訪問介護事業所を運営するにあたって、勤務形態一覧表は非常に重要です。しかし、実際になぜ必要なのか、もしくはどのように記載したらいいのかまで詳しく理解している方は多くいません。
ここでは、訪問介護事業所が作成すべき勤務形態一覧表についてだけでなく、実際に作成するにあたってのルールまで詳しくお伝えします。
ぜひ、最後までお読みください。
目次
利用者さんができる限り自立した日常生活を送れるように、自宅での介護をおこなう訪問介護員(ホームヘルパー)などの介護職員が在籍している事業所です。
訪問介護事業所の数は年々増加しており、厚生労働省の介護給付費等実態統計によると、訪問介護事業所数は2018年付近で一度減少傾向となったものの、2019年以降は増加傾向となり、2022年は3万5,000に迫る状況です。
訪問介護事業所の増加には下記の理由などがあります。
日本は世界の中でも高齢化が進んでいる国の1つです。2021年では、日本の人口の28.9%が65歳以上で、14.9%が75歳以上でした。
65歳以上の方は過去40年間で約4倍に増加し、2021年には約3,621万人となりましたが、この人数はさらに増加し、「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には3,677万人、2042年には3,935万人に達すると予測されています。
高齢者率が高くなると、それだけ介護サービスへのニーズも高まるため、それを見込んで訪問介護事業所を新規に開設する事業者が後を絶たない状態です。
実際、厚生労働省の「介護給付費実態統計」よると、訪問介護の年間実受給者数は、2018年度が145万6,700人、2019年度が146万1,900人、2020年度が147万7,300人、2021年度が153万200人となっており、2018年度から2021年度の4年間だけで7万人以上も増えています。
参考:厚生労働省:「令和3年度 介護給付費等実態統計の概況」
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や住宅型有料老人ホームに併設されることも指摘されています。
サ高住や住宅型有料老人ホームなどの在宅型施設の場合、入居している施設から介護サービスは受けられません。
そのため、介護職から食事・入浴・排泄などの介助を受けるためには、訪問介護などの在宅向けサービスを利用する必要があります。
そのため、同じ建物内に訪問介護事業所を併設している施設が増加しました。
実際、訪問介護事業所と同じようにサ高住、住宅型ともに年々施設数が増加しています。
参考:サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム:「サービス付き高齢者向け住宅の登録状況」
しかし、厚生労働省はこのような施設の囲い込みを止めさせるように自治体に警告し、「基準」を設けるよう指示もしました。
今後は囲い込み目的による訪問介護事業所の設立は少なくなりそうですが、国内の高齢化率などから今まで以上に必要性は高くなるはずです。
訪問介護事業所を開業するためには、下記の職種に対してそれぞれ人員基準を満たしておく必要があります。
下記の中でいずれかの資格要件を満たした従業員が、訪問介護員とサービス提供責任者として勤務した時間の総時間に対し常勤換算で計算した人数が2.5人以上であれば、人員基準を満たします。
職種 | 資格要件 | 配置基準 | 勤務形態 |
訪問介護員 | 介護福祉士 | 常勤換算で2.5人以上 (サービス提供責任者を含む) | なし |
実務者研修修了者 | |||
初任者研修修了者 | |||
旧介護職員基礎研修課程修了者 | |||
旧ホームヘルパー1級課程修了者 | |||
旧ホームヘルパー2級課程修了者 | |||
看護師・准看護師 |
下記のいずれかの資格要件を満たし、利用者さんの人数(前3ヵ月間の平均値)が40人を超えるごとに1人以上追加すれば、人員基準を満たします。
職種 | 資格要件 | 配置基準 | 勤務形態 |
サービス提供責任者 | 介護福祉士 | 1人以上 (利用者40名または端数を 増すごとに増員) | 常勤専従 (管理者または訪問介護員との兼務が可能) |
実務者研修修了者 | |||
旧介護職員基礎研修課程修了者 | |||
旧ホームヘルパー1級課程修了者 |
訪問介護事業所の責任者ですが、必要な資格要件はありません。
人員は管理の職務に従事する常勤1人いれば、人員基準を満たします。
また、職務上支障がない場合は、同一事業所内の他の職務や同一敷地内の他の事業所の職務との兼務が認められています。
職種 | 資格要件 | 配置基準 | 勤務形態 |
管理者 | なし | 1人 | 常勤専従 (サービス提供責任者または訪問介護員との兼務が可能) |
参考:厚生労働省
「従業員の実際に勤務した時間」が「その事業所で定めている常勤が勤務すべき時間数(下限は週32時間)」に達している場合は「常勤」扱いです。
例えば、勤務時間が1日8時間(週40時間)の場合、1日8時間(週40時間)勤務している職員はすべて「常勤」となり、勤務すべき時間数に満たない職員は「非常勤」扱いです。
職員が常勤・非常勤のどちらになるかは、正社員・パートなどの雇用形態は関係なく、勤務時間数が指標です。
常勤換算を算出する計算式は下記です。
「1ヵ月間の稼働時間数」÷「常勤の1ヵ月間の勤務時間数」=常勤換算人数
例えば、1ヵ月の労働時間が160時間の常勤職員が2名、月120時間労働の非常勤職員、月80時間労働の職員が1名ずついる場合の計算式は下記です。
(160+160+120+80)÷160=3.25
