認知症は、進行するにつれて記憶障害や判断力の低下など、日常生活を過ごすにあたって、さまざまな支障をきたします。
こうした問題を軽減し、認知症の方が安全かつ快適に過ごせるようサポートするために、さまざまな便利グッズが開発されています。
便利グッズは、利用者本人の生活の質を向上させるだけでなく、介護する家族や介護者の負担を大きく軽減してくれる点でも大きなメリットがあります。この記事では、認知症の方やその介護者に役立つ、11個の便利グッズを厳選して紹介します。ぜひ最後まで読んでいただき、それぞれの特徴を理解し、日常生活の改善に役立ててください。
目次
今回紹介する日常生活で役立つ認知症便利グッズは以下の通りです。
認知症の症状の中でも、早い段階から出現するのが記憶障害です。この記憶障がいが進行すると、自分の体験した出来事や、過去の記憶が抜け落ちてしまうだけでなく、時間の経過とともに症状が進行してしまうのが特徴です。
記憶障がいが気になる利用者には、以下のような認知症対策グッズがおすすめです。
認知症の有無に関係なく、高齢者の多くは薬を飲んでいますが、その約半数が薬を飲み忘れた経験があるという発表があります。
このように、複数の薬を服用することで、飲み間違いなどのように、薬が関わる問題につながる状態をポリファーマシーといい、場合によっては、意識障害・低血糖・ふらつき・転倒などを引き起こすことから、最近では大きな問題となっています。その中でも、意識障害や低血糖は命に関わる症状でもあるため、特に注意が必要です。
認知症でない高齢者でも多くの飲み忘れがあるため、認知症によって記憶障がいがある場合は、投薬の問題はより大きくなります。このような問題から、薬剤師による薬の飲み忘れや飲みにくさを軽減する工夫として以下のような内容をおこなっています。
- 服薬数の減少
- 服薬方法の簡易化
- 介護者が管理しやすい服用法
- 剤形の工夫
- 一包化調剤の指示
- 服薬カレンダー、薬ケースの利用
上記の工夫とともに、「自動薬箱」を使用すれば、投薬の問題は大きく軽減できるはずです。
自動薬箱は、決めた時間に薬が自動で出てくる・服薬のタイミングを光と音声で知らせるなどの機能が搭載されています。このことにより、利用者の飲み忘れを防止するだけでなく、スマホやパソコンで服薬情報を確認できるため、家族などの介護者にとっても、飲み忘れがないか把握できます。
認知症の方は、昔の記憶より、さっき尋ねた内容をすぐに忘れてしまうため、日付・時間などを何度も繰り返して聞いてしまう傾向です。そのような場合は、アラーム付きデジタル時計が有効です。
まず、時計の種類はデジタル時計を選びましょう。アナログ時計の場合は、時間を読めない場合もあるため、大きな数字が書いてあるデジタル時計を選ぶことが重要です。
また、アラーム付きを選ぶことで、薬や食事の時間になれば音で利用者に知らせることができます。
認知症の利用者は、脳が病気の影響で変わることによって、すり足での歩き方になったり、認知力が低下して、小さな段差や物につまずきやすくなるため転倒しやすくなります。
この転倒や転落による事故の予防には、転倒センサーの使用が有効であるといわれています。この転倒センサーを利用すれば、徘徊や転倒のリスクを軽減でき、介助者の精神的負担も軽減できるはずです。
高齢者は視力が減退したり、色彩や形状を判断する能力が低下するため、暗い場所で歩行などの動作をおこなうことは転倒・転落などにつながり非常に危険です。
そのため、高齢者にとっては照明は非常に重要ですが、認知症が進行すると、電気の付け方や消し方を忘れてしまう場合があります。
そんな時は自動照明システムを導入しましょう。自動照明システムは、人の動きを検知して、自動的に照明が付く機能が搭載されているため、電気の付け方や消し方を忘れてしまっても問題ありません。また、夜中にトイレへ行くための廊下などにも、自動照明システムを付けることで、夜中に転倒する危険性を下げることができるはずです。
着替えるという動作は、複雑で細かい動作が組み合わされているため、利用者や家族にとっても時間や負担がかかります。しかし、利用者の中には、認知症が進行していく中でも、できる限り自分ができることはやりたいと思っている利用者も多いはず。
そんな場合は、以下のような簡単着脱の衣類を利用すれば、着替える動作も迷わずできるはずです。
- 伸縮性のある生地
