運営指導は6年に1回程度実施されますが、事前にしっかりと対策しなければ大きなペナルティを受ける危険性があります。今回は、訪問介護における運営指導に必要な対策と聞かれやすいポイントについて紹介しますので、ぜひ運営指導を実施される前の参考にしてください。
目次
運営指導は、法目的の実現のために、都道府県等の担当者が介護サービス事業所へ出向き、適正な事業運営が行われているか確認するものです。また運営指導は、法目的により介護サービス事業者の育成・支援に主眼をおきつつ、制度管理・保険給付の適正化・より良いケアの実現につなげることを目的としており、下記の介護保険給付に係る介護サービスが対象です。
参考:大阪府「運営指導関係」
「運営指導」は以前まで「実地指導」と呼ばれており、何度か改正されていました。具体的には、平成24年の介護保険制度の改正では、実地指導の権限が「都道府県」から「市区町村」へ委譲され、平成28年からは「事業所で虐待が疑われる場合は」事前の通知を行わずに指導が可能となりました。
また、令和4年度の介護保険施設等指導指針の改定により「運営指導」に名称が変わり、下記の内容を実施して効率化を強化しました。
参考:厚生労働省「介護保険施設等指導指針(2022年3月31日)」
実地での指導が原則的に優先されるものの、人員に関する体制・報酬請求の指導は実地でなくとも確認できる内容であるため、オンライン会議ツールの使用が認められるようになりました。
自治体ごとの異なる指導ルールであるローカルルールについて是正が下記のように図られました。
参考:厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル 令和4年3月」
運営指導の実施頻度は、原則、指定または許可の有効期間である6年以内に少なくとも1回以上と定められました。
なぜ、運営指導を実施するのでしょうか?その理由は介護保険法 第23条・第24条に明記されています。
介護保険法 第23条
市町村は、保険給付に関して必要があると認めるときは、当該保険給付を受ける者若しくは当該保険給付に係るサービスを担当する者に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を求め、若しくは依頼し、又は当該職員に質問若しくは照会をさせることができる。
介護保険法 第24条
1.厚生労働大臣又は都道府県知事は、介護給付等に関して必要があると認めるときは、居宅サービス等を行った者又はこれを使用する者に対し、その行った居宅サービス等に関し、報告若しくは当該居宅サービス等の提供の記録、帳簿書類その他の物件の提示を命じ、又は当該職員に質問させることができる。
2.厚生労働大臣又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、介護給付等を受けた被保険者又は被保険者であった者に対し、当該介護給付等に係る居宅サービス等の内容に関し、報告を命じ、又は当該職員に質問させることができる。
参考:厚生労働省「介護保険法」
第23条では、事業所に対する書類の提出と、それに対する質問権が規定されています。第24条も第23条とほとんど差はありませんが、第24条には介護事業所側に「報告」を命ずることができる根拠が規定されているため、文書だけでは判断できないことについて、口頭もしくは別の文書による説明を命ずる権限があります。
運営指導と監査はよく混同されますが、実際は大きく異なります。
運営指導は全事業者が対象で、日頃の運営が適切かどうかを確認するのが目的です。一方監査では、運営指導や通報などから事業所運営に著しい違反がある、もしくは疑われる場合に実施されるため、確認は運営指導より厳しく、行政処分などにつながる可能性もあります。
監査は下記のような場合に実施されます。
目的は大きく下記の2つに分かれます。
その名前の通り運営内容の指導となり、下記の2種類に分かれます。なお、運営指導の内容は厚生労働省が定める「運営指導マニュアル」に基づいて行われます。
詳細の内容は下記です。
参考:三重県「運営指導の概要」
詳細の内容は下記です。
報酬請求指導は、「不正の請求がないか」を確認する目的で、主に下記のような各種加算などについて確認します。
これらのように、基本的な考え方や基準に定められた算定条件に基づいた運営及び請求が適切に実施されているかを「報酬請求指導マニュアル」を用いてヒアリングにて確認します。
参考:厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアルについて」
運営指導で引っかかった場合、その重大さによって基本的に下記のように分類されます。
運営指導中の疑問点や不備がある・事前提出書類に同じように不備がある場合などは、現場での指導を行います。
