日本では、人口減少による後継者不足が問題となっており、M&A市場が急拡大しています。拡大するM&A市場のなかでも、介護業界におけるM&Aの実態や動向について知りたい経営者も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護業界におけるM&Aの実態と将来の動向について解説します。この記事を読むことで、自事業所でM&Aを実施する際に役立てるだけでなく、将来的な事業計画作りにも役立てられるでしょう。ぜひ、最後までお読みください。
目次
今後、超高齢社会を迎える日本において、介護業界の市場は急速に拡大していくでしょう。介護業界が拡大し続ける一方で、現場では人材不足が深刻化しており、運営が苦しい事業所も数多くあります。介護事業所が、採用力や資金力のある企業と協力する方法の1つがM&Aです。
特に最近では、大企業が介護事業に参入するケースも増加しており、小さな会社が地方で運営していた介護事業所を大手が買収することも多いようです。また、利用者を多く抱えている介護事業所の場合、利用者の生活に多大な影響を与えるため、簡単に事業所を閉鎖することはできません。介護事業所の運営を引き継いでくれる会社を探す手段としてもM&Aが注目されています。
ここでは、M&Aに関する基本情報と介護業界でM&Aが活発な理由について解説します。
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業の合併(Merger)と買収(Acquisition)を指しており、企業が競争力を高める目的で行われます。
合併は二つ以上の企業が新しい企業を設立するプロセスで、買収は一つの企業が別の企業の株式や資産を購入して、実質的な経営者を変更する方法です。
市場シェアの拡大、新技術の取得、経営効率の向上などが主な目的であり、成功すれば企業の成長を促進するが、失敗すると大きな損害を与える可能性もあります。
日本の高齢者人口は増加傾向にあり、それに伴い介護サービスの需要も高まっています。
厚生労働省の資料「介護保険制度をめぐる最近の動向」によれば、介護保険制度が設けられてから約20年で、要介護認定者数は約2.6倍に増加しているようです。
一方で、介護労働安定センターが実施した「令和3年度 介護労働実態調査」の結果によると、全国の63%の事業所が「人材の不足感」を感じていることもわかりました。
このような背景から、介護業界は市場拡大と人材不足という二つの大きな課題に直面しています。
政府は、2040年を見据えた介護業界における社会保障・働き方改革を行っており、多様な就労・社会参加、健康寿命の延伸、医療・福祉サービス改革などを推進している最中です。このような状況下において、介護事業所においてもM&Aが重要な戦略となりつつあります。
介護業界は日本の高齢化社会において急速に成長していますが、それに伴い多くの課題も浮かび上がっています。
特に人材不足、事業拡大、事業承継などが主な課題とされています。このような背景から、介護業界でのM&A(合併・買収)が活発に行われているようです。
特に多いケースとして、大規模な企業が介護業界に参入する、現在介護事業を運営している企業がサービス内容を強化する、といった目的でM&Aが行われています。
ここでは、介護業界でM&Aが行われる主な目的について解説します。
介護業界は慢性的な人材不足に悩まされており、人材の確保が一つの大きな課題となっています。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和4年12月分及び令和4年分)」によると、介護サービス業の有効求人倍率は4.01倍でした。このデータから、現状として1人の介護職員を4つの施設が取り合っている状況にあることがわかります。
介護事業所を運営している法人が小規模な会社であった場合、大企業と比較して採用にかけられるコストも少ないため、採用競争にも負けてしまいます。一方で、今後介護業界に進出したい大企業は、すでに介護業界の第一線で活躍している人材を確保したい狙いもあります。