- 大きめサイズ
- 脇から袖が広いデザインのもの
- マジックテープや大き目のボタンを使用しているもの
服装を選ぶことは、自分はこう見られたいなどの自己表現になるため、できる限り、利用者自身で選ぶようにしましょう。
認知症を予防するには、頭を使う習慣や脳トレが効果的です。頭を使うことで脳の血流が良くなり、認知機能の低下を予防できる可能性があります。また、頭を使うだけでなく、適度に運動をおこない、足腰を鍛えることが重要なこともわかっています。これらも踏まえて、今回は利用者が実践できる認知症の予防グッズを紹介します。
最近では、認知症の予防目的として、多くのアプリが登場しています。例えば、パズル・まちがい探しなどを頭を使うことができたり、歩きたい目標歩数を表示して、実際に歩いた歩数をカウントできる機能が搭載されているアプリもあります。
スマートフォンでアプリを見ると、画面が小さくて見にくいなどの問題があるため、タブレット端末や、テレビに画面を映し出すことで大きな画面で使用できます。
アプリの使用は、利用者自身がおこなう内容になるため、時間がたつと飽きてしまう場合もあるかもしれません。そんな場合は、ホワイトボードを使用すれば、集団で楽しく認知症を予防できるだけでなく、用意するものも、ホワイトボードと専用のペンだけです。
穴埋め計算・漢字分解クイズなどのゲームは、座ったままでできるだけでなく、参加者同士がコミュニケーションを取り合えるので、自然と笑顔が増えるはずです。
近年では、認知症に対してドールセラピーが有効な可能性があるといわれています。ドールセラピーとは、ぬいぐるみや人形を使用して、会話をおこなうことです。
最近では、会話ができるぬいぐるみが登場しています。高齢者になるとコミュニケーションをとる頻度が少なくなってしまいます。しかし、会話ができるぬいぐるみを使用することで、寂しさの解消や、会話することによる脳の活性化が期待できます。
認知症は利用者だけでなく、以下のように家族への対策グッズも多く存在します。
認知症老人徘徊感知機器は、認知症の利用者が屋外に出てしまうことを防ぐ目的で、センサーを利用して感知し家族などに知らせるものです。この認知症老人徘徊感知機器は、以下のようにさまざまな種類があります。
- ドアや玄関を通過したときに、赤外線などのセンサーで通知
- 床面の重量センサーによって、ベッドから離れた時に通知
- 認知症老人徘徊感知器を身につけた利用者がセンサーの近くを通ると通知
認知症老人徘徊感知器を使用すれば、徘徊をしそうな予兆を知らせることができるため、徘徊をして行方が分からなくなるということを未然に防ぐことができます。
警察庁生活安全局人身安全・少年課が発表した、「令和5年における行方不明者の状況」で、認知症に係る行方不明者数は、1万9,039人で統計をとり始めた平成24年以降で最多となりました。
認知症老人徘徊感知機器を利用すれば、ある程度の徘徊を事前に止められますが、実際に外に出てしまった場合は、認知症老人徘徊感知機器では対応できません。また、認知症が軽度な利用者に対して、外出を禁止すると社会的な交流がなくなるため、より認知症が進行する危険性があります。
そんな場合は、GPSタイプのグッズがおすすめです。GPS機能が搭載されていれば、家族は利用者が外にいても所在に困ることはありません。GPS機能が搭載されているものといえば、スマートフォンなどがありますが、利用者が必ず持参して外に出かけるとは言い切れないはずです。
そのため、最近ではGPS付きの靴が発売されています。いつも履いてる靴のかかと部分に、小型GPS端末を装着できるように特殊加工技術を用いて加工するだけのため、利用者にとってもいつも履いている靴を変える必要もありません。
徘徊の状況を把握するために、ドアセンサーが利用される場合もあります。認知症老人徘徊感知機器でも徘徊の状況を把握できますが、赤外線などのセンサーの場合は利用者の動きに反応するので、ドアや窓の近くを人が通るだけで反応する可能性があります。
そのため、玄関・勝手口・部屋のドア・窓からの出入りの段階を把握したい場合は、ドアセンサーを付けることで、状況を把握できるはずです。
認知症の症状は複雑で多岐にわたりますが、以下の中核症状と周辺症状にわけられます。
中核症状とは、脳の一部分の損傷がきっかけに、脳の機能が低下することで直接的に現れる症状のことです。なお、認知症の主な中核症状は、以下の通りです。
