訪問介護、通所介護などお役立ち情報・書式が満載

  1. HOME
  2. その他
  3. 【専門家が回答】認知症ケアで大切なことは?基本の考え方と対応方法を解説

【専門家が回答】認知症ケアで大切なことは?基本の考え方と対応方法を解説

2024-09-18

野田 晃司

著者

作業療法士

野田 晃司

専門学校を卒業後にリハビリテーション病院の回復期病棟に勤務。その後、複数の介護事業所を運営する会社に入社。2箇所のデイサービス立ち上げを経験後、会社役員兼デイサービス管理者として約8年間従事。デイサービスのSNS発信が注目され、テレビや新聞などのメディアから取材を受ける。その経験をもとに多方面で講演会やセミナーの講師として活動中。Webライターとしても活動し、数多くの記事を執筆している。

詳細プロフィール

続きを読む

認知症ケアに関する基礎知識を学びたい場合、インターネットやSNS、書籍などで簡単に情報を入手できます。しかし、インターネットなどで手に入る情報だけでは、認知症の方が安心できるケアを提供できません。この問題を解決するためには、実際に認知症ケアを実践する専門家の視点を理解することが大切です。

この記事では、実際に介護の現場に長年携わってきた筆者が、認知症ケアにおいて基本となる考え方と、具体的な対応方法について詳しく解説します。認知症ケアで悩んでいる方や、これから認知症ケアを始める方は、ぜひご一読ください。

認知症ケアでは個性を尊重することが大切

世間には、認知症ケアに関する知識を学べるコンテンツが溢れていますが、実は認知症ケアでは病気に関する知識以上に相手のことを深く理解することが重要です。例えば、認知症の方が「誰かに物を盗られた」と言っていた場合、認知症特有の「もの盗られ妄想だ」と一言で片付けていては、よりよいケアに繋げることはできません。

なぜ「盗られた」と思ったのか、今どんな感情になっているのか、誰に対して何を訴えようとしているのか、などを細かく分析します。この分析過程の中で、今の状況が発生している原因が明確になり、解決法が見えてくるのです。

認知症というフィルターを通して見るのではなく、1人の人間として何を訴えようとしているのか考えて対応することで、よりよいケアができます。認知症のフィルターを通さずに、1人の人間として尊重し、相手の立場に立っておこなうケアの考え方が「パーソン・センタード・ケア」です。認知症に関する基礎知識を身につけることは大切ですが、認知症という病気を見るのではなく、1人の人間として尊重する姿勢も忘れないようにしましょう。

認知症ケアで大切な5つのこと

認知症ケアにおいて、相手のペースを乱さないことは大切です。また、相手のプライドや尊厳を尊重した声掛けや対応を心がけましょう。ここでは、認知症ケアで大切なことについて詳しく解説します。

相手のペースに合わせる

認知症の症状が進行するにつれて、徐々に日常生活の中で「できないこと」が増えていきます。

これに対して、症状が悪化する前の状態を知っている家族は「わざとゆっくりしているのではないか」「家族に甘えているのではないか」と感じてしまうこともあります。もし、周囲の人から「もっと頑張って」「もっと急いで」などの声かけがあった場合、本人を精神的に追い詰めてしまう可能性もあります。できるだけ本人のペースに合わせて介助するように心がけましょう。

失敗も受け入れる

認知症が進行する中で、同居する家族が予測できないような失敗をすることも増えてきます。しかし、失敗することがあったとしても、周囲の人は本人を責めないように注意しましょう。

失敗したことに対してショックを受けているのは認知症の方も同様です。周囲から責められると、精神的に追い詰めてしまう可能性もあります。同居する家族は、認知症の方が生活の中で問題を起こしても冷静に対処するように心がけるだけでなく、失敗することも想定したうえで事前に生活環境を整えることも大切です。

相手を尊重する

認知症によって、1番ショックを受けているのは本人です。仮に、認知症になったことで、周囲の人が態度を変えると、さらに自信を失ってしまう場合もあります。

例えば、認知症になったからといって、散歩や旅行などの外出の機会を減らしてしまうご家族も多いでしょう。本人の安全を確保するために仕方ない場合もありますが、できる限り病気になる前の生活を続けられるように工夫することが大切です。認知症になったからといって「何もできない」と決めつけ、行動を制限すると、逆に認知症の症状を早める結果になりかねません。

認知症になったとしても、できる限り本人への態度は変えずに、相手を尊重して接するように心がけましょう。

わかりやすく伝える

認知症になると、理解力も低下します。そのため、2文以上の内容を早口で話すと、こちらの話が伝わりにくくなります。介護者は、認知症の方が理解しやすいように、短い文章で区切って、大きな声でゆっくりと話すことが大切です。

介護者との会話が円滑でおこなえなくなることで、コミュニケーションの回数が減少することにも繋がります。コミュニケーションの機会が減ると認知機能の低下を招く可能性もあるため、できる限り会話の機会を持つように心がけましょう。

急な環境の変化を避ける

認知症の方は、急な環境の変化に対処できないこともあるため注意が必要です。例えば、シャンプーのボトルが変わっただけで、シャンプーがどこにあるのかわからなくなる場合もあります。認知症の方でも安心して生活できるように、できる限り急な環境変化が起きないように配慮して生活しましょう。

注目される認知症ケア「ユマニチュード」とは?

