介護職員は、利用者へ提供した介護サービスや健康状態などを書きとめるため「介護記録」を作成します。
介護記録は事業所の職員間での情報共有、適切なケアプランの作成のために重要な資料となります。
今回は、介護記録におけるsoapという記録方法について、soapを用いるメリット、soapを用いてよりよい介護記録を書くためのポイントについて解説します。
介護記録とは、介護職員が利用者に提供した介護サービス、利用者の健康状態経過などを記録したものを指します。
この介護記録は厚生労働省令の「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(第37条)」および「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(第9条)」において作成が義務付けられています。
介護記録の記録方法で重視されているのが「soap」です。
soapでは「Subjective(主観的データ)」「Objective(客観的データ)」「Assessment(アセスメント)」「Plan(介護計画)」の4項目について記録を取ります。
4項目それぞれについて解説していきます。
参考:日本能率協会総合研究
主観的な情報を指し、身体がだるい、息苦しい、腰が痛い等、利用者の自覚症状を記録します。
身体面の異常だけではなく、本人の不安や孤独感のような心理的な面もあわせて記録していきます。
また、利用者の家族が本人の異変に気付いた場合も情報として加えましょう。
利用者の客観的な情報を指し、例えば利用者への検査や測定で得られたデータ・数値・バイタルサイン等の情報が該当します。
Subjective(主観的データ)およびObjective(客観的データ)で得た情報を、分析・考察する項目です。
利用者は現在どのような状態にあり、今後どのような介護サービスや検査、対応が必要となるかを総合的に判断し記録します。
例えば「リハビリAを続けた結果、利用者の歩行が以前よりスムーズになったので、更なる機能回復を図るため、新たにリハビリBを行う」など、状況を適切に分析し、対応を考える必要があります。
Assessment(アセスメント)の分析・考察を踏まえ、利用者にあったケアを提供するための対応計画、今後のケアの内容を決めます。
今後の介護サービスの継続または変更、生活上での指導等を詳細に決定します。
介護記録で「soap」を用いるメリットは下記の3つです。
1.利用者のニーズに合った介護ができる
2.主観と客観的な事実の両側面から介護ができる
3.中長期的な自立支援のための介護ができる
それぞれ詳しく解説していきます。
利用者本人や家族の希望を記録することは、soapにおいて重要なことの一つです。
現在の介護サービスで十分か、利用中のサービス以外のケア(例:通所介護ではなく施設の入所介護を利用したい)を望んでいるか、等をヒアリングし今後の介護に反映します。
利用者ごとにどんな介護サービスを受けたいかはそれぞれ異なるので、soapを活用することで利用者に合わせた細やかな介護が期待できます。
soapでは利用者本人や家族の意見・感想という主観的データ、介護職員の観察や医療機器等から得られた数値をはじめとした客観的データ、双方を参考に介護を行えます。
利用者や家族の希望を介護に反映するだけでは、利用者の身体機能の維持・改善につながるかはわかりません。
一方、検査や測定で客観的に得られたデータだけを介護へ反映しても、利用者・家族のニーズに合わない場合もあります。
双方のデータを今後の介護サービスに活かすことで、利用者にとって効果的なケアが期待できます。
利用者の判断能力や身体機能を劇的に回復させる介護サービスは存在しません。
そのため、根気強く利用者の状態に応じたケアが求められます。
利用者の介護状態をこれ以上悪化させないため、または介護状態の改善を図り自立支援に結び付けるため、中長期的な介護計画のもと、柔軟な処置・対応が必要となります。
soapを利用すれば、介護記録から利用者のためのケアプランに沿った介護サービスが提供されているか、目標はどれくらい達成できているのか確認が可能です。
以前に介護記録で記載された情報を分析すれば、ケアプラン作成への反映や、今後の介護サービス提供の指標にできます。
