福祉士実務者研修を修了したとしても、介護現場において介護福祉士や初任者と業務内容が異なる事はありません。
むしろ心身状態や疾患に関する専門知識や技術を身につけたことで、事業所や施設内で様々な介護ニーズに対応できるリーダーとして活躍する可能性が高いです。
経験を積んで自分の仕事に自信をつけたい、さらに専門的な知識や技術を身につけたいと思うのであれば、ぜひ実務者研修にチャレンジして、ステップアップすることを目指してみてはいかがでしょうか。
実務者研修は専門的な知識を習得することが目標となるので、カリキュラムは専門的な内容が多く、20科目(450時間)と非常にボリュームの大きい研修です。
実際、実務者研修は働きながら受講する方が多く、仕事と家庭の両立はもちろん、プライベートの時間を確保するための工夫が重要です。
実務者研修のカリキュラムは次のような内容と時間となっています。
領域 | 科目名 | 時間数 |
---|---|---|
『人間と社会』 | 人間の尊厳と自立 | 5時間 |
社会の理解Ⅰ | 5時間 | |
社会の理解Ⅱ | 30時間 | |
『介護』 | 介護の基本Ⅰ | 10時間 |
介護の基本Ⅱ | 20時間 | |
コミュニケーション技術 | 20時間 | |
生活支援技術Ⅰ | 20時間 | |
生活支援技術Ⅱ | 30時間 | |
介護過程Ⅰ | 20時間 | |
介護過程Ⅱ | 25時間 | |
介護過程Ⅲ | 45時間 | |
『こころとからだのしくみ』 | 発達と老化の理解Ⅰ | 10時間 |
発達と老化の理解Ⅱ | 20時間 | |
認知症の理解Ⅰ | 10時間 | |
認知症の理解Ⅱ | 20時間 | |
障害の理解Ⅰ | 10時間 | |
障害の理解Ⅱ | 20時間 | |
こころとからだのしくみⅠ | 20時間 | |
こころとからだのしくみⅡ | 60時間 | |
『医療的ケア』 | 医療的ケア | 50時間 |
合計 | 450時間 |
参考:厚生労働省
実務者研修のカリキュラムのボリュームなどから、ちゃんとついていけるのか不安に感じる方も多いでしょう。
とはいっても学習テーマは、「介護」「人間と社会」「こころとからだのしくみ」「医療」といった日ごろ介護業務と関連のある4つの領域で整理されています。
ですから、学習内容は自分の職場や業務、利用者の様子からイメージしやすく、実践的な知識や技術として身に付けやすいでしょう。
もし、難しいと感じるような内容でも、学ぶことで自分がスキルアップできる機会ととらえて、積極的に取り組む姿勢が重要です。
介護福祉士実務者研修の受験資格に特別な要件はありません。
とはいえ誰でも受講できるからといって、修了すると介護福祉士になれるという事ではありません。
介護福祉士国家資格を取得するには、実務者研修を修了していることと、筆記試験で国家試験に合格することの2つが要件です。
スキルアップの目的で実務者研修を考えているのであれば、まずは450時間の研修を修了し、専門的な知識を身につけたうえで業務を行いながら、次の介護福祉士国家試験にチャレンジすることをおすすめします。
介護福祉士実務者研修に必要な受講費用は、保有資格によって一部の科目が免除となったり、研修を受けているかで異なっています。
いくつかの研修を比較しても、安い講座は2万5千円程度に対して、高い講座は20万円必要、といった大きな差があります。
これは、保有している資格によって受講科目を免除され、その分の受講代がかからないことが大きな理由です。
つまり、まったく資格がなく全20科目450時間受講する人と、すでに介護職員基礎研修を修了しており、50時間程度で実務者研修が修了できる人との差が金額に表れていることになります。
それぞれの資格要件別に費用を比較してみましょう。(スクールによって異なるので費用は目安です)
受講者区分 | 受講費用 |
---|---|
資格を保有していない | 120,000円 |
介護職員初任者研修 | 87,000円 |
ホームヘルパー2級 | 87,000円 |
ホームヘルパー1級 | 68,000円 |
介護職員基礎研修 | 25,000円 |
実務者研修とは別に、介護職員の基礎知識を修得する研修には、介護職員初任者研修があります。
実務者研修は、ホームヘルパー1級の後継として位置づけられている資格に対して、初任者研修はホームヘルパー2級を引き継ぐ資格として位置づけられています。
どちらも介護従事者がステップアップするための研修ですが、カリキュラムや費用は異なっていますので、次の表で特徴をまとめました。
項目 | 初任者研修 | 実務者研修 |
---|---|---|
受講の目的 | 介護の基礎知識基礎を学ぶ | 介護福祉士に必要な知識や技術を学ぶ |
科目と受講時間 | 9科目130時間 | 20科目450時間 |
受講要件 | なし | なし |
費用 | 7万円~8万円 | 3万円~20万円 |
修了試験の有無 | あり | なし |
介護福祉士受験資格 | 関係なし | 修了が受験資格となる |
サ責になれるか | なれない | なれる |
実務者研修は20科目450時間のカリキュラムを受講する必要がありますが、すでに初任者研修を修了している場合、実務者研修の一部の科目が免除となります。
なぜなら、実務者研修の20科目の中には、すでに初任者研修で受講した9科目が含まれているからです。
