人材不足が大きな課題となる介護業界において、ICT化が加速しています。
国の積極的なICTの推進もあり、介護の現場においてもICTが浸透してきました。
介護業界では、特に業務の効率化を目的としてICTが取り入れられています。
訪問介護事業所の場合、ICTの導入はどのような変化をもたらすのでしょうか。
本記事では、訪問介護におけるICT導入の事例やメリット、ICT化において活用できる補助金制度などについて解説します。
目次
訪問介護の現場では、どのような場面でICTの活用が期待できるでしょうか。
ここでは、
・タブレットを用いた記録作業
・チャットツールによる情報共有
・勤怠管理システムの導入
・勤務シフト自動作成システムの導入
の4つの事例について見ていきましょう。
訪問介護事業所Aでは紙媒体にて訪問介護の記録を行っていましたが、タブレットを導入し、端末から記録作業を行うようにしました。
訪問先で入力した記録は職員同士で共有することができるため、申し送りの手間がなくなります。
これまでの介護記録をさかのぼって確認することも容易になり、過去のデータを参考にしてより細やかな介護サービスの提供ができるようになりました。
また、訪問介護先から事務所に戻って事務作業を行う必要もないため、訪問先からの直帰も可能となりました。
記録をデータ化したことで、各種書類の保管も必要なくなり、ペーパーレス化にもつながっています。
訪問介護事業所Bでは、情報共有のためのチャットツールを導入しました。
文面を用いて情報を共有することで、聞き逃しや勘違いが減り、より正確に情報をやり取りできるようになりました。
特にサービス責任者は職員との電話連絡に多くの時間を要しますが、チャットを活用することによって一度で複数人に連絡することができ、業務時間の効率化にもつながります。
介護従事者にとっても、訪問介護サービス中に電話をとる必要がないため、利用者のケアに集中できるようになりました。
訪問介護事業所Cでは、給与ソフトと連携可能な勤務管理システムを導入しました。
これまでのタイムカードを用いた勤怠管理では、出勤・退勤時刻のほか、時間外や休日出勤、有給休暇などを正確に計算する必要があり、勤怠集計に時間を要していました。
給与ソフトと連携している勤怠管理システムを導入したことで、勤怠集計から複雑な給与計算まで一括で行うことができるようになり、担当者の負担が大幅に削減できるようになりました。
訪問介護事業所Dでは、リーダーが作成していた勤務シフトについて、システムを用いて作成するようにしました。
リーダーはシフト作成業務から解放され、本来の介護業務や職員の育成に専念できるようになっています。
シフトの調整をシステムに一任することで、主観の入らない公平なシフトを作ることが可能になり、職員からの不満も少なくなりました。
前項にて、訪問介護におけるICT導入の事例を紹介しました。
事例を振り返ると、訪問介護にICTを導入することで得られるメリットとして、主に次の4つが挙げられます。
① 業務効率化が可能
② 介護従事者の負担削減が可能
③ 介護従事者同士の情報共有が円滑になる
④ ペーパーレス化が可能になる
順番にそれぞれ解説します。
訪問介護にICTを導入する最大のメリットが、業務の効率化が可能になるということです。
介護現場には介護記録の記入をはじめとしたさまざまな事務作業がありますが、こうした記録を手作業で行うとかなりの時間を要します。
また、訪問介護の場合、現場で紙媒体にサービス内容や利用者の状態を記録し、事務所で改めてシステムに入力するという二度手間になっているケースも少なくありません。
ICT化により、スマホやタブレットなどの端末から訪問介護の記録を入力できるようになれば、このような事務作業の時間を大幅に短縮できます。
介護記録以外にも、職員の勤怠管理もICT化によって簡素化が可能であるため、ICTの導入によって管理者も効率よく業務をこなせるようになります。
ICTの導入によって効率よく業務をまわすことができれば、介護従事者の負担削減にもつながります。
慢性的な人手不足が問題視される介護の現場において、職員一人あたりの仕事量は大きくなりがちです。
介護従事者の本来の業務は利用者と接して介護サービスを提供することですが、日々の事務作業の負担も決して小さくはありません。
ICTを導入することで、介護記録などの事務作業にかける時間が大幅に短縮できることが見込まれます。
システム上であれば記録の更新や修正も簡単になり、また訪問介護先から記録を入力できれば、事務作業のためだけに事務所に戻る必要もありません。
介護従事者の負担が小さくなることで、本来の介護サービスにより時間を割けるようになることが期待できます。
介護従事者同士での情報共有が円滑になることも、ICT導入のメリットです。
利用者のデータやケアプランなどの情報をシステム上で管理できれば、それぞれの職員が必要に応じてリアルタイムの情報を確認することができます。
口頭で伝えるよりも正確かつ迅速に情報を共有できるため、職員間での伝達漏れや情報の行き違いの心配もありません。
写真や動画などを活用すれば、視覚的に情報を共有することができるため、説明がむずかしい事項でも申し送りがスムーズになります。
実際に、厚生労働省が行った調査によると、およそ9割もの介護事業所がICT導入によって情報共有がしやすくなったと報告しています。