ユマニチュードとは、フランスで生まれた実践的な認知症ケア手法です。ユマニチュードでは、4つの柱と5つのステップを軸にケアを実施していきます。ここでは、認知症ケアの一つの事例としてユマニチュードをご紹介します。

ユマニチュードの「4つの柱」

ユマニチュードには、4つの柱と呼ばれる以下の4つの技術が大切だとされています。

  • 見る技術
  • 話す技術
  • 触れる技術
  • 立つ技術

見る技術とは、単に相手を観察するだけでなく、言葉や態度の裏に隠れた感情や想いを汲みとる技術のことを指しています。

話す技術とは、相手との関係性を良好に保つために発する言葉を工夫するスキルです。介助者が発する言葉を間違えると、相手からの信頼を失ってしまう可能性もあるため注意しましょう。

触れる技術では、相手を安心させるための触れ方を大切にしています。介助する際には、ただ体に触れるだけでなく、触れ方の工夫によって信頼感を得ることも可能です。

人間は直立する動物なので、立つことでさまざまな生理機能が十分に働くようになっています。1日合計20分以上の立つ時間を確保して立つ能力を保持することが大切です。

ユマニチュードの「5つのステップ」

ユマニチュードでは、一連のケアを以下の5つのステップで実施します。

  1. 出会いの準備
  2. ケアの準備
  3. 知覚の連結
  4. 感情の固定
  5. 再会の約束

知覚の連結とは、直接的な介護のことです。すぐに介護を始める一般的な介護手法と異なり、認知症の方が安心できる環境を整えて、信頼関係を築けるように配慮することがユマニチュードの特徴です。

ユマニチュードの効果

ユマニチュードでは、穏やかなコミュニケーションをおこなうことで、認知症の方との信頼関係を築け、ポジティブな感情を抱きやすくなると考えられています。

また、自分でできることを自力でおこなうことによる身体機能の維持効果も、ユマニチュードに期待される効果のひとつです。ただし、ユマニチュードだけが正解だと思わずに、認知症の方の個性に合わせて柔軟にケアの手法を変えることも意識しておきましょう。

認知症ケアの実践方法

認知症ケアでは、症状に応じたケアや体調管理のほかにリハビリテーションをおこなうことも大切です。ここでは、実践的な認知症ケアの方法について詳しく解説します。

体調管理

認知症高齢者にかかわらず、介護において日々の体調管理は重要です。体調管理をこまめにおこなっておくことで、少しの体調変化を発見して早めに対処できます。特に、認知症の方の体調を確認する際には、バイタルサインなどの身体的な体調管理だけでなく、日常生活での変化なども確認することが大切です。

例えば、食事の回数が減った、攻撃的な発言が増えたなど。認知機能の低下が日々の生活の変化として現れる可能性があります。認知症ケアでは、身体的な体調確認と合わせて、日常生活上での変化も見逃さないように注意しましょう。

スキンシップ

認知症ケアにおいて、スキンシップは重要です。認知症の方は、精神的に不安定になりやすい傾向があります。精神的に落ち着かせるためには、言葉によるフォローだけでなく、手を握るなどのスキンシップをとる機会を持つことも大切です。

スキンシップによって肌と触れ合う機会を持つことでストレスが緩和される効果が期待できます。しかし、相手が嫌がるようなスキンシップの方法は避けなければいけません。

自然にスキンシップをとる方法として、レクリエーションがおすすめです。レクリエーションでは、周囲の人と自然に交流できるため、特に施設で認知症ケアをおこなう際には積極的に取り入れていきましょう。

リハビリテーション

リハビリテーションと聞くと、身体機能が低下した方に対する訓練をイメージする方も多いでしょう。しかし、認知症に対するリハビリテーションの方法もあります。

病院や施設の作業療法士や言語聴覚士がおこなうリハビリテーションは、認知症に対しても有効です。作業療法士や言語聴覚士と関わる機会がある場合は、リハビリテーションの方法について相談するとよいでしょう。また、体を動かすことは、脳の活性化にも繋がります。自宅で介護をしている場合、毎日体操や散歩をする習慣を取り入れるのもおすすめです。

環境設定

認知症は進行性の病気ですが、できないことが増えていったとしても、生活環境を工夫することで自立した生活を続けられる可能性があります。

例えば、必要な物の位置がわかりやすいように収納場所に名前シールを貼るなどの対策が考えられます。できる限り本人がリラックスできて、安全に過ごせるように環境を作っていきましょう。

認知症ケアで大切なことは相手を尊重する気持ち

社会には、認知症ケアに関する知識を学べる方法は数多くあります。インターネットや本などを活用すれば、誰でも認知症に関する基礎知識は身につけられるでしょう。

しかし、実際に認知症高齢者のケアをおこなう際には、教科書通りの知識で解決できない問題が発生します。そのような問題を解決するためには、認知症というフィルターを通して見るだけではなく、1人の人間として関わる視点も大切です。常に相手のことを尊重する気持ちを持って、言葉や行動の奥にある感情を理解することを意識しましょう。

カテゴリ・タグ