科学的介護推進体制加算は2021年の介護報酬改定で創設された、科学的介護に取り組む施設を評価する加算です。算定するためには、提出すべき利用者情報やデータの提出頻度などの細かい算定要件が決められており、詳しい算定要件がわからない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、科学的介護推進体制加算の算定要件について解説します。この記事を読むことで科学的介護推進体制加算を算定するメリットや注意点についてもわかるのでぜひ参考にしてください。
目次
科学的介護推進体制加算とは、LIFE(科学的介護情報システム)へのデータ提出とフィードバックの活用により、PDCAサイクルの推進とケアの質の向上を図る取り組みを評価する加算です。2021年度の介護報酬改定にて、LIFEの導入と同時に創設されました。
これまでの介護業界では、経験豊富な介護職員の意見をもとに介護サービスを提供している施設が多く、提供している介護サービスの有効性について客観的に評価できない仕組みになっていました。
介護施設で提供する介護サービスの質を底上げするために注目されているのが科学的介護です。科学的介護とは、ビッグデータによる科学的根拠に基づいて介護サービスを提供することをいいます。全国の介護施設で科学的介護を推進するために導入されたシステムがLIFEであり、LIFEの導入によって算定できる加算のひとつが科学的介護推進体制加算です。
なおLIFE(科学的介護情報システム)については、以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
LIFE(科学的介護情報システム)とは?導入手順や加算について徹底解説
2024年の介護報酬改定では、LIFEを活用した質の高い科学的介護を推進していく観点から、以下の3点について見直しがおこなわれました。それぞれ詳しく解説していきます。
2024年の介護報酬改定で見直されるポイントのひとつに、LIFEの入力項目の定義の明確化およびほかの加算と共通する項目の選択肢が統一されます。
算定要件にLIFEへのデータ提出が含まれる加算には個別機能訓練加算(Ⅱ)やADL維持等加算などがあります。データ入力が必要な項目は加算によって異なりますが、中には共通してデータ入力が必要な項目も存在します。
介護報酬改定を経て、複数の加算で重複している項目の整理・統合や、評価指標・評価方法をできるだけそろえられる見込みであるため、データ入力の負担軽減が期待できるでしょう。
従来までLIFEへのデータ提出の頻度は少なくとも6ヵ月に一回とされていましたが、2024年度の介護報酬改定にて少なくとも3ヵ月に一回に変更される見込みです。
2024年度の介護報酬改定改定によって、複数の加算のためのデータ提出をまとめておこなうことが可能になります。また、一定の条件を満たしていればデータ提出の頻度をそろえることを目的に、データ提出期限に猶予期間が与えられるようになりました。
科学的介護推進体制加算の単位数や算定要件は、サービス種別によって異なります。加算区分が分かれることがあるので、詳しく確認していきましょう。
算定要件は以下の通りです。
- 利用者ごとのADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他の利用者の心身の状況等に係る基本的な情報を、LIFEを用いて厚生労働省に提出していること
- 必要に応じて通所介護計画を見直すなど、サービスの提供に当たって、上記の情報、その他サービスを適切かつ有効に提供するために必要な情報を活用していること
介護老人保健施設・介護医療院における科学的介護推進体制加算は(Ⅰ)と(Ⅱ)に分かれます。算定要件は以下の通りです。
- 入居者ごとのADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他入居者の心身の状況等に係る基本的な情報を、LIFEを用いて厚生労働省に提出していること
- 必要に応じて施設サービス計画を見直すなど、サービスの提供にあたり上記の情報その他サービスを適切且つ有効に提供するために必要な情報を活用していること
- 入居者ごとのADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他入居者の心身の状況等に係る基本的な情報に加えて、入居者ごとの疾病状況等の情報を、LIFEを用いて厚生労働省に提出していること
