令和8年4月、6月に予定されている障害福祉サービス等報酬改定は、多くの事業者にとって「単なる報酬改定」という言葉では片付けられない意味を持っています。
なかでも、一部サービス・加算において見込まれている報酬の引き下げは、事業運営の前提そのものを見直す必要性を突きつけるものとなっています。
これまでの障害福祉分野では、報酬改定=加算の新設や微調整という受け止め方が一般的でした。多少の上下はあっても、全体としては「大きくは変わらない」「現場努力で吸収できる範囲」と考えられてきた事業所も少なくありません。しかし、今回の改定では、明確に“評価されない運営の形”が浮き彫りにされつつあります。
令和8年4月及び6月の改定は、単なる財政調整ではなく、国が障害福祉サービスの在り方そのものを見直している転換点と位置づけることができます。
支援の「量」や「実施実績」だけでなく、運営体制、支援プロセス、記録の整合性、職員配置の考え方など、事業所としての成熟度がより厳しく問われる方向へと舵が切られています。
この加算は、「障がいのある方が一般企業に就職し、そこで長く働き続けられること」を応援するために、成果を出した事業所を評価するための加算です。
ところが、同一の利用者についてA型事業所と一般企業の間で複数回離転職を繰り返し、その都度加算を取得するという、本来の制度趣旨と異なる形で算定する事業者の報道があり、この仕組みを悪用する事業所が問題になっています。
このため、令和8年4月よりこの加算が見直されることとなりました。
見直しの内容
ⅰ就労移行支援体制加算について、一事業所で算定可能となる年間の就職者数に上限(定員数まで)を設定する。
ⅱ同一事業所だけではなく、他の事業所において過去3年間で算定実績がある利用者について、ハラスメ ントなどやむを得ない事情で退職した者など市町村長が適当と認める者を除き、算定不可であることを明確化する。
対象サービス:就労継続支援A型、就労継続支援B型、生活介護、自立訓練(機能訓練・生活訓練)
令和6年度の報酬改定において、B型事業所は「利用者に支払う工賃が高いほど、事業所に入る報酬も高くなるという仕組みになっています。平均工賃月額の算定方法が変わったことで、想定以上に「高い報酬区分(上位区分)」を取得する事業所が増えすぎたというのが現在の課題です。
これを実態に合わせ、令和8年6月に基本報酬区分の基準(ハードル)を引き上げることで適正化を図るという見直しが行われることとなりました。
見直しの内容
ⅰ平均工賃が全体で約6,000円上昇している実態を踏まえ、基準額が引き上げられます。ただし、急激な変化を避けるため、上昇幅の半分に留められます。
基準額の引き上げ幅: プラス 3,000円
(例:これまで平均工賃1万円でクリアできていた区分が、1万3千円必要になるイメージです)
ⅱ基準が厳しくなることで報酬が下がってしまう事業所が出ないよう、以下の特例が設けられます。
【対象外となるケース】(現状維持)
令和6年度改定の前後で区分が上がっていない事業所については、今回の基準引き上げの適用対象外。
※つまり、前回ランクアップしなかった事業所は、今の工賃額のままでも報酬区分は維持されます。
【緩和措置】(激変緩和)
今回の見直しで区分が下がってしまう事業所に対し、減収を抑えるための「中間的な区分」が新設。これにより、基本報酬の減少額が3%程度に収まるように調整されます。
【下位区分の据え置き】
区分7と区分8の間の基準については、引き上げを行わず据え置きとなります(令和6年度改定ですでに単価が引き下げられているため)。
これまで新規参入が急増し、かつ収支差率(利益率)が高かった特定のサービスについて、「令和8年6月1日以降に新規指定を受ける事業所」に限り、基本報酬単価を引き下げる(減額する)という新しいルールが適用されます。
現在の基本報酬単価よりマイナス1%強 ~ 3%弱 程度、加算を含めた総報酬額で見ると、マイナス1%弱 ~ 1.5% 程度の減収インパクトとなる見込みです。
ただし、重度・医療的ケアへの対応を行っている場合や、離島・中山間地域での開業、事業承継等で実質的に事業が継続されていると認められる場合は対象外となります。
※: 令和8年5月31日以前に指定を受けている事業所は対象外(従前通りの報酬)です。
対象サービス:就労継続支援B型、共同生活援助(グループホーム)(介護サービス包括型日中サービス支援型)、児童発達支援、放課後等デイサービス
告示・通知は現段階で出ていませんが、介護分野にて改定が決定しており、また障害福祉従事者処遇改善緊急支援事業補助金の支給が決定していることから、障害分野においても類似の改定が予想されます。
報酬改定に向けた大枠のスケジュールは以下の通りです。
令和8年(2026年)1〜3月頃: 告示・通知・Q&Aの順次発出
令和8年(2026年)4月1日:臨時報酬改定施行
令和8年(2026年)4月〜5月頃: 新制度に基づく誓約書などの準備
令和8年(2026年)6月1日:臨時報酬改定施行
※Q&Aは6月以降も順次発出されますので、情報に注意しましょう。
障害者における報酬は、介護報酬と比べ自由度が高く、また単価も高い傾向にありました。
昨今の報酬改定では、介護報酬と同じく持続可能な給付としていくため、様々な見直しが図られメリハリのついた制度へと転換していく改定が続いています。
介護分野では有料老人ホームでの囲い込みを制限するような報酬改定が続いており、制度の趣旨である自立支援に繋がる取り組みを評価する仕組みへと変わっています。
今後、障害分野でも同様の改定が進んでいくことが考えられ、必要以上に居宅サービスやデイサービスを使用させる「囲い込み」に対して、報酬を大幅に減らす(減算)などの厳しいルールができる可能性があり、「本当にそのサービスが必要なのか?」が厳密に問われるようになっていくことが予想されます。
改めて質の良い支援を提供していくために、研修を実施する、健康診断を職員に受けてもらい、利用者と職員の健康を維持する、顔を合わせ会議で申し送りを実施する等、当たり前と言われることをしっかりとおこなっていく事業所の運営体制を安定して維持していくことが大切です。