この記事では、喀痰吸引の対象となる方がどのような状態かをご紹介させて頂きます。
喀痰吸引等制度は、平成24年4月に施行された制度です。
それまで痰の吸引や経管栄養は「医療行為」と整理されており、法制化されるまでは一定の条件の下に容認されていました。
ご利用者本人、またはご家族の同意があり、同意書を締結すること等をもって、実質的違法性阻却論により容認されていた喀痰吸引、経管栄養ですが、ご利用者と実施する介護職員等をより安全な環境下に置くため法制化されたものです。
この法制化により、介護福祉士及び一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下にたんの吸引等の行為を実施することができる様になりました。
痰は、ホコリや細菌が気管に付着し粘膜でくるまれ粘々とした黄色い固まりとなったものを指します。
通常健康な人であれば、咳をすることで痰は体外に排出されますが、喀痰吸引が必要になる方は『体外に排出する』といったことができません。
喀痰吸引が必要な方とは、呼吸器系疾患、筋疾患、神経変性疾患、脳機能障害などにより、嚥下や呼吸機能が正常に働かない方、痰の排泄が困難な方ということになります。
【喀痰吸引が必要な疾患例】
筋委縮性側索硬化症
パーキンソン病
脳障害
脳梗塞
脳性麻痺
気管支喘息
慢性閉塞性肺疾患
筋ジストロフィー
病状の進行度などにもよりますが、筋力が衰え咳をするのが困難な場合や、上記のような病態が原因で嚥下障害になったりする場合は、痰を吐き出すことが困難になり、気道に痰が絡むなどの状態により、正常な呼吸が出来なくなってしまいます。
気管カニューレを行っている場合は、気管支や気管カニューレ、肺に痰が溜まったりすることもあり、それが原因で肺炎の発症に至ったり、呼吸に支障を生じ、窒息に至ることもあります。
この様な命にかかわる最悪の事態を防ぐため、自分で咳をしたり痰を吐き出したり出来ない方に、痰吸引を行うことが必要となります。
喀痰吸引は、予め医師や看護師と『ご利用者がどの様な状態のときに実施するか』を定め、これに従って実施することとなります。
本人が望んだ時、唾液・痰がたまってゴロゴロしている時、呼吸時にゼーゼーしていたり、異物の音がする時など、出来るだけ具体的な症状を示して定めておきましょう。
また、以下の項目を観察し1つでも異常があれば、吸引を実施せずに医師や看護師に報告を行い、指示を仰ぐことが必要です。
いつもの状態と違い、違和感があるという表現はとても曖昧に聞こえますが、普段接している介護士の皆さんの『違和感』は、とても大切な察知力であり、そのほとんどは間違っていません。
「いつもと違う」と感じたら、実施せずに医師や看護師の判断を仰ぐようにしましょう。
●無理に押し込まない
カテーテルを鼻に入れる時に、無理やり押し込むと粘膜を傷つけ出血する恐れがあります。無理に押し込まず、角度の調整、左右の鼻の穴を変えるなどしましょう。
●喉の奥をつつかない
口からの吸引の際、喉の奥をつつくと吐き気を催しますので、注意が必要です。
●気管内の吸引に口・鼻から吸引したチューブを使用しない
気管内は無菌状態であるため、口・鼻からの吸引よりも、より清潔に吸引をする必要があります。口・鼻から吸引したチューブをそのまま気管チューブからの吸引に使用することは、不潔であり、避けなくてはなりません。
●吸引時間に注意する
吸引時間が必要以上に長いと(特に状態が不安定な方)、息ができずに危険な状態になります。無理をしないようにしましょう。
●緊急連絡先は明確にする
状態が変化した際などの緊急連絡先(訪問看護、在宅医など)を確認しておきましょう。
●清潔を保つに行い、感染予防のために下記のような注意が必要です。
①吸引の前には手をよく洗う。
②使用後の吸引カテーテル、接続管は水をしっかり通してきれいにする。
③接続管内に水が残らないにする。
引用元:独立行政法人 国立長寿医療研究センター気管切開吸引パンフレットより
この研修を実施する講師は、指導者講習を修了した医師・看護師・保健師・助産師のみが担当することができます。
報酬改定を2024年に控え、介護保険法は制度の新たな構築にむけて動きだしています。
そのような中で、今後はより介護従事者は専門性を上げていくことが求められ、身体に関するような専門的な支援は有資格者で行う事、家事等のものについては民間の無資格者が実施すること、このようなすみわけがされていく可能性が高くなってきています。