要支援の認定を受けている方は、訪問介護の対象にはなりません。
ただし、訪問介護に代わるサービスとして、介護予防・日常生活支援総合事業の訪問型サービスを利用することができます。
今回は、要支援者が対象となる介護予防・日常生活支援総合事業と訪問介護との違いや、訪問型の介護サービスの内容などについて、詳しく解説します。
目次
訪問介護は、利用者の自宅に訪問介護員(ホームヘルパー)などが訪問し、身体介護や生活援助、通院時の乗車・降車介護といった援助を行うサービスです。
この訪問介護サービスの対象者となるのは、要支援よりも介護度が高い要介護1〜5の認定を受けている人と定められています。
したがって、要支援の認定を受けている人は訪問介護の対象外となり、サービスを利用することはできません。
要支援者は訪問介護サービスを利用できませんが、介護予防・日常生活支援総合事業の対象となります。
訪問介護との違いや、サービスの具体的な内容について確認していきましょう。
介護予防・日常生活総合支援事業とは、高齢者や要支援者が要介護状態にならないように、市町村や地域で介護予防や生活支援などの総合的なサポートを行う事業のことです。
略称として、総合事業とも呼ばれます。
これまでの介護予防事業が国の制度であったのに対し、介護予防・日常生活総合支援事業は自治体が主体となってサービスを提供するのが特徴的です。
そのため、地域の実情に沿った基準や料金が設定されています。
また、利用者は介護事業所のみならず、民間企業やNPO、ボランティア団体によるサービスを利用することができます。
続いて、訪問介護と介護予防・日常生活総合支援事業の違いについて解説します。
訪問介護 | 介護予防・日常生活総合支援事業 | ||
介護予防・生活支援サービス事業 | 一般介護予防事業 | ||
対象者 | 要介護者 | 要支援者、基本チェックリスト該当者 | 65歳以上のすべての高齢者 |
目的 | 要介護者の自立支援 | 要支援者や高齢者の介護予防 | |
サービス内容 | 身体介護、生活援助、通院時の乗車・降車介助 | 訪問型サービス、通所型サービス、その他の生活支援サービス、介護予防ケアマネジメント | 機能向上教室、体操教室、サークル活動、ボランティア活動など |
訪問介護の対象者となるのは、要介護認定で要介護1〜5の認定を受けた方です。
要支援や非該当の認定を受けた方は対象外となります。
一方、介護予防・日常生活総合支援事業では、利用するサービスによって対象者が異なります。
介護予防・日常生活総合支援事業のうち、「介護予防・生活支援サービス事業」の対象者となるのは、要支援者や基本チェックリストに該当する方です。
基本チェックリストとは、65歳以上の高齢者の日常生活の様子や心身の健康状態を判断する質問リストのことを指します。
この質問により生活機能の低下がみられれば、要支援認定を受けていなくても事業の対象者となります。
介護予防・日常生活総合支援事業の「一般介護予防事業」の対象者となるのは、65歳以上のすべての高齢者です。
地域に住む方であれば、要介護者も利用することができます。
訪問介護の目的は、要介護者の自立支援にあります。
要介護者の日常生活の手助けをするだけでなく、可能な限り自宅での自立した生活を送れるようサポートすることが使命です。
一方、厚生労働省は、介護予防・日常生活支援総合事業の趣旨を次のように示しています。
総合事業は、市町村が中心となって、地域の実情に応じて、住民等の多様な主体が参画し、多様なサービスを充実することで、地域で支え合う体制づくりを推進し、要支援者等に対する効果的かつ効率的な支援等を可能とすることを目指すもの
引用:厚生労働省
介護予防サービスや社会参加を通して要支援者や高齢者を地域全体で支え、介護予防につなげていくことが、介護予防・日常生活総合支援事業の目的といえます。
訪問介護のサービス内容は、「身体介護」、「生活援助」、「通院時の乗車・降車介助」の3つに分けられます。
利用者の自立した生活をサポートするために、訪問介護員が利用者の自宅を訪問し、介助面や家事面での支援を行います。
一方、介護予防・日常生活総合支援事業のサービスは、「介護予防・生活支援サービス事業」「一般介護予防事業」の2つからなります。
介護予防・生活支援サービス事業に含まれるのが、訪問型サービス、通所型サービス、その他の生活支援サービス、介護予防ケアマネジメントの4つです。
このうち、訪問型サービスが訪問介護に該当するようなサービスとなります。
つまり、訪問型サービスは、介護予防・日常生活総合支援事業のサービスのひとつであり、それ以外にも多様な介護サービスを提供しているのが介護予防・日常生活総合支援事業であるといえます。
介護予防・日常生活支援総合事業のサービス内容については、次項で詳しく解説します。
前述したように、介護予防・日常生活支援総合事業のサービス内容は、「介護予防・生活支援サービス事業」と「一般介護予防事業」の2つに分けられます。
介護予防・生活支援サービス事業は、次の4つからなります。
サービス類型 | サービス内容 |
訪問型サービス | 居宅での日常生活の援助や専門家による指導・助言、移動支援など |
通所型サービス | 通所介護事業所による機能訓練やレクレーション、体操など |
その他の生活支援サービス | 栄養改善を目的とした配食、住民ボランティアによる見守り |
介護予防ケアマネジメント | 地域包括支援センターによる介護予防ケアプランの作成 |
