突然、両親が認知症と診断されたら、不安を抱える方も多いのではないでしょうか。認知症の方との会話や接し方は、介護する方と介護される方の精神面にも影響するため非常に重要です。本記事では、認知症の方との会話方法について、事例を交えてわかりやすく解説します。
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Aさんは、母親が認知症と診断されました。心のどこかで、母親が認知症を発症するのは「まだ先の話だ」と思っていたため、いざ自分の母親が認知症になったことで動揺してしまいました。突然のことに困ったAさんは、これから母親とどのように接していけばいいかわからなくなってしまいました。認知症の方と接する場合、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。
認知症の方は、周囲の人が理解できない言動や行動をして周囲を驚かせることがあります。しかし、そのほとんどは、不安な気持ちが原因です。
例えば、健康な方でも「今自分がどこにいるのかわからない」「自分が今何しているかわからない」といった状況では、誰もが不安になるのではないでしょうか。認知症の方は、常にこのような不安を抱えて生活しています。そのため、もし何か間違った発言や行動があったとしてもその奥にある感情を理解して、コミュニケーションをとることが大切です。
相手の感情を気にせず会話を続けてしまうと、相手を傷つけるだけでなく、認知症の症状が悪化する可能性もあるので注意が必要です。
認知症の方と会話する際には、5つの注意すべきポイントがあります。これらのポイントを意識して会話するだけでも、認知症の方と穏やかに会話できるようになるため理解しておきましょう。
認知症の方は、病気の影響で相手の話を理解するのに時間がかかることもあります。そのため、ゆっくりと大きな声で話すことで、こちらの伝えたいことが伝わりやすくなります。
逆に、早口で喋ってしまった場合、こちらの言いたいことが伝わっていないこともあるため注意しなければいけません。こちらの言いたいことが相手に伝わっていないと、さらに相手が混乱状態に陥り、興奮させてしまう場合も多くあります。認知症の方に安心して過ごしていただくためにも、ゆっくりと大きな声で話すように心がけましょう。
会話をする際には、目線の高さによって相手に与える印象が変わります。例えば、相手よりも上から見下す視線の位置で会話をすると、相手に威圧的な印象を与えてしまい、話したいことがうまく伝わらない可能性があります。
一方で、目線を合わせて話せば、対等な関係であると相手に示すことができ、お互いに理解が深まります。相手も安心して自分の主張を話せるため、よい関係を築けるでしょう。
認知症の方は、理解力が低下してしまうため、こちらから問いかけてもすぐに反応してくれないことがあります。その場合は、相手が反応してくれるまで待つことが大切です。
認知症の方の反応を待たずに話を進めてしまった場合、相手を置き去りにして会話が進んでしまうため、お互いに気持ちよく会話を楽しむことができません。反応が遅くても、自分本位で話を進めるのではなく、相手のテンポに合わせて会話をしましょう。
認知症の方は、記憶障害や見当識障害から、間違ったことを話してしまうこともあります。そうした間違いに対して、「それは違うよ」「そんなことない」などと一方的に否定してしまうと、相手の自尊心を傷つけてしまう可能性があります。
仮に、間違った発言をしたとしても、すぐに否定するのではなく、まずは相手の話をしっかり聞き、そのまま受け入れてあげることも大切です。また、会話の流れでさりげなく教えてあげるような配慮があるとよいでしょう。
認知症の方に限らず多くの人は、自分の話を聞いてくれる人には積極的に話をしたくなります。
そのため、会話中は、相手の目を見て話を聞き、時々相槌を打つとよいでしょう。相槌を打つことで「この人は、親身になって私の話を聞いてくれる」と安心して、色々な話を積極的に話してくれます。相手の意見に共感しながら相槌を打つことで、さらに信頼関係が深まるでしょう。
認知症の方と会話する中で、気づかぬ間に相手に不快な思いをさせてしまうこともあります。毎日忙しく気持ちに余裕がなくなってしまっていると、完璧な対応をできないこともあります。
しかし、よくある失敗例を知ることで、忙しい中でも相手に不快な思いをさせないような対応ができる場合もあります。ここでは、よくある会話の失敗例について解説します。
