排泄介助は、利用者と介助者の両者にとって、心身ともに負担の大きい介護サービスです。
正しい排泄介助をおこなえないことで、利用者とのトラブルに発展したり、トイレ内での事故が増えたりなどの問題に繋がる可能性があるため注意が必要です。この記事では、介護施設でおこなう排泄動作の正しい方法と注意点について詳しく解説します。
目次
排泄介助では、自力で排泄動作をおこなえない方に対して、プライバシーに配慮しながら、安全かつ清潔な環境で排泄を促すように介助をおこないます。
排泄動作は、複数の動作が複合的におこなわれているため、各動作のどこに問題があるのか考慮して介助することも大切です。例えば、トイレへの誘導や排泄姿勢の保持などの動作に対して、どこまで介助すべきか判断を求められます。また、できれば他人に見られたくない生活動作でもあるため、利用者の尊厳を尊重し、心身ともに安らげるケアを心がけることが大切です。
排泄介助は、トイレ内での動作ばかりを考えがちですが、トイレにいく前後の声かけや、利用者への配慮なども重要です。ここでは、排泄介助の具体的な手順について詳しく解説します。
自力で移動できない方や、尿意や便意が曖昧な方の場合は、介助者がタイミングを見てトイレへ誘導する必要があります。トイレ誘導の声かけをする際には、利用者の尊厳に配慮して誘導しましょう。
例えば、周囲にわかるほど大きな声でトイレにいくように促したり、本人の都合を無視して無理やり誘導したりなど利用者が不快に思うトイレ誘導の方法は、できる限り避ける必要があります。
トイレへの移動後、自力で下衣を下ろせない方に対しては、下衣の脱衣に介助が必要です。ただし、脱衣の際には、動作のすべてを手伝うのではなく、自分でできる部分は本人におこなってもらうことも大切です。
例えば、ベルトを外してチャックを下ろすところまでは介助者がおこない、その後の引き下げ動作は本人にやってもらう場合もあるでしょう。トイレで下衣の上げ下ろしをする際には、プライバシーに配慮することも大切です。例えば、下衣の着脱の際にトイレのドアが開いていないか確認する、一言声をかけてから介助するなどの配慮が求められます。
便座へ安全に移乗できない方の場合、便座に座る動作も介助する必要があります。
便座は椅子と違って座面が狭いため、座位が安定しづらい特徴があります。普段の座位が安定している方でも、便座での座位が安定しているとは限りません。便座に座っていただいた後も、安定して座れていることを確認してからその場を離れましょう。
排尿や排便をする際には、特に利用者のプライバシーに配慮しながら介助しましょう。
自分が排泄している姿は、できれば他人に見られたくないものです。もし、便座での座位が安定している方で、認知機能面にも問題がない方であれば、トイレの外で待つなどの配慮も必要です。排泄中の体調変化にも注意が必要です。排泄中に急激に血圧が低下し、体調を崩す方もいます。介助中は利用者の表情などを確認して、体調の変化にも注意しておきましょう。
排泄が終わると、陰部や臀部の拭き上げ動作と、下衣の着衣動作が必要です。自分でおこなえる動作は本人におこなってもらい、介助が必要な際には利用者が不快な思いをしないように配慮しましょう。
また、拭き上げが不十分だと、衛生面での問題から感染症などの原因にも繋がるため注意が必要です。
排泄介助を終えた後の声かけも重要です。例えば、利用者の中には、排泄介助をしてもらったことで「申し訳ない、自分が情けない」といったネガティブな感情を持つ利用者もいます。利用者がネガティブな気持ちになっている様子であれば、利用者の心理面にも配慮した声かけが必要です。
また、何も声かけをせずにその場を立ち去った場合、利用者が「丁寧に対応してもらえなかった」と不満を持つ可能性もあるため注意しましょう。
排泄介助では、自分の見られたくない部分を他人に見せなければいけません。利用者のメンタル面に大きく影響を及ぼすため、介助時の声掛けなどには注意しましょう。ここでは、排泄介助の注意点について詳しく解説します。
排泄介助の際には、過介助にならないように注意しましょう。過介助になることで、利用者の心身機能が低下しやすくなります。
利用者の心身機能を維持・向上させるためにも、自力でできる動作はできる限り自分でおこなっていただき、できない動作だけを手伝いましょう。
一方で、利用者の中には「なぜ手伝ってくれないのか?」という不満を持つ方もいます。排泄介助を実施する前に、利用者の能力を評価して、どこまで介助するのか利用者と事前に話し合っておくことも大切です。
多くの方は、排泄動作を他人に見られたくないと思っています。そういった気持ちに対して、どう声かけをして、どう介助すべきか考えながら支援しましょう。
また、利用者1人ひとりの価値観は異なります。全員に同じ介助方法で対応するのではなく、利用者と会話しながら、本人が1番安心して排泄できる環境を理解したうえで介助することも大切です。
トイレは、急なトラブルが発生しやすい場所でもあります。トラブルが発生した際には、冷静に対処しましょう。
例えば、排便時に血圧が急激に低下する可能性もあります。血圧低下によって意識レベルが低下した際には、便座からの落下による骨折や頭部外傷などの事故リスクに注意が必要です。急なトラブルが発生した際には、冷静に対処しつつ、看護師や医師からの指示に従って対応しましょう。
排泄介助は、利用者の能力に応じて4種類の介助方法に分けられます。介助にあたる職員は、利用者の状況を判断して、臨機応変に対応することが大切です。ここでは、利用者の能力に応じた4種類の排泄介助について詳しく解説します。
トイレまで移動して自力で排泄できる方は、通常のトイレでの排泄介助が必要です。トイレまで移動する、ズボンを下ろす、といった細かい動作が複合的に求められるため、どの動作にどれだけ介助が必要か的確に判断する必要があります。
自力でトイレまで移動できない方は、ベッドサイドなどにポータブルトイレを設置して排泄します。その際には、ポータブルトイレでの排泄介助が必要です。特に独居の場合は、ポータブルトイレでの排泄動作に加え、排泄物処理などの介助も考慮しておく必要があります。
ベッド上から起き上がれない方は、尿器などを利用してベッド上で排泄をする場合もあります。自力で器具を使えない場合は、介助者が介助する場合もあるでしょう。また、自分で使えるように、使い方を指導することもあります。
さらに、独居状態の利用者の場合、尿器に溜まった尿を捨てるといった動作が求められる可能性もあります。排尿後の処理なども考慮して介助することが大切です。
尿意や便意が曖昧な方の場合は、おむつを利用する場合もあります。おむつを使用する利用者は、自力でおむつを交換できない方である可能性が高いため、ほぼ全介助でおむつ交換をおこなう必要があります。
おむつ交換が必要な方に対しても、プライバシーに配慮することが大切です。交換する際には、周囲からの視線を遮る、利用者さんが安心できるように声かけをしながら介助するといった配慮を心がけましょう。
排泄介助では、利用者のプライバシーや尊厳を守りつつ、自力でできる動作は自分でおこなっていただくことが大切です。
排泄動作は、できれば他人に見せたくない生活動作です。排泄介助に入る職員は、利用者の羞恥心にも配慮して、人としての尊厳を保持できるように丁寧な対応が求められます。また、利用者が自力でできる動作は、できる限り本人におこなっていただくことで、心身機能の低下を防げます。
排泄介助をおこなう際には、トイレの中での動作を介助して終わりでなく、トイレに誘導する際の声かけから、自室に戻るまでの一連の流れを考えて介助しましょう。