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健康な生活を維持するために必要な日常生活動作(ADL)の評価方法と予防策

2024-11-13

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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日常生活動作(ADL)とは、移動・食事・入浴・排せつなど、日々の生活を送るために必要な基本的な動作のことです。この日常生活動作は、加齢や病気など、さまざまな原因で低下することがあり、低下が進行すると、日常生活の自立が難しくなり、介護の必要性が高まります。

この記事では、日常生活動作の概論だけでなく、その評価方法や、低下を引き起こす原因について詳しく解説します。また、利用者の日常生活動作を維持・改善させるためのポイントも紹介し、利用者だけでなく、介助者にとっても重要な視点を提供し、良いケアに役立てていただければと思います。ぜひ、最後までお読みください。

日常生活を過ごすために必要な日常的な動作「日常生活動作(ADL)」とは

日常生活動作(ADL)とは、Activities of Daily Livingのことで、それぞれは以下のような意味合いがあります。

  • A(activity):動作
  • DL(daily living):日常生活

つまり、日常生活動作は、起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排せつ・入浴・整容など、日常生活を送るために必要最低限な日常的な動作のことです。

日常生活動作が低下する原因

日常生活動作が低下する原因としては、以下のようにさまざまな原因が考えられ、多くの場合は1つではなく、複数が関与しています。

身体機能の低下

日常生活動作が低下する中でよくみられる原因は、老化による身体機能の低下です。年齢を重ねれば、筋力の低下や、関節の動きが悪くなるなどが生じてしまいます。

それだけでなく、高齢になると慢性疾患・怪我などを発症する確率が高くなり、それらがきっかけで外出や運動をする機会も減少し、さらに筋力が落ちるという悪循環になる場合も多くみられます。

認知機能の低下

認知症などによって、認知機能の低下が認められると、計画的に物事を進められなくなったり、身体は動くものの、動かし方が分からなくなり歩くことが難しくなったり、決まった時間に料理を作るなどのように身体を動かす目的がわからなくなる場合があります。このように少しずつ日常生活が制限されることは、ADLを低下させる原因の1つになります。

環境・精神面の変化

高齢者になって、ひとり暮らしをすることになったなどのような環境の変化によって、ぼんやりと過ごすことが多くなり新しい刺激がなくなったなど、生活環境が変化することは、日常生活動作に大きな影響を与えます。

ひとり暮らしになると、外出する機会が減ることで、行動範囲が狭くなって他者との交流が減る、新しい趣味や新しい交友関係を作ろうとしない場合などもよくみられるなど、精神面・環境面の変化は日常生活動作を低下させる1つの原因としてよくみられます。

生活習慣病の発症

栄養バランスの悪い食生活・喫煙・飲酒・ストレスなどが原因によって、生活習慣病である高血圧や糖尿病が発症してしまい、日常生活が制限された結果、活動量が減り、日常生活動作の低下につながります。

日常生活動作が低下すると活動量が少なくなり、社会参加の機会が減少する

日常生活動作が低下すると、以前に比べて活動量が少なくなった結果、体力や筋力の低下が生じて、外出や社会参加の機会が減少します。

また、日常生活動作が低下することによって、他者に依存する頻度も多くなり、劣等感や自尊心が低下するなど精神面への影響も生じることで、さらに他者とのコミュニケーションの減少につながります。このような悪循環が繰り返されることで、寝たきりの状態になってしまう場合もあります。

日常生活動作は基本的日常生活動作(BADL)と手段的日常生活動作(IADL)に分かれる

日常生活動作は、日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作になりますが、動作の種類によって以下の2種類に分けられます。

基本的日常生活動作(BADL)は基本的な日常生活動作のこと

1つ目の基本的日常生活動作(BADL)とは、Basic Activities of Daily Livingのことで、日常生活を送るうえで最低限必要な動作のことです。具体的な動作としては、移乗・移動・食事・着替え・排泄・入浴・整容などがあり、日常生活動作そのものを基本的日常生活動作と指す場合もあります。

手段的日常生活動作(IADL)は複雑で高度な日常生活動作のこと

2つ目の手段的日常生活動作(IADL)とは、Instrumental Activities of Daily Livingのことで、基本的日常生活動作の次の段階である、日常生活動作の中でも、やや複雑な動作を指します。具体的な動作としては、料理・洗濯・買い物・交通機関の利用・薬の管理・お金の管理・電話・趣味などのことです。

