傾眠は介護現場においてよくみられる症状です。
しかし、具体的に傾眠が生じる原因・対処方法まで詳しく理解している方は多くいません。
この記事では、傾眠の原因・対処方法だけでなく、傾眠の症状を介護記録に記載する際の注意点まで詳しく解説します。
目次
傾眠は、意識障害の一種で、周囲からの軽度の刺激で意識を取り戻す状態のことです。
高齢者によくみられる症状として、1日中眠くなるケースが多くみられます。
しかし傾眠はただの居眠りではなく意識障害の一種であるため、自発的に動くことが少なく寝たきりの生活になりやすいです。
意識障害は下記の4段階に分類されます。
1.意識清明(正常)
2.傾眠
3.昏迷
4.昏睡
それぞれ解説していきます。
意識がはっきりして正常な状態になるため状況判断・意思疎通ともに問題なく可能です。
外部から肩をたたかれる・声をかけられるなど軽い刺激で意識を取り戻すため、深い眠りの状態ではありません。
傾眠傾向の場合は、名前の呼びかけなど簡単な声かけでも反応するので、積極的に声掛けすることが重要です。
また傾眠は寝不足によってウトウトとするような症状がみられますが、傾眠の場合であれば、現在自分がどこにいるのか・何時なのか・起きる前に何をしていたのかなどの場面が多くみられます。
傾眠の症状が進んでしまった状態のことで、大きい声での呼びかけ・強めの痛みなどの強い刺激を与えないと意識を戻さない状態です。刺激が強くなるため、刺激に対して、手で払う・嫌がるなどの反応が多くみられます。
傾眠が進行すると、昏迷状態となってしまうため、なるべく早く対応することが重要です。
昏迷が進んでしまった状態となり、外部から強い刺激を与えても意識を取り戻すことはなく、刺激に対する反応や不快感を避けようとする素振りも現れない状態です。
実際に傾眠傾向を起こしてしまう原因は1つではなく下記のようにさまざまです。
・認知症
・脱水症状
・慢性硬膜下血腫
・内科的疾患
・薬の副作用
今回は傾眠傾向となる上記の主要な原因について紹介します。
認知症の初期症状である無気力状態となってしまうと、起きている時も脳が興奮状態になること機会が少なくなり傾眠傾向が強くなります。
無気力状態となり、体内時計が狂ってしまうと、生活習慣が乱れ、昼夜逆転の生活となる・夜の睡眠時間が短くなるなどによって、昼間における傾眠傾向が強くなります。
内閣府が発表した「平成29年度版高齢社会白書」のよると、2012年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人であったが、2025年には約5人に1人になるとの推計しており、2025年以降も増加傾向と推定していることから、今後は今まで以上に傾眠傾向の高齢者は多くみられると予測されます。
参考:内閣府
脱水症状に陥ってしまうと、意識レベルが低くなり傾眠の原因となります。特に高齢者の場合は喉の渇きを感じにくく、体内に必要な水分を確保する機能が低下しているため、高齢者本人には脱水症状の自覚症状がないことも多くみられます。
厚生労働省では、成人が1日に必要とする水分量は2.5Lと推奨しているため意識して摂取しましょう。
参考:厚生労働省
慢性硬膜下血腫は、脳疾患の一つで、頭を打ったときに脳と硬膜の間に血腫ができ、脳を圧迫する病気で、血腫が大きくなることで傾眠傾向となります。
特に高齢者の場合、血管がもろくなっているため、軽く頭をぶつけた程度でも硬膜下血腫を引き起こしてしまう可能性があります。
慢性硬膜下血腫の症状として傾眠傾向以外にも、頭を打ってから1〜2カ月程度経過すると、頭痛・片麻痺による歩行障害などの症状が現れます。
慢性硬膜下血腫の治療方法は、基本的に外科手術が必要になるため、早めに気付くことが重要です。
そのため、事故・転倒などで頭を打ってしまった場合は、速やかに医師の診察を受けましょう。
内科的疾患で、臓器に何かしらの異常が生じている場合も傾眠が起きやすくなります。具体的には、体内で炎症が起きている・細菌やウイルスによる発熱などがあります。
人間は体内に異常が生じた場合、体を休ませようとする働きを持ち、その際に傾眠傾向が起こりやすくなります。
