訪問介護における介護事故は、どれだけ気を付けていても起こってしまうことがあります。
事故が発生した時に必要となるのが「事故報告書」です。
この記事では、訪問介護における事故報告書の必要性や目的、書き方などを紹介します。
目次
訪問介護のサービス中に事故が起きた場合、状況や対応を記録する必要があります。
それが「事故報告書」です。
事故報告書の作成は、省令で定められている義務になります。
(事故発生時の対応)
第二章第三十七条
2.指定訪問介護事業者は、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない。
引用:厚生労働省
事故報告書を作成する事故の内容について、誤嚥・転倒・訪問忘れ・物品破損などが考えられます。
万が一事故があった場合に事故報告書が作成されていないと、実地指導のときに指導対象となる可能性も考えられます。
もし事故を起こしてしまった場合、必ず記憶が新しい内に事故報告書を書く必要があります。
その時点でわからないことがある場合は、後からの追記でもかまいません。
訪問介護の事故報告書を作成する目的は、下記の4つがあげられます。
事故を起こした後は精神的に落ち込みますし、他の職員にも知られたくないと思うかもしれません。
しかし、事故報告書には事故の原因を分析して、今後同じような事故を起こさないようにする目的があります。
さらなる事故を防止するためにも、事故報告書を記載し職員全員に情報共有しましょう。
訪問介護での事故は職員個人ではなく、事業所全体として取り組むことが重要となります。
事故の状況・原因・対策など事故を分析することで再発を防ぎ、また事故を起こさないための対策を徹底することで、よりよい介護サービスを提供することにもつながります。
介護事故は内容によって、利用者や家族から訴えられることがあります。
そのような事態になったとき、事故報告書がないと事実がわからず職員に過失が無かった場合でもその証明ができません。
事故報告書は作成義務があり、作成していなかったとなれば不利な状況になります。
事故発生時の状況や対応をしっかりと記録した事故報告書があれば、職員が適切な対応をしたという証拠になり、事業所や職員を守ってくれるものとなります。
事故の発生は事業所だけでなく、職員の精神的負担も大きいものです。
事故の発生原因を解明し、次の事故防止につなげるためにも事故報告書は重大な役割をもちます。
事故の隠ぺいを防ぎ、発生時の状況を詳しく記載することで後のトラブルを防止することになります。
訪問介護の事故報告書作成について、注意点は以下の2つです。
・死亡事故や受診以上の事故、感染症等は報告義務がある
・報告は事故発生速やかにそれぞれ詳しく説明します。
訪問介護のサービス中に事故が発生した場合、事業所は保険者である市町村と、緊急性・重大性の高い事故については県に報告する義務があります。
事故報告を行う対象について、国が定めています。
下記の事故については、原則として全て報告すること。
・死亡に至った事故
・医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故
その他の事故の報告については、各自治体に取扱いによるものとすること。
引用:厚生労働省
事故発生後は速やかに、少なくとも速やかに第一報を提出することが義務づけられています。
そのときには、事故の状況・事業所の概要・対象者の情報・事故の概要・事故発生時の対応・事故発生後の状況をなるべく記入して報告しましょう。
その後、状況の変化に応じて追加報告を行い、事故の原因の分析、再発防止策を検討して作成次第報告をします。
地方自治体によって、緊急性が高い場合には報告書の完成を待たずにとりあえず第1報を電話で報告をする必要がある場合もあるので注意が必要です。
訪問介護の事故報告書は、誰が見てもわかりやすい表現や書き方をする必要があります。
状況を知るために、利用者や家族も見る可能性があるからです。
ここでは、作成における5つのポイントを紹介します。
事故発生日時は「10時35分」や「14時39分」などより詳細に時間を書きます。
その後も、家族へ連絡した時間・事業所に連絡した時間・医療機関に連絡した時間などを時系列に書くようにしましょう。
事故発生時の状況については、場所・誰が・何をしていたのか・なぜそうなったのかなど可能な限り詳細に書きます。
例えば、
「職員Aが利用者Bさんの自宅の浴室で入浴介助をした。
洗い場で体を洗った後、浴槽に入ろうと思い、Bさんにお風呂に入りますよと声かけしたら、Bさんははいと答えた。
AがBさんの左脇を支え介助したが、手が滑ってしまいBさんが洗い場に尻もちをついた。
AはBさんに大丈夫ですか?と聞いたら、Bさんはお尻が痛いという訴えだった。
しっかりと石鹸を流したつもりだったが、残っていたため手が滑ってしまった」
このように、時系列に書くとわかりやすい内容となります。
事故発生時の対応については、具体的な行動となぜそうしたのかという根拠も必要になります。
そのときに職員がどのように判断し、対応したのか内容を記載しましょう。
「11時10分に誤薬、11時35分まで嘔吐や震えが止まらなかったため救急車を要請」と行動に対する根拠を必ず書くようにしましょう。
介護事故が起こる要因は、利用者本人・職員・環境の要因があります。それぞれの視点から事故の原因を分析しましょう。
利用者本人は、病状や身体状況が変化していきます。
前回の訪問では元気だったのに、今日は体調が悪くて歩くのがつらそうなど、急激に健康状態が変化することがあるのです。
そのときにいつも通りの支援をしてしまうと、転倒してしまうなどの危険性があります。
