介護の現場において「介護記録」をつけることは重要な業務です。ただ書くだけではなく、より質の高い介護を利用者やその御家族に提供するためのツールとして役立つような内容でなければいけません。
そんな介護記録をつける際には守るべきルールがあり、使ってはいけない言葉がいくつかあります。
こちらの記事では、介護記録の目的や使ってはいけない言葉について詳しくご紹介します。
目次
文字通り介護の内容を記録として残すものが介護記録です。介護事業所内のみで使用するものではなく、利用者の御家族や介護に携わる医師などが見る機会もあります。また、必要とあれば行政にも開示する公的文書なので、言葉や表現に気をつける必要があります。
介護記録をつける場合に使ってはいけない言葉を紹介する前に、そもそもなぜ必要なのかを知っておく必要があります。介護記録の目的は以下の通りです。
・情報共有のため
・事故が発生した際の証拠のため
・介護サービスの品質向上のため
・利用者やそのご家族とのコミュニケーションのため
介護の現場において重要なのは、利用者一人ひとりに適したサービスを提供することです。そのためには、利用者の状況をしっかり把握して、介護に関わるスタッフ全員でその情報を共有する必要があります。また、質の高いサービスを提供している証拠となる介護記録は加算の算定評価にもつながるので、事業所にとってもメリットがあると言えます。
具体的に介護記録の書き方のポイントをまとめると以下のようになります。
・「5W1H」を意識
・「だ・である」調を使用する
・情報源を明確に
・専門用語や略語はつかわない
・主観的な表現は避ける
・簡潔にまとめる
介護記録は事業所内のスタッフ以外の人も目にする共有ツールです。まずは誰にでも伝わるような表現でわかりやすい文章にするのが大前提です。介護に携わることのない人にもわかるように、専門用語や医学用語は使用しないようにします。また、主観的な表現は正しいとは限らないので、あくまでも客観性を意識することが重要です。
介護記録をつける際に注意しなければいけないポイントが表現や言葉使いです。前出の通り介護記録は公的文書として効力を発揮する場合もあるので、誰が読んでも理解できる文章で記入するのが前提となります。
また、介護事業所にとっては利用者に最適な介護サービスを提供している証でもあります。そして何よりも、利用者やその御家族にとってより良い介護サービスを提供できるよう、利用者の健康状態や精神状態を把握するために必要不可欠です。本来の目的を踏まえ、以下に挙げる使ってはいけない言葉は使用しないようにしましょう。
これは記録だけでなく、現場でもスタッフ同士の会話でも同じくですが、介護記録に侮辱的な表現を使うことは許されません。その気がなく無意識で使ってしまっている言葉が、第三者からすると侮辱的な表現となり得る可能性もあるので、細心の注意が必要です。
例えば、介護の現場ではよく使われがちな「認知」という言葉ですが、利用者の行動に対して「認知がある」という表現は適切ではありません。認知症を有している利用者の言動や行動に対しては「認知症だから」ではなく「認知症の影響で」と理解して、介護記録には「認知」という言葉を記載しないのが正解です。
また、認知症の症状でもある徘徊や不潔行為に対しても同じく配慮が必要です。介護する側の目線から見た言葉は、利用者を見下すような表現になってしまいがちなので、利用者のありのままの言動や行動を記載しましょう。
利用者の人格を無視するような表現も侮辱的な言葉と言えます。例えば「勝手に」「しつこい」「ボケ症状」などは、たとえ悪気がなくても利用者本人やその御家族、第三者からは人格を無視した表現とみなされる可能性があるので使用できません。
具体例 | 望ましい表現 |
認知症のため道に迷ってしまった | 出かけた際「帰り道がわからない」と発言されていた |
何度も同じ質問をするなど認知症の症状が見られた | 何度も「これはなに?」とスタッフに尋ねられていた |
