デイサービスでは、提供する介護サービスについて介護記録を残す必要があります。しかし、統一された介護記録の書式はなく、各施設が独自の記録方法を選択しなければいけません。どのように介護記録を残せばよいのか迷う経営者も多いでしょう。この記事では、デイサービスにおける介護記録についてわかりやすく解説します。この記事では、デイサービスの場面ごとに介護記録の例文を提示しているので、より理解しやすいでしょう。
目次
デイサービスにおける介護記録とは、利用者の日々の生活や健康状態、介護支援内容などを記録する書類です。これにより、利用者の状態や変化に関する情報を職員間で共有するだけでなく、利用者や家族へ情報を提供できます。
デイサービスにおける介護記録は、利用者の状態や支援内容を共有するために、複数のスタッフや関係者が閲覧できるようにしておかなければいけません。また、介護記録は個人情報の保護対象なので、セキュリティ対策が万全な環境で保管する必要があります。
具体的な記録の方法はデイサービスごとに異なっていますが、守るべきルールがあるので注意しましょう。
デイサービスで介護記録を残す目的として、介護職員間の情報共有、介護サービスの品質向上、利用者や家族とのコミュニケーション、介護職員を守る、という4点が挙げられます。各目的について解説します。
デイサービスでは、介護職員だけでなく、理学療法士、作業療法士、看護師など、複数の専門職が勤務しています。多職種間での情報共有が不十分だと、重大な事故に繋がりかねません。日々変化する状況を介護記録に残すことで、多職種間での情報共有がスムーズに行えます。施設を安全に運営していくためにも介護記録が重要な役割を果たしているのです。
介護記録はリスク管理だけでなく、サービス品質の向上にも役立てられます。例えば、介護記録上では利用者の発言も記録として残されるため、複数の利用者による発言や行動内容を分析すれば事業所の問題点を発見できるでしょう。また、介護記録では、通所介護計画書で立てた目標に対してどの程度達成しているか、といった内容も記録されます。介護記録を見返すことで、利用者に対する介護サービスの振り返りもできるため、介護サービスの品質向上にも役立てられるでしょう。
介護記録は、利用者や家族とコミュニケーションをとるための手段にもなります。利用者の家族は、実際に利用している場面を見る機会が少ないので「デイサービスの中できちんとサービス提供されているのか」と不安に感じる方もいらっしゃいます。特に利用者と家族がコミュニケーションを取れない状況では、介護記録がデイサービスの様子を知るための貴重な情報源になるでしょう。利用者や家族との信頼関係を構築するためにも、介護記録は重要な役割を持っているのです。
デイサービスで事故が発生した場合、介護記録に残された情報が介護職員を守る証拠となります。介護現場では、閉鎖的な空間で介護サービスを提供することも少なくありません。仮に、デイサービスで事故が発生した場合、責任の所在を問われることもあるでしょう。デイサービスで発生した事故において、介護職員が、いつ、どこで、どのようなケアを行ったのか、という情報源になるため、介護記録の情報は非常に重要です。必ず介護記録には事実を記載して、提供する介護サービスの根拠となる情報を残していきましょう。
デイサービスで介護記録を残す際に、適当に情報を残していてはいけません。介護記録を記載する際には、以下の5つのポイントを意識して記録を残すとよいでしょう。
デイサービスで介護記録を残す際の各ポイントについて解説します。
介護記録を残す上で重要な情報は「5W1H」で記載するとよいでしょう。5W1Hとは、以下の情報のことを指しています。
5W1Hを意識して記録を残すことで、記録の内容から事実を読み取りやすくなります。例えば、以下の文章は具体的に何が起きたのかわからないでしょう。
【5W1Hを無視した記録】 |
Aさんが12時ごろ転倒。 |
