訪問介護において現場の業務を安全かつスムーズに行うことは重要ですが、そのために役立つのが「手順書」です。
手順書を作成する際はしっかりとポイントを抑え、効率の良い業務につなげる必要があります。
今回の記事では、訪問介護の手順書とはなにか、手順書を作成する目的、手順書を作成する際の5つのポイントなどについて解説します。
目次
訪問介護の仕事には介護業務だけではなく他にもさまざまな業務がありますが、そのうちのひとつが「手順書」の作成です。
手順書とは、訪問介護におけるサービスの内容が詳しく書かれている書類で、サービス責任者によって作成されます。
訪問介護事業所にとって義務ではなく、あくまでも円滑な業務のために作成することが望ましいとされています。
手順書には訪問介護の目標やサービス内容の手順などが記載されており、それを実際に現場目線に落とし込むことでより効率の良い業務を行うのに役立ちます。
マニュアルとは違い利用者に必要な作業の進め方が現場目線でまとめられており、日常的に確認しながら業務を行うのが望ましいです。
事業所によっては「作業書」と呼ばれる場合もあります。
そんな訪問介護の手順書ですが、義務化されていないにも関わらずなぜ作成するのでしょうか。
その理由は、利用者にとってよりクオリティの高い訪問介護を実現するためです。
訪問介護の手順書をしっかり確認してから業務を行うことで、作業の効率化を図ることができます。
厚生労働省が「訪問介護の3ム」として掲げている「ムリ・ムダ・ムラ」を解消して、現場の介護職員が安全かつ効率的な介護を提供できるようにするのが目的です。
また、介護職員の人材教育にもつながるため、利用者側にとってもより質の良いサービスにつながります。
参考:厚生労働省
訪問介護の知識があるとはいえ、やはり現場では現場の状況に適したサービスが求められます。
手順書を確認せずに介護業務を行うと、質の悪い、その現場に適していないサービスになってしまうかもしれません。
訪問介護の本来の目的は、利用者が自立した生活を送れるような支援です。
それとはかけ離れたサービスにならないために、利用者の状況を確認するためにも、日常的に手順書を確認することが必要となります。
訪問介護の現場は利用者ごとに利用者の状態や、利用者宅の状態などが異なり、またさまざまな事故のリスクがあります。
思い込みや癖で行動すると、例えば何かにつまずいて転倒したり、うっかり物を壊してしまったりしてしまいます。
事前に手順書で利用者の自宅環境や注意点を確認しておけば、さまざまな事故を未然に防ぐことができます。
訪問介護サービスのクオリティを保つために、引継ぎ時の情報共有は重要な仕事です。
利用者にとって、新しい介護職員に変わるたびに一から説明するのは大きなストレスとなります。
また、引継ぎ時には事故が起こりがちです。
手順書には利用者それぞれのルールや、利用者宅の状況を記載し、ミスや事故を防ぐためにも確認する必要があります。
訪問介護の手順書は、初めて利用者宅を訪問する介護職員にも理解できる内容でなければいけません。
そのためには以下で紹介するポイントを押さえて記載する必要があります。
訪問介護の現場では、全てにおいて介助を行うわけではなく、利用者ができることは自ら行ってもらうのがルールです。
そのためには、利用者が行うことと介護職員が行うことを明確に区別して記載して、自立支援に役立つ手順書を作成しましょう。
文例は以下の通りです。
・「掃除をする際は、利用者がほうきで掃き、介護職員が掃除機をかける」
・「入浴時は、下肢の洗身は利用者が行い、上半身の洗身と洗髪は介護職員が行う」
・「ベッドの上でおむつの交換を行う時は、利用者に自ら腰を上げてもらえるよう声掛けを行う」
・「調理の際は利用者に味つけを決定してもらう」
利用者宅で介護サービスを行う際に、必要なものがどこにあるかわからないと探すのに時間を取られ貴重な時間を無駄にしてしまいます。
さらに、引継ぎ時に口頭で伝えても忘れてしまう可能性もあります。
単に「リビング」「和室」ではなく具体的な場所を記載しておきましょう。
文例は以下の通りです。
また、文章に加えて画像などを添付してよりわかりやすく工夫するのも良いでしょう。
・「テレビのリモコンはテレビ台の中央引き出しの中に収納する」
・「利用者が必要な補聴器は利用者のベッド脇に掛けてあるかごの中」
・「利用者の寝具の替えは和室の押し入れの2段目の右奥に収納してある寝具を使用する」
③起こりうるトラブルをあらかじめ記す
利用者の状態や自宅の環境は同じではないので、訪問介護で起こりうるトラブルもそれぞれ違いがあるはずです。
さまざまな事故のリスクを減らすために、手順書には利用者一人ひとりに応じた「発生する可能性があるリスク」と「その対処法」を記載する必要があります。
文例は以下の通りです。
・「嚥下機能の低下がみられるため、食材は5mm以下に切る」
・「前夜に眠剤を服用した場合は、ふらつきが強い傾向があるのでサービス内容を〇〇に変更する」
・「廊下の幅が狭いので、車いすで移動する際は壁で手を傷つけないように注意する」
・「洗面所の床が滑りやすいため、立ち上がり介助の際は滑り止めマットを使用する」
④主治医の指示をまとめる
訪問介護の利用者の中には、主治医から日常生活において注意する点を指示されている方もいます。
中には命にかかわる指示もあるので、手順書には必ず記載する必要があります。
文例は以下の通りです。
・「主治医より塩分を控えるべきとの指示あり」
・「主治医より水分は1日〇〇mlまでのとの指示あり」
