2024年には、介護報酬改定が実施される予定です。この介護報酬改定によって、全国の介護事業所に大きな影響を与えることが想定されます。介護事業所に与える影響について、具体的に知りたい介護事業所の経営者も多いでしょう。
この記事では、介護報酬改定が事業所に及ぼす5つの影響について解説します。この記事を読むことで、次回報酬改定によってどのような影響を受けるかがわかります。
目次
2024年は、介護報酬改定だけでなく、診療報酬も同時に改定される年です。次回の改定は、団塊の世代が75歳以上を迎える2025年問題の直前でもあり、今後の介護保険制度の方向性を決定付ける大切なタイミングです。
現在、介護保険利用者において要介護度の高い利用者が増えているため、介護現場での医療ニーズが高まっています。そのため、今後は介護事業所と医療機関との連携がキーワードとなるでしょう。
2024年の介護報酬改定は、業界全体で大きな変化が起こることが予測されます。関係者は早めの対策と準備を進めていきましょう。
2024年の介護報酬改定による影響を見ていく前に、前回改定によって各事業所がどのような影響を受けたのか確認しておくとよいでしょう。ここでは、2021年介護報酬改定のポイントと、その影響について解説します。
2021年の介護報酬改定では、感染症や災害への対応力強化が大きなテーマとなりました。特に注目されたのは、BCP(事業継続計画)の策定です。この改定により、BCP策定のガイドラインが示され、2024年までに全ての介護施設でBCPを策定することが義務化されました。
BCPの策定は、新型コロナウイルス等の感染症への対応力を高めるとともに、災害時にも安定したサービスを提供できるようにすることが目的です。日本各地で巨大地震や津波などが発生している昨今において、緊急時に可能な限り営業できる体制作りが重要になっています。
高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるように、国は地域包括ケアシステムを推進しています。令和3年の介護報酬改定では、このシステムの推進に向けた内容も多く含まれていました。
地域包括ケアシステムの実現へ向けて、認知症への対応力向上が一つの大きなテーマです。それを踏まえて、前回の改定では訪問系サービスにおいて「認知症専門ケア加算」が新設されました。
また、地域の特性に応じたサービスの提供も強化されています。特に、離島や中山間地域での介護サービスが加算の対象となるように改定されました。
地域包括ケアシステムを実現するためには、まだ課題も多く、今後も介護報酬改定で取り上げられる可能性が高いでしょう。
介護保険制度の持続可能性を確保するため、自立支援と重度化防止の取り組みが重要になっています。令和3年の介護報酬改定で特に注目されたのは、「LIFE(科学的介護情報システム)」の導入です。
このシステムを用いて、介護事業所はPDCAサイクルを回し、科学的根拠に基づいた高品質な介護サービスを提供することが期待されています。
LIFEの導入に伴って、新たに「科学的介護推進体制加算」が設けられました。全国の介護事業所でLIFEを活用したケアが提供されることにより、介護事業所利用者の自立支援と重度化防止を図ります。
LIFEが導入されて数年経過しましたが、現状さまざまな問題も指摘されているため、2024年介護報酬改定でもLIFE関連の内容が含まれる可能性は高いでしょう。
介護人材不足が深刻化する中、2021年の介護報酬改定では、介護人材の確保と現場の革新に焦点を当てた内容も含まれていました。
介護職員の処遇改善について、特定処遇改善加算の算定要件が緩和され、経験・技能のある介護職員の賃金改善に繋がりやすくなっています。これにより、経験豊富な介護職員が報酬を受けやすくなり、人材を確保しやすくなる効果が期待されています。
最新技術の活用については、ICT技術を用いて業務効率化や負担軽減が図れるようにルール変更が行われました。特に、文書負担の軽減や手続きの効率化が進められ、介護職員が本来の業務に専念できる環境が整いつつあります。
厚生労働省によると、2025年には約32万人の介護人材が不足するとされています。次回改定でも、処遇改善加算に関する内容やICT導入に関する内容が含まれる可能性は高いでしょう。
介護保険制度の持続可能性を確保するためには、制度自体の安定性が不可欠です。2021年介護報酬改定でも、報酬体系の簡素化が進められています。
前回の介護報酬改定では、処遇改善加算(Ⅳ)(Ⅴ)が廃止され、これにより処遇改善加算(Ⅰ)〜(Ⅲ)の算定事業所増加が期待されています。療養通所介護についても、日単位報酬から月単位包括報酬に変更されました。さらに、生活援助の訪問回数が多い利用者に対するケアプランの検証も強化されています。
これらの変更内容は、必要なサービスを確保しつつ、その適用範囲や頻度を最適化することを目的としたものです。今後も、より安定した介護保険制度の運営を続けるため、制度の見直しと改善が続けられるでしょう。
過去の介護報酬改定から、介護報酬改定が各事業所に及ぼす影響について一定の傾向があることがわかります。一般的に、介護報酬改定が介護事業所に及ぼす影響として、以下の5つが挙げられます。
介護報酬改定が事業所に及ぼす影響 |
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介護報酬改定となると、基本報酬や加算に関する内容に注目が集まりますが、社会情勢や時代の変化によって柔軟にルールを変更することもあります。
例えば、2021年介護報酬改定では、当時世界中で問題となっていた新型コロナウイルスへの特例措置として、感染症や災害による利用者数の減少への対策も盛り込まれました。
具体的には、前年度の平均延べ利用者数から5%以上減少した場合、3か月間の基本報酬に対して3%の追加加算が行われるというものです。この3%加算は特例措置であり、継続的に行われることはありませんでした。
この3%加算のように、時代ごとの背景も考慮して、社会問題への対応や臨時的な条件の緩和などが実施されることもあります。基本報酬や加算の単位数が増減することも大切ですが、介護報酬改定の全体的な方向性も把握して、国が何を問題視しているのか理解することも大切です。
