重度訪問介護と訪問介護はよく似たサービスを思っている場合がありますが、大きく異なります。
ここでは、重度訪問介護について詳しく紹介するだけでなく、実際に重度訪問介護で働くために必要な資格まで詳しく解説します。
ぜひ、最後までお読みください。
目次
重度障がい者の利用者さんに対して、自宅に訪問して、食事・排泄・入浴・外出など生活全般の介助だけでなく、生活における相談やアドバイスまで外出時や移動中も含め、日常生活全般にわたる介護を総合的に行い、不自由なく日常生活を送れるようにサポートをするサービスです。
「訪問介護」といっても、介護保険で行う一般的な訪問介護とは異なる点があります。
下記の厚生労働省が定めている「重度障がい者」が対象者です。
障害支援区分が区分4以上(病院等に入院又は入所中に利用する場合は区分6であって、入院又は入所前から重度訪問介護を利用していた者)であって、次のいずれかに該当する者
1. 次のいずれにも該当する者
(1) 二肢以上に麻痺等があること
(2) 障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも「支援が不要」以外と認定されていること
参考:厚生労働省
上記の障害支援区分を受けるには、自治体が行う認定調査を受ける必要があります。
この認定調査は、下記のように心身の状況に関する80項目の聴き取り調査と、調査項目だけではわからない個別の状況を記入する特記事項により構成されています。
なお、内容は下記のような内容です。
移動や動作等に関連する項目(12項目) | |||
寝返り | 起き上がり | 座位保持 | 移乗 |
立ち上がり | 両足での立位保持 | 片足での立位保持 | 歩行 |
移動 | 衣服の着脱 | 褥瘡 | 嚥下 |
身の回りの世話や日常生活等に関連する項目(16項目) | |||
食事 | 口腔清潔 | 入浴 | 排尿 |
排便 | 健康・栄養管理 | 薬の管理 | 金銭の管理 |
電話等の利用 | 日常の意思決定 | 危機の認識 | 調理 |
掃除 | 洗濯 | 買い物 | 交通手段の利用 |
意思疎通等に関連する項目(6項目) | ||
視力 | 聴力 | コミュニケーション |
説明の理解 | 読み書き | 感覚過敏・感覚鈍麻 |
行動障害に関連する項目(34項目) | ||||
被害的・拒否的 | 作話 | 感情が不安定 | 昼夜逆転 | 暴言暴行 |
同じ話をする | 大声・奇声を出す | 支援の拒否 | 徘徊 | 落ち着かない |
外出して戻れない | 1人で出たがる | 収集癖 | 物や衣類を壊す | 不潔行為 |
異食行動 | ひどい物忘れ | こだわり | 多動・行動停止 | 不安定な行動 |
自らを傷つける行為 | 他人を傷つける行為 | 不適切な行為 | 突発的な行動 | 過食・反すう等 |
そう鬱状態 | 反復的行動 | 対人面の不安緊張 | 意欲が乏しい | 話がまとまらない |
集中力が続かない | 自己の過大評価 | 集団への不適応 | 多飲水・過飲水 |
特別な医療に関連する項目(12項目) | |||
点滴の管理 | 中心静脈栄養 | 透析 | ストーマの処理 |
酸素療法 | レスピレーター | 気管切開の処置 | 疼痛の看護 |
経管栄養 | モニター測定 | 褥瘡の処置 | カテーテル |
参考:厚生労働省
これらの内容と、医師の意見書を併せて、市町村審査会での総合的な判定を踏まえて自治体が認定します。
なお、障害区分は1〜6に分類され、数字が高くなるにつれて必要となる支援の度合いが高くなります。
主なサービス内容は下記です。
訪問介護は、第1・2号被保険者を対象とした、「介護保険」で行われるサービスですが、重度訪問介護は「障害福祉サービス」です。
また、訪問介護は60分以内で行われることがほとんどですが、重度訪問介護は長時間の利用を想定された制度のため、報酬単価も8時間までを基本に設定されています。そのため、8時間勤務のヘルパー3人で1日(24時間)をカバーできる制度設計となっています。
訪問介護の基本報酬 | ||
種別 | 時間 | 単位数 |
身体介護 | 20分未満 | 167単位 |
20分以上30分未満 | 250単位 | |
30分以上60分未満 | 396単位 | |
