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【専門家が回答】認知症の方がお風呂に入らないときの対応方法は?

2024-10-21

野田 晃司

著者

作業療法士

野田 晃司

専門学校を卒業後にリハビリテーション病院の回復期病棟に勤務。その後、複数の介護事業所を運営する会社に入社。2箇所のデイサービス立ち上げを経験後、会社役員兼デイサービス管理者として約8年間従事。デイサービスのSNS発信が注目され、テレビや新聞などのメディアから取材を受ける。その経験をもとに多方面で講演会やセミナーの講師として活動中。Webライターとしても活動し、数多くの記事を執筆している。

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認知症の方で、お風呂に入りたがらない方もいます。しかし、お風呂に入らなければ健康状態に悪い影響を与えるため、入浴を拒否する認知症の方でもスムーズにお風呂に入ってもらう方法について知りたい方も多いのではないでしょうか。

この記事では、10年以上介護の現場で働いてきた筆者が、認知症の方がお風呂に入らないときの対応方法について詳しく解説します。

事例:なぜお風呂に入らないのかわかりません

70代男性のAさんは、数年前に認知症の診断を受けました。Aさんは、認知症を抱えながらも、介護サービスや家族の支援を受けながら1人暮らしを続けています。

日常生活は問題なく過ごせているのですが、自宅での入浴ができていないという問題を抱えていました。家族が入浴の声かけをしても入浴を拒否しており、あまりにも頻繁に声かけをすると本人がご立腹して、余計に拒否してしまいます。

認知症になる前までは、1人でも入浴できていたのに、理由もわからず突然入浴してくれなくなったAさん。家族は、どう対処すればいいのかわからなくなっていました。

回答:無理やりお風呂に入れるのは逆効果

認知症の方がお風呂に入りたがらない場合、無理やりお風呂に入れようとするのは逆効果です。

嫌がっている方を無理にお風呂に入れた場合、そのときの出来事を忘れてしまったとしても「無理やり嫌なことをされた」という感情は残ります。そのため、お風呂が嫌な場所としてインプットされ、さらにお風呂を拒否するようになるでしょう。

実際に、介護の現場でも入浴を拒否される方はいらっしゃいます。そうした方の声を聞くと、過去に銭湯に行った際に嫌なことを言われた、自宅で家族に無理やりお風呂に入れられた、などの体験について語ってくれることもあります。そうした過去の体験が、トラウマとして心の中に残り、お風呂を拒否することに繋がるのです。

お風呂を拒否する方に入浴してもらいたい場合は、無理に誘導するのではなく、相手の感情に配慮しながらお風呂へ誘導することが大切です。

なぜ認知症の方はお風呂に入らないのか?

認知症の方がお風呂に入りたがらない理由は、ひとつではありません。まずは、入りたくない理由を知らなければ、お風呂へ誘導する対策も立てられないでしょう。ここでは、認知症の方がお風呂を拒否する原因について解説します。

お風呂に入る必要性を理解していない

お風呂に入るのを拒否する方は、お風呂に入ったあとの気持ちよさや、お風呂に入るメリットがわからなくなっている場合もあります。

お風呂に入るメリットがわからなくなった方は、お風呂に行く必要性を感じないため、入浴を拒否する可能性が高いでしょう。

裸を見られたくない

認知症によって1人で入浴動作ができなくなると、誰かに入浴を手伝ってもらわなければいけません。

しかし、いくら家族だとしても裸を見られることに抵抗がある人もいます。ましてや、施設となると、他人に裸を見せなければいけません。他人に裸を見られることが嫌で、入浴を拒否する場合もあるでしょう。

手伝ってもらうのが嫌

認知症の方で、自分の認知機能が低下していることを受容できていない方もいます。自分の症状を自覚できていなければ、周囲の人に手伝ってもらう必要性を感じるのもありません。

手伝ってもらう必要性を感じていない方は、手伝ってもらうことを拒否してしまうでしょう。特に、入浴の手伝いとなると、拒否されやすい傾向があります。

お風呂がめんどくさい

お風呂に入りたがらない方の中には、単純にお風呂が嫌いな人もいます。認知症になる前からお風呂が嫌いだった方の場合は、お風呂を拒否する可能性が高いでしょう。

特に、認知症になると感情を理性でコントロールするのが難しくなります。認知症になる前は、「お風呂が嫌いだけど、健康のために入らなければいけない」という理性が働いて入浴できていた人も、認知症によって自分の感情をコントロールできなくなり、お風呂に入らなくなる場合もあります。

お風呂に嫌な思い出がある

過去にお風呂で体験した出来事がトラウマになってしまい、お風呂を拒否する方もいます。例えば、過去にお風呂で転倒して大怪我をした、無理やりお風呂に入れられて嫌な気持ちになった、などの過去の記憶が強く残っていると入浴拒否に繋がってしまうのです。

そのような記憶がある方に対しては、どうすれば安心して入浴してもらえるか考えると対策を立てやすくなるでしょう。

お風呂に入らない3つのリスク

認知症の方がお風呂に入らない場合、健康に悪影響を与えるリスクもあるため注意しましょう。ここでは、お風呂に入らないことで発生する3つのリスクについて説明します。

皮膚疾患や感染症のリスクが高まる

認知症の方がお風呂に入らない場合は、皮膚の状態が悪化して、皮膚疾患などの病気を発症しやすくなるため注意が必要です。

また、皮膚を清潔な状態に保っていないことで、ウイルスや細菌が体内に入りやすくなるため、感染症のリスクも高まります。認知症の方の健康を維持するためにも、日常的な入浴は必要です。

