令和3年度介護報酬改定により、認知症専門ケア加算の変更が行われました。特に、訪問介護で新たに算定できるようになり、認知症専門ケア加算について気になっている訪問介護サービスの経営者も多いのではないでしょうか?
この記事では、認知症専門ケア加算の取得方法と、メリットやデメリットについて解説します。この記事を読むことで、認知症専門ケア加算を取得実態や注意点について理解できます。
目次
認知症専門ケア加算とは、認知症のケアに特化したスタッフを配置する介護サービス事業所が算定できる加算です。
認知症は年々増加しており、内閣府が公表している「平成29年度版 高齢社会白書」によると、2025年には65歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています。それに伴い、介護サービス事業所における認知症ケアの需要も高まっているのです。
認知症専門ケア加算を取得する事業所のスタッフは、認知症ケアに関する専門的な研修を受けなければいけません。認知症専門ケア加算を取得する事業所が増加し、将来的に地域にある多数の介護事業所で、専門的な認知症ケアを受けられることが期待されています。
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
参考:内閣府「平成29年度版 高齢社会白書」
認知症専門ケア加算には、認知症専門ケア加算(Ⅰ)と認知症専門ケア加算(Ⅱ)の2種類があります。各加算を算定するためには、算定要件を満たさなければいけません。認知症専門ケア加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の算定要件は、以下の表をご参照ください。
認知症ケア加算の算定要件 | |
認知症専門ケア加算(Ⅰ) | ・ 認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の者が利用者の100分の50以上 ・ 認知症介護実践リーダー研修修了者を認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の者が20名未満の場合は1名以上、20名以上の場合は1に、当該対象者の数が19を超えて10又は端数を増すごとに1を加えて得た数以上配置し、専門的な認知症ケアを実施 ・ 当該事業所の従業員に対して、認知症ケアに関する留意事項の伝達又は技術的指導に係る会議を定期的に開催 |
認知症専門ケア加算(Ⅱ) | ・認知症専門ケア加算(Ⅰ)の要件を満たし、かつ、認知症介護指導者養成研修修了者を1名以上配置し、事業所全体の認知症ケアの指導等を実施 ・ 介護、看護職員ごとの認知症ケアに関する研修計画を作成し、実施又は実施を予定 |
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
認知症高齢者の日常生活自立度とは、高齢者の認知症の症状がどの程度日常生活に影響しているのかを「Ⅰ〜M」の9段階で表す指標です。また、認知症介護実践リーダー研修や認知症介護指導者養成研修とは、認知症ケアに関する専門知識を学ぶための研修で、各都道府県で定期的に開催されています。
認知症専門ケア加算の単位数は、認知症専門ケア加算(Ⅰ)と(Ⅱ)で異なります。また、取得する事業所によって、単位数の計算方法が異なるため注意しましょう。各介護事業所の単位数については下表をご参照ください。
認知症ケア加算の種類と単位数 | ||
サービス名 | 認知症専門ケア加算(Ⅰ) | 認知症専門ケア加算(Ⅱ) |
短期入所生活介護 短期入所療養介護 特定施設入居者生活介護 介護老人福祉施設 介護老人保健施設 介護療養型医療施設 介護医療院 認知症対応型共同生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 訪問介護 訪問入浴介護 | 3単位/日 | 4単位/日 |
夜間対応型訪問介護 | 夜間対応型訪問介護費(Ⅰ)を算定:3単位/日 夜間対応型訪問介護費(Ⅱ)を算定:90単位/月 | 夜間対応型訪問介護費(Ⅰ)を算定:4単位/日 夜間対応型訪問介護費(Ⅱ)を算定:120単位/月 |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 90単位/月 | 120単位/月 |
認知症専門ケア加算を取得するためには、加算の取得要件を満たしたうえで、各都道府県の窓口へ届出書類を提出しなければいけません。一般的に必要とされる提出書類は下表に記載していますが、都道府県によって対応が異なる場合もあります。詳細は各都道府県の窓口へお問い合わせください。
認知症専門ケア加算取得に必要な提出書類 |
|
令和3年度の介護報酬改定により、訪問介護における認知症専門ケア加算が新たに創設されました。加算を取得できる訪問介護サービスは、訪問介護、訪問入浴介護、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護です。
訪問介護サービスでも認知症専門ケア加算を取得できるようになったことで、在宅での支援を必要としている認知症高齢者に対して、認知症ケアを提供しやすくなりました。在宅生活を送る高齢者からのニーズはあるため、算定する事業所は増加する可能性はあります。
しかし、訪問介護で認知症専門ケア加算を取得できるようになって間もないので、厚生労働省から加算の取得状況に関する報告は出ていません。今後、厚生労働省から「訪問介護における認知症専門ケア加算の取得状況」に関する情報が出される可能性はあるでしょう。
認知症専門ケア加算を算定するためには、他の職員に対して認知症ケアに関する技術を伝達しなければいけないため、事業所に勤務するスタッフのスキルアップも期待できます。また、認知症の利用者も受け入れやすくすることで、事業所の増収も期待できるでしょう。認知症専門ケア加算を取得するメリットについて解説します。
