介護職員1人あたり月額6,000円の賃上げを目的に、2024年2月から介護職員処遇改善支援補助金の支給が実施されます。介護人材の確保に向けて、補助金を受給したい施設経営者も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護職員処遇改善支援補助金を受給する要件や対象金額について詳しく解説します。この記事を読むことで、受給するための手順や注意点についても把握できます。
目次
厚生労働省は、2024年2月から介護職員1人あたり月額6,000円程度の賃上げを実施するために、2023年度補正予算案に関係経費を計上しました。
今回の賃上げには、介護職員の賃金が低いことと異業種への人材流入加速が背景にあります。公益社団法人全国介護老人保健施設協会の資料によると、近年の物価上昇により介護施設の経営状況も悪化しており、介護老人保健施設の3割強、特別養護老人ホーム(従来型)の4割強が赤字経営に陥っています。こうした施設運営の実態もあり、介護職員の処遇改善は進んでいません。令和5年度の介護現場における賃上げ率は、わずか1.42%です。全業種の春闘における賃上げ率が3.69%であることを考慮すると、介護業界の賃上げは、一般企業の賃上げラッシュと乖離しているといえるでしょう。
さらに、介護職員の賃金については、処遇改善等の補助を受けても全産業の平均賃金よりも6.8万円の差があることが明らかになっています。こういった状況もあり、異業種への離職者数が増加。令和3年度から令和4年度の1年間で、介護職から異業種への離職者数は125.3%まで増加しています。後期高齢者が急増する2025年問題も近づく昨今において、賃上げ率の低さや、異業種への人材流出加速は大きな問題です。緊急で対応する必要があるため、4月の介護報酬改定を待たずに賃上げすることが決定しました。
参考:公益社団法人全国介護老人保健施設協会「介護現場における物価⾼騰および賃上げの状況」
厚生労働省の資料「令和5年度 補正予算案の主要施策集」では、介護職員処遇改善支援事業の目的として、以下のように記載しています。
【介護職員処遇改善支援事業の目的】
春闘における賃上げに対し、介護業界の賃上げが低水準であることを踏まえ、必要な介護人材を確保するため、令和6年の民間部門における春闘に向けた賃上げの議論に先んじて、介護職員の更なる処遇改善を行う。
今回の介護職員処遇改善支援事業では、介護人材の他産業への流出を防ぎ、必要な介護人材を確保することを目的にしています。また、今回の事業によって全介護職員の賃金が改善されることで、日本全体の成長と分配の好循環、持続的賃上げにつながることもその後の効果として期待されています。
介護職員処遇改善支援補助金は、対象期間や支給対象などが決められています。それらの条件を理解して柔軟に活用することで、より有効に使えるでしょう。ここでは、介護職員処遇改善支援補助金の対象期間や支給額、支給対象などについて解説します。
厚生労働省の資料「令和5年度 補正予算案の主要施策集」によると、介護職員処遇改善支援補助金は令和6年2月~5月の賃金引上げ分が対象となります。現段階での対象期間は5月までですが、同資料内に「以降も、別途賃上げ効果が継続される取組みを行う」と記載されています。
現在のベースアップ等支援加算も、最初は期間限定の介護職員処遇改善支援補助金として開始した背景があります。今回の介護職員処遇改善支援補助金も、対象期間終了後に加算として継続する可能性はあるでしょう。
厚生労働省の資料では、介護職員処遇改善支援事業の概要として、以下のように記載されています。
【施策の概要】
介護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組みを行うことを前提として、介護職員等ベースアップ等支援加算に上乗せする形で、収入を2%程度(月額平均6,000円相当)引き上げるための措置を行う。
今回の介護職員処遇改善支援補助金は、ベースアップ等支援加算に上乗せする形で受け取る補助金です。この補助金によって、介護職員1人につき月額平均6,000円相当の賃金を改善する必要があります。
今回の介護職員処遇改善支援事業による賃上げの主な対象は介護職員です。しかし、事業所の判断で、介護職員以外の処遇改善に対しても利用できます。
介護職員処遇改善支援補助金は、介護人材不足に悩む施設においてメリットがあります。介護職員の賃金を改善することで、新たな職員も採用しやすくなるでしょう。また、現在働いている職員の賃金も向上するため、離職防止にも効果的です。
介護職員処遇改善支援補助金を柔軟に活用することで、採用力の強化や離職の防止に役立てられるため、人手不足に悩む介護施設は積極的に活用するとよいでしょう。
介護職員処遇改善支援補助金を受け取るためには、申請から実績報告までの3つのステップが必要です。ここでは、介護職員処遇改善支援助成補助金を受け取るまでの流れについて詳しく解説します。
介護職員処遇改善支援補助金を受け取るためには、まず処遇改善計画書等の申請書類を提出しなければいけません。
