訪問介護の現場で医療行為が必要な場合、介護士はどうすれば良いのか?
訪問介護では提供できる医療行為においては、細かい規定が定められています。
今回は、訪問介護で行えない医療行為と行える医療行為、研修を受ければ可能な医療行為について詳しくお伝えします。
目次
前提として、介護と医療は別物です。
よって、訪問介護において介護士が医療行為を行うことは禁じられています。
訪問介護は、介護に関する資格保持者が利用者の自宅を訪問してサービスを提供しますが、内容は「生活援助」「身体介護」「通院等乗降介助」で、利用者が自立した生活ができるようサポートするのが目的です。
医療行為は、医師・歯科医師・看護師などの資格を保持していないと行えません。
訪問介護の現場では、介護士が医療行為に値する行為を求められる場面もあります。
しかし、医療職にしか実施できない行為と、介護職でも実施できる行為について明確になっていない部分がありました。
こうした背景が考慮され、徐々に介護士が行える医療行為が増えているのが現状です。
2005年には、それまで医療行為とみなされていたいくつかの行為が「医療ケア」に変更され、介護士でも実施できるように。
参考:厚生労働省
2011年には「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等」において法改正が行われ、研修を受ければ特定行為(喀痰吸引・経管栄養)の実施も認められるようになりました。
参考:厚生労働省
医療行為を行えるのは、原則として医師のみです。
看護師や准看護師でも、全てを行えるわけではありません。
もちろん介護士も同じく、基本的に医療行為は禁じられています。
しかし、医療行為の中でも「医療ケア」は認められています。
訪問介護業務においては、介護士が医療行為を求められる場面も少なくないので、実施できない医療行為について把握しておく必要があります。
ほとんどの医療行為は禁止されていますが、研修を受けて資格を取得すれば行える行為もあるので覚えておきましょう。
訪問介護で医師や看護師が行う医療行為には以下のような項目があります。
・インシュリンの注射・管理
・喀痰吸引・経管栄養の実施・管理
・在宅酸素の管理
・人工呼吸器の管理
・血糖の測定
・床ずれの処置
・中心静脈栄養
ただし、声掛けや器具の片付けなど、上記の医療行為をサポートすることは、介護士でも可能です。
例えば、利用者がインシュリン注射を打つ際に励ましたり、血糖測定器をセットしたり。
サポートの延長で行おうとするケアが医療行為とみなされる場合もあるので、迷った時は必ず専門的な知識を持つスタッフや医師・看護師などに相談しましょう。
2011年の法改正により、研修を受ければ、訪問介護の現場において介護士でも行えるよう認められたのが「喀痰吸引」と「経管栄養」です。
それぞれについてどんな医療行為か説明します。
参考:厚生労働省
喀痰吸引とは、痰を取り除く行為です。
自力で痰を排出することが難しい場合、誤嚥性肺炎などを発症する危険がありますが、それを防ぐためには、定期的に喀痰吸引をする必要があります。
正しく行うためには定められた時間の研修を行う必要があり、資格を取得すれば現場でも行えるようになります。
ただし、資格を取得しただけで行えるのではなく、その後も申請などが必要となるので各自治体のホームページなどでチェックしてください。
経管栄養とは、食事を口から摂取できない利用者に対して、カテーテルなどを使用して直接胃腸に栄養を送り込む医療行為です。
訪問介護の現場で行えるのは、胃ろう・腸ろう・経鼻経管栄養の3種類です。
誤嚥性肺炎や逆流による嘔吐のリスクがある行為なので、利用者の様子を見ながら慎重に行う必要があります。
喀痰吸引等研修で経管栄養の研修も受講できるので、資格を取得して、各種手続きを行えば訪問介護の現場でも行えるようになります。
訪問介護において、医療関係者の仕事は、利用者の健康管理やその維持になります。
それに対して介護士の仕事は、利用者が自立した生活を行えるようになるための日常生活のサポートです。
そのために必要な医療ケアには、以下のような項目があります。
一般的な体温計を使って利用者の体温を測る行為は、日常的に介護士が行える医療ケアです。
具体的には、水銀体温計や電子体温計を使用した脇の下での測定や、耳式電子体温計を使用した外耳道での測定です。
体温は体調の変化に影響する場合もあるので、毎回体温測定をして記録しておくと変化に気付けるようになります。
血圧測定も介護士が行える医療ケアですが、行えるのは数値チェックのみで、助言に関しては禁止されています。