60分以上 | 579単位 (以降30分増すごとに84単位) | |
生活援助 | 20分以上45分未満 | 183単位 |
45分以上 | 225単位 | |
通院時の乗車・降車等介助 片道 | 99単位 | |
身体介護に引き続き 生活援助を行った場合 | 生活援助20分ごと | 67単位 (201単位を限度とする) |
参考:厚生労働省
重度訪問介護の基本報酬 | |
所要時間区分 | 単位数 |
1時間未満 | 185単位 |
1時間以上1時間30分未満 | 275単位 |
1時間30分以上2時間未満 | 367単位 |
2時間以上2時間30分未満 | 458単位 |
2時間30分以上3時間未満 | 550単位 |
3時間以上3時間30分未満 | 640単位 |
3時間30分以上4時間未満 | 732単位 |
4時間以上8時間未満 | 817単位+30分毎に85単位を加算 |
8時間以上12時間未満 | 1497単位+30分毎に85単位を加算 |
12時間以上16時間未満 | 2172単位+30分毎に80単位を加算 |
16時間以上20時間未満 | 2818単位+30分毎に86単位を加算 |
20時間以上24時間未満 | 3500単位+30分毎に80単位を加算 |
参考:厚生労働省
また、障害区分が重度の利用者さんに介入する場合は下記の単位が加算されます。
障害区分が重度の利用者に介入する場合 | |
利用者の要件 | 加算単位 |
重度障害者等包括支援の対象者である利用者 | 所定単位数の15/100(15%) |
障害支援区分6に該当する利用者 | 所定単位数の8.5/100(8.5 %) |
※重度障害者等包括支援対象者とは重度訪問介護の対象者の中で「両手足すべてに麻痺等がある」尚かつ「人工呼吸器での呼吸管理を必要としている、もしくは最重度の知的障害者」に該当するクライアントを指します。
参考:厚生労働省
その他にも、訪問介護では、同じサービスを1日に複数回提供する場合、その間に2時間の空白時間が必要だという「2時間ルール」があるため、2時間の空白が必要です。
しかし、重度訪問介護は「対象者の要介護度が高い」「長時間の支援を前提としている」などの理由から「2時間ルール」がないため、支援をした1時間後に再度同じようにサービスを提供できます。
重度訪問介護で働くためには下記の資格が必要です。
今回は上記の資格の中から、「介護職員初任者研修修了者」「介護福祉士実務者研修修了者」「介護福祉士」「重度訪問介護従業者研修修了者」について詳しく説明します。
介護の基礎的な知識や技術を習得するための資格で、2013年に廃止された「ホームヘルパー2級」の後継としてできた資格です。
現在は訪問介護事業所でホームヘルパーとして働くためには、介護職員初任者研修修了者の取得が必要です。
初任者研修講座を開講しているスクールに通って、10項目で合計130時間のカリキュラムを修了し、最後に修了試験(筆記)で合格する必要があります。
また、最近はカリキュラムの130時間のうち、40.5時間は自宅で通信講座として受講できます。
介護職員初任者研修修了者は、カリキュラムを受講するにあたっての条件、受験資格はないため、未資格・未経験の方でも資格取得を目指すことができます。
下記が具体的なカリキュラムです。
項目 | 時間数 |
職務の理解 | 6時間 |
介護における尊厳の保持・自立支援 | 9時間 |
介護の基本 | 6時間 |
介護・福祉サービスの理解と医療の連携 | 9時間 |
介護におけるコミュニケーション技術 | 6時間 |
老化の理解 | 6時間 |
認知症の理解 | 6時間 |
障害の理解 | 3時間 |
こころとからだのしくみと生活支援 | 75時間 |
講義の振り返り | 4時間 |
合計 | 130時間 |
参考:厚生労働省
通学講座・通信講座ともに費用はほぼ同額に設定されていることが多く、3〜12万円程度です。
また、受講するにあたって、「特定一般教育訓練給付金制度」「一般教育訓練給付金制度」などの補助金対象となっているため、実際より負担を減らすことができる場合もあります。
