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【専門家が回答】入浴介助における留意点とは?介助の手順と事前準備などのマニュアルも解説

2024-09-04

野田 晃司

著者

作業療法士

野田 晃司

専門学校を卒業後にリハビリテーション病院の回復期病棟に勤務。その後、複数の介護事業所を運営する会社に入社。2箇所のデイサービス立ち上げを経験後、会社役員兼デイサービス管理者として約8年間従事。デイサービスのSNS発信が注目され、テレビや新聞などのメディアから取材を受ける。その経験をもとに多方面で講演会やセミナーの講師として活動中。Webライターとしても活動し、数多くの記事を執筆している。

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入浴動作には、さまざまなリスクが潜んでいます。そのため、介護施設が提供するケアの中でも、特に入浴介助中の事故に注意しなければいけません。しかし、入浴介助の方法や手順は施設ごとに異なるため、入浴介助マニュアルの作成に苦労している施設管理者も多いのではないでしょうか。

本記事では、入浴介助における留意点について詳しく解説します。また、一般的な入浴介助の手順や準備すべきものなども紹介しているため、この記事の内容はマニュアル作成にも役立ちます。

入浴介助時の留意点

入浴介助の際には、体を洗う順番や利用者の体調変化、転倒や皮膚剥離などに注意しましょう。ここでは、入浴介助時の留意点について解説します。

体に負担をかけない順番で体を洗う

洗体介助をおこなう際には、洗う順番に注意しましょう。まず、心臓から離れた場所からお湯をかけて、徐々に体の中心に向けて洗っていくのが基本的な順番です。特に、冬場の場合は、急に心臓付近にお湯をかけることでヒートショックを起こす可能性もあります。まずは、足元からお湯をかけてお湯の温度に慣れて頂きます。その後、下半身から上半身、頭髪という順番で洗いましょう。

ただし、細かい順番については、利用者によって臨機応変に対応することも大切です。利用者のこだわりなどもあるため、本人と話し合いながら介助するとよいでしょう。

入浴中の体調の変化に気を付ける

浴室内は、湿度と室温が非常に高くなっています。そのため、体への負担も大きくなり、急激に体調が悪化する可能性があります。場合によっては、命に関わるような事態に陥ることもあるため注意が必要です。

入浴中は、常に利用者の表情や全身状態を確認しつつ、少しでも体調の変化が生じた際には、無理せずに入浴を中断することも大切です。客観的に状況を判断して、冷静に対処しましょう。

浴室内の転倒に注意する

浴室の床や壁は、常に濡れて滑りやすくなっており、その上を裸足で移動しなければいけません。靴を履いて移動している施設内と環境が大きく異なるため、浴室では転倒リスクが高くなります。

施設内での移動が自立レベルの方でも、浴室内ではちょっとしたトラブルで転倒する可能性があります。入浴介助時は、どんな方でも常に転倒する可能性があることを考えながら介助しましょう。

浴室内の皮膚剥離にも要注意

高齢者は皮膚が薄いため、少しの刺激で皮膚剥離を起こしやすい傾向があります。さらに、浴室内では全身の皮膚が露出している状態であり、湿気によって皮膚が柔らかくなっていることから、浴室内にある備品や壁にあるちょっとした凹凸でけがをするおそれがあります。

特に皮膚に弱い利用者には、スタッフがマンツーマンで対応することも大切です。また、浴室内の備品や壁などの環境をチェックして、危険な場所の修繕や尖った備品の撤去などの対策をしておきましょう。

片麻痺の入浴介助では麻痺側の上下肢に注意

片麻痺の方は、麻痺側の感覚が鈍くなっていることが想定されます。そのため、麻痺側上下肢に特に注意して介助しましょう。例えば、火傷を避けるため健側からお湯をかける、移動時に麻痺側上肢をぶつけないようにするなどの配慮が必要です。