一般的に、手段的日常生活動作の方が基本的日常生活動作より先に低下することが多いため、どのような動作が手段的日常生活動作に該当するか理解しておくことで、心身機能の低下に気が付きやすくなります。

日常生活動作(ADL)の評価方法

日常生活動作はさまざまな方法で評価できます。今回は基本的日常生活動作・手段的日常生活動作のそれぞれに対して、よく使用される主要な評価方法を紹介します。

基本的日常生活動作(BADL)の評価方法

基本的日常生活動作の評価は、以下のような方法があります。

評価方法特徴
Barthel Index(バーセルインデックス)
  • 食事、移動、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、着替え、排便コントロール、排尿コントロールの10項目で構成されている。
  • 自立、要介助、全介助などの段階に分けて評価する。
  • 100点満点で、点数が高いほど日常生活が自立している。
Katz Index(カッツインデックス)
  • 入浴、更衣、トイレの使用、移動、排尿・排便、食事の6項目で構成されています。
  • 自立か要介助かで評価する。
  • 総合的な評価で自立と判定した数に応じてA〜Gまでの7段階に振り分ける。
DASC-21(ダスク-21)
  • 地域包括ケアシステムにおける認知症の評価方法
  • 質問は21項目の質問から構成されており、それぞれにつき1~4点で評価され、84点満点となる
  • 点数が高くなるにつれて、認知機能が低下していると評価される。
  • 合計点が31点以上の場合を認知症の可能性ありと判定する

手段的日常生活動作(IADL)の評価方法

続いて、手段的日常生活動作の主要な評価を紹介します。

評価方法特徴
Lawton(ロートン)の尺度
  • 電話、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通手段、服薬管理、財産管理の8項目から構成される。
  • 3~5段階評価で点数が高いほど自立度が高い
老研式活動能力指標
  • 手段的ADL、知的能動性、社会的役割の分野に分かれ、合計13項目から構成される。
  • 点数が高いほど自立度が高くなる
DASC-21(ダスク-21)
  • 基本的日常生活動作だけでなく、手段的日常生活動作の評価項目もあり。

定期的な日常生活動作の評価は利用者だけでなく介護者にも重要

今回紹介した評価項目で、日常生活動作を定期的に評価することは、以下のような理由で、利用者だけでなく介護者にも重要です。

要介護度の悪化を予防できる

今後、国内において65歳以上の人口割合は増加傾向で、内閣府が発表した「令和6年版 高齢社会白書」によると、2023年には65歳以上の人口割合が30%以上になると予想されています。その一方で、15〜64歳の人口割合は減少するため、少ない労働者たちが社会保障の基盤となる税金や社会保険料を納めて、高齢者の生活を支えていきます。

これらの状況から、今後は要介護状態にならないように予防することや、今の身体機能より悪化させないことが重要です。その1つの手段として、定期的に日常生活動作の状況を把握することで、身体機能の低下に早く気付くことができ、介護保険でのサービスを実施するなどの対策をおこなえるはずです。

どの動作に介助が必要か把握できる

日常生活動作を評価することで、利用者ができることと、できないことの両方を把握できるため、利用者自身ができることは自分でやってもらうことで、介護者負担が軽減すると期待できます。もし、日常生活動作の評価をおこなっていないと、利用者自身ができる動作にも介助をおこなった結果、利用者の自立度が下がってしまうかもしれません。

また、定期的に評価をおこなうことで、以前までおこなえなかった動作が、できるようになったなど利用者・介護者ともに現状の状態の把握や、今後の目標も立てやすくなるはずです。

日常生活動作の低下を防ぐためのポイント

年齢を重ねるとともに、どうしても日常生活動作が低下してしまいます。しかし、以下の内容を意識的におこなうことで、日常生活動作の低下を防ぐことができるはずです。

適度な運動をおこなう

筋力や運動能力の低下は、日常生活動作の低下にも直結するため、週に2〜3回程度の頻度で、ウォーキングや水泳などの有酸素運動や、筋力トレーニングを含む運動を定期的におこないましょう。日常的に運動を取り入れることが難しい場合は、なるべく歩いて買い物に出かけたり、エレベータ―を使わず階段を使用するだけでも、筋力や体力をある程度維持できるはずです。

