2024年度の介護報酬改定にて、従来の処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算が一本化され、改めて介護職員等処遇改善加算が新設される見込みです。
しかし、4月からの介護報酬改定に向けて、加算区分や算定要件の変更についての理解が追い付いていないという方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、介護職員等処遇改善加算におけるキャリアパス要件について詳しく解説します。なお、処遇改善加算の全容については以下の記事で解説をしているので、まずは全体的に把握したいという方はこちらの記事からご覧ください。
【2024年改定対応】介護職員等処遇改善加算とは?改定の影響や改定後の算定要件をわかりやすく解説!
目次
2023年度までの介護保険法においては、介護職員の処遇改善を目的とした加算は、処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の3つにわかれます。これらの加算は同じ目的のもとに創設されたもののそれぞれ算定要件や加算率が異なり、加算への理解や算定手続きの煩雑さなどが課題となっていました。また、このような背景から、加算を算定できるのにも関わらず加算を算定しないことを選ぶ事業所が多くいることも問題となっています。
そのため、2024年度の介護報酬改定にて、従来の処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等改善加算の3つが一本化される見込みです。
改定の目的についての詳細や、大枠の変更点については以下の記事で解説しているので、あわせて参考にしてください。
【2024年介護報酬改定】処遇改善加算が一本化!変更点とポイントは?
処遇改善加算の算定要件は、月額賃金改善要件・キャリアパス要件・職場環境等要件の3つの軸に分かれます。また、3つの軸の中でも加算区分に基づいて細分化されるため、処遇改善加算の算定要件には以下の8つが設定されています。
なお、本記事ではこの中でもキャリアパス要件に絞って解説をおこないます。その他の要件については以下の記事からご確認ください。
【2024年改定対応】処遇改善加算の月額賃金改善要件を満たすには?具体例をもとにわかりやすく解説
【2024年改定対応】処遇改善加算の職場環境等要件とは?具体例をもとにわかりやすく解説
処遇改善加算のキャリアパス要件とは、介護職員が将来的なキャリアアップをおこなえるよう、職場環境や研修体制、賃金体系を整えることの推進を目的として設置された算定要件です。
キャリアパス要件はⅠ~Ⅴまでに分類され、算定する加算区分によって満たさなければいけない項目は異なります。
【2025年度以降の処遇改善加算の算定要件】
加算区分 | キャリアパス要件 | ||||
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | |
処遇改善加算Ⅰ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
処遇改善加算Ⅱ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | – |
処遇改善加算Ⅲ | 〇 | 〇 | 〇 | – | – |
処遇改善加算Ⅳ | 〇 | 〇 | – | – | – |
※別途それぞれ定められた月額賃金改善要件・職場環境等要件を満たす必要があります
以下ではキャリアパス要件Ⅰ~Ⅴについて、それぞれ詳しく解説します。なお、旧処遇改善加算から算定要件を引き継いでいると考えられるものについては、旧処遇改善加算に沿った解説をおこなっていますが、今後変更される可能性もあるため注意してください。
キャリアパス要件Ⅰでは、職員の任用に関する要件やそれに関する賃金体系の整備などについて定められています。なお、キャリアパス要件Ⅰは処遇改善加算のどの加算区分においても要件を満たす必要があるため、必ず確認しておきましょう。
具体的な算定要件は以下の3つに分かれ、3つ全てを満たす必要があります。
- 介護職員の任用の際における職位、職責、職務内容等に応じた任用等の要件(介護職員の賃金に関するものを含む)を定めていること
- 1に掲げる職位、職責、職務内容等に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く)について定めていること
- 1及び2の内容について就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること*¹
*¹:常時雇用する者の数が10人未満の事業所など、労働法規上の就業規則の作成義務がない事業所などにおいては、就業規則の代わりに内規などの整備・周知をおこなうことでも問題ない
キャリアパス要件Ⅰを満たすためには、職位を作成し、職位に応じた職責・職務内容・賃金体系を作ることが必要です。具体的には、以下のように職位を二段階以上に分け、それぞれを任用するための要件や、実施する職務内容などについて定義するようにしましょう。
【介護職員の任用要件を定めた例】
職位 | 職務内容(職責) | 任用・昇給要件 | 賃金体系 |
主任 |
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班長 |
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一般 |
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キャリアパス要件Ⅱでは、職員におこなう研修に関する要件が定められています。キャリアパス要件Ⅰと同様に、キャリアパス要件Ⅱも処遇改善加算のどの加算区分でも要件を満たす必要があるため、必ず確認しておきましょう。
具体的な算定要件は以下の2つに分かれ、両方を満たす必要があります。
- 介護職員の職務内容等を踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、 資質向上の目標及びa又はbに掲げる事項に関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保していること
- a.資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等 (OJT、OFF-JT 等)を実施するとともに、介護職員の能力評価を行うこと
- b.資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること
- 1について、全ての介護職員に周知していること
キャリアパス要件Ⅱを満たすためには、介護職員の資質向上目標を定めたうえで、目標を達成するための計画を立てる必要があります。具体的には以下のように職位ごとに研修の内容を定めることを意識しましょう。また、研修を行った後には能力評価をおこなう必要があるため注意してください。
【研修計画の例】
職位 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 |
主任 | リーダー研修 | 法令遵守研修 | 全体研修 | |