機械浴介助やストレッチャー浴介助では周囲の環境に注意

自力で移動できない方や寝たきりの方は、機械浴やストレッチャー浴をおこないます。その場合、通常の入浴介助と環境が異なる点に注意しましょう。例えば、ストレッチャーの柵による皮膚剥離や機械浴の操作間違いによるけがなどに注意が必要です。

特に注意しなければいけない事故は転落です。機械浴をおこなう方は、介助量の大きな方が多いため、移乗時には体全体を支える必要があります。さらに、入浴中は利用者の体も介助者の体も濡れているため、通常時よりもさらに負担が大きくなります。利用者を移乗させる際には、転落事故を起こさないように補助具などを使いつつ、安全に入浴していただくことを第一に考えましょう。

入浴をおこなう3つの目的は?

利用者にとって、入浴支援は重要です。入浴をおこなう目的は、感染症予防や血行の促進、皮膚の保湿などです。ここでは、入浴をおこなう目的について詳しく解説します。

感染症などの予防

入浴することで、感染症を予防します。感染症予防として、手を洗うなどの対策を実施している方も多いですが、細菌の感染経路は手や口だけではありません。

特に、免疫力の低下している高齢者の場合は、尿路感染症などにも注意が必要です。入浴によって全身を清潔な状態に保つことで、感染症などを予防する効果が期待できます。

血行の促進

暖かいお湯に浸かることで、筋肉の弛緩と血管の拡張を促し、全身の血行が促進します。特に、高齢者になると、筋力が衰えて運動量も低下していくことから、全身の血行が悪化する方も多いでしょう。血行の悪化によって代謝機能が低下した場合、それらが病気の原因となる可能性もあるため注意しなければいけません。

入浴によって全身の血行を促進し、代謝機能を高めることは、免疫機能の強化にも繋がります。

皮膚の保湿

皮膚が乾燥することで、皮膚のバリア機能が低下し、皮膚疾患を起こしやすくなります。特に、高齢者の場合は、汗や皮脂の分泌量減少によって、皮膚が乾燥しやすくなるため注意が必要です。

また、乾燥した皮膚は柔軟性を失ってしまうため、ちょっとした刺激でひび割れなどの外傷を起こします。皮膚疾患や皮膚の外傷を防ぐためにも、定期的な入浴によって皮膚を保湿し、皮膚のバリア機能や柔軟性を保つことが重要です。

入浴介助の手順

入浴介助の手順については、利用者の家や各施設の環境や人員配置の状況、利用者の能力によって異なる部分も多いでしょう。しかし、一般的な入浴介助の流れとして、多くの方に共通している方法もあります。一般的な入浴介助の手順を把握しておくことで、スムーズに入浴介助をおこなえるでしょう。ここでは、一般的な入浴介助の手順について解説します。

1. 準備

入浴介助を始める前に、入浴へ向けた準備をおこないます。浴室は、特に転倒事故が起こりやすい場所です。床面が泡立っていて滑りやすくなっていないか、脱衣所の床が濡れていないかなどのポイントに注意して、利用者が安全に移動できるように環境を整えましょう。

また、浴室や脱衣所全体を温めておくことも重要です。特に冬場に注意しなければいけないのはヒートショックです。ヒートショックとは、室温の急激な変化によって心筋梗塞などを引き起こす現象のことです。

具体的には、事前にお湯を出して浴室を温める、利用者が来る前に暖房を起動させて、脱衣所を温めておくなどの準備を進めておくとよいでしょう。

2. 入浴開始

入浴は、非常に体力を使います。浴室内は湿度が高く、体温も上がるため、入浴中に体調不良を起こす場合もあります。体調が万全の状態で入浴を実施し、異常時にはすぐに対処できるように準備しておきましょう。

また、プライバシーへの配慮も重要です。介助される利用者に対する声かけは丁寧におこない、必ず同意を得てから入浴介助をおこないます。

利用者の自立支援のため、過介助になっていないか意識することも大切です。利用者の能力に応じて、できる動作は自分でおこなってもらい、できない部分を手伝うようにしましょう。