約30分徘徊していた | ・部屋と廊下を約30分行き来されていた ・約30分施設内を散歩されていた |
居間での不潔行為があった | 居間でオムツを外されていた |
しつこく同じ話をする | 約30分の間に5回ほど「○○」についてスタッフに同じ話をされた |
介護の現場において、利用者とスタッフはあくまでも対等な立場であるのが基本です。もし「少し休憩しようね」と穏やかに声掛けをした場合でも、介護記録に「休憩をさせた」と記録すると上から指示しているイメージを与えてしまう可能性もあります。
介護記録は利用者とスタッフの行動に関して具体的に記録しなければいけませんが「〇〇させた」「○○を促した」といった表現は高圧的に接しているような印象を持たれてしまう可能性があります。結果として、利用者の御家族が介護スタッフに不信感を抱く原因にもなりかねません。
声掛けをしたり何かしらのサポートをした場合、介護記録には「○○をおすすめした」「○○してはどうですか?と声掛けをした」と記載するとやわらかい印象になります。あくまでも対等な立場で、利用者に寄り添いながら介護にあたっていることがうかがえる表現を使ってください。
介護の現場では様々な専門用語や略語が使われますし、介護事業所独自の表現もあります。それらの専門用語は介護職員には当然わかりますが、利用者やその御家族など専門知識がない人にとっては理解できない場合もあります。
介護記録に理解できない言葉が記載されていたら、不安を与えてしまう可能性もあるので、誰が読んでも理解できる文章を心がけるべきです。専門用語や略語は、できる限りわかりやすい言葉で記載しましょう。
専門用語・略語 | 言い換え例 |
傾眠 | 〇分ほどソファに座ってうとうとされていた |
排泄介助 | トイレにてズボンの上げ下ろしのサポートをした |
一部介助 | 〇〇(介助した具体的な部位)を介助した |
全身清拭 | 身体全体を拭いた |
レクに参加した | 〇〇のレクリエーションに参加した |
PT | ポータブルトイレ・Pトイレ |
ADLが低下した | 歩行が難しい状況だったので車椅子を使用した |
Ns | 看護師 |
介護職員は医師ではないので、医学的な言葉は使用できません。例えば、利用者の体調が悪くなった場合には、その状態を表す「頭痛」「腹痛」「発熱」といった表現はOKです。しかし、熱が高く咳がひどい場合に「肺炎」と記載することはできません。医師から「肺炎」と診断されるまで、介護職員の判断で医学的な言葉を使用しないようにしましょう。
他にも「胃腸炎」「血尿」「骨折」「打撲」などの言葉は使用を避けるべきです。とはいえ報告しないわけにはいかないので、見た目や感触などを正確に記録します。例えば外傷であれば「擦り傷」「切り傷」など。胃腸炎らしき症状の場合は「〇時頃から腹痛と吐き気の症状が見られた」とありのままの症状を詳しく記載します。
介護記録は、あくまでも公的な記録であり、日記ではありません。介護スタッフの個人的な感情や憶測は抜きにして、客観的な視点から事実を記載する必要があります。年月日・時刻・場所・数値を一貫した表記で記載し、介護関係者以外が読んでも理解できる内容であることが重要です。
例えば「〇〇の時とても楽しそうに見えました」という文章は、スタッフがそう見えただけで利用者にとってはそうでないかもしれません。その場合は「○○の時に笑顔を見せていました」と客観的な事実を記載するべきです。
ただし、主観的な内容が利用者にとって重要な情報となり得る場合もあります。その場合は、主観的な情報と客観的事実が区別できるような文章にする必要があります。「笑顔が見られ『楽しい』との発言もあったので楽しい時間を過ごせたと思われる」のように、根拠と共に記載してください。
利用者の情報を介護に携わる全ての人と共有したり、公的文書としての効力もある介護記録。介護職員にとって、そんな介護記録を正しく記載することは重要な仕事のひとつです。使ってはいけない言葉には細心の注意を払い、誰が読んでも内容が明確にわかる内容にして、より良い介護環境の提供につなげていきましょう。