相手が気心の知れた家族の場合、深く考えずに相手の間違いを否定してしまうこともあります。そうした対応をすることで、認知症の方を傷つけてしまうこともあるので注意しましょう。
認知症の方との会話は、スムーズに進みません。そのため、以前の状態を知っている家族がストレスを感じてしまう気持ちはよくわかります。
ただ、相手の間違えた行動や言動に対し「違うよ」「さっきも同じことを言ってたよ」などの否定的な言葉を発してしまうと、相手を傷つけてしまう可能性もあるので注意しましょう。
認知症の症状が進行すると、危険な行動や、予測できない行動が目立ちます。例えば、立位が安定していない方が1人で立ち上がろうとしている場合、転倒する危険もあることから「何もしないで座っていて」と、行動を抑制したくなることもあるでしょう。
しかし、相手の行動を制限してしまうような命令や指示をされてしまうと、ストレスに感じて情緒不安定になる可能性もあります。本当に危険な場合は仕方ありませんが、できるだけ相手の気持ちも尊重しながら、安全を確保する方法を模索することが重要です。
同居家族の場合は、特に24時間一緒にいることも多いでしょう。その中で何度も同じ会話をしていると、段々とストレスを感じてしまいます。そのため、色々なトラブルが重なると、相手の行動や言動に対して、つい感情的になってしまいがちです。
介護している方が感情的になってしまうと、相手は傷つくだけでなく不安な気持ちになってしまいます。そうした環境が、認知症の悪化が進行する原因になる場合もあるので注意しましょう。感情的になりそうなときやストレスが溜まっている際には、一度その場を離れて気持ちを整理するなどの対策が重要です。
よくある認知症の方との会話で、家族や名前の顔を忘れてしまうことや何度も同じ話を話したり聞いたりすることがあります。また、急に大声を出して怒ってしまう場面もあるでしょう。
そうした状況では、無理に抑制するのではなく、適切に対処することで認知症の方を落ち着かせることができます。ここでは、よくある認知症の方との会話例と対処法について解説します。
家族の名前や顔を忘れてしまうこともあります。しかし、認知症の方もわざと名前や顔を忘れているわけではありません。病気の影響で思い出せなくなっているだけです。
自分の顔や名前を忘れられても、穏やかに自分のことを教えてあげましょう。一旦受け入れ、症状を理解した上で、冷静に対応することが大切です。
認知症の方は、記憶障害や見当識障害によって、今いる場所やご飯を食べた時間などを、何度も尋ねてくることもあるでしょう。その背景には「自分が忘れていないか不安」「安心したい」という感情があります。つい「何度も聞かないで!」と言いたくなりますが、冷静に落ち着いて教えてあげることが大切です。
例えば、場所や時間など、同じことを質問する場合は、正しい情報を目につくところに掲示しておくことで落ち着くこともあります。また、しつこく同じことを話したり聞いたりするのは、一時的な場合もあります。同じ話を繰り返している際には、散歩したり歌を歌ったりなどの方法で気を紛らわすと落ち着くこともあります。
認知症になると、感情のコントロールができなくなることもあるため、急に怒り出したり、大声を出したりすることもあります。まずは、抑制せずに怒っている理由や、何があったのか話を聞いてあげることが重要です。
また、冷静に会話ができない状態であれば、静かな場所に移動するなど、環境を変えると落ち着く場合もあります。無理に理由を聞き出さずに、相手が落ち着いて話してくれるのを待ちましょう。
レビー小体型認知症などの場合、幻覚や妄想が出現しやすくなります。幻覚の影響で、普段の会話の中で「いないはずの人が話しかけてくる」「財布を盗られた」などの幻覚や妄想の話をされることもあるでしょう。
本人にとっては紛れもない事実であるため、すぐに否定しないことが大切です。話を聞いてすぐに、相手の妄想や幻覚を否定すると、さらに情緒不安定になる可能性があります。
まず、相手の話を受け入れて聞いてあげることが重要です。その幻覚や妄想が原因で、気持ちや行動が落ち着かない様子であれば、話題を変えたり、環境を変えたりして気を逸らすのも1つの手段です。
認知症の方と接する際に、どんな会話をすればいいのかわからずに戸惑ってしまうこともあるでしょう。しかし、大切なのは、相手の気持ちを理解することです。認知症の方も、相手にわかって欲しいという気持ちは強くあります。
まずは、相手の話をそのまま受け入れてあげましょう。相手の感情に寄り添うことで、こちらが伝えたいことも相手に理解してもらいやすくなります。認知症と接する際には、相手の感情やペースに合わせて会話することを意識しておくとよいでしょう。