言語聴覚士はリハビリ専門職のひとつです。しかし、健常者が生活している中で言語聴覚士と関わる機会が少なく、得られる情報が限られているため、具体的な仕事内容や資格の取得方法について詳しく知りたい方も多いのではないでしょうか。
この記事では、言語聴覚士の仕事内容や資格を取得する方法などについてわかりやすく解説します。また、この記事を読むことで、言語聴覚士の将来性や年収についても把握できます。
目次
言語聴覚士は、話す、聞く、食べるという機能に特化したリハビリ専門職です。
人がコミュニケーションをとるには、言語、聴覚、発声・発音、認知など多くの機能が関与しますが、これらの機能に障がいを抱えると日常生活で円滑なコミュニケーションが取れなくなってしまいます。言語聴覚士は、それらの障がいに対して専門的なリハビリテーションを提供し、クライアントが自立した生活を送れるようサポートします。また、コミュニケーションに関する機能だけでなく、摂食・嚥下の問題に対してもリハビリテーションを実施します。
日本で言語聴覚士による訓練を実施する場合、医師または歯科医師の指示のもとでしか提供できません。そのため、医師や看護師、その他の医療・介護職との連携が重要な職種でもあります。
言語聴覚士は、「話す」「食べる」という能力において障がいを抱えた方に対してリハビリテーションを行います。ここでは、言語聴覚士による訓練の対象者や具体的な訓練の内容について詳しく解説します。
言語聴覚士による訓練の対象となる障がいは、以下の6つが挙げられます。
障がいの種類 | 症状 |
言語障がい | うまく話せない、話が理解できない、文字が読めない |
高次脳機能障がい | 忘れやすく、思い出せないことが多い、気が散りやすい(集中して物事に取り組めない)、複雑な内容を手順通りに進められない |
発声障がい | 声が出にくい、声がかすれる、小さくなる |
構音障がい | 発音がはっきりしない |
嚥下障がい | 上手に噛めない、うまく飲み込めない |
聴覚障がい | 相手の声が聞き取れない、何度も聞き返す、テレビの音を大きくする |
主に、話す・聞くといったコミュニケーションに関する障がいを対象としていますが、その他にも高次脳機能障がいや摂食・嚥下障がいも訓練の対象となります。
言語聴覚士が行うリハビリテーションの対象者は、年齢層も症状も多種多様で幅が広いため、対象者の状況に合わせた訓練が求められます。言語聴覚士が行う主な訓練の内容は、以下の5つに分類されます。
摂食・嚥下訓練は、食べ物を咀嚼して飲み込む機能を改善するための訓練です。具体的な訓練内容として、首や舌などに対して行う間接訓練と、食事形態の工夫や食事姿勢の改善などの直接訓練があります。
言語・認知機能訓練とは、脳卒中や認知症などの疾患により、思ったことを言葉にできない方や認知機能に障がいを抱えた方に対して実施する訓練です。
病気や事故によって、呂律が回らなくなる、頭の中で思っている言葉と違う発語をしてしまうという症状がみられる方もいらっしゃいます。そのような症状がある方に対して、思った通りの発声・発語ができるように訓練を実施します。
子どもの発達段階において、言語や認知機能の発達が遅くなってしまう方もいます。その原因は人によって異なり、原因に応じた適切な訓練を実施します。
話す能力だけでなく、聞く能力に対してもアプローチを行います。場合によっては、言語聴覚士が補聴器や人工内耳の調整などを行うこともあります。
言語聴覚士が働く職場は、主に医療施設や介護・福祉施設です。一般社団法人 日本言語聴覚士協会の公式サイトでは、以下の職場が紹介されています。
施設の種類 | 具体的な施設名 |
医療施設 | 大学病院、総合病院、専門病院、リハビリテーションセンター、診療所など |
介護施設 | 介護老人保健施設、デイケア、訪問看護事業所、訪問リハビリテーション事業所など |
福祉施設 | 肢体不自由児施設、重症心身障がい児施設、児童発達支援センター(事業所)、放課後等デイサービスなど |
保健施設 | 保健所・保健センター、行政機関 |
教育施設 | 小中学校、特別支援学校、研究施設、言語聴覚士教育施設(大学、短大、専門学校)など |
一般社団法人 日本言語聴覚士協会の公式サイトには、日本言語聴覚士協会会員が所属している機関に関するデータも公開されています。最も多い勤務先は、医療で60.27%でした。次に多かったのは、医療/介護の17.87%、その次に多かったのが介護の6.49%となっています。
このデータから、多くの言語聴覚士が医療施設で働いていることがわかります。ただ、教育現場などの医療・福祉と関係のない職場で働く言語聴覚士が一定数いることも理解しておきましょう。
言語聴覚士として働くためには国家試験に合格する必要があります。ただし、国家試験の受験資格を得るためには、以下の2つのルートで専門知識と技能を習得する必要があるため注意しましょう。
上記のいずれかのコースで決められたカリキュラムを修了し、国家試験に合格できれば、言語聴覚士として働けます。なお、国家試験は毎年3月に行われ、合格率は50%〜60%台で推移しています。
厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「jobtag」によると、言語聴覚士の平均労働時間は月161時間で、平均年収は約430.7万円です。また、同サイトに公開されているハローワーク求人統計データによると、月額平均賃金は25万円で、有効求人倍率は3.74倍です。