ですから、初任者研修修了者は通常より短期間で実務者研修が修了できるだけでなく、費用も安くなりますので、すでに資格がある場合は、実務者研修を受講する準備が整っているといえるでしょう。
資格を保有しておらず、介護経験が浅い介護職員でも、3年以上介護職員として働いた経験があるのなら、初任者研修ではなく、実務者研修を受講して、その勢いで介護福祉士国家試験にチャレンジすることをおすすめします。
なぜなら実務経験が3年以上あり、実務者研修を修了することで、介護福祉士国家試験の受験資格をすべて満たすことになるからです。
実務者研修で得た知識を効果的に効率よく受験対策に結び付けることで、飛躍的にステップアップを望めることになります。
もし3年以上介護職員としての経験がある場合、実務者研修の先のステップも見据えて行動してはいかがでしょうか。
介護職員初任者研修と実務者研修の受講要件に差はありませんが、実務者研修のカリキュラムは介護職員初任者研修の内容が含まれて構成されています。
実務者研修を受けることで、初任者研修の内容も身につくだけでなく、費用の節約となるだけではなく、時間の節約にも繋がります。
実務者研修はホームヘルパー1級の後継資格ですが、カリキュラムには医療ケアに関する専門知識が追加されました。
これにより医療ニーズの高い高齢者にも幅広く対応できるようになり、あなた自身が専門職としてスキルアップすることは間違いありません。
介護知識を基礎からしっかり身につけて、自分のペースで学びたい方には、初任者研修を受講することをおすすめします。
カリキュラムは9科目あり、介護の基本やコミュニケーション技術、病気の特徴など介護職員の初任者として知っておくべき基礎知識が身につきます。
受講時間は実務者研修の450時間に比べて130時間と短くなりますので、仕事や家庭に配慮しながら学習時間を捻出できます。
実務者研修のように450時間ほどの時間が取れないけれと、基礎知識を身につけたいという方には、初任者研修がおすすめです。
ただし、初任者研修には修了試験があります。全カリキュラムの受講後に1時間程度の選択・記述形式32問が出題されます。
合格点は100点満点中70点以上と決められていますが、万が一合格基準に到達しなくても、追加試験が実施されますので、比較的難易度は低いといえます。
項目 | 時間数 |
---|---|
職務の理解 | 6 |
介護における尊厳の保持・自立支援 | 9 |
介護の基本 | 6 |
介護・福祉サービスの理解と医療の連携 | 9 |
介護におけるコミュニケーション技術 | 6 |
老化の理解 | 6 |
認知症の理解 | 6 |
障害の理解 | 3 |
こころとからだのしくみと生活支援 | 75 |
講義の振り返り | 4 |
合計 | 130 |
初任者研修について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
介護職員初任者研修とは?無料で受ける方法や働きながら取得する方法について徹底解説!
自分の周りに実務者研修を受講した人がいない場合や研修に詳しい人がいない場合、実務者研修がどういったものか、自分がチャレンジできるような研修なのかわかりませんよね。
この章では、実務者研修を取得することで、どんなメリットがあるのか、効率よく効果的に実務者研修を受講するにはどのような方法があるのか、気になる疑問にお答えします。
実務者研修を無料で受講する方法はいくつかあります。
ただし、一旦受講者が費用を前払いしたり、決められたスクールで受講したりするなど要件がありますので、確認が必要です。
たとえば、民間企業がおこなう実務者研修スクールでは、修了後にスクールの系列会社が運営する介護施設に就職することで、受講費用がキャッシュバックされるプランがあります。
自分の住んでいる場所に系列施設があったり、まだ就職先が具体的に決まっていなかったりするのであれば、この方法を検討してみましょう。
スクールによっては平日の夜間に開講しているところや、土日に受講できるコースを用意しているところなどバリエーションが豊富です。
自分の働き方や生活スタイルにあったスクールを選べば、働きながらでも実務者研修を受講することは可能です。
また、住んでいる地域にスクールがない方は、通信講座で実務者研修を修了することができます。
通信講座の多くはウェブ教材やテキストでカリキュラムを自宅学習し、演習が必要な科目のみ1週間程度通学(スクーリング)して学びます。
講座によってスクーリングの場所や費用が異なりますので、自分が通える会場か、費用がどれくらいか確認しておきましょう。
スクールによってはキャンペーンで受講費用が安くなる場合があるので、受講費用を抑えたい方はこまめにチェックすることも重要です。
仕事や生活の貴重な時間を工面して実務者研修を修了したのであれば、だれもが給料アップを望むのは当然です。
事業所によっては資格手当を用意しているところがあり、取得した資格に応じて手当がつくところがあります。
実務者研修は国家試験ではありませんので、介護福祉士国家資格に比べて手当は低いかもしれませんが、450時間もの時間を費やし、即戦力としての実務知識や技術を身につけたのですから、研修修了したことへの評価はぜひ欲しいところです。