班長 | レベルアップ研修 | リスク管理研修 | 全体研修 | |
一般 | ビジネスマナー研修 | 介護職員基本研修 | 全体研修 |
※研修計画は年度末まで定める必要があります
さらに、職員が介護福祉士などの資格を取得することに向けて、支援をおこなうことも要件として求められます。支援の内容としては、資格取得のための費用を補助したり、資格取得に向けた研修受講に配慮した勤務シフトを作成したりといった内容があげられます。
キャリアパス要件Ⅲでは、職員の昇給に向けた仕組みを整備することに関する要件が定められています。キャリアパス要件Ⅲは処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを算定するために要件を満たす必要があります。
具体的な算定要件は以下の2つに分かれ、両方を満たすことが必要です。
- 介護職員について、経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けていること
具体的には、次のaからcまでのいずれかに該当する仕組みであること
- a.経験に応じて昇給する仕組み
「勤続年数」や「経験年数」などに応じて昇給する仕組みであること- b.資格等に応じて昇給する仕組み
介護福祉士等の資格の取得や実務者研修等の修了状況に応じて昇給する仕組みであること
ただし、別法人等で介護福祉士資格を取得した上で当該事業者や法人で就業する者についても昇給が図られる仕組みであることを要する- c.一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み
「実技試験」や「人事評価」などの結果に基づき昇給する仕組みであること
ただし、客観的な評価基準や昇給条件が明文化されていることを要する- 1の内容について、就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること*¹
*¹:常時雇用する者の数が10人未満の事業所など、労働法規上の就業規則の作成義務がない事業所などにおいては、就業規則の代わりに内規などの整備・周知をおこなうことでも問題ない
キャリアパス要件Ⅲを満たすためには、経験・資格・評価の3軸に基づいた昇給がおこなわれる必要があります。なお、昇給の条件は経験・資格・評価の3軸を組みあわせたものでも問題ありません。
【昇給する仕組みの例】
職位 | 経験(勤続年数) | 資格 | 評価(実技・社内評価など) |
主任 | 6年以上 | 事業者が指定する資格 | 社内評価〇以上 |
班長 | 3年以上 | 介護福祉士 | 社内評価〇以上 |
一般 | 3年未満 | – | – |
キャリアパス要件Ⅳでは改善後の賃金に関する要件が定められています。キャリアパス要件Ⅲは処遇改善加算Ⅰ・Ⅱを算定するために要件を満たす必要があります。
具体的な算定要件は以下の通りです。
経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金の見込額*¹が年額440万円以上であること*²
*¹:新加算等を算定し実施される賃金改善の見込額を含む
*²:新加算等による賃金改善以前の賃金が年額440万円以上である者を除く
*³:以下の場合など、例外的に当該賃金改善が困難な場合であって、合理的な説明がある場合はこの限りではない
キャリアパス要件Ⅴでは、介護福祉士などの配置に関する要件が定められています。キャリアパス要件Ⅴは処遇改善加算Ⅰを算定するために要件を満たす必要があります。
算定要件は以下の通りです。
サービス類型ごとに一定以上の介護福祉士等を配置していること
なお、具体的には、要件を満たしていることを示すために、サービス区分ごとに指定された加算を算定している必要があります。サービス区分ごとに算定する必要がある加算は以下の通りです。
【介護福祉士等の配置要件を担保するものとして算定が必要な加算の種類および加算区分】
サービス区分 | 加算区分 |
訪問介護 |
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夜間対応型訪問介護 |
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定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | |
訪問入浴介護*¹ | |
通所介護 | |
通所リハビリテーション*¹ | |
認知症対応型通所介護*¹ | |
小規模多機能型居宅介護*¹ | |
看護小規模多機能型居宅介護 | |
認知症対応型共同生活介護*¹ | |
介護老人保健施設 | |
短期入所療養介護(病院等(老健以外)) | |
介護医療院 | |
地域密着型通所介護 |
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特定施設入居者生活介護*¹ |
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地域密着型特定施設入居者生活介護 | |
介護老人福祉施設 |
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地域密着型介護老人福祉施設 | |
短期入所生活介護*¹ |
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短期入所療養介護(老健)*¹ | |
短期入所療養介護(医療院)*¹ | |
訪問型サービス(総合事業) |
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通所型サービス(総合事業) |
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*¹:介護予防を含む
キャリアパス要件の一部については、2024年度中経過措置が認められているものがあります。
まず、キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲにおいては、各要件を2024年度中に満たすことを誓約すれば算定要件を満たしているとみなされます。ただし、2025年3月末までに実績報告書を作成し提出する必要がある点には注意してください。
また、キャリアパス要件Ⅳについては、、賃金改善後の賃金の見込額が年額 440万円以上の職員の代わりに、新加算の加算額のうち旧特定加算に相当する部分による賃金改善額が月額平均8万円*¹以上の職員を置くことで算定要件を満たしているとみなされます。
(*¹:賃金改善実施期間における平均)
経過措置期間をうまく利用できれば、算定要件を満たす準備と並行して加算を取得することが可能です。
改めて創設された介護職員等処遇改善加算について、具体的な算定要件が明らかになりました。旧処遇改善加算から要件を引き継ぐものが多いですが、このタイミングで改めて算定要件を確認し、適切に算定できるように準備をおこないましょう。
また、今後算定要件の詳細についてより具体的なQ&Aが公開される可能性があります。けあタスケルでは、今後も介護報酬改定の動向についてお伝えしていくので是非参考にしてください。