親に老人ホームへ入って欲しいと思いつつも、本人が入所を拒否して困った経験がある方は多いのではないでしょうか。親が施設入所を拒否している方で「本人の同意がない状態でも施設に入れるのか」「どうすれば親が納得して施設に入ってくれるのか」と悩んでいる方も多いでしょう。
この記事では、老人ホームへの入所を嫌がっている親に対して、どのように対応すべきか解説します。
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令和2年に板橋区が実施した「在宅介護実態調査」によると、介護による生活への影響として最も多かった回答が「労働時間の調整」で37.8%でした。
親が介護状態になった場合、自宅にいる親の掃除や洗濯などをおこなわなければいけないため、自分が仕事をする余裕がなくなってしまいます。親が要介護状態になることなく、最期まで元気で暮らすことが1番良いのですが、そのように過ごせる方は少ないでしょう。
親の介護をするためには、自分の労働時間を削るしかありません。結果的に、家庭の収入が減少して、生活リズムが大きく変わってしまうのです。自分の親を介護したい気持ちがあったとしても、自分の生活を守るために「親を施設に入れざるを得ない」という方も多いでしょう。
親に介護施設への入所について話をした際に、すんなり受け入れてくれればよいのですが、なかには介護施設への入所を嫌がる方もいます。
もし、介護施設入所を嫌がった場合、まずは嫌がる理由を理解することが大切です。ここでは、介護施設への入所を嫌がる方のよくある理由をいくつか紹介します。
高齢者の中には、自分が親の介護をしていた頃の経験から「親の介護は子供がするもの」という価値観を持っている方もいます。
そのような方に、施設入所の話をすると「家族に見捨てられた」と思われてしまう可能性もあります。特に、過去に自分の親を介護した経験がある方ほど「自分は親のために頑張ったのに、自分は子供に世話をしてもらえないのか」と悲観的に受け取られやすいでしょう。
介護施設への入所を拒否する方の中には、自分の身体機能や認知機能に対するセルフイメージと実際の能力が合致していない方もいます。例えば、家族から見ると物忘れも増えており、歩行も不安定になっているにもかかわらず、本人は「まだ自宅で安全に生活できる」と考えている場合があります。本人としては、現在自宅で生活できているため、今後も今の生活を継続していけると考えています。
特に、自負心が強かったり、こだわりが強かったりする場合は、体力と認知機能が低下してしまっている自分を受け入れられないこともあります。このような方へ無理に入所をすすめると、お互いの主張がまとまらず、家族関係までも悪化してしまう可能性もあるため注意しましょう。
近年、明るく清潔感のある介護施設も増えてきました。しかし、高齢者の中には、介護施設に対して「暗い、自由がない」などのネガティブなイメージを強く持っており、施設入所に抵抗を感じる方もいます。そのような方の場合、最近の施設の状況を説明した上で、一緒に施設見学に行くとネガティブなイメージを払拭できる可能性もあります。
要介護状態の親を施設に入れられない場合、介護者である家族の生活が苦しくなるリスクがあります。特に近年は、共働きでなければ生活が苦しい家庭も多くなりつつあります。家族の誰かが働けないことで、経済的な余裕もなくなるでしょう。また、仮に仕事と介護の両立ができたとしても、精神的な負担が大きくなってしまうため、最悪の場合は虐待につながってしまう可能性もあります。
介護者と要介護者の両者にとって良い生活を続けるためには、無理して在宅介護を続けるのではなく、介護施設などのサポートを受けながらストレスのない生活をすることが大切です。
嫌がる親を強引に入所させても、家族の関係が悪化してしまいます。入所後に家族との良好な関係が築けていなければ、施設の中で心身ともに健康的に過ごすことはできません。
最も理想的なのは、本人と家族が納得したうえで施設に入所することです。ここでは、親が納得したうえで施設に入ってもらうための対策について解説します。
施設入所について話をする際には、家族の想いを丁寧に伝えることを心がけましょう。長年一緒に暮らしてきた家族であるほど、将来についてじっくり話し合う機会が少なくなってしまう家庭もあります。
施設に入所される方の多くは、施設に入った後の生活に対して不安を感じています。そのため、入所した後の生活も見据えて、今後について一度しっかりと話し合うことが大切です。
