2019年10月「介護職員等特定処遇改善加算」が新たに創設されました。
その後2021年の介護報酬改定で配分ルールが一部改訂されています。
「令和3年度の介護従事者処遇状況等調査結果の概要」では、およそ7割の事業所が「介護職員等特定処遇改善加算」を取得(届け出)している一方で、27.2%の事業所が加算を取得(届け出)していないようです。
今回の記事では「介護職員等特定処遇改善加算」について、複雑な算定要件や配分ルールなどをわかりやすく解説します。
本記事を最後まで読めば「介護職員等特定処遇改善加算」の内容を理解して、この加算をうまく事業戦略に活用できるでしょう。
ぜひ最後までお読みください。
参考:厚生労働省
目次
介護職員等特定処遇改善加算(以下、特定処遇改善加算)とは、経験や技能のある介護職員に対して、更なる処遇改善を行うための加算として、令和元年10月の介護報酬改定により創設された加算です。
特定処遇改善加算は、従来の介護職員処遇改善加算とは別で、基本の介護報酬に加算されます。
特定処遇改善についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
特定処遇改善加算とは?算定要件や配分ルールなどについて徹底解説!
特定処遇改善加算を算定する際の主な要件は以下の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
介護職員等処遇改善加算を算定するためには、前提として介護職員処遇改善加算のI〜Ⅲのいずれかを取得していなければいけません。
介護職員処遇改善加算の算定要件を以下の表にまとめましたので、参考にしてください。。
加算Ⅰ | 加算Ⅱ | 加算Ⅲ |
キャリアパス要件のうち、1、2、3を満たし、かつ職場環境等要件も満たす。 | キャリアパス要件のうち、1、2を満たし、かつ職場環境等要件も満たす。 | キャリアパス要件のうち、1または2を満たし、かつ職場環境等要件を満たす。 |
「キャリアパス要件」とは以下のものです。しっかり確認しましょう。
「職場環境等要件とは」賃金改善以外の職場環境等の改善を指します。
特定処遇改善加算を算定するにあたっては、研修の実施などのキャリアアップに向けた取り組みや、ICTの活用など生産性向上の取り組み等の実施が求められています。
具体的な内容を、以下の表にまとめました。
区分 | 具体的内容 |
入職促進に向けた取り組み |
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資質の向上やキャリアアップに向けた支援 |
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両立支援・多様な働き方の推進 |
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腰痛を含む心身の健康管理 |
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生産性向上のための業務改善の取り組み |
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やりがい・働きがいの醸成 |
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「介護職員処遇改善加算」では上記の表のうち1つ以上「介護職員等特定処遇改善加算」では、上記の表の区分ごとにそれぞれ1項目以上取り組んでいる必要があります。
特定処遇改善加算では所定の情報を公表していることが、算定の条件になります。
情報の公開については、介護サービス情報公表制度を利用して、外部から見える形にしましょう。
公表する内容については以下のものがあります。
介護サービス情報公表システムの対象になっていない事業所は、ホームページを用いて情報を公表、公開することで代用できます。
参考:厚生労働省
特定処遇改善加算の配分については、まず「経験技能のある介護職員」「他の介護職員」「その他の職種」の3つのグループに分けます。
そのうえで、以下のルールが定められているため注意してください。
そのほかに事情がある場合は上記のルールを満たさなくても、加算の申請が認められる場合があります。
特定処遇改善加算の配分ルールでは職員をそのキャリアにより、3つに分類します。
分類方法は、以下のとおり。
Aの「経験・技能のある職員」は勤続10年以上の介護福祉士を基本としていますが、その区分は法人内で設定可能です。
「勤続10年」との条件はあくまでも目安と考えましょう。
どのように定義するかは、それぞれの事業所の裁量に任されています。
例えば同事業所で10年以上勤務していなくても、他事業所の経験を含めて10年でも良しとする場合や、医療機関での経験も認められる場合が考えられます。
勤続10年の介護福祉士に該当する人材がいない場合は、勤続年数の長い職員や主任等の役職についている介護職員を、計算対象とするのも可能です。
Bの「その他の介護職」は実際に介護を提供する仕事に従事していて、Aに属さない職員を指します。
Cの「介護職員以外の職員」とは相談員や施設ケアマネジャー等、介護職以外の職員です。
パートやアルバイトの職員が対象になるか気になるところですが、特定処遇改善加算対象者の雇用形態については、特に明記されていません。
「非常勤職員の給与の計算に当たっては常勤換算方法で計算し賃金額を判断する」との記載があります。
そのため、一概に対象外とはいえず、パートやアルバイトを対象にするかどうかは、事業所の裁量しだいでしょう。