M&Aを通して、小企業は大企業の採用力を手に入れられて、大企業は介護業界の第一線で活躍できる人材を確保する。このように、大企業と中小企業の思惑が合致することで、人材確保を目的としたM&Aが増加しています。
介護業界は成長が見込まれる市場であり、多くの企業が新規参入を検討しています。しかし、介護業界は総量規制や許認可が厳しく、新規参入のハードルは高い現状もあります。
例えば、新規利用者を集めようと考えた場合、ケアマネージャーからの紹介を受けて利用する方法が一般的です。しかし、利用者に適した事業所を紹介するケアマネージャーも人間なので、新しい事業所よりも昔から知っている事業所のほうが「安心して紹介できる」と感じる方も少なくありません。
ゼロから介護事業を立ち上げて成功させるためには、現地で実績を残して地元民からの信頼を得なければいけないため、多大なコストと時間が必要になります。しかし、すでに介護事業を展開している企業を買収できれば、その事業所が育ててきた信頼と実績をそのまま引き継ぐことができるでしょう。
また、既存の介護事業を運営している側としても、「事業所に新しい風を取り入れたいけど、資金がなくて困っている」という悩みを抱えた経営者もいます。
介護事業に新規参入したい企業側と、新しい風を取り入れたい介護事業所側のメリットが合致すれば、M&Aが成立しやすいでしょう。
介護業界で発生している人材不足は、介護事業の後継者不足にも繋がっています。特に地方の介護事業所では、20代〜40代の人口が減少しており、介護事業所で働くスタッフも高齢化しつつあります。経営者が引退を考え始めたときに、運営を任せられる人間がいない介護事業所も多いでしょう。
現在、介護保険制度が始まってから20年以上が経過しており、かつて介護施設を立ち上げた経営者の多くが事業承継の時期に差し掛かっています。今後も、地方の人口減少と経営者の高齢化は進行していくでしょう。この問題を解決するためにもM&Aが重要な役割も果たします。
介護事業におけるM&Aの注意点は、売り手側と買い手側で異なります。
介護事業所を譲渡する場合、譲渡までに時間がかかることや売却費用について注意しておきましょう。
介護事業所を買収する場合、買収費用を回収するまでのシミュレーションを丁寧に実施して確実に投資した費用を回収できるシナリオを作成しましょう。
ここでは、介護事業におけるM&Aの注意点について、売り手側と買い手側の立場から解説します。
介護事業所を譲渡する場合、すぐに譲渡したくても買い手が現れない可能性も想定しておきましょう。
介護事業所を譲渡する場合、提示した条件を受け入れてくれる企業が現れるかは誰にもわかりません。すぐに相手の企業が見つかることもあれば、2年以上かかることもあるでしょう。
仮に、すぐにでも事業を譲渡したいタイミングでM&Aの準備を始めたとしても、スムーズに譲渡できない可能性が高いため注意しましょう。また、買収の手続きを急げば急ぐほど、想定よりも低い金額で買収されてしまう可能性もあります。介護事業を譲渡したい場合、余裕を持って動くように心がけましょう。
また、譲渡後の事業所運営にも注意しましょう。事業の譲渡後、買収した企業の発言権が強くなるため、これまでの運営方針が変えられることも考えられます。M&A後、運営方針の違いでトラブルにならないように注意しましょう。トラブルを避けるため、契約を結ぶ段階で、お互いの発言権について詳細に決めておくことをおすすめします。
介護事業は、介護保険制度を理解して、運営する必要があります。制度に則った運営を行わなければ、最悪の場合、行政からの指定取り消しとなる可能性もあるでしょう。他業種から参入する場合、買収後の運営をスムーズに行うため、事前に情報を仕入れておくことが重要です。
また、介護事業は利益率の高い事業ではないことも理解しておきましょう。一般的に介護事業の利益率は約3%です。決して利益の出やすい事業ではないため、買収費用を回収するのに時間がかかります。
M&Aを実行する場合、仲介業者が介入して行う方法が一般的です。ここでは、仲介業者を利用してM&Aを実行するまでの手順について解説します。
M&A仲介業者の多くは、無料で相談に対応してくれます。まずは、各会社の相談窓口でM&Aの意向と簡単な情報を提示しましょう。