介護している家族は、親に対して「なぜ施設に入所してほしいのか」「入所することが親にとっても良い」ということを丁寧に伝えましょう。逆に、入所する方は「なぜ入所したくないのか?」「何を不安に感じているのか?」を話すことが大切です。話し合いの中では、親を大切に思っていることを伝えつつ、入所した後も必ず毎週会いに行くなどの約束事を決めると、親は安心して入所できます。
実際に入所する施設について、家族が良いと感じる施設と親が良いと感じる施設が異なることが多々あります。そのため、入所施設を決める際には、できる限り親と一緒に施設を見学しましょう。また、複数の施設を見学する時間は、各施設に対する親の感想を聞くだけでなく、移動中などに親が抱える想いや大切にしている価値観などの話を聞ける貴重な時間にもなります。
複数の施設を一緒に見学して、理想的な施設についてじっくりと話し合う時間を持つことで、施設入所後の生活もストレス無く過ごせます。
ずっと一緒に過ごしてきた家族だからこそ、思っていることが素直に話せない場合もあります。そのため、介護に詳しい第三者を入れて、本人と家族の両方から、心の中にある素直な想いを聞き出すことも大切です。また、介護の専門家に相談することで、家族では思いつかなかった解決策のヒントを得られる場合もあります。
介護について相談したい際には、市役所の介護保険課窓口や地域包括支援センターなどに相談するのがおすすめです。もし、担当のケアマネージャーがいるのであれば、積極的にケアマネージャーへ相談するとよいでしょう。
想定している介護施設の同敷地内にデイサービスやショートステイなどが併設されている場合、短時間の介護サービスから利用するのもおすすめです。短時間の利用から介護施設に慣れることで、施設内に顔見知りの利用者やスタッフが増えて、入所後の生活に対する不安が緩和されます。
家族としても、施設の運営方針や雰囲気を確かめられるので、急いで入所させなければいけない状況でなければ、短時間の利用から始める方法を検討してもよいでしょう。
多くの家族は、親が納得したうえで施設に入所してもらうことが理想的だと考えています。しかし、介護している家族の体調が悪化するなどの緊急事態であれば、半ば強制的に入所してもらう場合もあるでしょう。
緊急時であれば、本人の同意なく入所させることも可能ですが、その後家族が後悔しないように準備するのも大切です。ここでは、嫌がる親を施設に入所させた後に後悔しないためのポイントについて解説します。
本人の同意がなくても、介護施設へ入所することは可能です。そのため、介護をしている家族が、なんらかの理由で介護を継続できなくなった等やむを得ない緊急時の場合には、本人の納得を待たずに入所できます。
1番避けなければいけない事態は、介護をしている家族が疲弊して、家庭が崩壊してしまうことです。介護を続けられないなどの事態になった場合、速やかに市役所の窓口やケアマネージャーなどに相談して対策を立てましょう。
親の介護をしている方が、まだ余裕がある状態であれば、焦って入所させずにじっくりと家族で話し合う時間を持つのも大切です。時間をかけて対話を重ねることで、本人は家族からの愛を感じられ、施設入所に納得してくれる可能性があります。
また、介護している家族は、じっくり話し合わずに入所させることで「もっと自宅で介護できたのではないか」と後悔する場合もあります。家族が後悔しないためにも、時間的な余裕があるのであれば、何度も話し合いの場を作って本人が納得するのを待つのも大切です。
嫌がる親を施設に入れるためには、まず親が嫌がっている理由を理解することが大切です。それに対して、どうすれば親の不満や不安を払拭できるかを考えます。特に大切なのは、対話の機会を持つことです。時間的な余裕があるのであれば、何度も話し合いの場を持ち、親や家族の想いをぶつけ合って、双方が納得する結論を出しましょう。
家族間でじっくりと話し合う機会を持つことで、施設入所後も本人が心身ともに健康で過ごせるだけでなく、家族も後悔することなくストレスのない生活が送れます。
一方で、介護している家族の健康や家庭環境に大きな影響が起きているのであれば、本人の納得を待たずに緊急で入所させることも大切です。その判断をするためにも、親の施設入所について悩んだ際には、介護の専門家へ相談するのをおすすめします。