近年、介護保険サービスの中で最も事業所数の増加が著しいのが訪問看護事業所です。在宅で生活している方でも、医療によるサポートが必要な方も増え、在宅療養を支援する訪問看護のニーズが急速に高まっています。
2013年の時点で全国6,801件だった訪問看護ステーション数は、2023年時点で15,697件まで増加しています。この10年で訪問看護ステーション数はなんと2.3倍にも増加しているのです。
これに伴い、要支援の方による訪問看護の利用も増えています。重症化予防や自立支援の必要性が社会に浸透し、訪問看護の必要性を感じる方が増えていることが影響しています。
今回の記事では、要支援の方を対象にした訪問看護、「介護予防訪問看護」について解説します。介護予防訪問看護のサービス内容や料金、よくある質問などについて、わかりやすく解説します。
参考:全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション数調査」
目次
介護予防訪問看護とは、介護保険で要支援の認定を受けている方に提供される訪問看護のサービスです。
介護予防訪問看護は、要支援1・要支援2に認定された方を対象に提供される訪問看護サービスです。訪問看護ステーションや病院または診療所から、看護師・准看護師・保健師などが利用者の自宅を訪問し、療養上の世話や診療の補助をおこなうサービスです。また、介護予防訪問看護事業所に配置された理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のリハビリテーション専門職が機能訓練・機能維持を目的としたリハビリテーションを提供することもあります。
介護予防訪問看護は、予防サービスとして、重症化防止や要介護状態になることを防ぐ役割が重視されるサービスです。
介護予防訪問看護を利用できるのは、以下の条件をすべて満たす方です。利用条件について4点に分けて詳しく解説します。
- 要介護認定で要支援1または要支援2と認定された方
- 予防サービス計画(予防ケアプラン)が作成されている
- 医師による訪問看護指示書が発行されている
- 医療保険が優先されない
介護予防訪問看護の対象者について解説しました。要支援の認定を受けても、すべての利用者が利用できるわけではありません。サービスの対象として該当するのか、地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに確認しましょう。
介護予防訪問看護の職員配置基準について解説します。原則的に、予防訪問看護事業所の職員配置基準は、訪問看護事業所の配置基準と同一です。
訪問看護事業所としての指定基準を満たしていれば、それをもって一体的に運営される介護予防訪問看護は、その指定基準を満たしているとみなされます。介護保険制度において、訪問看護事業所の人員配置基準は以下の通りとなっています。
- サービスの提供にあたる保健師、看護師又は准看護師を常勤換算方法にて2.5名以上配置していること
- 保健師、看護師又は准看護師のうち1名は常勤であること
- 保健師又は看護師である管理者を1名配置していること
- 理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士を実情に応じた適当数配置していること
これらの専門職が、それぞれの専門性を発揮し、かつ連携・情報共有しながら、利用者へのサービス提供をおこないます。他にも、利用者に直接サービスを提供することはありませんが、事務員(医療事務)などが配置されている場合もあります。
介護予防訪問看護の事業所として、訪問看護事業所と分けて人員配置をする必要はありません。介護予防訪問看護と訪問看護の人員を重複して計算することが認められています。
介護予防訪問看護のサービスと料金について詳しく解説します。
介護予防訪問看護で提供されるサービス内容は、訪問看護のサービス内容と基本的には変わりません。具体的には以下のサービス内容となります。
- 病状・障害の観察と判断、健康管理
- 食事・清潔・排せつのケア、水分・栄養管理
- リハビリ、日常生活動作の訓練
- 医療的なケア(傷や褥瘡〔床ずれ〕の処置、点滴や医療機器等の管理など)
- 薬の飲み方と管理
- 療養生活、看護・介護方法に関する相談・助言
- 家族の悩みの相談
- かかりつけの医師との連絡と調整
介護予防訪問看護も訪問看護と同じく、国が設定した介護報酬の単位数に応じて発生します。仕組みは基本報酬と加算(オプション)に分かれています。基本報酬の単位数はサービス提供時間によって決定します。
また、訪問看護ステーションが提供する場合と、病院又は診療所が提供する場合では料金が異なるので注意しましょう。具体的な料金は以下の通りです。
訪問看護ステーションの場合 | 病院・診療所の場合 | |
20分未満 | 303単位/回 | 256単位/回 |
30分未満 | 451単位/回 | 382単位/回 |
30分以上1時間未満 | 794単位/回 | 553単位/回 |
1時間以上1時間30分未満 | 1,090単位/回 | 814単位/回 |
