胃ろうは、栄養補給のためにお腹にチューブを挿入する医療処置のことで、以前までは、介護施設への入居が難しい場面もありました。しかし、2012年の法改正により、介護職員も胃ろうのケアができるようになったことで、看護師が常駐しない施設でも入居が可能となり、近年では胃ろうへの対応可能な施設が増えています。
この記事では、利用者が胃ろうをしていても入居できる介護施設の種類や選び方、介護する際のポイントまで紹介します。
今回の内容を参考にして、各利用者に合った施設を選び、安心して過ごせる環境を整えるための参考になれば幸いです。ぜひ、最後までお読みください。
目次
胃ろうをしていても、基本的に介護施設への入居は可能です。胃ろうは、手術でお腹に小さな穴を開けて、そこに胃ろうカテーテルと呼ばれるチューブを通して栄養剤を注入していく栄養補給法で、対応するには医療処置が必要です。
しかし、最近では、胃ろうの状態が安定している場合であれば、適切な医療管理ができる環境が整っている介護施設も増加しているため、入居できるケースが増えています。
なぜ、最近は胃ろうをしていても介護施設に入居できるかというと、2012年4月から社会福祉士及び介護福祉士法が一部改正されたことが大きな理由です。この改定がおこなわれる前は、介護施設に常駐している看護師しか、胃ろうの対応ができなかったため、入居できる介護施設は限られていました。
しかし、改定後は介護職員も胃ろうの対応ができるようになったため、看護師や医師がいない介護施設でも、病院と同様に胃ろうのケアを受けることができるようになった結果、胃ろうの利用者を受け入れる介護施設が急速に増加しました。ただ、介護施設によって入居条件は異なるため、場合によっては入居が難しい場合もあることも覚えておきましょう。
実際、胃ろうの受け入れができる介護施設は多く存在します。今回はその中でも主要な介護施設を以下に紹介します。
介護施設名 | 施設の特徴 |
介護医療院 |
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特別養護老人ホーム(特養) |
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介護老人保健施設(老健) |
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介護付き有料老人ホーム |
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ここまでの内容で、胃ろうの受け入れができる介護施設を理解できたはずです。しかし、紹介したような介護施設は数多く存在するため、どのようなポイントに注目すべきか迷うことも多くあります。実際に介護施設を探す場合は、以下のような内容を重点的に考えましょう。
胃ろうは介護職員でも対応できるようになったものの、医療処置が必要なため、「何かトラブルが生じたらどうしよう」という不安を持つ場合も多いはずです。
そのような不安を少しでも軽減させるために、入居を検討している介護施設でのトラブル発生時の対応だけでなく、スタッフの充実さとして、施設内に常駐している医師はいるのか、胃ろうを対応できる看護師や介護職員は何人くらい働いているのかなどを確認しましょう。また、加えて入居を検討している介護施設と連携している病院の有無も合わせて確認しておくと安心です。
胃ろうに対するケアの実績と経験の豊富さも重要なポイントです。胃ろうに対応できるスタッフが充実していても、実際の胃ろうに対するケアの実績と経験が不十分であれば、入居した後も安心して依頼できません。
そのため、「現在で何名くらい胃ろうを造設している利用者がいるか」「何年くらい前から胃ろうの利用者を受け入れているか」などを確認すれば、介護施設の胃ろうに対するケアの実績と経験がわかるはずです。
介護施設への入居を検討している胃ろうの利用者は、全身状態の低下が認められる場合が多いため、職員が各利用者へどのようなサポートをしているかも重要です。
具体的には、以下のような項目は事前に確認しましょう。
- 胃ろうをしていても普通に入浴できるため、感染予防などの目的で入浴や清拭が丁寧におこなわれているか
- 胃ろうにすると唾液の分泌量が落ちてしまい、口の中が乾燥して細菌が繁殖した結果、誤嚥性肺炎を発症する危険性があるため、口腔ケアを丁寧におこなってくれるか
- 胃ろうで使われる栄養剤は大きく分けて2種類にわかれるため、各利用者によって適した栄養剤を使用しているか