現場での指導レベルの不備であれば、勧告には至らない程度の簡単な内容であったり、必ずしも介護保険法や指定基準などには違反していないものの、その方法が不適切であるなどになるため大きな問題はありません。
現場での指導は、自治体が事業所のサービスの向上を目的に行っているため、改善してより良い事業所にしましょう。
運営指導を行った結果、介護保険法や、人員・設備・運営の基準に違反や基準に満たしていない場合は改善勧告が交付されます。
各自自体は改善勧告をした場合、その勧告を受けた介護事業所が期限内にこれに従わなかった場合、地方公共団体のホームページなどに、事業所の名称・場所・改善命令の内容などを掲載することができることが介護保険法76条2項に記載されています。
そのため、改善勧告を受けた際は内容をしっかり確認して期限内に改善し、提出をしましょう。
参考:厚生労働省「介護保険法」
各自自体は、改善勧告を受けた介護事業所が、正当な理由がなくその勧告に関わる内容に対して措置をとらなかった場合は、該当する介護事業者に対して期限を定めて改善命令を出せることが、介護保険法76条3項に規定されています。
また、改善命令が出された場合は、改善勧告の場合と異なり必ず公示されることが介護保険法76条4項に規定されています。
参考:厚生労働省「介護保険法」
改善勧告・改善命令にも従わず運営をした場合は、「指定の効力の停止・指定取消し」という措置が取られることが介護保険法77条に規定されています。
介護事業所は、各自治体から指定を受けて介護保険法上の運営を行っているため、指定がなくなってしまったり、効力が停止してしまうと、介護保険法上の介護事業を運営できなくなるため、介護事業所にとって最も重い処分です。
また、再度介護事業を始めたい場合と思っても、すぐに開始できることはなく、都道府県知事に対して指定をしてもらえるよう申請する必要があります。
参考:厚生労働省「介護保険法」
介護報酬算定を誤って請求したり、不正の行為によって介護報酬を受け取っていた場合、各自自体はその事業所からその給付の価額の全部または一部の返還を請求できます。
これに加えて、各自自体は、返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を加算金として徴収できることが介護保険法22条3項に規定されています。
参考:厚生労働省「介護保険法」
返還が求められた場合、2年間の介護保険に関係する書類を確認される場合があります。また、多くの自治体が条例で5年間の保存を義務付けているので、介護保険給付費請求書などは少なくとも5年間は保存しましょう。
運営指導の実施頻度は、原則として6年間の指定有効期間中に1回以上は実施するように定められていますが、入所施設系サービスや居住系サービスについては、ご利用者の生活の場であることなどを考慮して、3年に1回の頻度で運営指導を行うことが望ましいとされています。
実際の件数は2021年度で23,714ヵ所と2020年度と比較すると、2,864ヵ所増えたものの、新型コロナウイルスの影響で件数は2019年度の半数以下の水準にとどまっていました。
しかし、2023年度以降は新型コロナもひと段落したため、今後の件数は増加すると予測されます。
参考:総務課介護保険指導室「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料」
運営指導のポイントは下記があります。
必要書類は下記の書類などが行政からの事前通知に記載されています。
参考:厚生労働省「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」
これらの書類は、予め通知される運営指導通知に基づき準備を行いますが、少なくとも事前に2年間の用意が必要です。
運営指導の進め方については標準確認項目を基本として行われるため、必要書類とともに確認しておきましょう。
点検項目ごとにチェックを行い、介護サービスの向上に役立てるためのシートを「自己点検票」といい、点検項目が詳細に記載されているので、正確に不備や改善点などを確認し、ご利用者へのサービス向上に役立てることができます。
この自己点検票は、運営指導の事前に提出しますが、各自自体によって提出期限が異なるので、窓口やホームページなどで確認して期限内に提出しましょう。
ここでは、運営指導で聞かれる主な内容をお伝えします。
施設・設備・ご利用者に対するサービスの提供状況に関する指導で下記の内容があります。
サービスを実施するために、どのような体制を構築しているかを確認し必要な指導を行うもので下記のような内容があります。
適正に介護報酬の請求が行われているかの確認
今回は、「訪問介護における運営指導(実地指導)に必要な対策と聞かれやすいポイント」を紹介しました。運営指導は、ペナルティが大きくなると「指定の効力の停止・指定取消し」「介護報酬の返還、加算金」になります。
そのため、今回紹介した事前の対策をしっかり行い、運営指導を迎えてください。