介護職員初任者研修の上位資格で、質の高い介護サービスを安定的に提供していくことを目標に、基本的な介護提供能力の修得を目的とした資格です。また、2017年より介護福祉士の国家試験を受験するためには、「実務者研修の受講・修了」が義務付けがされたので、実務者研修は介護福祉士資格を目指すうえで必須の資格です。
受講資格はありませんが、資格を取得するためにはあらかじめ定められた20科目・合計450時間に渡るカリキュラムを履修する必要があります。
しかし、介護職員初任者研修を取得している場合は、450時間のうち合計9科目・130時間の受講が免除されるため、11科目・320時間の受講内容です。
具体的なカリキュラムは下記です。
介護職員実務者研修のカリキュラム | ||
科目 | 受講時間 | 介護職員初任者研修修了者が免除される科目 |
人間の尊厳と自立 | 5時間 | 〇 |
社会の理解Ⅰ | 5時間 | 〇 |
社会の理解Ⅱ | 30時間 | 免除されない |
介護の基本Ⅰ | 10時間 | 〇 |
介護の基本Ⅱ | 20時間 | 免除されない |
コミュニケーション技術 | 20時間 | 免除されない |
生活支援技術Ⅰ | 20時間 | 〇 |
生活支援技術Ⅱ | 30時間 | 〇 |
介護過程Ⅰ | 20時間 | 〇 |
介護過程Ⅱ | 25時間 | 免除されない |
介護過程Ⅲ(スクーリング) | 45時間 | 免除されない |
発達と老化の理解Ⅰ | 10時間 | 免除されない |
発達と老化の理解Ⅱ | 20時間 | 免除されない |
認知症の理解Ⅰ | 10時間 | 〇 |
認知症の理解Ⅱ | 20時間 | 免除されない |
障害の理解Ⅰ | 10時間 | 〇 |
障害の理解Ⅱ | 20時間 | 免除されない |
こころとからだのしくみⅠ | 20時間 | 〇 |
こころとからだのしくみⅡ | 60時間 | 免除されない |
医療的ケア | 50時間 | 免除されない |
受講時間合計 | 450時間 | 320時間 |
*医療的ケアに関しては、講義50時間のほかに演習を受ける必要があります。
参考:厚生労働省
通うスクールによって差はありますが、下記が相場です。
介護福祉士実務者研修も介護職員初任者研修と同じように「教育訓練給付金制度」などの対象となっているため、これらを使用すると費用負担を大きく減らせます。
「社会福祉士及び介護福祉士法」にもとづく、介護分野では唯一の国家資格であり、かつ介護福祉士国家試験の合格者だけが名乗れる資格で、取得するためには下記の3つのルートがあります。
介護施設で働きながら国家試験を受験するルートです。
実際に介護現場で働きながら取得を目指せるので、取得することで仕事と直結するためモチベーションにもなります。
また、他のルートよりも費用負担が少ないのもメリットの1つです。
ただ、注意点として、実務経験ルートから介護福祉士になるためには、介護現場での実務経験が従業期間3年(1095日)以上、かつ従業日数540日以上必要かつ、介護職員実務者研修の取得が必要になります。
3つのルートで最も早く取得ができます。
具体的には最短で1年、介護福祉関連の学校を出ていなくても2年で介護福祉士の受験資格を得ることができます。
ただ、養成施設ルートの場合は、短期大学や専門学校に通う必要があるので費用面の負担が高くなる傾向です。
福祉系高校、又は福祉系特例高等学校を卒業し、国家試験を受けることで介護福祉士の資格取得を目指すルートです。
福祉系高校ルートでは、2009年以降の入学者とそれ以前の入学者で受験資格が異なります。
資格取得にかかる費用は、受験ルートによって下記のように異なります。
受験ルート・保有資格 | 費用 | |
実務経験ルート | 無資格者 | 10万円程度 |
介護職員初任者研修・ホームヘルパー2級 | 8万円程度 | |
介護職員基礎研修 | 3万円程度 | |
養成施設ルート | 100~200万円 | |
福祉系高校ルート | 公立:年間50万円程度 私立:年間100万円程度 |
研修は都道府県ごとに厚生労働省が指定している事業所が開催しており、参加するための条件に制限はなく、最短3日間で取得できます。
そんな重度訪問介護従業者養成研修は、下記3つの課程に分かれます。
重度障害者を介護するための職業倫理・基礎的な介護技術など現場に必要な基礎的な技術や介護について学びます。
科目 | 時間 | |