理学療法士等による訪問の場合 | 284単位/回 | 理学療法士等による訪問なし |
上記の単位数に、事業所が所在する市区町村ごとの地域加算という上乗せ率をかけ合わせた金額が介護報酬額となります。利用者は、自身の所得に応じた自己負担割合に応じて、1割から3割のいずれかの自己負担を支払います。
自己負担1割の利用者が、地域加算の上乗せがない地域で1時間の介護予防訪問看護のサービスを利用した場合は、794円/回の自己負担が発生します。
介護予防訪問看護は要支援の利用者を対象にしたサービスです。要介護認定者を対象にした訪問看護との違いについて、2つのポイントから具体的に解説します。
介護予防訪問看護と訪問看護、最も大きな違いは対象者の違いです。すでにお伝えしている通り、介護認定の区分によって介護予防訪問看護か訪問看護に分かれます。
対象者が異なることでサービス提供の目的も異なります。介護予防訪問看護は自立支援と悪化の防止など、予防を強く意識したサービスとなります。それに対して、訪問看護は常時介護が必要な状態の方も多く、医療的ケア・処置・疼痛緩和・在宅看取りなどの、より多様な看護が求められる場合が多いです。
介護予防訪問看護と訪問看護の違い、ひとつめの提供する目的の違いと対象者を解説しました。
介護予防訪問看護と訪問看護の違い、ふたつ目は単位数の違いです。
もともと、介護予防訪問看護と訪問看護の基本報酬は同じでした。ただ、2018年の介護報酬改定で、介護予防訪問看護と訪問看護のサービス提供内容に差があることから、基本報酬に一定の差を設けることとなりました。そのため、介護予防訪問看護の基本報酬は訪問看護よりも低く設定されています。訪問看護ステーションを例に、単位数の違いを表にして紹介します。
介護予防訪問看護 | 訪問看護 | |
対象者 | 要支援認定者 | 要介護認定者 |
20分未満 | 303単位/回 | 314単位/回 |
30分未満 | 451単位/回 | 471単位/回 |
30分以上1時間未満 | 794単位/回 | 823単位/回 |
1時間以上1時間30分未満 | 1,090単位/回 | 1,125単位/回 |
理学療法士等による訪問の場合 | 284単位/回 | 294単位/回 |
上記の表のように、訪問看護の基本報酬は介護予防訪問看護よりも高くなっています。また、加算に関しても介護予防訪問看護と訪問看護は異なります。要介護の利用者には算定できる加算でも、要支援の利用者には算定できない加算があります。
具体的に、以下の加算は訪問看護のみ対象となり、介護予防訪問看護では算定することができません。
- 看護・介護職員連携強化加算
- 看護体制強化加算(Ⅰ・Ⅱ)
- ターミナルケア加算
※看護体制強化加算は介護予防訪問看護では1種類のみ
このように、介護予防訪問看護と訪問看護では制度上、単位数や加算の項目が異なります。算定できると見込んでいた加算が、要支援だったために対象外になる場合もありますので注意しましょう。
介護予防訪問看護に関するよくある質問に回答します。
訪問看護のサービス利用回数に制限はありません。これは、介護予防訪問看護も同じです。医療保険の訪問看護であれば原則週3回までという回数制限がありますが、介護保険制度では回数制限なく訪問看護を利用することができます。
ただし、介護保険の支給限度額を超過すると、超過分は全額自己負担となります。
例えば、要支援1の方の場合は5,032単位/月が支給限度額となります。30分以上1時間未満の介護予防訪問看護は794単位/回(加算分を除く)なので、月に6回までしか介護予防訪問看護を利用できません。限度額の制限があるため、地域包括支援センター職員または担当ケアマネジャーと利用頻度についてよく相談し、計画を立てる必要があります。
リハビリ職員がおこなう訪問看護の回数に制限があります。
訪問看護ステーションでは訪問看護師以外にも、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士というリハビリ専門職員を配置することができます。ただ、あくまで訪問看護を中心としたサービス事業所であり、リハビリステーション化しないためにもリハビリ職員の訪問回数や算定単位数に制限が設定されています。
介護保険制度上のルールで、訪問介護など他の訪問系サービスにも適用されます。介護予防訪問看護も同様に、2時間ルールが適用されます。
緊急訪問やイレギュラーな訪問が発生するケースの多い訪問看護。訪問時間の管理には注意が必要です。
介護予防訪問看護に関するよくある質問に回答しました。制限やルールは必ず確認し、適切なサービス提供を意識することが必要です。
介護予防訪問看護は、自立支援を目的に、要支援の方を対象にご自宅を訪問して看護を提供するサービスです。要介護の方を対象とした訪問看護とは、目的・対象者や料金などの違いがあります。制度上の細かい制限などもあり、サービス提供に関しては事前に十分把握しておくことが必要です。
今後もニーズは確実に増え続ける介護予防訪問看護。ルールを守り、利用者の自立支援につながるサービスを提供していけるといいですね。