厚生労働省の「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」では、資格別の平均給与額を公表していますので、実務者研修や他の資格をまとめて比較してみました。
資格の種類 | 平均給与額(月収) |
---|---|
無資格 | 278,730円 |
介護職員初任者研修 | 308,960円 |
介護職員実務者研修 | 314,170円 |
介護福祉士 | 334,510円 |
参考:厚生労働省
この調査結果を見ると、無資格者と介護職員実務者研修では3万6千円の差があることが分かります。
介護職員実務者研修は、とくに受験要件がなく誰でも受けられますので、早めに受講してステップアップを始めましょう。
実務者研修は費用や時間がかかるので、なるべく短期間で安く修了したいものです。
様々な制度や要件を満たせば免除される場合などがありますので紹介します。これから受講を考えている方は、要件に該当するものがないかチェックしてみましょう。
実務者研修受講にあたって、免除されるものの一つに受講科目があります。
それぞれの免除科目数と受講時間を表にまとめました。
免除される科目が多いほど受講時間が短くなり、費用も安くなります。ご自身の受講履歴を確認して、修了までの近道を見つけましょう。
項目 | 介護職員初任者研修 | ヘルパー1級 | ヘルパー2級 | ヘルパー3級 | 介護職員基礎研修 |
---|---|---|---|---|---|
免除受講科目数 | 9 | 18 | 12 | 17 | 1 |
受講時間 | 320 | 95 | 320 | 420 | 50 |
もう一つの免除制度として、実務者研修の受講料が全額返還となる「介護福祉士実務者研修受講資金貸付制度」というものがあります。
これは都道府県社会福祉協議会が実施する費用の貸付制度ですが、要件を満たせば、なんと貸付を受けた費用全額の返還が免除され、実務者研修にかかる費用が無料になる制度です。
都道府県社会福祉協議会が主に実施していますので、お住まいの地域で確認してください。
東京都社会福祉協議会が実施している「実務者研修施設在学者向け修学資金貸付事業」を紹介します。
貸付金額 | 実務者研修施設に在学し、次の(1) ~(3)の要件を全て満たしていること。なお、他の道府県又は道府県が適当と認める団体から同種の貸付を受けていない者であること。 |
---|---|
(1) 次の①~④のいずれかを満たしていること | |
①東京都の区域内に住所を有している(住民登録をしている) | |
②東京都の区域内の実務者研修施設に在学している | |
③実務者研修施設の学生となった年度の前年度に東京都の区域内に住所を有していた者で、かつ実務者研修施設での修学のために東京都の区域外に転居した | |
④上記①~③によらず、実務者研修施設を卒業後に東京都の区域内において返還免除対象業務に従事しようとする意思がある | |
(2) 申込日前日までに、介護福祉士国家試験の実務経験として認められる介護等の業務に3年以上従事した(従業期間1095日以上かつ従事日数540日以上を満たしている) | |
(3) 卒業後に介護福祉士として登録し、継続して2年以上、東京都の区域内において返還免除対象業務に従事する意思がある | |
貸付金額 | 20万円以内 |
貸付期間 | 実務者研修施設の正規の修学期間 |
利子 | 無利子 |
返還免除 | 次の①~④の要件を全て満たした場合、修学資金の返還債務の免除を受けることができます。 |
① 実務者研修施設を卒業し、国家試験合格後に介護福祉士の登録を行った上で | |
② 東京都の区域内において | |
③ 2年間継続して | |
④ 返還免除対象業務に従事した場合 |
参考:東京都社会福祉協議会
介護職の人材不足や安定した雇用ために、助成金をだしてスキルアップを応援してくれる自治体があります。
東京都の江東区では「介護福祉士実務者研修受講料助成事業」というものがあり、実務者研修修了後に介護保険法上の介護事業所や施設に6か月以上就労することや他の制度を利用していないなどの要件を満たせば、対象経費の10分の9を助成してくれます。
ハローワークが実施する「教育訓練給付制度」は、雇用保険に加入している(いた)方が、実務者研修を修了した場合に支払った費用の一部を受給できるという制度です。
これは、国の要件を満たせば実務者研修だけでなく、初任者研修も該当しますので、スクールの講座が給付制度の対象となるか、助成額はどのくらいか調べることをおすすめします。
実務者研修は、介護職員のスキルアップを目的に作られた資格です。介護保険がはじまった当初は、介護福祉士と無資格者しか介護職員の区分はありませんでした。
2013年から初任者研修や実務者研修で基礎知識や介護技術を学んだ介護職員が増えたことにより、今では一層サービスの質が確保され、安全で良質なサービスが提供されるようになったのです。
介護職を目指す人にとっても、資格取得の目標や将来のキャリアアップを具体的に描けるようになり、介護職員としてのやりがいを見いだせたり、目標を持って働けるようになりました。
実務者研修が介護業界でのキャリアアップにおいて果たす意義は大きく、研修終了により専門職へと成長した人材は介護サービスにおいて欠かせない存在になることは間違いないでしょう。