認知症専門ケア加算を算定する場合、認知症介護実践リーダー研修等を受講するスタッフのスキルが向上するのはもちろんですが、研修に行かなかったスタッフのスキルも向上する可能性があるでしょう。
認知症専門ケア加算(Ⅰ)を算定する場合、事業所の従業員に対して「認知症ケアに関する留意事項の伝達又は技術的指導に係る会議」を定期的に開催することが算定要件に含まれています。また、認知症専門ケア加算(Ⅱ)を算定する場合、介護・看護職員ごとの「認知症ケアに関する研修計画」を作成することが算定要件となっています。つまり、認知症専門ケア加算を算定するためには、全職員が認知症ケアの専門スキルを磨かなくてはいけないのです。
認知症専門ケア加算を算定する事業所は、算定しているだけで全スタッフのスキルアップにつながります。
認知症専門ケア加算を算定していることで、認知症の高齢者が利用しやすくなり、受け入れられる利用者の幅が広がるでしょう。
認知症を抱えた高齢者の担当ケアマネージャーが、周辺の訪問介護を探す際に、認知症専門ケア加算の算定事業所を積極的に紹介する可能性があります。また、周辺の施設や近隣住民に挨拶する際にも、専門性の高い認知症ケアが提供できることをアピールしやすくなるでしょう。
利用者の幅を広げたい経営者は、積極的に認知症専門ケア加算の算定をおすすめします。
認知症専門ケア加算を取得することで、事業所の増収が期待できます。
訪問介護の場合、認知症専門ケア加算(Ⅰ)では1日3単位、認知症専門ケア加算(Ⅱ)では1日4単位が算定できます。
仮に、訪問介護を1週間に3回利用する利用者に対して、認知症専門ケア加算(Ⅱ)を算定していた場合、1ヶ月に請求できる単位数は48単位です。50名の利用者に対して算定していた場合、合計で2,400単位なので、事業所にとっては24,000円程度のプラスになります。
算定できる事業所は積極的に算定するとよいでしょう。
認知症専門ケア加算を取得する際には、デメリットにも注意しなければいけません。
認知症専門ケア加算のデメリットとして、すぐに算定できないことが挙げられます。該当する認知症ケアの研修を修了した職員が不在の場合、所定の研修を受講するところから始めなければいけません。また、加算を算定することで、利用者の自己負担額が増加することにも注意しましょう。認知症専門ケア加算を算定するデメリットについて解説します。
認知症専門ケア加算を算定するためには、認知症介護実践リーダー研修等を修了した職員が在籍している必要があります。そのため、研修を受講した職員が不在の場合、職員の誰かが研修を受講するところから始めなければいけません。
全ての事業所がすぐに算定できる加算ではないため注意しましょう。しかし、最近では一部オンラインで受講できるようになっており、研修を受講する手間は軽減されつつあります。
認知症専門ケア加算の算定によって、利用者の自己負担額が増加することにも注意しましょう。
特に、算定する前から利用していた方への説明は丁寧に行わなければいけません。利用者の中には、「これまでとサービス内容が変化していないのに、急に利用料金が上がった」と考える方もいます。利用者によっては、「利用料金が勝手に上がったから」と利用を停止する可能性もあります。
認知症専門ケア加算を算定することの意義について、各利用者に丁寧に説明しましょう。
認知症専門ケア加算を算定する際には、いくつか注意すべき点があります。特に、訪問介護で認知症専門ケア加算を取得する場合、まだ創設されて間もない点には注意しましょう。また、新たに加算を算定する際には、必ず利用者から同意を取らなければいけません。認知症専門ケア加算を算定する際の注意点について解説します。
訪問介護における認知症専門ケア加算は、令和3年の介護報酬改定で創設されたばかりです。まだ、算定している事業所が周辺に少ないことも考えられます。算定することに問題はありませんが、周囲の状況を把握しながら進める必要があるでしょう。
例えば、新しい訪問介護を探している方が複数の事業所を見比べた際に、一箇所だけ認知症専門ケア加算を算定しているとどう捉えられるかわかりません。認知症ケアを手厚くしてくれる点をポジティブに捉えてくれる可能性もありますが、他の事業所よりも利用料が高い点をマイナスに捉えられる可能性もあるでしょう。
新たに算定する場合、利用者にとってどのようなメリットがあるのか、なぜ算定しているのか、具体的に説明するとよいでしょう。
認知症専門ケア加算に限らず、新たな加算を算定する場合、必ず利用者に同意を得ましょう。利用者からの同意を得ないままサービスを提供することはできません。また、認知症専門ケア加算を算定する対象者は、認知症を患っています。自分で判断できない可能性が高いので、必ず家族への説明を行い、同意書にサインしていただきましょう。
この記事では、認知症専門ケア加算の取得方法と、メリットやデメリットについて解説しました。
認知症専門ケア加算とは、認知症のケアに特化したスタッフを配置する介護サービス事業所が算定できる加算です。認知症専門ケア加算(Ⅰ)と認知症専門ケア加算(Ⅱ)があり、それぞれ算定要件や単位数が異なります。また、認知症専門ケア加算は、訪問介護事業所で算定できるようになったばかりの加算です。そのため、厚生労働省から訪問介護における取得実態等の情報は出されていません。
認知症専門ケア加算を取得することで、認知症を抱えた利用者を受け入れやすくなり、事業所の増収が見込めます。また、定期的に認知症ケアの研修を開催する必要があるため、他スタッフのスキルアップにつながる効果も期待できます。一方で、加算を取得するためには手間がかかることや、利用者の自己負担額が増加することには注意しましょう。
訪問介護事業所向けに加算獲得サービスの一括資料ができます。
<カテゴリ>
1)特定事業所加算を知る
2)特定事業所加算を理解する
3)特定事業所加算を管理・運用する
4)運営指導(実地指導)対策
5)プロサポサービス資料
6)その他
参考資料:
厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
会津若松市「給付費算定添付書類一覧表(令和3年度介護報酬改定用)」