社会福祉主事は、社会福祉の現場で不可欠な役割を果たす専門職で、高齢者・障がい者・子どもなど多くの方々が対象です。今回は社会福祉主事の仕事内容について解説するだけでなく、任用資格との違い・資格取得方法まで詳しく紹介します。ぜひ、最後までお読みください。
目次
社会福祉法に基づいて都道府県や市町村の福祉事務所で勤務して市民の生活支援などを行う職業で、基本的に高齢者、障がい者、生活困窮者などの生活に困っている人を助けるのが役割です。
社会福祉主事は社会福祉の資格の中で最も古く、1950年(昭和25年)5月に制定されました。そもそもの始まりは、1946年(昭和21年)に日本国憲法を制定し、その第25条に記載されている国民が「健康で文化的な生活を営む権利」として生存権を保障し、社会福祉が整えられるようになりました。
その後、社会福祉を具体化する法律として福祉六法が制定され、「援護・育成又は更生の措置に関する事務」をおこなう機関として、福祉事務所が設置されるようになりました。なお、福祉六法は下記です。
社会福祉主事の「主事」とは、「公的機関・法人・団体などに設置される事務担当者」を指し、実際に社会福祉主事として働くためには、「社会福祉主事任用資格」の取得が必要です。
社会福祉主事任用資格の「任用資格」とは、公務員の職に就くときに求められる資格となるため、任用資格を持っている人が公務員試験に合格して配属されることで、初めて社会福祉主事として働けます。そのため、社会福祉主事任用資格を持っているだけでは社会福祉主事にはなれないため注意が必要です。
これらのことから、「社会福祉主事任用資格」を取得しているものの、病院や介護施設などで利用者の社会福祉相談に乗っている方は「社会福祉主事」とは呼ばず、「医療ソーシャルワーカー」や「生活相談員」として勤務しています。
社会福祉主事は下記のようなさまざまな場所で活躍しています。
施設説明 | 福祉事務所は社会福祉法第14条に定められている「福祉に関する事務所」のことで、福祉に関する事務所の所管区域として、都道府県・市には設置が義務付けられている。(町・村の設置は任意) ※現在、福祉事務所は全国で1,247ヵ所、そのうち都道府県で205ヵ所、市で742ヵ所が設置されている。 |
仕事内容 | 地域の福祉の窓口として、
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勤務要件 | 社会福祉主事任用資格を取得して国家試験に合格する。 |
施設説明 | 身体障がいのある方の更生援護を目的に、都道府県や政令指定都市に設置された専門機関。 |
仕事内容 |
また、業務の範囲は身体障害者更生相談所の中だけでなく、身体障がいのある方や高齢者の身体機能の維持・向上を目的とした自宅への訪問指導など、地域リハビリテーションの推進を目的とした事業も行う。 |
勤務要件 | 身体障害者更生相談には、身体障害福祉司の配置が義務付けられている。 |
施設説明 | 18歳以上の知的障がいのある方に対して、相談指導・助言・専門的な技術支援を行う専門機関で、知的障害者福祉法により、各都道府県に設置が義務付けられている。 |
仕事内容 |
また、相談所内以外でも市町村と連携して、専門的な技術援助や職員を対象とした研修・巡回相談も行う。 |
勤務要件 | 知的障害者更生相談所には、知的障害者福祉司の配置が義務付けられている。 |
施設説明 | 児童福祉法に基づいて設置される相談機関で、子どもの健全な成長発達を支援する役割がある。 |
仕事内容 | 原則として、18歳未満の子どもが抱える困り事に対して、問題解決に取り組む。また、相談・通告は、本人・家族だけでなく、学校の先生や地域住民などから下記の内容を受けている。
その他にも、状況によっては、子どもを一時的に保護したり、児童養護施設などへの入所判断も行う。 |
勤務要件 | 児童相談所には、児童福祉司の配置が義務付けられている。 |
施設説明 |
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仕事内容 | なし |
勤務要件 | なし |
社会福祉主事とよく似た資格で、「社会福祉士」「介護福祉士」があります。しかし、これらの資格は下記のように異なった役割があります。
1987年の「社会福祉士及び介護福祉士法」制定と同時に設置された社会福祉業務に携わる名称独占の国家資格です。そんな社会福祉士は、「社会福祉士及び介護福祉士法」の第2条に基づいて下記のような仕事を行います。
専門的知識及び技術をもって、身体上もしくは精神上の障害があること、または環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連携及び調整その他の援助を行うことを業とする者をいう。
仕事内容は社会福祉主事と似ていますが、社会福祉主事の資格は「任用資格」、社会福祉士の資格は「国家資格」です。また、下記のように働く場所も異なります。
資格名 | 主な職場 | 仕事内容 |
社会福祉主事 |
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社会福祉士 |