場合によって、傾眠傾向だけでなく、今いる場所や時間がわからなくなる場合もありますが、内臓の活動が正常に戻る・熱が下がるなどすると傾眠傾向がなくなります。
ただ、症状が不安な場合などは一度医師に相談しましょう。
普段服用している薬の副作用が傾眠傾向をもたらしている場合もあります。
特に高齢者の場合、さまざまな疾患を併せ持ち、多くの内服薬を服用しているため、肝臓の代謝が低下し薬の分解が遅くなっていることが原因で、副作用も若い方に比べ発生しやすい傾向です。
眠くなりやすい代表的な薬は、風邪薬や花粉症の薬です。これらの薬には「抗ヒスタミン薬」が含まれており、副作用として傾眠傾向を引き起こす場合があります。
その他にも、脳の細胞の興奮を抑える働きを持つ「抗てんかん薬」、認知症の薬の中にも、副作用で軽い傾眠傾向が出る場合があります。
傾眠傾向はさまざまな原因で生じますが、実際に生じさせない、もしくは傾眠傾向の場合でも悪化させないためには下記のような対処法がおすすめです。
・積極的に話しかけたり、軽い運動をする
・こまめな水分補給を促す
・薬の量を調節する
これらの主要な対処法について解説します。
外部からの刺激を定期的に与える方法として、積極的に話しかけて眠る隙を与えないようにします。
話しかけることで、目を覚ますことができるだけでなく、積極的にコミュニケーションをとることで脳の働きが活発になる効果も期待できます。
それに合わせて、日中に散歩するなど軽い運動を促すようにします。
体を動かすことで、眠りに落ちてしまわないだけでなく、血流がよくなって脳が活性化されるため、昼夜逆転していることが多い場合においても、夜間の睡眠向上にも繋がり、生活リズムを整えることができます。
ご高齢の方は喉の渇きを感じにくいため、自分の判断ではなく、周囲が必要に応じて水分摂取を促すことを意識しましょう。
1日に飲む必要がある水分量を把握するために、ペットボトルなどを利用して、飲む量を確認することも効果的です。
なかなか、飲み物で水分を摂取できない場合は、食事から摂るように工夫します。
例えば、ご飯をおかゆ・雑炊に変える、汁物のスープやみそ汁を1品追加するなどの工夫をします。
また、トマトやきゅうりには水分が多く含まれているため、サラダとして出すなどがおすすめです。
その他にも、おやつにゼリー・プリンなどを出すなど、飲み物から水分を摂りにくい場合は、食事から摂るなどして負担がかからないように工夫することが重要です。
薬の副作用が傾眠の原因と考えられる場合は、飲む薬の種類や量の調整が必要です。
しかし、処方されている薬を勝手に調整することは望ましくありません。
そのため、どの薬を飲んだ時にどのような症状がどれくらいの時間生じてしまうのかなど、普段から注意して行動を観察し、医師に話すことで具体的な相談をできるようになります。
介護は一人の力で行うことは難しく、一般的に複数のスタッフがチームとして携わります。そこで重要になるのが、利用者さんそれぞれの状況や言動などを記録した「介護記録」です。
介護記録は、現場の介護スタッフが見るだけでなく、他職種や場合によっては家族さんも見る場合があるため、なるべく専門用語を使用せずに記録することが重要です。
介護には、一般的な日常生活では使われない専門用語があり、その中の1つとして「傾眠」があります。
専門用語は、知っている人には伝わりやすいものの、知らない人には理解できないだけではなく、不安を与えてしまう可能性もあるため、傾眠がみられる場合は、「ソファにて穏やかな表情で30分程度ウトウトされていた」など具体的に分かりやすい言葉に変換しましょう。
今回解説したように、傾眠はさまざまな原因で生じます。
原因によっては、今回解説した内容をしっかり行うことで症状を改善できますが、慢性硬膜下血腫など脳疾患の場合は、専門的な治療が必要なため、症状が気になる場合は自分たちで判断せずに医師の受診を一度行うようにしましょう。
また、傾眠は専門用語になるため、介護記録に記載する場合は誰でも分かる言葉に変換して情報を共有することが重要です。