バランスの良い食事を意識する

日常生活動作の低下を予防する方法として、運動と同じくらい重要なことは、バランスの良い食事を意識的におこなうことです。高齢者になると、食事量が減るだけでなく、食生活も偏りがちになるため、低栄養の傾向の利用者が多く存在します。

実際、厚生労働省が発表した「令和4年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、65歳以上の高齢者で低栄養の傾向の割合は、男性で12.9%、女性で22.0%であることがわかっています。栄養のバランスが崩れたままでは、体力を維持することは困難なため、一度、現在の食事を見直してみましょう。食事の内容は、骨格筋量・筋力・身体機能は、たんぱく質の摂取量と強く関連している報告もあるため、積極的にたんぱく質を摂取できる食事を意識しましょう。

利用者ができることを把握する

利用者を介助するなかで、今までは問題なくできていた動作が難しくなっている場面を経験したことがあるかもしれません。そのような場合、利用者の負担を減らす目的で、すべての動作を介助してしまうケースが多くみられます。しかし、普段から過介助することで、利用者が自立して行動する機会が減ってしまった結果、さらに日常生活動作が低下するきっかけになる危険性があります。

このような悪循環にならないためには、今回紹介した日常生活動作の評価方法を利用して、利用者ができる動作と介助が必要な動作を理解しましょう。そして、動作が自立している場合は、今までより少し時間がかかっても、利用者自身がおこなってもらいましょう。

生活環境を整える

自立した生活を少しでも長く送るためには、生活環境の整備も重要です。さまざまな項目の中で、特に転倒しないように生活環境を整えることを意識しましょう。実際、65歳以上高齢者の3人に1人は、1年間に1回以上転倒するといわれているだけでなく、転倒した3人に2人は何らかの怪我を負うことがわかっています。

少しでも転倒の危険性を下げるために、玄関・浴室・廊下などの段差解消や、手すりの設置など住宅改修をおこなうと安全性が高まります。

また、外を歩く時だけでも、シルバーカーや杖などを活用したり、入浴時にシャワーチェアをレンタルするなど福祉用具を使用もすることもおすすめです。今回紹介した、住宅改修や福祉用具は、介護保険を取得している場合は介護サービスの1つとして利用できるため、一度、担当のケアマネージャーに相談してみましょう。

社会的交流をできる限り持つ

筋力を付けることや、バランスの良い食事を摂ることの重要性も理解しても、目標を立てるなどの動機付けがなければ、継続しておこなうことは困難です。そのため、同じ趣味を持つ仲間を増やしたり、リハビリテーションを通して多くの方と交流するなど、コミュニケーションの機会を増やすことが重要です。

リハビリテーションの介護サービスを検討する

利用者自身や、家族などの介護者が努力しても、どうしても日常生活動作の低下を防ぐことができない場合があります。日常生活動作が低下して、介護が必要となった場合はリハビリテーションの介護サービスも検討しましょう。リハビリテーションは、専門職が考えたメニューをおこなうため、筋力や体力の維持ができるだけでなく、リハビリテーションを実施する施設に出かけるため、コミュニケーションをとる機会も生まれます。

その他にも、訪問リハビリテーションでは、専門職が利用者宅へ訪問し、困っている動作などの練習も繰り返しおこなうため、今まで以上に安心して日常生活を送れるようになるかもしれません。

利用者の日常生活動作を正しく理解・評価して低下の予防や改善に努めよう

日常生活動作(ADL)は、日々の生活を自立して過ごすにあたって必要な動作のため、日常生活動作が低下することは、高齢者にとって大きな問題となります。そんな日常生活動作は、「基本的日常生活動作(BADL)」と「手段的日常生活動作(IADL)」に分かれ、身体機能・認知機能の低下、環境や生活習慣病などさまざまな原因が複雑に絡み合い、それぞれの日常生活動作の低下を招きます。

この低下を予防するためには、利用者の日常生活動作を正しく理解・評価し、過介助を避けることで、機能の低下を予防・改善できます。

日常生活動作を定期的に正しく評価することで、利用者だけでなく、介護者の負担も軽減するため、今回紹介した内容を参考に各利用者の日常生活動作の評価を見直してください。

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