免疫力が低下する

入浴は、血流を促し、身体の代謝を促進して免疫力を高める効果があります。特に、高齢者の場合は、代謝機能が衰えて免疫力が徐々に低下していきます。

認知症の方が日常的に入浴できていない場合、体の免疫力が低下して、さまざまな病気を発症するリスクが高まるでしょう。

身体の変化に気付けない

お風呂は、単純に体を清潔に保つだけの場ではありません。1日の中で唯一、裸になるタイミングなので、全身状態を把握できるよい機会でもあります。

入浴中は、普段は衣服に隠れている部分が確認できるため、日常生活では気付けない身体の異常に気付きやすいタイミングです。私が介護施設で働いている際にも、入浴時にケアをしていたスタッフが利用者の体の異常に気付き、症状が悪化する前に対処できたことが何度もあります。

認知症の方が入浴する機会が減ると、全身状態を確認できる機会も減ってしまうため、身体の異常に気づくのが遅れる可能性もあります。

認知症の方がお風呂に入らないときの対策法

認知症の方がお風呂に入らない場合は、まず相手の考えや感情を理解して、対処方法を考えることが大切です。また、どうしても自宅でお風呂に入れない場合は、介護サービスを利用するのもひとつの手段です。ここでは、認知症の方がお風呂に入らない場合の対策法について解説します。

本人の話をしっかりと聞く

認知症の方が入浴を拒否している場合は、まず嫌がっている理由を聞くことが必要です。ただし、聞いてもすぐに答えてくれない場合もあります。すぐに答えてくれなかったとしても、根気強く、時間をかけてお風呂が嫌な理由を聞くとよいでしょう。

本人の気持ちや感情が理解できてくると、介護者が気付かなかったところに原因がある場合もあります。まずは、本人が何を問題と捉えているのか知りましょう。入浴にうまく誘導するためのヒントが得られます。

お風呂の必要性を説明する

認知症の方と話をする際には、相手の主張を聞くだけでなく、こちらの意見を聞いてもらうことも大切です。認知症の方が持っている「お風呂に入りたくない」という気持ちに共感しつつも、入浴する重要性について丁寧に説明しましょう。説明する際には、強制するような言動や説得する姿勢にならないことが重要です。

時間や環境を変えてみる

認知症の方へ入浴の必要性を伝えても納得してもらえなかった場合は、お風呂に誘導するタイミングや環境を変えることも一つの手段です。人によっては、夜に誘導すると入らないけど、昼間なら入ってくれる場合もあります。また、お風呂へ誘導する役割の人を変えてみるのも一つの手段です。

介護サービスを利用する

家族だけで入浴支援ができない場合は、介護サービスを利用する方法も検討しましょう。介護サービスのスタッフは、これまで多くの方へ入浴支援をしてきた経験とスキルがあります。

介護サービスを利用したからといっても、必ずお風呂に入れるようになる確証はありませんが、問題解決の糸口が見つかる可能性は高いでしょう。

入浴支援をしている介護サービス

お風呂に入らない認知症の方を支援できる介護サービスは複数あります。ここでは、代表的な4つの介護サービスをご紹介します。

訪問介護

訪問介護サービスでは、入浴支援も提供しています。訪問介護における入浴支援は、介護福祉士やホームヘルパーが利用者の自宅を訪問し、安全かつ快適に入浴できるようにサポートするサービスです。具体的には、以下の支援をおこないます。

  • 入浴前の準備や浴槽への移動
  • 洗体や洗髪の補助
  • 入浴後の体拭き
  • 着替えの手伝い

訪問介護による入浴支援は、自宅のお風呂を利用して支援をおこなうため、利用できるのは自宅の浴室環境で入浴できる人に限られます。

デイサービス

デイサービスで入浴支援を受けることもできます。基本的な支援内容は、訪問入浴と同じです。一般的なデイサービスの浴室は、バリアフリー設計や手すり、滑りにくい床材など、安全に配慮した設備が整っています。ただし、デイサービスによっては、入浴支援を提供していない施設もあるため注意しましょう。

ショートステイ

ショートステイを利用する際に、入浴支援まで実施してもらうことも可能です。ただし、ショートステイは、泊まりで利用しなければいけない施設なので、本人が宿泊することを拒否する場合は利用できません。ショートステイを利用する方は、入浴支援まで依頼できないか相談してみてもよいでしょう。

訪問入浴介護

訪問入浴介護は、自宅に訪問して入浴支援をおこなう介護サービスですが、自宅の浴室を使って入浴支援をおこなう訪問介護とはサービス内容が異なります。

訪問入浴介護では、サービス提供事業者が専用の浴槽を使用して入浴支援をおこないます。さらに、専門の支援スタッフが2〜3人で介助にあたるのも特徴です。自宅の浴室を使用しない点が、訪問介護の入浴支援と異なります。訪問入浴介護では、専用の設備と複数の入浴介助スタッフで支援できるため、比較的介護度の大きな方が対象になる介護サービスです。

お風呂に入らない理由を理解するのが第一歩

認知症の方がお風呂に入らない場合、まずはお風呂に入りたがらない理由を知ることが大切です。なぜなら、お風呂に入りたくない理由と全く違う対策を実施しても、認知症の方に動いてもらうことはできないからです。

相手の気持ちを考えずに入浴を強制した場合、逆に強く拒否されてしまう可能性もあります。まずは、相手の主張を聞いて、入浴の必要性について説明しましょう。

もし、家族が工夫してみてもうまく入浴へ誘導できない場合は、介護サービスを利用するのもひとつの手段です。

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