講義 | 重度の肢体不自由者の地域生活等及び従業者の職業倫理 | 2時間 |
基礎的な介護技術 | 1時間 | |
実習 | 基礎的な介護と重度の肢体不自由者とのコミュニケーションの技術 | 5時間 |
外出時の介護技術 | 2時間 |
合計10時間の基礎課程を受けることで、障害支援区分4〜5の利用者さんへの介護業務を行えます。
障害支援区分6の利用者への介護を想定しているため、基礎課程よりもさらに詳しい内容を学ぶことができます。
また、実習では障害支援区分5、もしくは6の利用者さんに対する介護支援を行うため、より介護現場に近い知識や技術を身につけられます。
科目 | 時間 | |
講義 | 医療的ケアを必要とする重度訪問介護利用者の障害及び支援 | 4時間 |
コミュニケーションの技術 | 2時間 | |
緊急時の対応及び危険防止 | 1時間 | |
実習 | 重度の介護と重度の肢体不自由者とのコミュニケーションの技術 | 3時間 |
合計10時間の追加課程を受けることで、障害支援区分6の利用者への介護業務を行えます。
基礎課程と追加課程の内容に加えて、喀痰吸引の演習を行います。
科目 | 時間 | |
講義 | 重度の肢体不自由者の地域生活等 | 2時間 |
基礎的な介護技術 | 1時間 | |
コミュニケーションの技術 | 2時間 | |
喀痰吸引を必要とする重度障害者の障害と支援 | 3時間 | |
緊急時の対応及び危険防止 | 3時間 | |
演習 | 喀痰吸引等に関する演習 | 1時間 |
実習 | 基礎的な介護と重度の肢体不自由者とのコミュニケーションの技術 | 3時間 |
外出時の介護技術 | 2時間 | |
重度の介護と重度の肢体不自由者とのコミュニケーションの技術 | 3.5時間 |
合計20.5時間の統合過程を受けることで、障害支援区分4〜6の利用者への介護業務を行えるだけでなく、喀痰吸引などの医療ケアも可能になります。
参考:厚生労働省
介護スクールや各都道府県が指定している研修実施事業所によって異なりますが、
一般的な相場は、基礎課程と追加課程それぞれ1万5千円〜2万円程度、総合課程では3万円程度です。
重度訪問介護従業者研修は、各都道府県の指定事業所や社会福祉法人、資格スクールなどが研修講座を開催しているため、詳細は、都道府県や実施団体のホームページなどで確認しましょう。
初任者研修を修了し、訪問介護事業所で高齢者の利用者さんに対して、「身体介護」「生活援助」「通院時の乗車・降車介助」などを行うことも、ご自身の介護スキルの向上に繋がります。
しかし、重度訪問介護従業者研修を修了すると、介護の知識だけでなく喀痰吸引・経管栄養などの医療的ケアや、身体麻痺を想定した実習も行われ、これらは高齢者介護とは大きく異なります。
そのため、初任者研修を修了し、介護士として働いている場合でも、重度訪問介護従業者の資格を取得することで、介護士としてのスキルアップが見込めます。
業務内容も高齢者・障がい者全体の「日常生活全般」と幅が広がるためスキルアップとして最適な資格です。
今回は、重度訪問介護で働くために必要な資格と、初任者研修修了者でも従事できるのかを紹介しました。
重度訪問介護は、重度の肢体不自由または重度の知的障がいもしくは精神障がいがあり常に介護を必要とする方に対して、ホームヘルパーが自宅を訪問し、入浴、排せつ、食事などの介護、調理、洗濯、掃除などの家事、生活等に関する相談や助言など、生活全般にわたる援助や外出時における移動中の介護を総合的に行う障がい福祉サービスです。
重度の利用者さんが対象となるため、誰でも介護を行えるわけでなく、重度訪問介護で働くためには、「介護職員初任者研修修了者」「介護福祉士実務者研修修了者」「介護福祉士」「重度訪問介護従業者研修修了者」のいずれかの資格が必要になります。
初任者研修修了者は訪問介護事業で高齢者介護を中心に行いますが、更なるスキルアップをしたい場合は、重度訪問介護従業者研修の修了が最適です。その理由として、重度訪問介護は介護の知識だけでなく喀痰吸引・経管栄養などの医療的ケアや、身体麻痺を想定した実習も行われるため、今まで以上に活躍の場を広げることができます。
重度訪問介護従業者研修は最短3日で取得できるため、今後の将来性からもおすすめの資格です。