soapを用いたからといって、適切なデータ収集・分析・考察を介護記録に残さなければ、利用者に最適な介護計画を立て、適切な介護サービスを行うことは難しくなります。
ここでは、soapを用いた介護記録の作成ポイントについて説明します。
介護記録を作成する場合、利用者への敬意そして配慮を忘れないようにしましょう。
例えば利用者の言動を観察して記録する場合、次のような表現は不適切です。
・ボケ症状がある
・しつこい、面倒
・物分かりが悪い
・わがまま、身勝手
このような表現は利用者への侮辱にあたります。
記録の際、介護職員間の情報共有が目的であっても使用してはいけません。
利用者の介護には、介護士をはじめ医師や看護師等のさまざまなスタッフが連携して対応にあたります。
そのため、担当スタッフの情報共有は必要不可欠です。
しかし、介護記録の内容が他のスタッフに正しく伝わらなければ、混乱を招く可能性があります。
利用者や家族の意見や感想と、検査・観察やスタッフが判断した利用者の心身状態、生活状況、提供したサービスの内容を、わかりやすく分けてまとめる工夫が大切です。
Subjective(主観的データ)とObjective(客観的データ)を混同しないよう、正確に介護記録へ残せば、情報が正しく他の担当者に伝わり、効果的なサービスの提供が期待できます。
以前の健康診断・検査等で異常が見つからなくても、介護の度、利用者の顔色や身体の動作、咳をときどきする等、こまめに健康状態を観察し、記録にまとめましょう。
病気の初期症状のサインかもしれないので、気になった変化を記録していれば、同じ利用者を担当する医師や看護師等が迅速に対応できます。
介護記録を残す際は、「5W1H」を意識して記録すれば他のスタッフにも情報が伝わりやすいです。5W1Hとは次のような文章構成を指します。
・When:いつ
・Where:どこで
・Who:誰が
・What:何を
・Why:なぜ
・How:どのように、どうなったのか
こちらでは、訪問介護事業所で介護サービスを行う際、最適な介護記録のとり方について解説します。
食器や箸・スプーンの使い方、食べ方、食べている時の表情等の外面的な観察、空腹感、薬の副作用、食事の不満等の内面的な観察に気を配りましょう。
(例文)
2月18日午後12時20分
いつもより食事が進んでおらず食べ物を食べるペースが遅く、ときおりスプーンを置いてしまう。
声をかけると「今日はのどの具合が悪く、固いものを噛んでもうまくのみ込めない。」と言われた。
唾液がうまく出ないため、固形物の食べ物がうまくのみ込めない様子。
本人の同意を得てご飯をおかゆに変えると、「食べやすい。」と喜ばれ完食された。
介護記録には排泄量・排泄回数・排泄動作の様子を正確に残します。
排泄の状態については、利用者本人の普段からの排泄リズムと比較して判断しましょう。
また、排泄を他人から見られる羞恥心にも配慮し、一連の動作を凝視するのではなく、必要な部分の観察に努めましょう。
(例文)
2月18日午後1時20分
昼食後、声をかけ一緒にトイレに向かう。
トイレに入ったとき、左肩を壁にもたれながら身体を支え、右手で慎重にズボンを下ろしていた。
紙パンツは腰骨にひっかかりうまく下ろせないため介助したところ、紙パンツ内で多量の尿失禁が確認できた。
自分で紙パンツをスムーズに下ろせなかったためである。
入浴の記録は利用者の皮膚の状態、痩せているのか・肥満なのか、手足の動き等の身体状態の観察や、衣服の着脱や浴槽のスムーズな出入り、本人が各部位をどこまで洗えるか等、入浴状態の観察に気を配りましょう。
(例文)
2月18日午後3時00分
入浴中、いつもは自分で髪を洗うが「肩に違和感がありうまく手をあげられない。代わりに洗ってくれないか?」と言われたため、介護スタッフが洗髪をした。
肩や腕にはあざや外傷は見当たらない。
浴槽に入ると「温まったおかげか肩が軽くなった」と喜んでいた。
以前の記録では気温が寒いと肩が堅くなる、と話されており、本日は特に寒かったため肩の違和感を感じたと思われる。
介護記録は厚生労働省の省令で義務付けられた作業です。
しかし、義務だから介護記録を作成するのではなく、介護スタッフ間の情報共有、適切な介護サービスへの反映、スタッフのスキルアップ等へ役立てる目的があります。
そのため、介護記録は利用者に配慮しつつ、正確な記入が求められる大切な作業と言えます。
今回解説したsoapを用いることで、よりよい介護記録にすることができるでしょう。