これらのように、各利用者によって状態は異なるため、それぞれに合ったサポート体制をおこなっているかが重要になります。
利用者が入居した介護施設で、どのように過ごしているのか、気になる家族もいます。利用者自身へのサポート体制も重要ですが、それだけでなく、普段から家族との情報共有やコミュニケーションを大切にしている介護施設は家族の安心感にもつながります。
何か少しでも変わったこと、気になった場合の連絡はもちろん、施設職員からの定期的な報告・面談や、利用者との面会のしやすさなども確認しておきましょう。
ここでは、実際に胃ろうの方が介護施設で過ごす1日の流れとスケジュールを紹介します。
時間 | 活動内容 | ポイント |
6:30~7:00 | 起床、モーニングケア | 場合によっては介護職員が介助 |
7:30~8:00 | 胃ろうでの栄養剤投与 | 200mlを約1時間位の目安で注入 |
8:30~9:00 | 胃ろうでの栄養剤終了 | 終わったら20分~1時間程度は食道への逆流を防ぐためにベッドを上げたままにし、上半身を起こす |
10:00 | 入浴 | 入浴は週に2回程度おこなう |
11:00 | 自由時間 | レクリエーションやリハビリの場合もあり |
11:30~12:00 | 胃ろうでの栄養剤投与 | 朝食時と同じ |
12:30~13:00 | 胃ろうでの栄養剤終了 | 朝食時と同じ |
14:00 | 自由時間 | レクリエーションやリハビリの場合もあり |
15:00 | おやつ | 施設によって、季節ごとに応じたおやつを出す場合もある |
17:30~18:00 | 胃ろうでの栄養剤投与 | 朝食・昼食時と同じ |
18:30~19:00 | 胃ろうでの栄養剤終了 | 朝食・昼食時と同じ |
21:00 | 就寝 |
ただ、介護施設といっても多くの種類があり、それぞれによって異なるため、詳細な内容は事前に確認しましょう。
在宅で胃ろうの利用者を介護することも可能ですが、医療処置になるため、取り扱いには注意が必要です。具体的には、口腔ケア、栄養剤の選択、投与時間の調整、投与後の安静など、今回紹介した内容をすべておこなう必要があるため、常に介護者が必要です。
多くの家族は、在宅で何とか過ごしてもらいたいと思うかもしれませんが、利用者の全身状態によっては、介護施設の方が利用者・家族ともに安心して生活できるかもしれません。在宅・介護施設のどちらか迷った場合は、一度担当のケアマネージャーに相談してみましょう。
ここでは、実際に胃ろうの利用者を介護する際の主要なポイントについて紹介します。
胃ろうで栄養剤を投与する場合は、30〜90度程度起こす必要があります。体を起こさずに寝たままで注入すると、胃に注入された栄養剤が逆流して気管に入り、肺炎を起こす危険性があるため、注意が必要です。また、栄養剤の逆流を防ぐため、注入後30分〜1時間程度は体を寝かせずに、上半身を起こしておきましょう。
胃ろうについては、皮膚トラブルに注意が必要です。胃ろうの周辺のケアを怠った状態が続くと、胃ろう周りの皮膚が赤くなる、一部が腫れあがるなどの皮膚トラブルが起きる場合があります。皮膚トラブルをそのままにしておくと、症状が悪化して膿が出ることもあるため、胃ろう周りは常に清潔にしておきましょう。
また、体だけでなく、注入容器や接続チューブなどの胃ろう器具も合わせて配慮することが重要です。
胃ろうに使われる栄養剤は、大きく以下の2種類にわけられます。
- 半消化態栄養剤
- 消化態栄養剤
半消化態栄養剤は、タンパク質がそのままの状態で含まれており、消化の過程が必要なため、消化管機能が正常か軽度障がいの場合に適しています。
一方、消化態栄養剤は、すでにタンパク質が分解された状態で含まれており、消化の過程が不要なことから、消化管機能が低下している利用者に適しています。これらの栄養剤を各利用者に合わせて選ぶことが重要です。
胃ろうをしていても介護施設への入居は可能で、利用者に合った施設を選ぶことが重要です。以前までは、胃ろうをしていると、介護施設への入居が難しい場合もありましたが、2012年の法改正により、介護職員も胃ろうの対応ができるようになったため、胃ろうをしていても、入居ができる介護施設が増加しています。
ただ、すべての介護施設で胃ろうの対応ができるのではなく、介護医療院や特別養護老人ホームなどが主な介護施設になり、実際に施設を選ぶ際には、医療対応の充実度・胃ろうケアの実績・サポート体制などを確認することが重要です。
また、利用者だけでなく、家族との情報共有を密に行ってくれる施設を選ぶことで、安心感も増すはずです。今回の内容を参考に、理想的な介護施設を見つけましょう。