職員の賃上げ額についても「平均賃上げ額は、BはAより小さくなくてはいけない」とのルールが設けられています。
また「BはCの2倍以上としなくてはならない」とも、規定されています。
つまり賃上げ額は、「A>B」かつ「B:C=2:1」となるのです。
従来の処遇改善加算が職員全体の処遇改善を目指すものであるのに対して、特定処遇改善加算は「経験や技能のある職員」の処遇改善を目指すものです。
経験を蓄積し技能を高めれば賃金がアップするのであれば、職員のモチベーションも高まりひいては職員の離職防止、優秀な人材の確保につながるという狙いがあります。
加算額の配分は上記のルールに則して、事業所の判断で決定できます。
例えば、BやCといった職員により多く配分するのも可能です。
ただし、Aの介護職員のうち一人以上は、月8万円の賃上げor440万円までの賃金増が必要になります。
月額平均8万円の改善や年額440万円の設定・確保は、ハードルが高く達成できる事業所は少ないのではないでしょうか。
多くの事業所は規模が小さく、厚生労働省が求める改善の実行が困難な所が多いと思われます。
賃金改善が困難な場合、特定処遇改善加算の計画書に3種類の理由が記載された項目があります。
該当する項目にチェックを付けて届け出すれば大丈夫でしょう。
該当する項目がない場合は、「その他」にチェックを付け、理由を記載してください。
処遇改善加算では介護職員のみが対象でした。
しかし相談員や施設ケアマネジャーが管理職を兼ねている事業所も多く、それらの職員が対象外となることで、管理職と一般の職員との賃金差が縮まってしまう事態を懸念する事業所もあったようです。
特定処遇改善加算では相談員や施設ケアマネジャーも対象となるため、介護職員との賃金差で悩む事業所の一助になるという面もあります。
小規模の介護福祉事業所で、賃金水準が低い介護福祉事業所なども多くあります。
そのような事業所の場合は、すぐに一人の賃金をあげるのは困難でしょう。
また、事業所内の各職員の処遇等を明確にするための規定の整備、研修、実務経験の蓄積に一定の期間が要する場合なども考えられます。
以上の例は特例として、月額8万円以上の賃上げまたは年収440万円までの賃金アップの条件を満たさなくても、加算の申請が認められる場合があります。
2021の介護報酬改定では、「経験・技能のある介護職員(上記Aの職員)」が「その他の職員(上記Bの職員)」の「2倍以上」の制限が無くなり「より高くすること」へと変更になりました。
これまでの配分ルールでは「A:B:C=4:2:1」とされていました。
しかし、この配分ルールがネックとなり、賃金体系を崩せないためにあえて特定処遇改善加算を算定しないケースもあったようです。
この改正により配分がより弾力化され、事業所の裁量に応じた柔軟な配分が可能となりました。
これにより職種間の賃金バランスが取れなくなるとの理由で、加算算定を見送っていた事業所への加算申請の後押しになると期待されます。
配分ルール以外にも職場環境等要件の施策内容が更新されています。
2021年3月までは、事業所の過去の取り組みも含められました。
しかし2021年4月からは、年度ごとの実施が求められるようになっています。
また、介護職員処遇改善加算においては、介護職員処遇改善加算(Ⅳ)および(Ⅴ)については、上位区分の算定が進んでいることから、2021年3月31日で廃止になりました。
2021年3月末時点で同加算を算定している介護サービス事業所については、1年の経過措置が設けられますが、2022年度には完全に廃止となります。
特定処遇改善加算の算定にあたっては、しっかりと法人の戦略として考えたいところです。
「誰に、どんな目的で、どのように配分するのか」しっかりと方針を考えましょう。
例えば、能力の高い介護職員を優先するのか、介護職以外の職員にも広く配分するかなどでも、戦略が違ってきます。
さらに一時金として渡すのか、基本給を厚くするのかなどでも、今後の組織運営にも関わってくるでしょう。
サービス別に加算率も違います。
どのようなサービスを運営しているかでも、法人戦略、組織運営に影響してきます。
特定処遇改善加算で見込まれる収入等も、しっかり把握しましょう。
サービス別の加算率は以下のとおりです。
新加算Ⅰ | 新加算Ⅱ | |
訪問介護 | 6.3% | 4.2% |
通所介護 | 1.2% | 1.0% |
グループホーム | 3.1% | 2.3% |
特養 | 2.7% | 2.3% |
老健 | 2.1% | 1.7% |
※以下のサービスは特定処遇改善加算の対象外です。
よりよい組織を作るためには、仕事の能力や責任の度合いに応じた各職員が納得できるルール作りが大切です。
能力のある職員が適切に評価されるのは、働くうえで大切です。それがしっかり賃金に反映されると、モチベーションアップにもつながります。
法人の求める人材の育成や事業戦略の実現のためにも、特定処遇改善加算を上手に活用しましょう。
特定処遇改善加算を算定するには、申請が必要です。申請の際には以下の書類等を用意してください。
※あくまで一例ですので、加算申請時には指定権者へ確認しましょう。
参考:厚生労働省
特定処遇改善加算をもらえない人についてはは、こちらの記事を参考にしてください。
特定処遇改善加算は複雑なルールなうえに、配分対象の職員や配分の仕方が、事業所により多くゆだねられています。それだけにしっかりとした法人の戦略が重要になってくるでしょう。
よりよい組織を作るためにもしっかりとした戦略をもって特定処遇改善加算を活用し、介護職員のモチベーションアップにつながる賃金体系を構築しましょう。