大体の情報は伝わりますが、この情報は時間も出来事も曖昧です。どこで、なぜ、どのように転倒したのかわかりません。この文章を5W1Hで記載すると以下の文章になります。
【5W1Hを意識した記録】 |
Aさんが、12時10分に自室ベッド横にて、後方に転倒。臀部から地面に接地したようで、尾骨周囲に内出血あり。周囲にスタッフはおらず、通りかかった他利用者が発見。本人に聴取すると、ベッドからトイレへ行こうと立ち上がった際に転倒したとのこと。 |
5W1Hを意識しながら書くと状況を把握しやすくなります。上記のように詳細に記載すると、転倒が発生した現場を具体的にイメージできるでしょう。
介護記録は客観的事実に基づいて記載しなくてはいけません。例えば、利用者Aさんが転倒した状況を記録する場合に「トイレに行こうとして転倒したものと思われる」といった記載がある場合、適切な記録といえるでしょうか?この文章は、記録者の主観的情報にあたるので、避けるべきでしょう。
客観的事実に基づいて記録すると「Aさんより、トイレに行こうとベッドから立ち上がった、と発言あり」といった記載方法になります。記録者が「トイレに行こうとしたと思う」というのは主観的情報であり、Aさんが発言した内容は客観的事実に基づいた情報です。
介護記録を書く際は、客観的情報を具体的に記載するように心がけましょう。
介護記録は、デイサービスにおける公的な文書でもあるので、文末表現は「だ・である」調が望ましいでしょう。丁寧語の「です、ます」調で記載すると、余計な文章が増えてしまい、あとで情報を確認しづらく。また、スタッフごとに自由に記載してしまうと、情報が間違って伝わりかねません。介護記録を記載する際には「だ・である」調に統一して完結に記録しましょう。
デイサービスでは、利用者や家族が介護記録の開示を求めた場合、必ず情報を開示しなければいけません。介護記録は「利用者や家族が見るもの」という意識を常に持って、利用者を不快な気持ちにさせる表現は避けましょう。
介護記録に限ったことではありませんが、利用者に敬意を持った対応を常に心がけなければいけません。記録を記載する際に「利用者に対して上から目線になっていないか、利用者がこの文章を読んだらどう思うか」と考えながら書くようにしましょう。
介護現場では、職員間の情報共有をスムーズにするために専門用語や略語を使うことがあります。しかし、介護記録を書く際には、専門用語や略語は避けましょう。介護記録は、施設内の職員だけでなく外部の人も確認する書類です。特に、利用者本人や家族が確認した際に理解できない文章は記載すべきではありません。無意識に使ってしまうこともあるので注意しましょう。よくある専門用語と言い換えの事例は以下のとおりです。
実際にデイサービスで介護記録を残す際に、どのような文章を書くべきなのか例文を用いて解説します。デイサービスで提供されている介護サービス(食事、排泄、入浴、活動)の場面ごとに例文をまとめているので、介護記録を記載する際の参考としてお使いください。
食事場面での介護記録では、食事の時間、摂取量、献立などを記録に残しつつ、食事中の様子を記録するとよいでしょう。食事場面における介護記録の事例は以下をご参照ください。
食事場面の介護記録(例) |
9:30……食事開始 朝食メニューは、ごはん、味噌汁、焼き魚、納豆を提供。食事は箸を使用して完食。食事中、左に配置されていた小鉢(納豆)に対しては手を付けていなかったため、「こちらは食べられませんか?」と小鉢を見せて正面に移動させると「ありがとう」と言ったあとに食べられる。目の前に出すと気づいた様子だったので、左に配置されていた小鉢には気づいていなかった可能性あり。 次回、食事を提供する際は本人の視界に入る位置に食器を配置する。 10:00……食事終了 |
排泄に関する介護記録を残す際には、客観的な状況、本人の発言、その後の言動や行動について記録に残すとよいでしょう。排泄場面における介護記録の事例は以下をご参照ください。