例えば通常より数値が高いからといって、自己判断で「いつもより血圧が高いのでお薬止めておいた方が良いのでは?」などと助言しないようにしましょう。
血圧値の条件や服薬について担当医から指示を受けている場合に限り、それに従って補助することまでは可能です。
ちなみに、アネロイド血圧計での測定は、聴診器での測定を正しく行えない介護士が行うと正しい結果を導き出せない可能性があります。
介護士が血圧測定をする場合は、装着方法や状況が適切であればいつでも同じように測定できる自動血圧計での測定の方が正確に測定できます。
パルスオキシメーターで酸素飽和度を測定する行為も、介護士が訪問介護で行える行為です。
正常値は96%以上と言われていますが、何らかの原因で酸素が取り入れられていないと数値が低くなります。
医師からの指示がない限り、数値が95%以下になった場合は医学的処置が必要とみなして医師に連絡をしましょう。
傷の処置は、常識の範疇であれば介護士が行える医療ケアです。
例えば軽い擦り傷や切り傷、やけどなど、専門的な処置が必要でなく絆創膏や包帯を使用して行うもの。
火傷の水ぶくれを破ったり、剥がれた皮膚を切ったりするのは医療行為とみなされるのでできません。
また、応急処置としてできることもあります。
大量に出血している場合は、出血部を心臓より高い位置に上げたり、範囲が広いやけどの場合は、布をかぶせてその上から冷水をかけたりしたうえで医師に連絡をします。
医薬品の使用については、条件を満たしていれば介護士でもサポートが可能です。
まずは、医師や看護職員が条件を満たしていることを確認したうえで、介護士による医薬品のサポートが可能であることを利用者本人またはその家族に伝えておく必要があります。
その上で、利用者本人またはその家族の依頼に基づいて、看護師による保健指導や薬剤師による服薬指導を忠実に守りつつ医師から処方された医薬品の使用をサポートすることが定められています。
・患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
・副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
・内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、 当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと
・皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
・皮膚への湿布の貼付
・点眼薬の点眼・
・一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
・肛門からの坐薬挿入
・鼻腔粘膜への薬剤噴霧
引用:厚生労働省
利用者の口腔内を清潔に保つため、歯ブラシや綿棒などを使用して歯や舌、口腔粘膜についている汚れを取り除くことは介護士でも行える医療ケアです。
また、市販の入れ歯洗浄剤を使用して入れ歯を清潔に保つサポートも可能。
ただし、歯磨き等の口腔ケアも入れ歯洗浄も、重度の歯周病などがない場合に限ります。
爪切りは、巻き爪や陥入爪、爪白癬でない限り、介護士が行えます。
これらの症状がある場合は、爪周りの皮膚を傷つける可能性もあり、場合によっては専門的な処置が必要になることも。
看護師やケアマネに相談して、皮膚科や整形外科の受診を促す方法もあります。
耳かきは医療行為ではないので、介護士が行えます。
ただし、100%安全とは言い切れないので、利用者の同意を得て慎重に行う必要があります。
排泄に関しても、細かい規定があります。
ストーマ装置(人工肛門)のパウチに溜まった排泄物の処理と、医療機関からの指導を受けてやり方を理解したうえで排便行為の介助を行うことは認められています。
ただし、ストーマ装置の交換(フランジや面板等の除去・貼り替え)は介護士にはできません。
排尿に関して認められているのは、カテーテルの準備や体位保持のサポートのみです。
カテーテル挿入は医療行為なので、介護士にはできません。
浣腸の挿入は認められていますが、種類に規定があります。
訪問介護での医療行為については、介護士が行える行為とそうでない行為が定められています。
違法な医療行為は重大な事故につながる可能性もあるので、介護士として訪問介護を行う際はしっかりと把握しておく必要があります。
利用者さんに寄り添った介護を行うためにも、ぜひ参考にしてみてください。