訪問介護で料理支援を頼まれた時に、
「料理が苦手だけど大丈夫かな?」
「どのように食事メニューを決めたら良いの?」
など、不安を抱えている訪問介護員の方は多いのではないでしょうか?
今回の記事では、訪問介護員に求められる食事作りについて、食事作りの流れや、ポイント、注意点について解説します。
目次
訪問介護員に求められる食事作りとは、利用者の方が健康に生活できるような食事を提供することです。
そのため、栄養バランスや食の安全を考えなければいけません。
また、利用者の方に進んで食べていただけるように、利用者の味の好みを知ることも大切です。
さらには、高齢の方が食べやすいような調理方法や、食材ごとの献立などしっかりと整理しておく必要があります。
食事作りに苦手意識を持っている方や、新人の介護士の方は不安があるでしょうが、経験していくにつれて次第に出来ることが増えていくので、まずは今回の記事を読んでしっかりと基本をおさえましょう。
まずは、訪問介護の食事作りの流れから説明していきます。
訪問介護員の食事作りは、一般的に下記のような流れになります。
①利用者の希望を聞き、献立を考える
②必要に応じて近所のスーパーなどで買い出しをする
③利用者宅で調理をする
それぞれのポイントについて説明します。
食事の献立を決める前に、利用者の次のようなことを確認しておきましょう。
・病歴
・服薬状況
・咀嚼力(噛む力)
・嚥下力(飲み込む力)
・味付けの好み
・アレルギー
上記を把握した上で、利用者の要望を参考にしながら献立を考えます。
献立が決まったら、利用者宅近くのスーパーなどで買い出しをします。
(介護計画に計画された場合のみ実施可能)
普段から買い物に慣れている方は、買い出しはさほど難しいことではないかも知れません。
しかし、買い出しに慣れていない方は、最初はどこに何があるのか分からないと時間もかかってしまいます。
そのため、事前に利用者宅近くのスーパーなどを視察しておきましょう。
また、買い出しの際も買い過ぎてしまわないように、食材の量を整理しておくと良いでしょう。
買い出しが終わったら、利用者宅で調理を開始します。
調理用具など利用者宅の物を使う際は、必ず利用者の方に確認してから行いましょう。
また利用者の方がご家族と一緒に住んでいる場合は、自宅にすでに用意してある材料で料理を作る場合もあります。
その際も、使用して良い食材か確認してから行いましょう。
さらに、利用者の方が自分で料理を作れるように支援するのもサービスの一つとして考えられます。
最初は難しくても、安全に楽しく利用者と料理が出来る環境作りも考えておきましょう。
料理を作った後は片付けも大切です。
最後まで綺麗に片付けを行うことが衛生的で、利用者の方からの信頼にもつながります。
その他、食事後は「今日の料理はお口に合いましたか?」と料理の感想を聞いて、日々利用者の方から情報収集を重ねていくことも大切です。
この項では、訪問介護の食事作りで重要ポイントを下記に5つご紹介します。
①アレルギーや禁止食を把握する
②利用者の好みを把握する
③食べ物の固さや大きさに注意する
④栄養バランスを意識する
⑤衛生管理を徹底する
上記は、利用者の健康を守る上でも重要事項になります。
それぞれの詳細について確認していきましょう。
食物アレルギーとは、原因となる食物を摂取した後に、食物中に含まれるたんぱく質などが消化管から吸収され、アレルギー反応を引き起こすことを言います。
食物アレルギーは、主に以下のような症状が現れます。
・湿疹、かゆみ、じんましんなど皮膚の症状
・喉のかゆみ
・口、唇などの違和感や腫れ
・腹痛や下痢
・呼吸困難
・目の腫れ
また、アレルギー症状が現れるのは食物摂取後1〜2時間以内になり、特に15分以内に現れることが多いです。
さらに、アレルギーがひどくなると血圧低下や意識障害などのアナフィラキシーショックを引き起こし、最悪死に至ることもあります。
現在、厚生労働省では、27品目が食物アレルギーを引き起こしやすい食品に認められています。
その中でも、下記の7品目は発症数、重篤度が高いことから特定原材料とされています。
・そば
・落花生
・乳製品
・卵
・小麦
・えび
・かに
また、利用者の方の疾患によっては水分や塩分、脂質などの制限があったり、内服薬によっては食べ合わせの悪い禁止食があります。