排泄場面の介護記録(例) |
13:30……スタッフを呼び止めトイレへ行きたいと意思表示される。 スタッフと共にトイレへ移動すると、パッドから漏れて下着、ズボンまで尿汚染あり。本人より「ごめんなさい」と発言あり、対応したスタッフは「こちらこそ気が付かずにすみません。今替えのパッドと着替えを持ってきますね」と声かけをする。スタッフが着替えを取りにいく間に、トイレ内で排尿あり。持ってきたパッドと着替えに更衣完了後、利用者より「ありがとう」と発言あり。その後、レクリエーションに参加される。 13:45……トイレを出てレクリエーションに参加 |
入浴場面における介護記録では、介助を要した箇所、利用者の発言や行動、皮膚状態などに注意して記載するとよいでしょう。入浴場面における介護記録の事例は以下をご参照ください。
入浴場面の介護記録(例) |
10:30……スタッフの声かけにて脱衣所へ移動 脱衣所へ入ると、昨日の出来事などをスタッフに笑顔で話される。会話をしながら上衣・下衣を自力で脱衣可能。下衣を脱ぐ際には椅子に腰掛けて、麻痺側の右足から脱衣される。 10:35……入浴 浴室内では独力にてふらつきなく移動可能。洗髪動作の際に後頭部の洗い残しあり、スタッフの声かけにて自分で洗髪可能。左肩の洗体動作をスタッフが介助する。手すりを使用し、浴槽へのまたぎ動作は独力で可能。 10:45……入浴終了後、脱衣所で更衣 入浴後、体の拭きあげ、更衣は独力にて実施される。最後に「ありがとう」と行って脱衣所を出られる。 |
活動における介護記録では、活動中の様子、活動の内容、他利用者との関わりなどを記載するとよいでしょう。活動場面における介護記録の事例は以下をご参照ください。
活動場面の介護記録(例) |
14:30……レクリエーションでお菓子作り(ホットケーキ)に参加 スタッフから「一緒にお菓子作りをしませんか?」と声かけをすると「いいですよ」と笑顔で答えられ、お菓子作りに参加する。お菓子作りの際は、周囲の利用者と笑顔で家族の話をしている。ボウルを使って記事を混ぜる動作が困難なため、隣にいたスタッフに「手伝って」と依頼する。麻痺の影響で両手動作が困難なため、スタッフの介助が必要。 15:30……完成したホットケーキを他の利用者と共に食べる 娘と昔ホットケーキを作った思い出を話されながらお菓子を食べる。お菓子作り終了後にテーブルを拭きながら「とても楽しかった、またやりたいですね」と笑顔で話される。 |
デイサービスでの介護記録について、よくある質問についてまとめました。介護記録を残す際にお役立てください。
利用者に対する配慮が欠けた言葉は避けるべきでしょう。利用者や家族自身が確認する際に不快に思われるのはもちろんですが、不適切な表現を記録に残すと「記録者は利用者に対する敬意が欠けている」と捉えられる可能性もあります。記録を残したスタッフに対する不信感にも繋がりかねません。介護記録での表現には注意しましょう。
介護現場で用いられる記録法として「SOAP」や「F-SOAIP」といった方法もあります。
SOAPとは、主観(S)、客観(O)、判断(A)、計画(P)の4項目からなる記録方法です。F-SOAIPは、SOAPに着眼点(F)と介入(I)を合わせた記録方法です。介護記録の様式は施設ごとに自由に決められますが、記録様式が決められない場合は「SOAP」や「F-SOAIP」をもとに記録様式を作ってもよいでしょう。
この記事では、デイサービスにおける介護記録について、例文を提示しながら解説しました。デイサービスにおける介護記録とは、利用者の日々の生活や健康状態、介護支援内容などを記録する書類です。記録を残す際には、客観的事実に基づいた情報を完結に記載しなければいけません。また、利用者や家族に対する敬意の欠けた文章も避けるべきです。デイサービスにおける介護記録は、情報共有を図る目的だけでなく、介護職員を守るためにも重要な書類なので丁寧に記録を記載しましょう。