現在、2024年介護報酬改定に関する議論が活発に行われています。ここでは、2023年9月現在において公開されている資料の中から、介護事業所に影響を与えそうな内容をピックアップして解説します。
高齢者の介護ニーズが多様化する中で、新しい複合型サービスの創設について議論されています。令和4年12月に開催された社会保障審議会介護保険部会の資料に記載されている内容は、以下のとおりです。
新サービスの創設について |
(在宅サービスの基盤整備) 地域の実情に合わせて、既存資源等を活用した複合的な在宅サービスの整備を進めていくことが重要である。 複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど)を組み合わせて提供する複合型サービスの類型などを設けることも検討することが適当である。 |
引用:厚生労働省 第105回社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」
特に、訪問介護と通所介護を一体的に提供する新サービスが検討中です。このサービスが実現することで、利用者が抱えるさまざまなニーズに応えられるでしょう。
例えば、通所介護で判明した課題に対して同事業所内の訪問介護サービスでフォローする、訪問介護で対処できない問題を通所介護サービスで対処する、といった柔軟なサービス提供が期待されています。
ただし、この新しい複合型サービスを実現するためには、いくつかの課題も指摘されています。例えば、ケアプラン作成のタイムラグや、サービス変更時の連絡調整の煩雑さなどです。今後は、これらの課題に対する議論も活発化していくでしょう。
令和6年の介護報酬改定において、介護事業所の財務諸表の公開について検討されています。厚労省の社会保障審議会介護保険部会資料「介護保険制度の見直しに関する意見」によると、財務諸表の見える化を検討している目的について、以下のように記載されています。
介護事業所の財務諸表を公開する目的 |
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引用:厚労省 社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」
実際に公開される情報には、財務状況、従事者の情報、職種別の従事者数、経験年数、一人当たりの賃金などが含まれる予定です。
現段階では、財務諸表等の情報は都道府県知事に提出され、地域別や業態別でグルーピングされた分析結果が公表されることが考えられています。
介護事業所の財務状況を公開することで、利用者やその家族が介護事業所を選ぶ際の判断材料となるだけでなく、政策決定においても有用な基礎データとなります。また、事業所自体も、財務状況を整理し、報酬改定時の負担を軽減するよい機会となるでしょう。
しかし、小規模な事業所の場合、事務負担が増加する懸念点も指摘されているため、今後どのように議論が進められていくか注目する必要があります。
次回の介護報酬改定では、利用者の負担額についても焦点が当てられています。
現在の介護保険制度では、現役世代に対する介護保険料の増加や、高齢者間での不公平感が問題視されています。そのため、特に「現役並み所得」や「一定以上の所得」の判断基準について見直すことが検討中です。一方で、介護サービスを長期的に利用する人々の負担が増えることを懸念する意見もあります。
この点については後期高齢者医療制度との関連性や、介護サービスが長期間利用されることを考慮して、次期計画に向けた結論が出される予定です。
参考:厚労省 社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」
LIFEは、全国での運用が始まっているものの、データ提出の負担や評価方法の不明瞭さなど、いくつかの課題が存在しています。次回の改定においても、これらの課題を解消し、LIFEをより効果的に活用する必要性が高まっています。
厚生労働省の社会保障審議会が公開している資料「LIFE(自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進)」によると、LIFEに関して以下の問題点が指摘されています。
LIFEの問題点 |
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参考:厚生労働省社会保障審議会「LIFE(自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進)」
LIFEを積極的に活用することで、介護事業者は質の高いサービス提供が可能となり、事務負担も軽減されます。しかし、現状ではLIFEへの情報入力が進んでいない事業所も多く、入力負担を軽減する取り組みが求められています。
次回の介護報酬改定では、LIFEの利活用をさらに推進するため、新たなルール変更を実施する可能性が高いでしょう。
この記事では、介護報酬改定が及ぼす5つの影響と次回の介護報酬改定によって影響を受ける可能性のある内容について解説しました。
介護報酬改定は、日本の経済状況や人口動態など多様な実態を考慮して、介護保険制度を適正に運用するために実施されるものです。
介護報酬改定が介護事業所に与える影響として、基本報酬の改定、加算の見直し、新たなルールの追加、条件の緩和、社会課題への対応といった5つの内容が挙げられます。
特に、次回の介護報酬改定では、新サービスの創設や財務諸表の公開といった新たなルールが追加される可能性が高いでしょう。
12月には、大枠の方針が決定するため、年末に向けてより具体的な議論が展開されていきます。常に最新の情報を把握しておくことで、介護報酬改定による影響にうまく対処できるでしょう。
参考資料
厚生労働省 第105回社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」
厚労省 社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」
厚生労働省社会保障審議会「LIFE(自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進)」