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介護福祉士は、「社会福祉士及び介護福祉士法」に定める、数ある介護の資格の中でも唯一の国家資格です。介護福祉士も社会福祉士と同じく、「社会福祉士及び介護福祉士法」の第2条に基づいて下記のように定義されています。
専門的知識及び技術をもつて、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護(喀痰かくたん吸引その他のその者が日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示の下に行われるものを含む。)を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者をいう。
つまり、介護福祉士は専門知識と技術を活かして利用者の身体上・精神上のケア、現場職員の指導や育成を行う介護職のスペシャリストのことです。
社会福祉主事になるためには下記の5つのルートのどれかを選ぶ必要があります。
大学または短大で、指定された社会福祉関連の科目を3科目以上履修し卒業することで社会福祉主事の資格を取得できます。なお、この指定科目は、時代の変遷とともに科目名の変更を行っているため、ご自身が大学・短大を卒業した年度において規定されていた指定科目名に基づいて該当するか確認する必要があります。
確認をする際は、自らが大学・短大で履修した科目の名称と、指定科目名とが原則一言一句同じでなければ指定科目を履修したものと認められないため注意が必要です。平成12年〜現在までの卒業者を対象にした指定科目は下記です。
社会福祉概論、社会保障論、社会福祉行政論、公的扶助論、身体障害者福祉論、老人福祉論、児童福祉論、家庭福祉論、知的障害者福祉論、精神障害者保健福祉論、社会学、心理学、社会福祉施設経営論、社会福祉援助技術論、社会福祉事業史、地域福祉論、保育理論、社会福祉調査論、医学一般、看護学、公衆衛生学、栄養学、家政学、倫理学、教育学、経済学、経済政策、社会政策、法学、民法、行政法、医療社会事業論、リハビリテーション論、介護概論
社会福祉主事は、以下に示す学校の通信課程で1年学ぶことでも資格を取得できます。
受講期間は集合研修5日間を含む1年間で、最後に修了試験があります。課程は都道府県または市区町村の職員として社会福祉事業などに従事している場合は「公務員課程」、一般的な社会福祉事業所で働いている場合は「民間課程」を選択します。
注意点としては、個人での申し込みはできず、受講者が公務員の場合は都道府県・政令指定都市・中核市社会福祉研修主管課が申し込みを行います。また、受講者が一般的な社会福祉事業所で働いている場合は、勤務する事業所や団体の所属長が受講の申し込みを行うことが定められています。
毎年4月から1年間開講される通信教育で、5日間の集合研修を含む1年間の受講期間のなかで、19本のレポート提出が求められます。日本社会事業大学の通信教育科は、スクーリング日程をAコースからCコースまで選択できるため、働く人でも通いやすいメリットがあります。
ただ、「中央福祉学院 社会福祉主事認定通信過程」と同じく、講座の申し込みは働いている福祉事業所の所長のみだけできるため、個人での申し込みはできません。また入学には書類審査があります。
介護・福祉系の専門学校のことで全国に指定校があります。 この専門学校で全22科目を1,500時間かけて履修するため、一般的には、2〜4年課程でカリキュラムが組まれており、指定養成機関を卒業すると同時に社会福祉主事任用資格を取得できます。なお、社会福祉主事養成機関は2023年4月時点では全国に28校あります。
都道府県などが開催する19科目・279時間の指定科目を受講することで社会福祉主事の任用資格を取得できます。ただ、受講対象者は下記の方に限られているため注意が必要です。
また、申し込みも個人では行えず、受講希望者が勤務する施設や団体の所属長が行います。
社会福祉士もしくは精神保健福祉士の国家試験に合格している方は、社会福祉主事の任用資格を得られます。そのため、公務員試験に合格して福祉事務所や市役所に配属されることで、そのまま社会福祉主事として勤務できます。
多くのメリットがありますが、その中でも主要な内容は下記です。
福祉事務所で働く職員は、公務員として勤務しながら介護・福祉の仕事にも関われます。福祉事務所で働く職員は公務員の一般職として入社するため、どの部署に配属されるかは分かりませんが、「福祉事務所には社会福祉主事の配置が義務付けられている」ことから、この資格を所持していれば福祉事務所に配置される可能性は高くなります。
資格を取得することで、公立・民間など関係なく、さまざまな就職先から自分のライフスタイルや家庭の事情などに合った職場を探せます。また、多くの就職先があることから、給与アップも期待できるメリットがあります。
社会福祉士は国家資格のため試験に合格する必要がありますが、その合格率は30%程度と非常に狭き門です。比べて社会福祉主事任用資格は、指定科目の履修をして大学などを卒業すれば資格を取得できるため、社会福祉士に比べると取得がしやすくなっています。
今回紹介したように、社会福祉主事は公務員という立場でありながら介護・福祉の仕事に携わることができます。実際に働くためには、社会福祉主事任用資格の取得が必要ですが、取得するためのさまざまなルートがあるので、自分に合ったルートを選択して社会福祉主事を目指しましょう。