初回面談のなかで、なぜ譲渡や売却を希望しているのか、現在の売り上げはどれくらいか、などの情報を聞かれます。また、今後の流れなども説明するので、気になることがあれば遠慮なく質問しましょう。
初回面談を実施して、気に入ったM&A仲介業者が見つかったら、仲介業者と契約を結びましょう。契約する際には、仲介手数料やプライバシーに関する情報を必ず確認することをおすすめします。
特に、M&Aを行う場合、実際に売却する前に関係機関に知られてしまうと、多方面に悪影響を及ぼしかねません。秘密保持契約を結んで、買収の計画をすすめましょう。
仲介業者との契約が完了した時点で、匿名概要書を作成します。匿名概要書とは、事業所を特定されないように売却価格などの情報をまとめたものです。
多くの場合、M&A仲介業者が匿名概要書を作成してくれます。匿名概要書をもとに、M&Aを希望する企業が出てくれば、仲介業者が必要な情報を先方へ公開します。
匿名概要書の情報をもとに買収希望のある会社が現れた場合、仲介業者と買収希望がある会社で打ち合わせを行います。その結果、お互いに問題がなければ、売り手の企業と買い手の企業で打ち合わせを行います。
デューデリジェンス
売り手の意向と買い手の意向が合致した段階で、基本合意を結びます。その後、しばらくの期間、買い手側は提出された資料の事実確認等を行います。これをデューデリジェンスといいます。
仮に、買い手側が不利になる情報を持っており、その情報がデューデリジェンスの時点で発覚した場合、買収が白紙に戻る可能性もあります。重要な情報はデューデリジェンス前に開示しておくように注意しましょう。
デューデリジェンスでも問題がなければ、実際に譲渡契約を結んで最終調整を行っていきます。最終的な譲渡契約を締結する際には、最初の段階から譲渡までの経緯を把握している仲介業者の存在が重要です。相談しながら手続きをすすめましょう。
譲渡や売却を実施する前に、関係者への説明を実施します。関係者とは、事業所で働く従業員、利用者や利用者の家族、取引先業者などです。譲渡期日がきた時点で、譲渡が実行されて、譲渡費用の支払いが行われます。
将来的に、要介護者が増えていく可能性が高いことから、介護業界の市場は拡大していくでしょう。介護業界の市場が拡大していくことで、介護業界に参入しようと考える企業も増加し、M&Aが活発に行われていくことが考えられます。
介護と無関係の業界から介護業界に参入する場合、経営陣が介護に関する専門知識を持っておらず、新たに従業員を集めることも困難です。そのため、介護業界へ参入したい大企業は、すでに従業員を抱えている小さな会社から事業所を丸ごと買い取ったほうがスムーズに参入できます。また、介護事業所側としても、事業所の運営を安定させる有効な手段として今後広がっていく可能性は高いでしょう。
介護事業に参入したい企業と、事業を引き継いでもらいたい企業の利害が一致しているため、今後も介護業界におけるM&Aは活発になっていくでしょう。
数多くの介護事業所で、スタッフ不足や運営資金不足の問題を抱えています。そこで、両方の問題を解決する方法としてM&Aを活用できます。
M&Aとは、企業が他の企業を買収、もしくは複数の企業が合併して一つの企業になることを指します。介護事業所のM&Aは、人材確保、新規参入、事業承継という3つの理由から実施されるパターンが多いようです。
介護事業所が事業所を売却もしくは譲渡することで、人材確保を安定させて資金を得られるメリットがあります。逆に、すぐに買い手が現れず、焦って契約することで事業を安く買われてしまうリスクもあることを覚えておきましょう。
日本の高齢者は、今後も増加していきます。拡大していく介護事業のマーケットに対して参入したい大手企業は多いでしょう。将来性のある介護事業所のM&Aは、今後さらに増加する可能性も秘めています。今のうちに基礎知識を身につけて、準備しておきましょう。
参考資料
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和4年12月分及び令和4年分)」
日本介護事業支援センターカイゴフの企業価値向上支援メニュー表です。