3. 入浴終了

入浴が終了したら、タオルで全身の水気を拭き取り、脱衣所で着替えます。

タオルで拭き取る動作や着衣動作に関しても、過介助にならないように意識することが大切です。また、浴室内では汗をかいているため、必ず入浴後には水分補給を促しましょう。水分補給後には、血圧等のバイタルチェックと体調確認をおこない、異常がなければ入浴介助が終了します。

4. 後片付け

入浴介助が終了したら、浴室や脱衣所の後片付けをおこないます。浴室環境が悪い場合、転倒事故や感染症の蔓延などに繋がる可能性もあります。浴室を使用した後は、念入りに後片付けをおこないましょう。片付けの方法としては、浴室用の洗浄剤を使って浴槽や床を洗います。また、使用した物品を整理整頓しておくことも大切です。

特に注意すべきは、浴室に残った水気です。浴室の床などに水滴が残っていると、レジオネラ菌など有害な細菌が繁殖してしまうリスクがあります。可能な限り浴室内の水気を取って、細菌の繁殖を防ぎましょう。

入浴介助者の準備

入浴介助において、事前準備は重要です。事前準備ができていることで、安全でスムーズな入浴介助ができます。ここでは、介助者がおこなうべき事前準備について解説します。

服装

入浴時には、入浴介助に適した服装を準備しましょう。快適に介助できるだけでなく、感染症対策まで考えた服装を選ぶことが大切です。理想的な服装は以下の通りです。

  • 耐水性のエプロン
  • Tシャツ
  • サンダル
  • 半ズボン
  • 手袋

浴室では、介助者が利用者と直接触れる機会が多いので、感染症などのリスクが高まります。特に、浴室のマットなどを介して広がりやすいのが白癬菌です。介助者がサンダルを履いて移動することで感染の拡大を抑止します。

道具

入浴介助前には、入浴時に使う備品をチェックしておきましょう。特に確認しておくべき備品は以下の通りです。

  • バスタオル
  • 着替え
  • ボディソープやシャンプー
  • スポンジやボディタオル
  • 保湿剤や塗布薬

事前に準備できていない場合、入浴介助中に備品を取りに行かなければいけません。その間、利用者を1人にしてしまう事も想定され、非常に危険です。後から取りに行く必要がないように、できる限り事前に備品を準備しておきましょう。

浴室環境

入浴介助へ向けて浴室環境を整えておくことも大切です。具体的には、浴室暖房等で浴室全体の温度を温めておく、掃除道具などの入浴介助に不要な物品を外に出しておくなどの対策が挙げられます。

また、浴槽内での座位が安定しない方のために浴槽内台を設置するなど、利用者の能力に合わせて物品を準備しておくことも大切です。

入浴介助が大変と感じたら

入浴介助は、介護職員にとって身体的な負担が大きい業務のひとつです。入浴介助が大変だと感じた場合には、無理せず介助職員を増やしたり、リフト浴を使用したりなどの対応をすることが大切です。ここでは、入浴介助が大変だと感じた際の対応策について詳しく解説します。

施設内で入浴介助負担が大きい場合の対策

デイサービスなどで入浴介助をおこなう場合、施設によって設備に違いがある点には注意が必要です。機械浴を設置して比較的重度な方の入浴支援も受けられる施設がある一方で、最新の設備がなく、重度な方の入浴支援に対応できない施設もあります。

利用者の状態によっては、自施設の設備で対処できない場合もあるでしょう。その際には、ケアマネージャーに相談して訪問入浴介助サービスを利用する方法もあります。

訪問入浴介助サービスとは、在宅での入浴支援専門のサービスで、特殊な訪問入浴車で自宅を訪問して入浴支援をおこないます。自施設内での入浴介助が困難な場合は、外部のサービスを検討するとよいでしょう。