必ず、アレルギーや禁止食がないかどうか確認した上で、利用者の方の健康状態に適した調理方法で提供しましょう。
参考:厚生労働省
栄養バランスがしっかり取れている食べ物を提供しても利用者の好みでない料理の場合、食べてくれないことがあります。
また、利用者の方が気を使って食べ続けているケースも少なくありません。
そのようなことを避けるためにも、利用者の方の味の好みを把握しておくことが大切です。
なかには直接本人から聞き出しにくい場合もあります。
その場合は、ご家族に利用者の方の好みや気をつけておくべきポイントを聞いておくのも一つの方法です。
利用者の方が食べやすいように、食材の固さや大きさに配慮して調理をすることも大切です。
もし、利用者の噛む力や飲み込む力が低下していると、固いものや大きいものが食べれない場合があります。
その場合は、嚥下力が落ちている利用者にはとろみが出るように調理したり、ミキサー食を提供する方法があります。
また、柔らかく調理をしたり、一口サイズにカットしたりしながら、食べやすく調整しましょう。
しかし、食べやすく工夫するには工程が増える分、料理に慣れていない場合は調理時間が足りなくなるおそれがあります。
その際は、品数を減らしたりしながら調理時間の調整を行いましょう。
高齢者になればなるほど食欲が低下してしまい、十分な栄養が摂れていない可能性があります。
訪問介護で料理を作る場合は、主食・主菜・副菜・乳製品・果物の5つが、バランス良く含まれるように、献立を工夫しましょう。
目安は、農林水産省と厚生労働省が策定した「食事バランスガイド」を参考にしてください。
1日に「何を」「どれだけ」食べたら良いかの参考になります。
参考:厚生労働省
訪問介護員が作った食事によって、利用者の方が食中毒を起こしてしまうことは絶対に避けなくてはいけません。
下記のようなことに気をつけて対策しましょう。
・食器や調理器具が汚れていないか
・訪問介護員に、手荒れや手指の傷がないか
その他、利用者宅で衛生的に問題になる場所や物がないかどうかも確認しておきましょう。
また、衛生管理が比較的難しい刺身やサラダといった生ものは避けて、火を通す料理を中心に提供するのも良いです。
調理中は、具材の中心温度を75℃以上で1分以上加熱すると、より安全な料理が作れます。
訪問介護では、作り置きを行うケースもあります。
この項では訪問介護の食事作りで、作り置きをする場合の注意点についてご説明します。
作り置きの量に絶対の正解はありませんが、一般的には訪問介護で1回の料理で作る食事量は、一人暮らしの利用者で2食〜3食分になります。
また、ご家族と同居している場合は、1食〜2食分が平均量で、1食の金額は500円程度が相場です。
作り置きが多すぎると、時間の経過とともに食中毒の原因になる可能性が高まるため、作り置きの量には気を付ける必要があります。
なお、作り置きは利用者一人ひとりによって適切な量が変わってくるため、ケアマネジャーやご家族とも相談しながら取り組みましょう。
作り置きした料理の保存方法で注意するべきことは、衛生面の徹底です。
特に、利用者は高齢者の方が多く、疾患を抱えている場合や免疫力低下に伴い、些細な不注意が大きな問題につながることがあります。
厚生労働省では、製品の保存温度は食肉は10℃以下、生鮮魚介類は5℃以下と基準にしています。
しっかりと冷蔵庫で保存するよう利用者の方に伝えることを怠らないようにしましょう。
また、料理を保存する際にもゴミやほこりなどが入らないように細心の注意を払いましょう。
参考:厚生労働省
一度箸をつけた料理は、次の日に持ち越さないようにしましょう。
作り置きの際には利用者が一回で食べ切れる量を決めておいて、小分けに保存すると良いでしょう。
また、保存容器に料理を入れるときには、料理中に使った箸や、他の料理に触れた箸を使わないようにしてください。
清潔な箸やスプーンなど、工程すべてに衛生管理を怠らないことが大切です。
この項では、訪問介護の食事作りでよくあるお悩みについてご紹介します。
訪問介護員としては、利用者においしく食べてもらいたいものです。
そのため、利用者から毎回好みの同じ料理ばかりを頼まれる訪問介護員も多いようです。
食べないよりは食べてくれる方が良いのですが、栄養面を考えると偏った料理はあまり良くありません。