これらの情報から、理学療法士や作業療法士など、その他のリハビリ専門職とほぼ同じ条件と考えてよいでしょう。
日本言語聴覚士協会が公開しているデータによると、言語聴覚士試験の合格者は1999年以降右肩上がりに上昇し続けています。毎年1,600人から2,000人程度が合格し、2023年3月には4万人近くまで増加しました。言語聴覚士数が増加し続けていることから、まだ社会的なニーズがあることがわかります。
また、2024年介護報酬改定でも「リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組の推進」が重要な項目として位置付けられており、介護分野でも口腔・嚥下のプロである言語聴覚士の活躍が期待されています。
今後、超高齢社会となった場合に、コミュニケーションや口腔・嚥下機能に障がいを抱える高齢者が増加することも予測できます。現在は、多くの言語聴覚士が医療施設で働いていますが、今後は地域の高齢者施設や福祉施設で活躍する言語聴覚士も増えていく可能性はあるでしょう。
言語聴覚士が専門とする「コミュニケーション」や「食事」という分野は、人が生きていく上で欠かせない能力のひとつです。それらの訓練に関わり、成果が見えた時に対象者と一緒に達成感を味わえるのが言語聴覚士の魅力です。
例えば、失語症などにより、思ったように家族とコミュニケーションを取れなかった患者さんに対して言語訓練を開始したとします。言語訓練を通して少しずつ会話ができるようになり、最終的に家族と会話をしながら食事ができるようになることもあります。家族と会話をしながら食事をすることは、障がいを抱えていない人にとっては些細なことですが、言語や嚥下に障がいを抱えた方にとっては切実な願いです。障がいを抱えた方は、以前のように家族と楽しい時間を過ごせることに生きがいを感じ、再び笑顔で生活できるようになるのです。
そのような場面に立ち会い、患者さんと一緒に達成感を味わえることが言語聴覚士にとって最大の喜びであり、やりがいを感じる瞬間でもあります。
言語聴覚士はコミュニケーションに関する訓練を行うため、相手の話をじっくりと聞ける方が向いています。対象者が「伝えたい」と思って発語をすることが言語訓練において重要です。そのため、言語聴覚士には、対象者の話をじっくりと聞いて、相手の気持ちに寄り添うことが求められます。
また、細かいことに気づける観察力も言語聴覚士に求められる能力のひとつです。言語訓練の対象となる方は、うまく言葉で気持ちを伝えられません。そのため、表情の変化や口の動きを観察して、相手の気持ちを汲み取れる能力が求められます。日々の細かい変化に気づき、気を配れる方は言語聴覚士に向いているでしょう。
言語聴覚士には、根気強さも必要です。言語訓練を実施したからといって、すぐに改善することはありません。数ヵ月かけて訓練し、それでも思ったように効果が感じられないこともあるでしょう。思ったように効果が感じられないことで、対象者の言語訓練に対するモチベーションが下がってしまうこともあります。そんな中でも対象者を励まし続け、長期的な訓練をひたすら繰り返せる根気強さが言語聴覚士には必要です。
今後、言語聴覚士を目指している人の中には、その他のリハビリ職との違いや、開業について気になっている方も多いでしょう。ここでは、言語聴覚士に対するよくある質問について解説します。
言語聴覚士として開業することは可能です。ただし、医師の指示がない環境で言語訓練や構音訓練を実施することはできないため、言語聴覚士が1人で保険適用のリハビリ施設を立ち上げることはできません。
言語聴覚士として開業したい場合、デイサービスなどの介護施設を開業し、その中で機能訓練を行う方法が考えられます。また、食事や嚥下のサポートを行うサービスを提供する保険適用外の施設を自分で作ることは可能です。
言語聴覚士以外のリハビリ専門職として、理学療法士と作業療法士があります。3つのリハビリ専門職の違いについては、以下の表をご参照ください。
資格名 | 役割の違い |
言語聴覚士 | コミュニケーション能力や口腔・嚥下機能に関するリハビリテーションを行う |
理学療法士 | 「歩く」「立つ」など、日常生活で基本となる心身機能のリハビリテーションを行う |
作業療法士 | 日常生活動作や社会復帰に必要な「作業」に焦点を当てて、身体機能と精神機能の向上を目指したリハビリテーションを行う |
理学療法士は、身体機能面に関するリハビリテーションを行う専門職です。一方、作業療法士は、日常生活動作や社会復帰に求められる作業に焦点を当てて訓練を行う専門職です。3つのリハビリ専門職は、それぞれ専門分野やアプローチ方法が異なるため、同じ対象者でも見るポイントや訓練の内容が大きく異なります。
言語聴覚士は、コミュニケーションや食事に関するリハビリテーションを行う専門職です。具体的には、言語障がいや嚥下障がいを抱えた方に対して、言語訓練や摂食・嚥下訓練などを実施しています。
今後、超高齢社会を迎える日本において、コミュニケーションや食事に関する問題を抱えた方は増加していきます。そのため、今後さらに言語聴覚士が活躍する場面が増えていく可能性は高いでしょう。
言語訓練や嚥下訓練によって対象者の生活の質が向上し、一緒に喜びを分かち合えることが言語聴覚士の最大の喜びであり、やりがいを感じる瞬間です。もし、人とのコミュニケーションに興味があり、やりがいを持って働ける仕事を探しているのであれば、言語聴覚士として働くことを検討してもよいでしょう。