平成21年度には「介護職員処遇改善交付金」が創設され、平成24年度に「介護職員処遇改善加算」という制度ができました。
これにより、算定要件をクリアした事業所は加算対象となり、介護職員の報酬アップにつながります。
今回の記事では、処遇改善加算の単位数や計算方法、算定要件などについてご紹介します。
目次
訪問介護の処遇改善加算について知る前に、加算とはなにか、加算一覧などについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
【実例付き】介護における加算・減算とは?要件や提出方法を徹底解説!
職場環境の改善を行ったり、キャリアアップの仕組みを作ったりした事業所に支給される処遇改善加算。
低賃金で離職率が高いといったマイナスイメージを払拭し、介護職員のモチベーションを上げる効果が期待できます。
実際に、処遇改善加算が導入されて以降、雇用は安定化しつつあります。
訪問介護の介護職員処遇改善加算の算定には、1ヶ月あたりの総単位数が必要です。
計算式「処遇改善加算算定の前年度(1月〜12月)の介護報酬総単位数(基本サービス費+各種加算減算)÷12」で算出します。
訪問介護の介護職員処遇改善加算の計算式は「1ヶ月あたりの総単位数×サービス別加算率」になります。
サービス加算率はサービスの種類によって異なるので、すべての介護事業所が一律の金額になるわけではありません。
また、同じ訪問介護でも、介護予防訪問看護と介護予防訪問リハビリテーションは加算対象のサービスではないので注意が必要です。
訪問介護のサービス加算率は下記のように設定されています。
サービス区分 | 加算I | 加算II | 加算III |
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% |
参考:厚生労働省
・具体的な計算例
1ヶ月あたりの総単位数が9,300、加算区分Iの訪問介護事業所の場合
計算式「9,300×13.7%=1,274.1」
小数点以下は四捨五入となるので加算単位数は「1,274」と算出されます。
介護職員処遇改善加算の前提となる算定要件は以下の通りです。
・介護職員処遇改善計画書の作成・提出
・賃金改善を行う方法等について計画書を用いた介護職員への周知
・介護職員処遇改善加算の算定額に相当する賃金改善の実施
・介護職員処遇改善実績報告書の作成・提出
・労働保険への加入と労働保険料の納付
・労働基準法・労働災害補償保険法・最低賃金法・労働安全衛生法・雇用保険法その他の労 働に関する法令に違反していない
これらに加えて加算区分ごとに定められた算定要件が全部で5種類(I~V)あり、要件を満たしていない場合は加算対象となりません。
加算される報酬額は事業所の種類によって差があり、同じサービス内容であっても雇用環境の改善や人材育成への取り組みに積極的である方が加算単価が高いです。
以下で5種類ご紹介しますが、2018年度の介護報酬改定で、処遇改善加算IVとVについてはあてはまる事業所の割合が少ないなどの理由から廃止されることが決定しました。
経過借置期間は令和3年3月31日時点で、それまでに算定が決定している事業所については令和4年3月31日まで算定が可能です。
介護職員処遇改善加算Iを取得するには「キャリアパス要件I・II・IIIのすべての要件を満たす」「職場環境等要件を満たす」が条件となります。
加算報酬額は、介護職員1人当たり月額37,000円相当です。
介護職員処遇改善加算IIを取得するには「キャリアパス要件I・IIのすべての要件を満たす」「職場環境等要件を満たす」が条件となります。
加算報酬額は、介護職員1人当たり月額27,000円相当です。
介護職員処遇改善加算IIIを取得するには「キャリアパス要件IまたはIIの要件を満たす」「職場環境等要件を満たす」が条件となります。
加算報酬額は、介護職員1人当たり月額15,000円相当です。
介護職員処遇改善加算IVを取得するには「キャリアパス要件IまたはIIまたは職場環境等要件のいずれかを満たす」が条件となります。
加算報酬額は、介護職員1人当たり月額13,500円相当です。
介護職員処遇改善加算Vを取得するには「キャリアパス要件I・IIまたは職場環境等要件のいずれも満たさない」が条件となります。
加算報酬額は、介護職員1人当たり月額12,000円相当です。
キャリアパス要件とは、介護職員にとって能力や経歴に応じたキャリアアップができるような労働環境や賃金体制が整備されていることが重視される要件です。
これは、介護職員が働きやすい環境の確保や優れた人材の育成、さらにその定着化を目的として設定されました。
介護職員にとっては、キャリアに対するビジョンが明確になり、仕事に対するモチベーションアップにもつながります。
