高齢化の進展に伴い、要介護者の増加・介護期間の長期化などの介護ニーズが年々増加傾向にあります。
しかし、利用者の立場から「どのような介護サービスを利用すればいいか」「どの事業所を選べばいいかわからない」といった訴えが多くありました。
そこで介護サービスを利用地域ごとでまとめた「介護サービス情報公表制度」が登場しました。
今記事では、そんな情報公表の定義や公表内容、調査の流れ、具体的な方法についてご紹介したいと思います。
目次
介護サービス利用において最適なサービスを受けられるように、介護保険法の規定に基づき都道府県が情報を提供している「介護サービス情報公表制度」のことをいいます。
介護保険についてなんとなく知っているが、事業所の選択やどのようなサービスを利用していいかわからない人に向けて「公平・平等にサービスを提供する」理念のもと作成されました。
インターネットを通じて、全国の介護サービス事業所の内容や実態などの詳細情報を確認できるシステムで、現在は全国21万か所の介護サービス事業所が検索・閲覧可能です。
事業所の特色は自由記載であるため内容はサービスや事業所によって様々です。
事業所の写真・動画などの事業所のアピールポイントが記載されています。運営情報はリストに挙げた項目がレーダーチャートにより表示され、事業所全体の状況が把握できます。
その他は処分や指導に関する項目を設定している都道府県がほとんどです。それぞれの事業所を基本的な情報で比較したり、特色で比較したりと、最大30事業所まで比較できる仕組みとなっています。
このような情報がインターネットを利用して誰でも気軽に情報を入手することができるため、情報公表は介護保険サービスを利用する際の情報収集に役立ちます。
介護サービス事業者には介護情報サービスを公開する義務があります。
1.介護サービス事業所は、都道府県知事に厚生労働省令で定められる情報(基本情報、運営情報)を報告しなければならない。
2.都道府県知事は、当該報告を受理したときは、調査を行い、その結果を公表しなければならない。
引用元:介護サービス情報公表センター
このことは、介護保険法第115条の35(介護サービス情報の報告及び公表)に明記されており、未報告・虚偽の報告・調査の拒否・調査妨害をすると都道府県知事による処分が下されることがあります。
これにより、介護サービスの情報入手おいて、事業者よりも弱い立場にある利用者を守ることができます。
事業者側からしても、情報公表することで政府からの認定を受けた安心のある事業所と好印象を与えるでしょう。
介護サービス情報公表制度の報告対象は、予防事業を含めた以下のサービスを提供する事業者となります。
参考:厚生労働省
以上のサービスにおいて下記いずれかの基準を満たす事業所が公表の対象となります。
「100万円以下の事業所」「その他都道府県知事に対して報告することができない正当な理由がある事業所」については特例が認められることがあります。
未報告があると、処分の対象となるため事業所は必ず情報公表しましょう。
公表する介護サービス情報は介護保険法に定められており、基本情報・運営情報・事業所の特色・独自項目の4つが公表されます。(運営情報は、基本情報の記入年月日よりさかのぼった過去1年間が対象期間となります。)
また、新規事業所は基本情報のみが公表となります。公表情報は事業所が登録した情報に基づいて、情報公表システムに公表されるという仕組みになっています。
事前に事業所の事業内容などをまとめておくと、記載する際に情報が整理しやすくなりますよ。
調査項目は公表する項目となる基本情報・運営情報・事業所の特色の3つです。基本情報・運営情報は必須項目、事業所の特色は任意項目となっています。
また事業所には、介護サービスごとに必須研修が設けられています。必須研修が実施されないと診療報酬の加算がとれないなど事業所にとってはデメリットが多いです。
必須研修には下記の項目があります。
サービスの種類により必須となる研修は様々です。
必須研修に関しては定期的に実施指導が行われたり、随時監査による指導が入るため前もって準備しておく必要があります。
①上記いずれかの条件を満たす事業所は所在地を管轄する都道府県に報告をします。その後、都道府県または委託している指定情報公表センターより情報公表に関する連絡が届きます。(事業開始前の連絡期限については自治体により様々ですが、介護サービスを開始する2週間前までに期限を設定している自治体が多いです。)
②届いた内容に沿ってインターネット上で必要事項を記入して申請します。
③都道府県又は指定情報公表センターは内容を審査し、都道府県が必要と認める場合に訪問調査を実施します。調査は管轄の都道府県または都道府県知事の指定を受けた指定調査機関である情報公表センターの職員が行います。(インターネット上の情報公表は義務となっていますが、訪問調査に関しては介護サービス事業者が自ら調査を希望する場合に実施可能です。)
また特例として訪問調査に報告された介護サービス情報の内容に虚偽が疑われ、知事が調査必要と認める場合・介護サービス情報の報告について都道府県の指示や指導に従わない場合は、訪問調査が行われます。