- 必要に応じて施設サービス計画を見直すなど、サービスの提供にあたり上記の情報その他サービスを適切且つ有効に提供するために必要な情報を活用していること
介護老人福祉施設における科学的介護推進体制加算は(Ⅰ)と(Ⅱ)に分かれます。算定要件は以下の通りです。
- 入居者ごとのADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他入居者の心身の状況等に係る基本的な情報を、LIFEを用いて厚生労働省に提出していること
- 必要に応じて施設サービス計画を見直すなど、サービスの提供にあたり上記の情報その他サービスを適切且つ有効に提供するために必要な情報を活用していること
- 入居者ごとのADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況その他入居者の心身の状況等に係る基本的な情報に加えて、入居者ごとの疾病及び服薬の状況等の情報を、LIFEを用いて厚生労働省に提出していること
- 必要に応じて施設サービス計画を見直すなど、サービスの提供にあたり上記の情報その他サービスを適切且つ有効に提供するために必要な情報を活用していること
科学的介護推進体制加算について、データ提出の方法や緊急時の対処方法が気になる方も多いでしょう。ここでは、厚生労働省のQ&Aをもとに、科学的介護推進体制加算へのよくある質問について回答します。
やむを得ずLIFEへのデータ提出をおこなえない場合でも、科学的介護推進体制加算の算定は可能です。なお、ここでいうやむを得ない場合には、以下のような状況です。
【やむを得ない場合の例】
- 通所サービスの利用者について、情報を提出すべき月において、当該月の中旬に評価を行う予定であったが、緊急で月初に入院することとなり、当該利用者について情報の提出ができなかった場合
- データを入力したにもかかわらず、システムトラブル等により提出ができなかった場合
- 全身状態が急速に悪化した入所者について、必須項目である体重等が測定できず、一部の情報しか提出できなかった場合
上記のような状況になった場合は、仮に情報の全てを提出できなかったとしても科学的介護推進体制加算の算定が可能です。ただし、情報を提出できなかった理由については、介護記録等に明記しなければいけないため注意しましょう。
LIFEへのデータ提出を期日までに行えなかった場合、科学的介護推進体制加算は算定できません。また、科学的介護推進体制加算に限らず、LIFEへのデータ提出が要件に含まれる加算はすべて算定できなくなります。
2024年の介護報酬改定から提出頻度が増え、事業所の負担は増えてしまいましたが、確実にデータを提出できるように、業務内で常に確認しておきましょう。
LIFEへのデータ提出は、翌月の10日までにおこなう必要があります。
例えば、6月分として科学的介護推進体制加算を算定する場合、7月10日までにLIFEへのデータ提出をおこなわなければいけません。
通常、個人情報を取り扱う場合には、利用者へ同意を得る必要があります。しかし、新たにLIFEを導入してデータを提出する場合、利用者からの同意を得る必要はありません。なぜなら、データを提出するLIFEのシステム上では、匿名化した情報しか送られないからです。
そのため、加算の算定に関する同意は必要になりますが、個人情報の提出について利用者から同意を得る必要はありません。
加算の算定について同意が得られない利用者がいた場合でも、科学的介護推進体制加算を算定することは可能です。
ただし、加算を算定できる利用者は同意を得られた利用者に限定されます。同意を得られなかった利用者に対しては算定できないため注意しましょう。
この記事では、科学的介護推進体制加算の算定要件や注意事項について詳しく解説しました。
科学的介護推進体制加算とは、LIFEを導入して科学的介護に取り組む施設が算定できる加算です。科学的介護推進体制加算を算定するためには、LIFEを導入して定期的に利用者情報を提出し、フィードバックを受け取る必要があります。
科学的介護推進体制加算を算定することで、介護サービスの質や業務効率が向上し、介護人材の人材確保にもつながる効果が期待できます。一方で、新たな加算の算定で利用者負担が大きくなることや、データ提出が遅れると算定できなくなる点には注意しなければいけません。
政府は科学的介護を今後も推進していく方針です。今後も介護報酬改定にて見直しがおこなわれ対応に追われる可能性もありますが、将来的な視点をもとにいち早くLIFEを導入して、積極的に科学的介護推進体制加算を算定することをおすすめします。