- 記憶障害:数分前の出来事を覚えておく短期記憶が低下
- 見当識障害:時間、場所、対人関係などを把握する能力が低下
- 実行機能障害:計画を立てて、効率的にこなす能力が低下
- 理解・判断力の障害:物事を早く適切に理解して、判断することが難しくなる
一方、周辺症状とは、本人の行動や心理状態でおこる症状のことで、中核症状を原因として2次的に起こるといわれています。認知症の主な周辺症状は、以下の通りです。
- 行動障がい:徘徊、失禁、暴力、暴言
- 精神症状:幻覚、妄想、作話
- 感情障がい:抑うつ、不安、幻覚、妄想、睡眠障がい
- 意欲の障がい:意欲低下、意欲亢進
認知症の中核症状は、すべての利用者で病期を通じてみられるだけでなく、症状は徐々に進行して、現時点では改善させることは難しいといわれています。
一方で、周辺症状は、一部の利用者にみられる場合はありますが、出現する症状や重症度はさまざまです。そのため、中核症状の認知症状は改善が困難ですが、周辺症状は適切な対応をおこなえば軽減できるといわれているため、家族を含めた介護者は、周辺症状をしっかりと理解することが重要です。
周辺症状の対応が不十分になると、
というような悪循環に陥ってしまいます。そのため、利用者には今回の便利グッズを活用して、適度に刺激を入れるなどの適切な対応を心がけましょう。
今回紹介した認知症のグッズの中で、認知症老人徘徊感知機器は、要介護2以上であれば介護保険の適用となりレンタル可能です。
また、要支援1・2、要介護1の利用者でも下記の条件に該当する場合は、レンタル可能な場合があります。
- 意思の伝達、介護者への反応、記憶・理解のいずれかに支障がある者
- 移動において全介助を必要としない者
上記の条件に該当しており、市町村が医師の所見・ケアマネジメントの判断などを確認のうえ、必要と判断した場合には、レンタルが可能になります。
最近では、介護保険は適用外でも、各市区町村において、行方不明時の早期発見を目的に、身元確認につながるキーホルダーやカードケースを無料で配布したり、有料にはなりますが、安い金額でGPS端末を利用した探索機器などをレンタルしている市区町村もあります。
これらのサービスは、それぞれの市区町村で異なるため、気になる方は一度ご確認ください。
認知症は、以下のような原因で発症するといわれています。
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
認知症はこれらが原因で発症するのがほとんどです。
病気になると認知症が一気に進む危険性がありますが、病気以外でも以下が原因となり一気に認知症が進む場合があります。
- 脳への刺激が不足している
- 急に日常の環境が変化した
- 普段から強いストレスがかかっている
- 失敗をしたら怒られるという経験
認知症を発症すると、完治させることは難しいですが、周囲のサポートによって一気に進行するのを防ぎ、症状の悪化を遅らせることは可能です。そのためには、以下の内容を普段から意識しましょう。
- 日常の生活習慣を見直す
- 普段から定期的に運動をおこなう
- さまざまな人と交流を図る
- 補聴器を活用する
これらの取り組みを日常生活に取り入れて、認知症の緩やかな進行を目指しましょう。
今後、国内における高齢化率は年々高くなり、2030年には65歳以上の高齢者割合が30%を超える予想です。そのため、2070年には現役世代1.3人で、65歳以上1人を支えるという比率になると見込まれています。
認知症は高齢になるほど、発症する確率が高くなるため、認知症の利用者は増加する一方で、それを支える人は少なくなるため、今後は今まで以上に認知症の利用者との関わる頻度が高くなるはずです。
認知症便利グッズは、利用者の生活を支援する上で非常に有効ですが、記憶障がいが進行している方には、服薬管理や時間確認をサポートするツール、徘徊や転倒のリスクがある方には、転倒センサーやGPS付きのアイテムなど、選ぶ際には利用者の症状に合わせることが重要です。
また、認知症便利グッズは、介護者の負担軽減にもつながるアイテムも多く、日常の負担を少しでも軽減できるものを選ぶことも重要です。適切なグッズを選ぶことは、利用者の自立や安全を守り、介護の質を高めるための鍵となるため慎重に選びましょう。