通所介護事業所にとって、介護職員等処遇改善加算は人材確保・定着に欠かせない重要な制度です。2024年度の介護報酬改定により、従来の3つの加算(介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算)が一本化され、新たな「介護職員等処遇改善加算」が2024年6月から施行されています。
この改定の背景には、介護人材不足の深刻化と事業所の事務負担軽減があります。手続きが簡素化され、職員間の賃金配分もより柔軟に対応できるようになりました。
本記事では、通所介護事業所が知っておくべき加算率、算定要件、申請手続きから運用時の注意点まで、実務に役立つ最新情報を解説します。
目次
介護職員等処遇改善加算は、介護職員をはじめとする通所介護事業所の職員の賃金向上と職場環境改善を目的とした制度です。介護職員を基本としつつ、事業所内での柔軟な配分が認められており、パートや派遣職員、介護事業の運営に携わる事務員も支給対象となります。
対象事業所は指定を受けたすべての通所介護事業所および地域密着型通所介護事業所で、利用者に直接サービスを提供する職員が対象です。ただし、自治体によっては代表者や役員などが支給対象外となる場合があるため、届出時は指定権者に確認が必要です。
従来の3つの加算が一本化されることで、複雑だった手続きが整理され、より多くの事業所が加算を活用できる環境が整いました。また、職員間の賃金配分についても事業所の実情に応じてより柔軟に対応できるようになっています。
2024年6月から施行された介護職員等処遇改善加算により、通所介護事業所の処遇改善環境は大きく改善されています。制度の一本化により手続きが簡素化され、現在多くの事業所で活用されています。
改定の主なポイントは以下の通りです。
2024年度の税制改正により、処遇改善加算を活用した賃上げ分も賃上げ促進税制による税額控除の対象となりました。中小企業の場合、給与等の増加額に応じて最大45%を法人税額から控除でき、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額を5年にわたって繰り越すことも可能です。
現在、多くの通所介護事業所で新加算が活用されており、人材確保と定着に向けた処遇改善が進んでいます。まだ移行していない事業所は、早期の対応により加算のメリットを最大限活用することが重要です。
通所介護における介護職員等処遇改善加算は、Ⅰ〜Ⅳの4区分に分かれており、それぞれ異なる加算率が設定されています。
区分 | 加算率 | 必要なキャリアパス要件 | 月額賃金改善要件 | 職場環境等要件 |
加算Ⅰ | 9.2% | Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ | Ⅰ・(Ⅱ) | 各区分2つ以上+見える化 |
加算Ⅱ | 9.0% | Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ | Ⅰ・(Ⅱ) | 各区分2つ以上+見える化 |
加算Ⅲ | 8.0% | Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ | Ⅰ・(Ⅱ) | 各区分1つ以上 |
加算Ⅳ | 6.4% | Ⅰ・Ⅱ | Ⅰ・(Ⅱ) | 各区分1つ以上 |
※キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士等の配置)は通所介護ではサービス提供体制強化加算ⅠまたはⅡの算定が必要
※月額賃金改善要件(Ⅱ)は該当事業所のみ適用
※職場環境等要件の生産性向上は、上位区分(Ⅰ・Ⅱ)では3つ以上、下位区分(Ⅲ・Ⅳ)では
2つ以上の実施が必要
なお、2024年度は経過措置として区分Ⅴ(1〜14)も設けられていましたが、2025年3月31日に廃止されており、現在は区分Ⅰ〜Ⅳのみとなっています。
通所介護における介護職員等処遇改善加算は、「月額賃金改善要件」「キャリアパス要件」「職場環境等要件」の3つの要件で構成されおり、算定する区分に応じて各要件を満たす必要があります。
キャリアパス要件はⅠ〜Ⅴの5段階に分かれており、算定区分により必要な要件が異なります。
2025年度からは6区分28項目が設けられ、算定区分により以下の要件を満たす必要があります。
介護職員等処遇改善加算 Ⅰ・Ⅱ :以下の区分ごとにそれぞれ2つ以上(生産性向上は3つ以上うち⑰又は⑱は必須)取り組んでいること。
介護職員等処遇改善加算 Ⅲ・Ⅳ :以下の区分ごとにそれぞれ1つ以上(生産性向上は2つ以上)取り組んでいること。
区分 | 具体的内容 |
入職促進に向けた取組 | ①法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化 ②事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築 ③他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・有資格者等にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築( ④職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力度向上の取組の実施 |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | ⑤働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対するユニットリーダー 研修、ファーストステップ研修、喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等 ⑥研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動 ⑦エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等導入 ⑧上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ・働き方等に関する定期的な相談の機会の確保 |