管轄の都道府県もしくは情報公表センターに事業所情報に報告書を申請後、登録されます。
内容の不備、虚偽の報告がないか確認した上で都道府県が受理します。その後、1週間以内に登録され、情報公表システムに事業所が公表される仕組みです。
管轄の都道府県もしくは情報公表センターより事業者IDとパスワードが提供されるため、各都道府県のホームページにある報告システムにログインして記入をします。
公表情報には基本調査票・運営情報調査票・事業所の特色の記入が必要となります。
基本調査表
1.事業所を運営する法人等に関する事項
2.介護サービスを提供し、または提供しようとする事業所に関する項目
3.事業所において介護サービスに従事する従業員に関する事項
4.介護サービス内容に関する事項
5.介護サービスを利用するに当たっての利用料等に関する事項
基本的に事業所の内容やサービスに関する内容についての質問が多いです。基本情報調査票に関しては1〜5の項目に分かれており、それぞれの項目に質問が設けられており回答する設問形式です。
運営情報調査票
大項目
中項目
小項目
運営情報に関しては大項目・中項目・小項目に細分化されており、さらに小項目の中に確認事項・確認のための材料が含まれます。
例えば、小項目1.説明と同意の取得状況における確認事項では「サービス提供開始について同意を得ている」、確認のための材料では「重要事項を記した文書の同意欄に利用者または家族の記名捺印がある」のように実際の取組みについて記載がされています。
これらの設問に対して「なし」「あり」で回答する形です。
項目が多く、大変に感じるかもしれませんが公平なサービス提供を目的とする情報公表システムであるため、細かく設問が準備されています。
事業所の特色はアピールポイントなどを記載する自由記載欄です。画像や動画も使用可能で事業所の雰囲気などを伝えたいときに有効活用できます。随時更新可能です。
注意点として介護サービス情報の未報告や虚偽の報告、調査の拒否・妨害が認められた場合は、内容の是正や調査の命令、指定の取消しや一部停止などの処分があるため注意が必要となります。また運営情報は「記入・提出した日より遡った過去の情報であるため修正できない」とされている自治体もあるため記載内容にはミスがないか注意が必要です。
調査員については介護保険法により以下のように定められています。
1.指定調査機関は、調査事務を行うときは、厚生労働省令で定める方法に従い、調査員に調査事務を実施させなければならない。2.調査員は、調査事務に関する専門的知識及び技術を有するものとして政令で定める要件を備える者のうちから選任しなければならない。引用元:介護保険法
調査については誰でも行える訳でなく、国からの許可が必要です。
具体的には都道府県知事やその指定する者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修の過程を修了し、都道府県知事が調査員名簿に登録されている必要があります。
このように調査員は研修を行い、国の許可を受けた人が実施できる仕組みとなっています。
調査時には調査手数料と公表手数料が必要です。
調査手数料
公表手数料
都道府県知事が地方自治法に基づいて介護サービス事業者から徴収できる手数料の基本的な考え方や算定方法、徴収方法について定められています。これは、介護サービス事業者の義務を支援し、公平な情報の公表の機会を提供するため、介護サービス事業者から手数料を徴収できる仕組みです。
手数料は都道府県によって金額に差異があります。調査手数料は20,000円前後、公表手数料は6,000円前後で設定している都道府県が多いです。
0円で公表や調査を実施しているも都道府県もあれば、調査に30,000円近くする都道府県もあります。
情報公表制度は毎年、基本情報について報告する義務があります。報告方法は管轄の都道府県により様々です。
指定情報公表センターより連絡があって、直近の事業所情報について回答する形をとっている都道府県もあります。
平成23年までは新規事業所における調査は義務となっていました。しかし、平成24年の介護保険法の改定により報告の義務は継続ですが、訪問調査は任意に変更となりました。
ただし報告内容に虚偽の疑いがある場合、報告について指示に従わない場合などにおいては管轄の都道府県が必要と判断し、調査が行われています。
介護サービス情報の公表制度は介護サービスを提供する事業所の義務となります。
公表することにより事業者を評価したり、格付けするシステムではありません。
公平・平等な視点から、サービス提供に関する客観的な情報を利用者に提供することが目的です。
主観の入らない客観的な事実のみを公表することで、それぞれの事業者間で比較や検討が可能となり、利用者のニーズに対応した事業所を選択することができます。
介護サービス情報公表制度は利用者がサービスを検討する一助としての役割を果たすシステムとなっています。利用者側にも選択の自由が必要で、事業者もそれに答える努力が必要です。
一つでも多くの事業者が情報公表に取り組むことで、より質の高いサービスの提供につながるでしょう。