一人ひとりの利用者の今の状況を確認することが事故防止には必要不可欠です。
職員の要因として、その日の体調不良や寝不足などで判断力が鈍っていることがあります。
注意力が散漫だと事故が起こる可能性も高くなります。
また「いつも通りやれば大丈夫」と仕事をこなすことに集中してしまうと、おもわぬ事故につながることがあるでしょう。
環境要因として、訪問介護は施設で介護をするのではなく、利用者の自宅で介護をします。
それぞれの自宅によって設備や備品も変わるので、環境に合わせた対応が必要です。
特に古い自宅など、浴室の手すりがぐらついている、床がきしんでいるなど危険な箇所がある場合もあります。
そのようなときは、なるべく早く家族に修理を依頼するなどして危険を防止していきましょう。
万が一事故が発生したら、職員全員に声をかけ事業所で会議を開きましょう。
1人で対策を考えるより、会議を開催して大勢で意見を出し合い考える方が良いアイデアが出ます。
また、過去に同じような危険を感じた職員がいるかもしれません。
そのような経験が聞ける情報共有の場にもなるので、積極的に話し合いましょう。
再発防止策は今後同じような事故が起こらないようにするため、事故の可能性を一つひとつ潰していくことが大切です。
訪問介護の事故報告書は事業所の所定の書式に沿って書きますが、記載に当たって5H1W(いつ・どこで・誰が・どのように・何をした)を抑えるようにしましょう。
ここでは、具体的な例を挙げて説明します。
・いつ:2023年1月17日 13時10分
・どこで:Aさん宅居室
・誰が:Aさん(85歳女性 要介護3)
・どのように:Aさんが食事中に「疲れた」という発言があり手が止まったため、職員が食事介助を行った。
口の中に食物がたまっていることに気づかず、スプーンで食事を口に入れた結果、にんじんをのどに詰まらせ、顔色が青くなった。
職員はびっくりしてAさんの背中をたたくと、にんじんが口から出てきてしばらくして顔色が戻ってきた。
・何をした:13時20分、職員は管理者に報告。
13時25分、管理者はケアマネジャーと家族に報告。
13時40分、管理者はしばらくAさんの様子を見るために職員と交代する。
15時、帰宅した家族に再度経過を報告する。
翌日、事業所にて研修を開き、再発防止策を検討。
飲み込んだことを確認して次の食事を口にする、一度にたくさん口に入れないなど、食事介助の注意点を全職員と確認する。
・いつ:2023年〇月〇日 12時30分
・どこで:Bさん宅食堂
・誰が:Bさん(80歳男性 要介護1)
・どのように:家族からの依頼で、昼食は昨夜作ったカレーライスを食べさせてほしいと言われた。
12時30分、職員がBさん宅の台所でカレーライスを温めて、Bさんに食べてもらった。
次の日の9時10分、ひどい下痢をしていると家族から報告を受け、管理者が訪問。
詳しく話を聞いてみると、前日に作ったカレーライスは冷蔵庫に入れずに常温で放置されていたとのこと。
Bさんは家族が病院に連れて行ったところ、食中毒と診断を受けた。
翌日、事業所で研修会を開催し全職員に状況を報告。
作り置きの料理を食べてもらう場合、どのような保存状態だったかを家族に聞く必要があることを再確認した。
職員が調理した食材で食中毒を起こしたわけではありませんが、温めたのは職員であるため事故報告書を書く必要があります。
・いつ:2023年〇月〇日 11時30分
・どこで:Cさん宅台所
・誰が:職員
・どのように:Cさん宅で調理中、かぼちゃを切ろうとしたが硬くてなかなか切れず、包丁の刃が欠けてしまった。
・何をした:11時45分、職員はCさんに謝罪。
Bさんは「別にいいよ」と言い許してくれた。
12時、職員は管理者に報告。
12時10分、管理者から家族へ謝罪の連絡をする。
家族からは「他にも包丁があるから問題ない。気にしなくていいよ」と言われた。
事業所のミーティングにて、硬い食材は少し電子レンジで火を通してから切ることを話し合い、調理方法について再確認する。
家族から言われた言葉は、そのままの口語体で記載しましょう。
ヒヤリハット報告書とは、ヒヤリハットを起こした当事者が記入する報告書で、状況や原因、対策などを記入する報告書です。
ヒヤリハットとは重大な事故につながる前段階を指します。
業務中の事故は突然起こるものではなく、その裏には29の軽微な事故や災害があり、その背景には300もの異常が存在するといわれています(ハインリッヒの法則)
この異常をヒヤリハットといい、これを予防することが重大事故を防ぐことにつながっていくでしょう。
ヒヤリハットが起きたときには事故につながらなくてよかったと安心するのではなく、どうして起きてしまったのかと検証する必要があります。
ヒヤリハット報告書も事故報告書と同じで、時間が経過する前の記憶が新しいうちに記入することが大切です。
ヒヤリハットはまだ事故になっていないから報告しなくていいとか、報告すると怒られるのではないかと躊躇することがあるので、管理者はヒヤリハット報告書が提出されても怒ることなく、むしろ事故を未然に防ぐためだと感謝するくらいの気持ちでいることが大切です。
ヒヤリハット報告書が提出されたら同じような事例があると思われるので、他のスタッフにも共有し原因や対策を考えましょう。
事故が起こったときにはどうすればいいのかと不安な気持ちになります。
しかし、その事故をもとに「何が悪かったのか」「どうすればよかったのか」をスタッフ全員で丁寧に検証することで、再発予防ができ事故防止につながります。
事故を起こさないように事業所の全員で話し合い、リスクの一つひとつに対策を立てていきましょう。