訪問介護で入浴介助負担が大きい場合の対策

訪問介護サービスでの入浴介助で負担が大きいと感じた場合は、無理に1人で介助せずに介護者を増やす方法も検討しましょう。

訪問介護職員が2人で入浴介助に入ることで、入浴介助の負担を軽減できます。また、ケアマネージャーや家族と相談することで、浴室にリフト浴の機械を導入できる可能性もあります。

入浴介助の負担が大きくなっているにもかかわらず、無理に入浴介助を続けると転倒事故などのリスクが高くなるため注意しましょう。無理して入浴支援を続けるのではなく、家族やケアマネージャーと相談しながら解決策を考えていくことが大切です。

入浴介助のよくある質問

入浴介助でよくあるトラブルのひとつが入浴拒否です。入浴を拒否された場合、緊急性がなければ、無理に入浴させないことも大切です。

また、入浴中は密室になるので、感染対策や虐待防止策について考えておきましょう。ここでは、入浴介助のよくある質問について詳しく解説します。

入浴を拒否する利用者へどのように対応すべきか?

入浴介助を受ける利用者は、自分の裸を他人に見せなければいけません。そのため、利用者に拒否されてしまうことも多々あります。

仮に、利用者が入浴を拒否した際には、なぜ入りたくないのか質問して、利用者の言い分をしっかりと聞きましょう。さらに、利用者の気持ちを聞いた上で、入浴の大切さについて丁寧に説明することも大切です。特に、皮膚疾患がある利用者や衛生的に問題のある利用者の場合は、入浴の重要度が高いため、できる限り早期に入浴へ誘導することを意識しましょう。

入浴介助での感染対策は?

入浴介助中は、密室の中で複数人が接触するため、非常に感染リスクが高くなります。特に、冬場の入浴介助の場合、できる限り浴室の温度を下げないために窓をあけることができません。また、利用者はマスクを着用できないため、浴室や脱衣所での感染リスクがさらに高まります。そのため、入浴介助時の感染対策を徹底することが大切です。

一般的には、時間や業務の合間で換気の時間を確保する、職員は手袋やマスクなどを付けるなどの対策が挙げられます。ただし、換気設備などの浴室環境は利用者の家や各施設で異なるため、施設ごとで臨機応変に対策を考えることが大切です。

留置カテーテルや創傷がある方の入浴対応は?

留置カテーテルや創傷がある方の入浴介助では、傷口やカテーテルの挿入部から水が入り込み、細菌感染を起こす可能性があります。そのため、医師や看護師に介助手順や注意点を確認して、指示に従うことが大切です。

一般的には、傷口を濡らさないようにシャワー浴が推奨されます。また、カテーテルを引っ張ることで傷口に刺激を与えないよう、丁寧に介助するのが大切です。ただし、利用者の状態や医師の判断によって具体的な介助方法が変わることもあります。不安なことがあれば、医師や看護師に判断を仰ぐのも意識しておきましょう。

入浴介助時の虐待防止策は?

浴室は密室になりやすく、管理者の目が届きにくい空間でもあります。そのため、浴室内で利用者に対して虐待が発生するリスクがあることも理解しておきましょう。

入浴介助時の虐待を防止するため、事前に虐待防止策を立てておくことが大切です。具体的な対策として、虐待に関する研修を定期的に開催する、複数人で介助して入浴介助の記録を残すなどが挙げられます。

まとめ:入浴介助は利用者の心と体の健康を第一に考える

入浴は、精神的、身体的によい効果が期待できます。しかし、適切に介助できなければ、逆に悪影響を及ぼす可能性もあるため注意が必要です。

特に、浴室は転倒や感染症、虐待などのトラブルが発生しやすい場所でもあります。職員全体で入浴介助の方法を確認して、利用者の安全を第一に考えながら入浴介助をおこないましょう。また、利用者が精神的に落ち着いた状態で入浴できるように、丁寧な声かけを意識しながら支援することも大切です。

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