工夫としては、似ている料理で材料を変えてみる方法があります。
それでも、希望と違うことで食事を嫌がる場合は、ケアマネジャーやご家族と相談しながら、対応を検討しましょう。
料理が得意ではない訪問介護員が一番心配になることが、利用者が料理をおいしくないと感じることや食べてもらえないことです。
利用者のためを思って作った物が食べてもらえないのは残念なことですが、利用者の好みを知ることにより解決に近づくことができます。
利用者の方とのコミュニケーションや観察をすることで、食事の好みや咀嚼力、飲み込む力がどれくらいあるのか確認しましょう。
また、飲み込みやすいようにすべての料理を柔らかくしすぎる場合も注意が必要です。
噛む力があり飲み込みがスムーズな利用者だと、歯応えがないと感じてしまいます。
さらに、濃い味付けが好きな利用者も居ます。
その場合は、塩分に気をつけながら味を調整しましょう。
訪問介護員は、調理提供時や保存状態など衛生管理に細心の注意を払うことはもちろんですが、作り置きの食材を何日も経ってから食べてしまうなど、利用者の方の衛生管理がずさんだと意味がなくなってしまいます。
解決策は、利用者の方に衛生管理について徹底してお願いすることです。
食べ残しがあっても手をつけないことや、必要な食器以外は使わないこと、手を洗う習慣を身につけてもらうことなど、利用者とのコミュニケーションを深めていきましょう。
料理が多くて食べきれなかった場合や、作り置きを作った場合に、利用者の方から料理を持ち帰って欲しいと頼まれることがあります。
訪問介護員が行う食事作りは、ケアプランで決められている利用者のためだけのものです。
持ち帰ると問題になってしまう可能性があるため、必ず断るようにしましょう。
また、断り方にも注意が必要です。
利用者の心情としては、ご厚意のことかも知れません。
感謝の気持ちを述べた後に、はっきりと規則があるので持ち帰れないと伝えましょう。
それでも渡そうとした場合は、この後に行かなければいけない場所があるなど、あくまで申し出に対して感謝の気持ちを忘れない言い方で断りましょう。
最後に、この項では食事作りが苦手な方に、おすすめの方法をご紹介します。
食事作りが苦手の方におすすめなのが、まずは基本的な料理をマスターすることです。
基本的には、下記の5品を作れるとよいでしょう。
・米炊き(おかゆ含む)
・酢の物
・お浸し
・煮物
・みそ汁
この5品を作ることができれば、訪問介護員として問題なく食事作りを提供することができるでしょう。
特に、酢の物やお浸し、煮物は汎用性が高いため、一種類でも作れるようになれば料理の幅が広がります。
ここからさらに料理のバリエーションを増やしたり、料理のスキルアップを目指していきましょう。
材料ごとに料理のレシピを決めておくことで、献立に悩むことなく、食事作りを素早く行うことができます。
例は以下の通りです。
・肉を使ったレシピ例
豚肉の生姜焼き
肉じゃが
焼肉丼
・魚を使ったレシピ例
ふかふか白身魚のあんかけ
鮭のムニエル
さんまの蒲焼き丼
・野菜を使ったレシピ例
白菜のクリームシチュー
キャベツの煮物
チンゲン菜のクリーム煮
なお、牛肉ではヒレやサーロイン、豚肉ならロースやもも、鶏肉ならささみやもも肉、魚ではサケやタラなどが扱いやすいです。
また、丼は一つの食器でご飯ができるため、片付けも楽になります。
料理のコツや効率的なやり方などは、同僚や上司に聞いてみましょう。
自分でレシピ本を買って勉強することもいいでしょうが、介護の食事作りにおいては、介護士の方に聞くとポイントをおさえることができます。
近くのスーパーの食材についてなど、同僚や上司に聞くとよいでしょう。
食事作りは介護サービスの時間内に終わらなければならないため、手際よく行う必要があります。
時間をかけて火を通したい煮ものなどを最初に作り始めておくと、煮込んでいる間に他のものを作れるので効率的です。
和えものは切って調味料と混ぜるだけなので、焼きものなど加熱時間のちょっと手が空いた時に調理を進められます。
今回の記事では、訪問介護員の食事作りについて解説してきました。
食事作りは、利用者の方が健康に生活するために重要な役割を果たします。
調理方法や、保管方法などしっかりと確認しましょう。