処遇改善計画書は、ベースアップ等支援加算を算定している事業所であれば毎年提出している書類です。どの自治体でも介護職員処遇改善支援補助金を受け取るためには、処遇改善計画書の提出は必須となります。
さらに追加の書式については、各自治体によって異なる場合もあるため、詳細な情報は各自治体の窓口へお問い合わせください。
処遇改善計画書等の申請書類を提出後、書類に問題がなければ交付が決定します。交付が決定すれば、毎月のベースアップ等支援加算に所定の交付率を上乗せする形で支給されます。交付率は、各介護サービスごとに異なるため注意しましょう。
また、介護職員処遇改善支援補助金で支給された金額は、全て介護職員等の賃金改善に使わなければいけません。その他の費用に使えない点は理解しておきましょう。
賃金改善の期間が終了した後には、処遇改善実績報告書によって、介護職員等の処遇を改善した実績の報告が求められます。
この実績報告書において、要件を満たしていないことが明らかになった場合、補助金の返還を求められる可能性もあるため注意しましょう。
介護職員処遇改善支援助成金は、全ての介護施設が無条件に受け取れる補助金ではありません。ベースアップ等支援加算を算定している事業所が、期間限定で受け取れる補助金です。ここでは、介護職員処遇改善支援補助金の注意点について解説します。
介護職員処遇改善支援補助金は、ベースアップ等支援加算に上乗せする形で受け取れる補助金です。そのため、ベースアップ等支援加算を算定している事業所しか受け取れません。
ベースアップ等支援加算を算定していない事業所が介護職員処遇改善支援補助金を受け取るためには、新たにベースアップ等支援加算を算定する必要があるため注意しましょう。
介護職員処遇改善支援事業の対象期間は、令和6年5月までとされています。そのため、あくまで一時的な補助金であることは理解しておきましょう。ただし、過去に実施された介護職員処遇改善支援事業が、その後ベースアップ等支援加算となった経緯もあります。
また、厚生労働省の資料にも「以降も別途賃上げ効果が継続される取組みを行う」と記載しているので、状況によっては名前を変えて継続される可能性もゼロではありません。
介護職員処遇改善支援補助金について、支給対象者や具体的な支給金額について気になっている方も多いでしょう。ここでは、介護職員処遇改善支援補助金のよくある質問について、詳しく解説します。
介護職員処遇改善加算改善支援補助金は、常勤・非常勤を問わずに支給できます。そのため、パート職員も賃上げの対象に含まれます。
ただし、誰にどれくらい支給するかは事業所判断となるため、全ての職員が必ず受け取れると決まっているものではありません。これまで改善を実施してきた背景や、各職種ごとの配分については各事業所ごとに異なるため、今回自身が受け取れるか知りたい方は、勤務先へ問い合わせる必要があります。
介護職員処遇改善支援補助金は、介護職員の賃金を6,000円程度引き上げることを目的に実施されます。しかし、全ての介護職員の賃金を6,000円以上引き上げることを確約する制度ではありません。実際に介護職員へ支給する金額は事業所判断に任されており、改善額は「平均で6,000円程度」と決められているため、個人ごとに支給金額は異なります。
ただし、介護職員処遇改善支援助成金は全て介護職員の賃金改善に使わなければいけないお金で、事業所には報告義務があります。
厚生労働省は、2024年に予定されている介護報酬改定では、全体で1.59%のプラス改定になることを公表しています。2024年の介護報酬改定でも重要な柱として位置付けられているポイントのひとつに介護職員の処遇改善が含まれています。
さらに、処遇改善加算についても、複数ある加算を一元化して多くの施設で算定しやすくすることが検討中です。これらのことから、厚生労働省では今後も介護職員の処遇改善に力を入れる方針であることがわかります。他の業界と比較して、介護職員の処遇がよい状況ではないため、さらなる賃上げが実施される可能性は高いでしょう。
この記事では、2024年2月から始まる介護職員処遇改善支援事業について解説しました。
介護職員処遇改善支援事業とは、春闘における賃上げに対し、介護職員の賃金を引き上げ、異業種への介護人材流出を防ぐために実施する事業です。介護職員処遇改善支援事業では、ベースアップ等支援加算を算定している介護施設に対して介護職員処遇改善支援補助金を交付し、介護職員1人あたり6,000円程度の賃上げを行います。介護職員処遇改善支援補助金を受け取るためには、処遇改善計画書等の申請書類を提出し、賃金改善期間後に処遇改善実績報告書を提出しなければいけません。要件を満たさない場合は、補助金を返還しなければいけないため、実施要件には注意しましょう。
介護職員処遇改善支援補助金を受け取ることで、介護職員の採用力強化や離職防止につながります。人材不足に悩む介護施設経営者は積極的に算定するとよいでしょう。
参考資料:
公益社団法人全国介護老人保健施設協会「介護現場における物価⾼騰および賃上げの状況」
厚生労働省の資料「令和5年度 補正予算案の主要施策集」
厚生労働省「介護報酬改定について」
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告の概要」