本記事では、【訪問介護員の人材不足】についての現状と、具体的な打開策について、事例を用いながら解説します。
結論、『賃金の引き上げ』、『業務の簡素化・効率化』、『社会的地位を向上させるようなビジョンを描くこと』が最も有効な対策になります。
目次
厚生労働省より令和2年8月19日に、令和3年の介護報酬改定をめぐる協議を重ねている審議会の中で、2019年度の訪問介護員の有効求人倍率は15.03倍にのぼったとの報告がありました。
これは、訪問介護員の求職者1名に対し、15社が手をあげて待っているという計算になります。
また、同会議では訪問介護員は高齢化も進んでいると言われており、60歳以上が39.2%を占めるに至り、70歳以上は全体の10.5%と1割を超えたと、厚生労働省が報告しました。(*)
4年前に示された同じ調査結果では、60歳以上が36.4%、70歳以上が6.6%であり、今後、歳を重ねて定年をむかえる訪問介護員が一段と増加していく見通しです。
* 2018年度の「介護労働実態調査」の結果より厚労省が集計。4年前は2015年度の同調査より集計。
この状況は全体的に人材不足が叫ばれている介護業界の中で最も深刻で、施設の職員と比較しても事態の深刻さは明らかです。
このような背景から厚労省は審議会で、ヘルパーの処遇改善、業務の効率化に向けた具体策を検討していくと説明していました。
また、現場の関係者で構成する委員からも、事態を好転させる手を早急に打つよう求める声が相次いでおり、次期改定の大きな焦点になるとみられます。
一方で、審議会の委員の中には、『処遇改善加算や特定処遇改善加算をうまく使えていないのではないか?』等、既存の制度を十分に活かしきれていないことに対する事業所に対しての厳しい意見があることも事実です。
求人広告を見ていると、時給が高く設定されている事業所、そうでない事業所が並んでいます。
この時給の差は、『特定事業所加算』『処遇改善加算』『特定処遇改善加算』を取得しているか否かです。
取得している事業所は収入が高く、その分訪問介護員に還元することが可能であり、また訪問介護員の働きやすい環境を整えながら質の高いサービスを提供することが出来ます。
この対策の課題は、『加算に関する知識が必要』ということと、『効率的に業務運用を行わなければ、管理者とサービス提供責任者の負担が増える』ということです。
9時から12時、12時から15時等、登録制という概念をなくし、『仕事がなくてもあっても時給を支払う』という方法をとられている事業所もあります。
3時間固定や、8時間固定の日給制で支払う形ですので、従来『ご利用者様が居なくなってしまうと収入がなくなる』という訪問介護員のマイナス面をカバーした対策と言えます。
この方法の課題としては、『ご利用者が居ない場合も給与支払いが発生する』ということです。
ブランクのある方や、無資格者を対象として、資格の所持が必須である訪問介護の、求人の間口を広げている事業所もあります。
この場合の課題としては、研修を実施する職員やノウハウの確保、資格取得支援のための投資が必要になります。
時給、勤務体制ではなく、『作業を減らすこと』で他社と差別化を図っている事業所もあります。
IT機器の導入等で訪問介護員の作業を簡素化し、『介護がやりたい』という根本的な訪問介護員のやりがいに目を向けた対応策です。
この場合の課題は、『導入のために投資が必要』ということですが、現在国もIT化を推奨していますので、助成金が充実している背景から、導入がしやすい状況です。
特定事業所加算、処遇・特定処遇改善加算取得・ITを用いた業務効率化をされた法人様の事例がありますので、こちらもご覧になってみてください。
◇改善実施 事例◇
公益財団法人 介護労働安定センターが実施した、平成30年度介護労働実態調査「介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書」によると、訪問介護員が望むことは以下の4つが上位を占めています。
一方で、現在の不安や不満には、以下4つが上位を占めています。
このことから、【賃金の引上げ】を行いながら【業務を簡素化・効率化】し、【社会的地位を向上】していけるような将来のビジョンを描ける事業所であることが、1番効果的であると言えます。
特定事業所加算の取得事業所は全体の4割を超え、自治体も特定事業所加算の取得を推奨するようになってきました。
もともとこの特定事業所加算は、介護の質を向上させていくことを目的とし、訪問介護業界の発展を期待されて作られています。
訪問介護の将来のため、さらに質を向上させながら安定した経営を可能にするこの加算は、令和3年の報酬改定でも引き続き取得が推奨され、特定事業所加算が区分支給限度基準額の管理対象になる可能性が出てきたことも、大きく注目していくべき点です。
安定経営のためにも、業界の発展のためにも特定事業所加算の取得、業務のシステム化は次期報酬改定のキーワードです!
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