この場合、常勤換算数は「3.25」です。
その職種に関わっている頻度で判断します。
訪問介護事業所の勤務時間に複数の職種を担当している場合は「兼任」です。
例えば、ホームヘルパーとして訪問介護事業所で勤務している従業員が、通所介護の従業員として勤務する場合は「兼任」扱いです。
一方、訪問介護事業所の勤務時間にサービス提供責任者・管理者として「専らその職務に従事」して、それ以外の業務に従事しない場合は「専従」扱いです。
参考:会津若松市役所
ここまでの説明で分かるように、訪問事業所を運営するにはスタッフの勤務形態をしっかりと把握することが重要です。
その勤務形態を把握するために「勤務形態一覧表」が必要です。
勤務形態一覧表は、「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」と呼ばれ、介護保険法に基づく各種サービスについて、人員配置基準が満たされているかを確認するために必要なものです。
なお、「勤務形態一覧表」はこれまで、ペーパーワークの大幅減を目指す議論の中で、「煩雑」「負担になる」といった不満が多く噴出した経緯がありました。このような経緯から、厚生労働省が、令和2年3月31日、令和2年9月30日、令和3年30日に勤務形態一覧表の書式を統一すると発表しました。
なお、様式の見直しに対する基本的な考え方は下記です。
(1)ファイル形式は Excel とする。
(2)人員数の確認に関する数値は可能な限り自動計算数式を挿入する。
(3)記入内容の選択肢が限られる欄はプルダウンで選択できる形とする。
(4)各項目の記入方法を分かりやすく明示する。
参考:厚生労働省:「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」の参考様式の取扱いについて
参考:厚生労働省:「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」の参考様式の取扱いについて(その2)
参考:厚生労働省:指定居宅サービス事業所、介護保険施設、指定介護予防サービス事業所、指定地域密着型サービス事業所、指定地域密着型介護予防サービス事業所
及び指定居宅介護支援事業所の指定に関する様式例について(その2)
この後の話し合いでも、勤務形態一覧表の書式を統一することの議論は進められており、令和4年11月4日には、2024年度の介護報酬改定時においてに併せ標準様式例の使用を基本ルールとする方針など、介護分野で必要な行政文書の作成や取り扱いにまつわる負担軽減策に関する提言が取りまとめられました。
参考:厚生労働省:社会保障審議会介護保険部会 介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会取りまとめ
毎月末に予定として翌月分を作成し、翌月に人員基準を満たした配置となっているかを確認します。
また、当月末には実績として常勤換算2.5以上が満たしているかを確認します。
下記のタイミングで提出が必要です。
「運営指導」はいつ実施されるか分からないため、毎月作成されている状態を保つことが重要です。
以前まで「実地指導」という名称で行われていましたが、確認する内容によってはオンラインツールを活用して実施するケースもあることから、2022年に「運営指導」という名称に変更されました。
そんな運営指導は、都道府県などが基本的には事業所を訪問し、サービスの質の確保と保険給付の適正な運用を目的として、法令の遵守の状況などを確認することで、指定の有効期間中の6年間(市町村によっては3年間)に1回以上実施されることになっており、下記の項目について実施されます。
各利用者さんに対して適切なサービスを提供しているかをチェックされます。
規定されている人員基準・設備基準・運営基準等の運営体制を満たしているかをチェックされます。
適正に介護報酬を請求しているかをチェックされます。
上記の中で、「最低基準等運営体制指導」「報酬請求指導」に関しては、原則実地にて行われますが、現場に行かなくても確認が可能と判断された場合においてはオンラインツールを活用して実施される場合もあります。
どの介護サービスでも共通して必要な記載内容は下記の10項目です。
その他にも、各介護サービスごとによって必要な記載内容は異なるため、各サービス内容の「従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表 記入方法」を確認することが重要です。
訪問介護の勤務形態一覧表に関しては、最初に「年月欄」「サービス種別」「事業所名」を入力した後に下記の手順で行います。
NO | 職種名 |
1 | 管理者 |
2 | サービス提供責任者 |
3 | 訪問介護員 |
記号 | 区分 |
A | 常勤で専従 |
B | 常勤で兼務 |
C | 非常勤で専従 |
今回は、訪問介護事業所が作成すべき勤務形態一覧表と作成のルールについて紹介しました。
勤務形態一覧表は、訪問事業所を運営するにはスタッフの勤務形態をしっかりと把握するためのもので、特に「介護事業所の指定申請・指定更新・変更届などの申請書類」「定期的に行政から行われる運営指導」「加算などに関する届出」などの時に必要なので、普段から作成しておくことが重要です。
書式に関しては、厚生労働省が書式を統一すると発表したため、所定のフォーマットと記載例が存在しています。
このフォーマットと記載例を活用して、普段から勤務形態を管理し、より良い事業所の運営をすることが重要です。
訪問介護事業所向けに、訪問介護事業所の運営基準についてまとめました!
1)訪問介護事業所の運営基準とは
2)訪問介護事業所の運営基準
3)まとめ