参考:厚生労働省
また、ICTを活用することで、介護従事者同士だけでなく、医療機関や行政、ほかの介護施設とも円滑に情報を共有できるようになります。
ICTの導入により、紙媒体の資料を電子化して保存できるようになり、ペーパーレス化も可能となります。
紙媒体の資料であれば用紙代や印刷代、さらには廃棄にかかる費用なども必要となりますが、システム上で情報を管理すればこのようなコストはかかりません。
また、膨大な資料を保管するためのスペースを確保する必要もなくなります。
さらに、データとして保存した資料にアクセス制限をかければ、情報漏洩のリスクも軽減できます。
ICT機器を導入するには、一定の費用が必要です。
かかる費用は決して小さくはないため、メリットはわかっていながらもICTの導入に踏み切れないという介護事業所も少なくありません。
厚生労働省は、こうした介護事業所を支援し、介護業界におけるICT化を促進するための取り組みを行っています。
主な取り組みである、
・IT導入補助金
・ICT導入支援事業
について確認しておきましょう。
IT導入補助金とは、業務効率化を目的としたITツールを導入する際、かかる費用の一部を国が補助する制度です。
介護事業所のみならず、全国の中小企業、小規模事業者が対象となっており、多くの企業がICT化のためにIT導入補助金を活用しています。
IT導入補助金は、通常枠、デジタル化基盤導入枠、セキュリティ対策推進枠の3つに分類され、区分ごとに補助金の上限や補助率が定められています。
区分 | 目的 | 補助対象 | 補助金額の上限 | 補助率 | |
通常枠 | A類型 | 業務効率化・売上アップをサポートする | ソフトウェア購入費、クラウド利用料(1年分)、導入関連費 | 30万円~150万円 | 1/2以内 |
B類型 | 150万円~450万円 | ||||
デジタル化基盤導入枠 | インボイス対応も見据えた企業間取引のデジタル化を推進する | ソフトウェア購入費、クラウド利用料(2年分)、導入関連費 | 5万円~50万円 | 3/4以内 | |
50万円~350万円 | 2/3以内 | ||||
セキュリティ対策推進枠 | セキュリティ対策を向上し、サイバー攻撃被害のリスクを低減する | ソフトウェア購入費、クラウド利用料(2年分)、導入関連費、ハードウェア購入費 | 100万円 | 1/2以内 |
IT導入補助金の対象となる経費は、ソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入関連費などです。
また、デジタル化基盤導入枠については、加えてハードウェア購入費も対象となります。
いずれも、補助対象となるのは、IT導入補助金事務局に登録されているITツールに限ります。
ICT導入支援事業とは、介護事業におけるICT技術の導入を支援する制度です。
介護事業所にICT技術の導入を促すことで、介護現場の負担を軽減し、介護サービスの質を向上させることを目的としています。
前述したIT導入補助金は経済産業省が管轄となり、サービスデザイン推進協議会が運営していましたが、ICT導入支援事業の管轄は厚生労働省、実施主体は都道府県となります。
各都道府県が設定する要件を満たせば、ICT導入支援事業費補助金として補助を受けることができます。
ICT導入支援事業の概要は、次の通りです。
補助対象経費 | ・介護ソフト ・タブレット端末 ・スマートフォン端末 ・インカム ・Wifiルーター ・クラウド利用料 ・他事業者からの照会経費 ・研修費 ・バックオフィスソフト 等 |
補助要件 | ・記録業務、情報共有業務、請求業務を一気通貫で行うことができる介護ソフトであること ・サービス提供事業所間における情報連携の標準仕様に準じたものであること ・科学的介護情報システム(LIFE)による情報収集に協力すること ・導入計画の作成や導入効果報告を行うこと ・ICT導入に関して他事業者からの照会等に応じること 等 |
参考:厚生労働省
ICT導入支援事業の主な対象経費となるのは、介護ソフトや情報端末、インカム、クラウド利用料といったICT機器にかかる経費です。
業務の効率化をもたらすICT化であることが求められるため、介護ソフトの仕様についても、記録、情報共有、請求の業務が一気通貫であることなどが要件となります。
また、ICT導入支援事業補助金の補助額は、基本的に補助対象経費の2分の1となりますが、事業所の規模に応じて次のように補助金額の上限が定められています。
事業所の職員数 | 補助金額の上限 |
1~10人 | 100万円 |
11~20人 | 160万円 |
21~30人 | 200万円 |
31人以上 | 260万円 |
参考:厚生労働省
補助対象や補助要件、補助率については、都道府県によって内容が異なるため、都道府県が公開する公募要項を確認するようにしてください。
なお、IT導入補助金とICT導入支援事業費補助金を併用することはできないため、注意が必要です。
訪問介護にICTを導入し、業務の効率化や職員の負担軽減が実現できれば、よりきめ細やかな介護サービスを提供することが可能になります。
新たなシステムの運用にはコストもかかりますが、メリットのほうが大きいことは間違いありません。
国の補助金制度なども活用できるため、まずは簡単な部分からでもICTの導入を検討してみてください。