「特定事業所加算を取得したいけど算定要件が難しい」「特定事業所加算を算定したいけど、実地指導で返還を求めらないか不安」
このような悩みを持つ訪問介護事業者の方は多いのではないでしょうか?
特定事業所加算の算定は、事業所経営において重要であり、またよりよい介護サービスを提供するために必要です。
今回の記事では、特定事業所加算を算定することが出来るように、算定要件や介護報酬改定での変更点について解説します。
訪問介護の事業所向けに、特定事業所加算運用の良い例と悪い例、正しく運用するポイントなどをまとめました。
<目次>
1.特定事業所加算運用の良い事例・悪い事例
2.特定事業所加算を正しく運用するポイント
3.研修の運用ポイント
4.会議の運用ポイント
5.指示報告の運用ポイント
6.健康診断の運用ポイント
7.同行研修の運用ポイント(障害のみ)
8.事務代行の選択肢(本部、事務代行、事務)
9.まとめ
目次
「特定事業所加算」とは、一言でいうと質の高い介護サービスを提供する事業所を評価する加算のことです。
具体的には、要介護度の高い利用者や、支援が困難な場合においても質の高い介護サービスを積極的に提供し、厳しい算定条件を満たす運用を実施している事業所に対して支払われる加算となります。
体制要件 | 人材要件 | 重度者要件 | 加算率 | |
特定事業所加算Ⅰ | ①.②.③.④.⑤ | ⑦.⑧ | ⑪ | 利用者の総単位数プラス20% |
特定事業所加算 Ⅱ | ①.②.③.④.⑤ | ⑦or⑧ | なし | 利用者の総単位数プラス10% |
特定事業所加算 Ⅲ | ①.②.③.④.⑤ | なし | ⑪ | 利用者の総単位数プラス10% |
特定事業所加算 Ⅳ | ②.③.④.⑤.⑥ | ⑨ | ⑫ | 利用者の総単位数プラス5% |
特定事業所加算 Ⅴ | ①.②.③.④.⑤ | ⑩ | なし | 利用者の総単位数プラス3% |
特定事業所加算にはⅠ~Ⅴの種類があり、それぞれ体制要件、人材要件、重度者要件を満たす必要があります。
また、それぞれ加算率が設定されています。
体制要件、人材要件、重度者要件については後述しておりますので、そちらを確認してください。
全ての訪問介護員等に対し、訪問介護員等ごとに研修計画を作成し、当該計画に従い研修を実施又は実施を予定していること。
計画的な研修の実施については、こちらの記事で詳しく解説しています。
特定事業所加算の要件を満たす研修計画の立て方・書式・事例
利用者に関する情報もしくはサービス提供に当たっての留意事項の伝達又は当該指定訪問介護事業所における訪問介護員等の技術指導を目的とした会議を定期的に開催すること。
※テレビ電話等のICTの活用も可能
会議の定期的開催については、こちらの記事で詳しく解説しています。
特定事業所加算の算定要件を満たす会議の内容・開催方法
サービス提供責任者が、当該利用者を担当する訪問介護員等に対し、当該利用者に関する情報やサービス提供に当たっての留意事項を文書等の確実な方法により伝達してから開始するとともに、サービス提供終了後、担当する訪問介護員等から適宜報告を受けること。
文書等による指示及びサービス提供後の報告については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【特定事業所加算の体制要件】指示(伝達)と報告の注意点とQA
当該指定訪問介護事業所の全ての訪問介護員等に対し、健康診断等を定期的に実施すること。
定期健康診断の実施については、こちらの記事で詳しく解説しています。
指定居宅サービス等基準第 29 条第 6 号に規定する緊急時等における対応方法が利用者に明示されていること。
サービス提供責任者ごとに作成された研修計画に基づく研修を実施すること。
訪問介護員等の総数の割合が以下のどちらかを満たしていること。
・介護福祉士が 30%以上
・介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、ホームヘルパー1級修了者が50%以上
全てのサービス提供責任者が 以下のどちらかを満たすこと。
・3 年以上の実務経験を有する介護福祉士
・5 年以上の実務経験を有する実務者研修修了者もしくは介護職員基礎研修課程修了者、ホームヘルパー1級修了者
サービス提供責任者を常勤により配置し、かつ規定する基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していること。
訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合30%以上であること。(※新設)
前年度、または前3ヶ月で要介護4・5の利用者、認知症(日常生活自立度Ⅲ以上)の利用者、喀痰吸引等の行為が必要な利用者が合わせて20%以上。
前年度、または前3ヶ月で要介護3~5の利用者、認知症(日常生活自立度Ⅲ以上)の利用者、喀痰吸引等の行為が必要な利用者が合わせて60%以上。
訪問介護の特定事業所加算については、事業所を適切に評価するために、訪問介護以外のサービスにおける類似の加算であるサービス提供体制強化加算の見直しも踏まえて、勤続年数が一定期間以上の職員の割合を要件とする新たな区分を設けるとされました。
その加算が、すでに上記でも開設した特定事業所加算Ⅴです。
特定事業所加算Ⅴは、特定事業所加算Ⅲ(重度者対応要件による加算)との併算定は可能ですが、加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅳ(人材要件が含まれる加算)との併算はできません。
つまり、特定事業所加算Ⅲと特定事業所加算Ⅴとの併用が可能であり、特定事業所加算Ⅲを取得をしている事業所で、特定事業所加算Ⅴの人材要件を満たす場合は13%の加算が得られるということになります。
現在、大手の法人を中心に44.2%(2020年)の事業所で取得されており、その加算に加え特定処遇改善加算の取得を行うことで他事業所より多くの賃金を支払うことや、管理者・サービス提供責任者の膨大な作業を削減することに使用されています。
特定事業所加算の算定には、研修を充実させることや細かい申し送りが必要となります。
これらは本来、介護事業所として行われなければいけないことではありますが、よりしっかりと行われることが求められるため、ご利用者側が『事業所を選ぶ』際のポイントになります。
特定処遇改善加算の中でも加算率が1番高い『特定処遇改善加算Ⅰ』を算定できます。
訪問介護の特定処遇改善加算Ⅱは4.2%の加算率ですが、特定処遇改善加算Ⅰになると6.3%の加算が受けられます。
これにより従業員に対し、さらなる処遇改善をすることが可能です。
※特定事業所加算Ⅱの取得をしている場合に限る
特定事業所加算を取得するにあたり、特に多い声が『手間がかかる』『よくわからない』ということです。
今回の記事で、できる限り分かりやすく説明していますが、それでもやはり難しいと思う方は代行サービスを利用するのも一つの手です。
特定事業所加算は、要件を正しく理解せず、その運用を怠れば返還を求められてしまいます。
実際のところ、返還を求められる要件は決して甘くなく、数百万〜数千万円の返還を求められた事例も少なくありません。
自社で正しく運用する自信がない場合は、代行サービスを利用するのも一つの手です
10年ほど前は、まだまだ特定事業所加算は認知度が低く、介護職員から『特定事業所加算を取得している事業所』を選びにくいという声がありました。
令和4年現在では、大手を中心に特定事業所加算の取得は当たり前になってきており、むしろ特定事業所加算の取得がない=賃金が少ないというイメージを持っている介護職員も多いです。
介護職員が不足すれば、サービスを提供することは出来ず、利用者にとって一番大切な『継続してサービスを提供する』ということが出来なくなります。
利用者の負担が増えるのは事実で、特定事業所加算を取得する前に4,000円の自己負担を支払っていた場合、加算Ⅰの取得で800円、加算Ⅱ・Ⅲの取得で400円の負担が増える計算になります。
しかし、質の悪い介護サービスを安くてもいいから受けるか、800円、400円で質の高い介護サービスを受けるかとなった時に、後者を選ぶ利用者の方が多いことを考えると特定事業所加算を取得するべきといえます。
介護報酬改定での変更点を含め、訪問介護の特定事業所加算についてご紹介してきました。
令和3年に新設された特定事業所加算Vに関しては、加算のⅢをすでに取得している、または取得の要件を満たしているということであれば、現在の報酬にプラス13%もの利益が上乗せされます。
月間100万円の売上があれば年に156万円、月間300万円の売上があれば年に468万円もの売上が確保できる計算です。
事業所経営の視点ではもちろん、利用者にとっても少しの負担の増加で質の高い介護サービスを受けられることを考えると、特定事業所加算の取得はするべきだと言えます。