処遇改善加算とは、介護スタッフがキャリアアップできるような仕組み作りや、職場の環境改善を行った事業所や介護施設に対して、介護報酬を加算して支給する制度です。
介護スタッフの賃金向上を目的としたもので、処遇改善加算には算定要件があります。
この記事では、処遇改善加算の算定要件である「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」について詳しく解説します。
目次
介護職員処遇改善加算を取得するために必要な要件は、「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」の2種類です。
それぞれの要件を詳しく見ていきましょう。
介護職員処遇改善加算のキャリアパス要件は3つあり、Ⅰ~Ⅲに分けられています。
Ⅰ~Ⅲの要件の内容は、以下の通りです。
キャリアパス要件Ⅰ | 介護スタッフの役職や仕事内容に応じた賃金体系を整備している |
キャリアパス要件Ⅱ | 介護スタッフのスキルアップを目的とした研修や、資格取得のための福利厚生などを整備している |
キャリアパス要件Ⅲ | 介護スタッフ全体が評価されるように、所有資格や経験年数に応じた昇給制度を整備している |
処遇改善加算の4つ目の要件「職場環境等要件」は、介護スタッフの賃金以外に職場環境などを改善する取り組みを行っていることです。
例えば、多くの介護スタッフが悩まされている腰痛を緩和させる目的で、身体的な負担を減らすための介助用リフトを導入することが挙げられます。
他にも、子育てをしながら働くスタッフのために、保育所の設置や育児休業制度を設ける事業所もあります。
スタッフが働きやすい職場になるよう改善に取り組み、要件を満たした事業所が介護職員処遇改善加算の対象です。
要件を多く満たしている事業所ほど、加算率が高くなります。
キャリアパス要件Ⅰの要件は「介護職員の役職や職務内容に応じた賃金体系を整備していること」です。
整備すべき項目は以下の通りです。
①職位
②職責・職務内容
③任用要件
④賃金体系
⑤①~④に関する書類の整備
この5点について解説していきます。
フロアリーダーや主任、介護士長、上級ヘルパーなど、介護スタッフとして2段階以上の職位を定めます。
職位には、法人独自の名称が使用できます。
管理者やサービス提供責任者、生活相談員、計画作成担当者など指定基準上、必ず配置しなければならない職種は不可です。
①で定めた2段階以上の職位における職責や職務内容について、他スタッフとの違いを定めます。
下記の通り、職位によって内容は異なります。
介護主任 | ・専門的なスキルを身につけ、 スタッフの指導や育成などの役割を果たす ・他の部門や地域との関わりをつなぐ |
フロアリーダー | ・チームケアの重要性を理解し、 スタッフとの信頼関係を日常的に構築する ・困難事例の対応や、課題の解決に取り組む。 |
介護主任や上級ヘルパーなど、上位の職位になるために必要な条件を定めます。
下記のように職位によって、内容は異なります。
介護主任 | 上級ヘルパー |
・介護福祉士の資格を取得 ・当法人が実施する昇任試験に合格 | ・勤続年数3年以上 ・サービス提供200時間以上 |
職位ごとに分かれた給与表を作成、もしくは上位職位に手当を付けるなど、上位職位のスタッフを評価する賃金をはっきりと示します。
就業規則や給与規程などに上記の①~④を明記し、介護スタッフへの周知を行います。
または、就業規則とは別に「キャリアパス表」として定めることも可能です。
トラブル防止のために、スタッフにはきちんと周知し、途中入社のスタッフにも説明漏れがないよう十分な説明を行いましょう。
参考:厚生労働省
キャリアパス要件Ⅱの要件は「介護職員のスキルアップのための研修や資格取得のための福利厚生などを整備していること」です。
整備すべき項目は以下の通りです。
①介護職員の資質向上のための目標を設定しているか
②研修の機会提供を行っているか
③資格取得の支援を行っているか
この3点について解説していきます。
介護スタッフと意見交換し、資質向上のための目標を定めます。
資質向上のための目標は、事業所の運営状況や介護スタッフのキャリア志向などを考慮し、適切に設定されている必要があります。
事業所にとって有用な目標や計画を立てることが重要です。
スタッフの勤務年数やスキルに合わせて、資質向上を目的とした研修の実施または研修の機会を確保します。
研修を実施した上でスタッフの能力評価を行い、スタッフの職務遂行能力がどれくらい向上したかを判定し、次の指導に生かしましょう。
新入スタッフ | 数年勤務しているスタッフ |
・基本的なマナー研修 ・各介助方法の研修 ・防災対策研修 | ・ヒヤリハット研修 ・医療の知識などを学ぶ研修 ・介護福祉士資格取得支援講座 |
資格取得に関する研修受講のために、勤務シフトの調整や休暇の付与を行います。
その他にも、交通費や受講料など費用の援助も必要です。
各研修や資格取得のための費用を事業所側が負担することも要件に含まれています。
キャリアパス要件Ⅲの要件は「介護職員の全体が均等に評価されるように、経験年数や資格に応じた昇給制度を整備していること」です。
整備すべき項目は以下の通りです。
①勤続年数・経験年数に基づく昇給制度
②資格取得に基づく昇給制度
③人事評価に基づく昇給制度
この3点について解説していきます。
特定処遇改善加算は、経験やスキルのある介護スタッフを対象としています。
経験やスキルのある介護スタッフとは、基本的に10年以上の勤務経験のある介護福祉士を指します。
しかし、あくまでも指針であるため、必須事項ではありません。
例えば、介護スタッフの「勤続年数が5年で1万円昇給する」など、勤続年数や経験年数などに応じて昇給する仕組みを定めます。
介護福祉士や実務者研修修了者などの資格取得に基づく昇給制度を定めます。
例えば「介護福祉士の資格を取得すると5,000円昇給する」など、資格の取得に応じて昇給する仕組みが挙げられます。
「実技試験」や「人事評価」などの結果に基づく昇給制度を定めます。
同じ職場で10年以上働いていなくても、他の法人や事業所での経験が認められるケースもあります。
昇給を判定する明確な仕組みを定めることで、介護スタッフを均等に評価することが可能です。
また、昇給の仕組みを周知することで、スタッフ自身も将来の自分の姿を想像しやすくなり、仕事のモチベーションが上がるでしょう。
キャリアパス要件は、Ⅰ~Ⅲまですべて満たしている必要はなく、要件をいくつ満たしているかによって加算率が変動します。
職場環境等要件は、必ず満たしている必要があるので注意してくださいね。
加算率の変動は、以下の通りです。
処遇改善加算Ⅰ | キャリアパス要件Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの全て+職場環境等要件を満たしている =介護スタッフ1人当たり 月額37,000円相当 |
処遇改善加算Ⅱ | キャリアパス要件Ⅰ及びⅡ+職場環境等要件を満たしている =介護スタッフ1人当たり 月額 27,000円相当 |
処遇改善加算Ⅲ | キャリアパス要件ⅠまたはⅡ+職場環境等要件を満たしている =介護スタッフ1人当たり 月額15,000円相当 |
処遇改善加算に関する取り組みについては、事業所のホームページに記載するなどして周知する必要があります。
参考:厚生労働省
体力が必要なキツイ仕事というイメージのある介護職は、介護スタッフが定着しにくい現実があります。
そこで、今働いているスタッフの定着率を上げるための制度が「介護職員処遇改善加算」です。
全国にある介護サービス事業所の約90%が介護職員処遇改善加算を取得しています。
介護職員処遇改善加算を通して、経験豊富で十分なスキルのあるスタッフの確保や、やりがいをもって働ける職場環境の改善を心がけましょう。