全部で3つの要件があり、介護職員処遇改善加算を得るために満たすべき要件となります。
職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
引用:厚生労働省
こちらは、介護リーダーや介護主任の役職に就いた場合の仕事内容や報酬がどれくらいなのかを職員全員が把握している必要があるということです。
それらの職位に就くために必要な資格や経験年数と共に手当や報酬を書面に明記して、職員の将来設計に役立てるのが目的です。
資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保すること
引用:厚生労働省
こちらは、介護職員のスキルアップを考慮して、職員それぞれに合った研修を行うということです。
新人職員には防災対策や基本的なマナーの研修など、中堅職員には介護の現場で必要な医療知識を学んだり、資格の取得を支援する研修など。
多様な研修を行って人材育成を図るのが目的です。
経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
引用:厚生労働省
こちらは、介護職員に対して平等な評価を実現するために、昇給に関する仕組みやキャリアビジョンを明確に示すということです。
勤続年数や資格取得に応じた昇給制度を設けて、介護職員の仕事に対するモチベーションをキープしながら長期間働ける環境にするのが目的です。
すべての介護職員処遇改善加算において満たすべき要件が職場環境等要件です。
介護職員にとって働きやすい環境であることは、事業所や利用者にとっても大きなメリットになるので、必ず要件を満たしておきましょう。
例えば介護職員にとって悩みの種でもある腰痛などを緩和するためのリフトや介護ロボットの導入などです。
また、子育て中の介護職員のための育児休業制度や託児所の設置など。項目は多岐に渡りますが、以下の表の中のひとつ以上取り組んでいることが条件となり、多く満たせば満たすほど加算率が高くなります。
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引用:厚生労働省
訪問介護の介護職員処遇改善加算を取得するには、いくつか気をつけるべき点があります。
せっかく準備をしても非対象となってしまったら元も子もないので、まずはこちらで挙げる注意点を確認してみてください。
〇加算算定非対象サービスもある
すべての介護事業所が加算対象になるわけではありません。
介護職員処遇改善加算は介護職員を対象とした加算なので、原則として介護従事者が配置されていることが加算の対象となります。
以下の事務所は非対象となるので注意してください。
・介護予防訪問看護
・介護予防訪問リハビリテーション
・介護予防福祉用具貸与
・特定介護予防福祉用具販売
・介護予防居宅療養管理指導
・居宅介護支援
・介護予防支援
〇非常勤職員やパートも加算対象となる
介護の職務に就いている人は、非常勤であろうがパートであろうが雇用形態関係なくすべて介護職員処遇改善加算の対象となります。
ただし、事務員・生活相談員・栄養士など介護業務に直接携わることがない職員は対象外となります。
〇支給額は一律ではない
介護職員処遇改善加算の支給額の配分は、事業所に権限があります。支給された報酬はすべて介護職員に還元するというのは定められていますが、対象となる介護職員の中から誰にいくら支給するかは事業所が決めることができるのがルールです。
事業所の方針によって、全員均等に振り分けられることもあれば金額に差があることもあります。
〇「介護職員等特別処遇改善加算」とは違う
介護職員処遇改善加算とは別に、2019年に創設されたのが介護職員等特別処遇改善加算です。両方とも介護職員にとって処遇改善となる加算制度ですが、算定要件などに若干違いがあるので注意が必要です。
介護職員処遇改善加算 | 介護職員等特別処遇改善加算 | |
処遇改善の対象 | 介護職員全員 | 経験と技能を持つリーダー級介護職員 |
算定要件 | ・該当キャリアパス要件を 満たしている ・職場環境等要件をひとつ でも満たしている | ・処遇改善加算の対象となる取り組みの見 える化(ホームページで掲載など) ・処遇改善加算I~IIIのいずれかを取得 ・職場環境等要件をひとつでも満たして いる |
配分ルール | 事業所に決定権あり | 経験や技能を有する職員を優先 |
介護職員処遇改善加算は、訪問介護職員にとってより働きやすい環境が叶う重要な制度です。
また、報酬アップという形で従業員の労働環境が改善されれば事業所全体に良い影響を与えてくれるので、事業所にとっても大きなメリットとなります。
確実に評価を受けるためにも、ぜひご紹介した算定要件などを役立ててください。