4つのうち「訪問型サービス」が、訪問介護に該当するサービスです。
サービス内容としては、掃除や洗濯、調理といった日常生活の援助、ゴミ出しや電球交換といった困りごとへの支援、専門職によるリハビリや体力向上のための指導・助言、外出時の移動支援などがあります。
地域により支援内容は異なるため、自治体のホームページなどで確認するとよいでしょう。
一般介護予防事業は、65歳以上のすべての高齢者が利用できるサービスです。
体力づくり教室や介護予防教室、サークル活動など行い、介護予防に関する知識を普及するだけでなく、高齢者が地域との関わりを持つことで介護予防につなげていくことを目的としています。
介護予防・日常生活支援総合事業の訪問型サービスは、現行の訪問介護サービスに相当するものと、それ以外の多様なサービスからなります。
それぞれの違いは次の通りです。
基準 | 現行の訪問介護相当 | 多様なサービス | |||
サービス種別 | 訪問介護 | 訪問型サービスA (緩和した基準によるサービス) | 訪問型サービスB (住民主体による支援) | 訪問型サービスC (短期集中予防サービス) | 訪問型サービスD (移動支援) |
サービス内容 | 訪問介護員による身体介護、生活援助 | 生活援助等 | 住民主体の自主活動として行う生活援助等 | 保健師等による居宅での相談指導等 | 移送前後の生活支援 |
対象者とサービス提供の考え方 | 〇既にサービスを利用しているケースで、サービスの利用の継続が必要なケース 〇以下のような訪問介護員によるサービスが必要なケース (例) ・認知機能の低下により日常生活に支障がある症状・行動を伴う者 ・退院直後で状態が変化しやすく、専門的サービスが特に必要な者 等 | 〇状態等を踏まえながら、住民主体による支援等「多様なサービス」の利用を促進 | ・体力の改善に向けた支援が必要なケース ・ADL・IADLの改善に向けた支援が必要なケース
※3~6カ月の短期間で行う | 訪問型サービスBに準じる | |
実施方法 | 事業者指定 | 事業者指定/委託 | 補助(助成) | 直接実施/委託 | |
基準 | 予防給付の基準を基本 | 人員等を緩和した基準 | 個人情報の保護等の最低限の基準 | 内容に応じた独自の基準 | |
サービス提供者(例) | 訪問介護員(訪問介護事業者) | 主に雇用労働者 | ボランティア主体 | 保健・医療の専門職(市町村) |
参考:厚生労働省
訪問型サービスA~Dについて、内容をより詳しくみていきましょう。
なお、訪問型サービスA~Dのサービス内容や提供者などの基準は自治体によって異なるため、市町村の公式サイトや地域包括支援センターで確認するようにしてください。
訪問型サービスAは、現行の介護予防訪問介護の人員・設備・運営基準を緩和して実施するサービスです。
比較的軽度の要支援者や事業対象者に対し、掃除や洗濯、調理、ゴミ出しなどの生活援助を行います。
入浴介助や排せつ介助といった、利用者の身体に触れる身体介護は行いません。
サービスを提供するのは、主に雇用労働者(訪問介護員)です。
また、自治体によっては、研修を受講するなど一定の要件を満たせば、有資格者以外でもサービスの提供が可能となります。
参考:秋田市
利用料金は、国が定めた包括報酬を下回る単価となるよう、各市町村が設定します。
訪問型サービスBは、専門職ではなく住民主体による生活援助を中心とした支援です。
具体的なサービス内容としては、買い物や掃除、洗濯、調理、布団干し、電球の交換などが挙げられます。
訪問型サービスAと同様に、身体介護はサービス内容に含まれません。
訪問型サービスBの利用料金は支援主体が設定します。
サービス提供の主体となるのはボランティアであるため、料金が無料となるケースや実費負担のみのケースもみられます。
訪問型サービスCは、短期集中予防サービスです。
生活機能の低下がみられる高齢者に対し、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職や保健師が3〜6カ月の短期間にわたって相談や指導などの支援を行い、機能の改善を目指すプログラムとなります。
訪問型サービスCの主なプログラムとして、栄養改善プログラムや口腔機能の向上プログラム、運動器の機能向上、または閉じこもり予防・支援、ADL/IADLの改善などが挙げられます。
利用の対象者となるのは、要支援者や基本チェックリストで生活機能の低下がみられる高齢者のうち、専門職による短期集中的な指導により生活機能の改善が見込まれると判断される方です。
なお、訪問型サービスCの利用にあたって、利用者の自己負担はありません。
訪問型サービスDは、移動支援として、外出時の移送前後の補助を行います。
具体的なサービス内容は、通院時や買い物時の乗車・降車介助、通所型サービスや一般介護予防事業を利用する際の送迎などです。
利用方法や対象者については、訪問型サービスBに準ずる内容が定められています。
また、訪問型サービスBと同様に、ボランティアが主体となって行います。
要支援認定を受けた方は訪問介護の対象外となりますが、介護予防・日常生活支援総合事業のひとつである訪問型サービスを利用することができます。
訪問型サービスの内容は生活援助や移動援助のほか、専門職による相談や指導などです。
介護が必要とまではいかなくても、高齢者の暮らしにおいてささいな困りごとは尽きません。
状況に応じて必要な訪問型サービスを利用できるよう、地域包括支援センターなどに相談してみるとよいでしょう。