・「主治医より血圧〇〇から〇〇までなら入浴OKとの指示あり」
・「食後に飲む薬は○○との食べ合わせが禁止との指示が出ているので調理には使用しないこと」
⑤利用者からの要望をまとめる
訪問介護では、できる限り利用者の求めていることや利用者にとってプラスとなるサービスを提供する必要があります。
ただし、利用者の要望がすべて必要な支援とは限りません。
医療の専門家や介護のエキスパートの専門知識など確固たる根拠をもとに分析をして手順書に記載するのがポイントです。
文例は以下の通りです。
・「おむつではなくできる限り自宅のトイレで用を足したい」
・「利き腕に麻痺があるため逆の手を使って食事できるように介助してほしいとの要望あり」
・「可能な限り住み慣れた自宅で過ごしたい」
訪問介護の手順書の記入例(見本)
訪問介護の手順書は、厚生労働省で書式が定められているわけではないので事業所ごとに書式を決定しなければいけません。
こちらでは前出のポイントを踏まえた記入例をご紹介します。
支援内容 | 項目 | 所要時間 | 手順 | 留意点 |
身体介護 記録 | 入浴介助 | 40分 5分 | 1.入浴準備 ・水分を補給してもらう ・着替え(上下肌着・シャツ・ズボン・靴下・リハビリパンツ)を妻に用意してもらう ・浴室入り口にバスマットをセットする ・洗い場に滑り止めマットをセットする ・浴槽にバスボードをセットする 2.リビングから脱衣所へ移動 ・車いすで移動 ・脱衣所に着いたらシャワーでお湯を出して浴室を温めておく 3.脱衣 ・上着の脱衣は本人に任せる ・ズボンの脱衣はサポートする 右手で手すりを持って立ってもらう →手すりと向き合うよう身体の向きを変えて両手で手すりを持ってもらう →職員が後ろからズボンとリハビリパンツをずらす →身体を元の向きに戻して座らせる →ズボン、リハビリパンツ・靴下を脱がす 4.脱衣所から浴室に移動 ・職員が後方やや右寄りの位置から支ながら杖を使って浴室に移動する ・シャワーチェアに座らせる 5.洗髪 ・まずは足からシャワーをかけて順に上げていく ・洗髪は本人が行うので利用者の左手にシャンプーを2プッシュ出す ・「終わった」の合図後シャワーで頭部を流す 6.洗身 ・洗身用タオルにボディソープを2プッシュ出す ・上半身・陰部の洗身は本人が行うので洗身用タオルを渡す ・背中・両脚の洗身を行う ・肩からシャワーをかけて全身の泡を落とす 7.浴槽につかる ・右手で手すりを持ってもらう →杖を使ってバスボードまで移動してもらう →バスボードに座ったまま浴槽の手すりを持ってもらう →職員が右足を抱えて浴槽内に移動 →左足を浴槽に移動してもらう →手すりを持ったまま立ってもらう →その間に職員がバスボードを取り除く →ゆっくりと浴槽内に座ってもらう 8.浴槽から出る ・右手で浴槽内の手すりを持ってもらう →職員が後方から身体を支える →ゆっくり立たせる →バスボードをセットする →バスボードに座らせる →右足を出してもらう →右手で手すりを持ってもらう →職員が左足を抱えて浴槽から出す →出たらタオルでざっと身体を拭く 9.浴室から脱衣所に移動 ・杖を持ってもらい、職員が後方やや右よりから身体を支えながら脱衣所まで歩いて移動してもらう ・車いすに座らせて身体をきれいに拭く 10.着衣 ・上着は利用者本人が行う。難しい場合は職員が腕を通すのをサポートする ・リハビリパンツとズボンをはかせて膝まで上げる ・靴下をはかせる ・右手で手すりを持って立ってもらう →手すりと向き合うよう身体の向きを変えて両手で手すりを持ってもらう →職員が後ろからズボンとリハビリパンツを上げる →身体を元の向きに戻して座ってもらう 11.脱衣所からリビングへ移動 ・車いすでリビングに移動 ・水分補給してもらう ・体調に変化がないか確認する 12.記録・退出 ・実施記録と連絡ノートに記入する ・退室する | ・主治医より注意事項あり →血圧が150以上または体温が37度以上の場合は入浴に注意。その場合は全身洗浄に切り替える。 ・睡眠導入剤などを服用して就寝した翌日はふらつきやすい。転倒リスクがある場合は全身洗浄に切り替える。 ・お湯は妻に溜めてもらう ・シャワーの設定温度は40度にする。 ・出た時にすぐ座れるよう車いすにバスタオルを敷いておく ・肌荒れや介助の際の滑りの原因となるので泡の落とし忘れに注意する ・浴室の片付けや清掃は妻にお任せする ・退室時は必ず利用者に明るく声をかける |
訪問介護の手順書と計画書の違いは?
一番の違いは「作成する義務があるかないか」です。
計画書は、利用者やその家族に介護計画を提示する際に確認をしてもらい、それに納得してもらえなければサービスは開始できません。
それに対して手順書は、介護事業所内で共有する資料であり、介護職員の業務を効率化するのに役立てるものです。
もしどちらか一方を作成するとなれば、義務付けられている計画書が優先されますが、職員にとって働きやすい環境を整えるためには手順書も作成した方が得策と言えます。
計画書はルールに沿って記入する必要があるので、詳しくは「訪問介護計画書の作成方法まとめ!書き方・目的・注意点は?」を参考にしてみてください。
訪問介護の目的は、利用者が自立した生活を送れるようになることです。
そのためには、すべての介護職員が手順書を確認して利用者の状態や生活環境を把握したうえでサービスを行う必要があります。
ぜひご紹介した情報を参考にして、わかりやすい手順書を作成してみてください。