両立支援・多様な 働き方の推進 | ⑨子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指す者のための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備 ⑩職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制度等の整備 ⑪有給休暇を取得しやすい雰囲気・意識作りのため、具体的な取得目標を定めた上で、取得状況を定期的に確認し、身近な上司等からの積極的な声かけを行っている ⑫有給休暇の取得促進のため、情報共有や複数担当制等により、業務の属人化の解消、業務配分の偏りの解消を行っている |
腰痛を含む心身の 健康管理 | ⑬業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実 ⑭短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施 ⑮介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、職員に対する腰痛対策の研修、管理者に対する雇用管理改善の研修等の実施 ⑯事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備 |
生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組 | ⑰厚生労働省が示している「生産性向上ガイドライン」に基づき、業務改善活動の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ又は外部の研修 会の活用等)を行っている ⑱現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施等)を実施している ⑲5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備を行っている ⑳業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減を行っている ㉑介護ソフト(記録、情報共有、請求業務転記が不要なもの。)、情報端末(タブレット端末、スマートフォン端末等)の導入 ㉒介護ロボット(見守り支援、移乗支援、移動支援、排泄支援、入浴支援、介護業務支援等)又はインカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器(ビジネスチャットツール含む)の導入 ㉓業務内容の明確化と役割分担を行い、介護職員がケアに集中できる環境を整備。特に、間接業務がある場合は、いわゆる介護助手等の活用や外注等で担うなど、役割の見直しやシフトの組み換え等を行う。 ㉔各種委員会の共同設置、各種指針・計画の共同策定、物品の共同購入等の事務処理部門の集約、共同で行うICTインフラの整備、人事管理システムや福利厚生システム等の共通化等、協働化を通じた職場環境の改善に向けた取組の実施 ※生産性向上体制推進加算を取得している場合には、「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」の要件を満たすものとする ※小規模事業者は、㉔の取組を実施していれば、「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」の要件を満たすものとする |
やりがい・働きがい の醸成 | ㉕ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善 ㉖地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施 ㉗利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供 ㉘ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供 |
介護職員等処遇改善加算は2024年6月1日から施行されており、現在多くの事業所が活用しています。新規取得を検討する場合は、算定開始予定月の前月までに都道府県等への届出が必要です。
これらの書類は、事業所の実情に応じて具体的かつ実現可能な内容で作成する必要があります。特に賃金改善計画については、加算で得られる収入と職員への配分方法を明確に示すことが求められます。
請求時は国保連合会への請求に処遇改善加算分を計上し、実績報告書の提出も義務付けられているため、日常的な記録管理を徹底することが重要です。
通所介護における介護職員等処遇改善加算は、事業所の安定経営と人材確保を両立する重要な制度です。2024年度に実施された制度一本化により手続きが簡素化され、多くの事業所で活用されています。
まだ加算を取得していない事業所は、自事業所の現状把握から始め、取得可能な加算区分を見極め、必要な体制整備を段階的に進めることが重要です。すでに取得している事業所も、2025年度の完全施行に向けて要件の再確認と運用継続が求められます。処遇改善の取り組みを継続的な人材確保戦略として位置づけ、質の高いサービス提供を目指しましょう。