障害福祉サービス事業所の経営者は、事業所を安全に運営するため、障害者総合支援について理解を深めておく必要があります。しかし、複雑なルールが多い障害者総合支援法を完璧に理解するのは難しいでしょう。
この記事では、障害者総合支援法の基礎知識について分かりやすく解説します。この記事を読むことで、障害福祉サービスが抱える課題や今後の展望についても理解できます。
目次
障害者総合支援法の発端は、2000年の社会福祉基礎構造改革です。社会福祉基礎構造改革によって、行政に決定権がある措置制度から利用者が自らサービスを選択できるように改変されました。これが、障害者総合支援法の始まりです。
その後、2003年に介護保険制度を参考にした支援費制度が開始されます。しかし、すぐに財源不足などの問題で改正を余儀なくされます。支援費制度の課題を解決すべく施行されたのが障害者自立支援法です。
しかし、障害者自立支援法は、低所得世帯にも1割負担を課す制度だったため、障がい者や家族が違憲訴訟を起こします。障害者自立支援法違憲訴訟の影響で2012年に施行された制度が、現在も続いている障害者総合支援法です。
これらの背景から、障害者総合支援法は、利用者の選択権、サービスの質、財源確保などの課題に対応する形で進化してきた制度だといえるでしょう。
障害者総合支援法の目的について、法令では以下のように記載されています。
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 |
第一章 総則 (目的) 第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)、知的障害者福祉法(昭和三十五年法律第三十七号)、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)その他障害者及び障害児の福祉に関する法律と相まって、障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援事業その他の支援を総合的に行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。 |
引用:e-GOV法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
障害者総合支援法の目的について簡潔にまとめると「障がい者や障がい児が人格と個性を尊重して安心して暮らせるようになること」といえます。
その目的を達成するためには、障害福祉サービスに係る給付や地域生活支援事業などを総合的に実施して、障がい者や障がい児の地域生活を支援することが重要です。
障害者総合支援法では、法律の対象となる「障がい者」について以下のように定義しています。
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 |
(定義) 第四条 この法律において「障害者」とは、身体障害者福祉法第四条に規定する身体障害者、知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち十八歳以上である者及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第五条第一項に規定する精神障害者(発達障害者支援法(平成十六年法律第百六十七号)第二条第二項に規定する発達障害者を含み、知的障害者福祉法にいう知的障害者を除く。以下「精神障害者」という。)のうち十八歳以上である者並びに治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が主務大臣が定める程度である者であって十八歳以上であるものをいう。 2 この法律において「障害児」とは、児童福祉法第四条第二項に規定する障害児いう。 |
引用:e-GOV法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
障害者総合支援法が対象とする障がい者の範囲は、身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者に加え、制度の谷間となって支援の充実が求められている難病等を持つ者としています。
障害者総合支援法による支援は、自立支援給付と地域生活支援事業で構成されています。
障がい者を対象とする障害福祉サービスに係る自立支援給付は、介護給付と訓練給付の2種類に分類されます。また、障がい児に関しては、都道府県における障害児入所支援と市町村による障害児通所支援の2種類があります。また、相談支援、自立支援医療、補装具なども自立支援給付に含まれます。
地域生活支援事業とは、都道府県や市町村が提供する事業です。地域で生活する障がい者・障がい児のニーズを踏まえ、地域の実情に応じて効率的かつ効果的な事業を行います。具体的には、理解促進研修・啓発、移動支援、成年後見人制度使用支援などが挙げられます。
障がい者を対象としたサービスは、介護給付と訓練給付の2つに大きく分類され、各給付ごとにさまざまなサービスが提供されています。各給付で利用可能なサービスは以下のとおりです。
給付 | 介護給付 | 訓練等給付 |
利用できるサービス |
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在宅生活において介護を必要とする方は介護給付を利用して、就労や自立訓練などを必要とする方は訓練等給付を利用します。
障がい児に対して提供されるサービスは、都道府県による「障害児入所支援」と市町村による「障害児通所支援」があります。各自治体で提供している施設は以下のとおりです。
管轄 | 都道府県 | 市町村 |
利用できるサービス |
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これらのサービスは、障がい児が地域社会で適切な支援を受けるために重要であり、彼らの自立と社会への適応を促進することを目的としています。
障害者総合支援法の相談支援とは、生活相談、福祉サービスの利用計画の立案、さまざまな手続きの援助などを行うサービスです。
専門の相談支援員が、障害者本人及びその家族のニーズに応じた個別のサポートを提供し、障害者の自立と社会参加を促進します。具体的な事業としては、以下の3つを行っています。
●サービス利用支援
障害福祉サービス等の申請に係る支給決定前に、サービス等利用計画案を作成し、支給決定後に、サービス事業者等との連絡調整等を行うとともに、サービス等利用計画の作成を行います。
● 継続サービス利用支援
支給決定されたサービス等の利用状況の検証(モニタリング)を行い、サービス事業者等との連絡調整などを行います。
●地域移行支援
障害者支援施設、精神科病院、保護施設、矯正施設等を退所する障害者、児童福祉施設を利用する18歳以上の者等を対象として、地域移行支援計画の作成、相談による不安解消、外出への同行支援、住居確保、関係機関との調整等を行います。
●地域定着支援
居宅において単身で生活している障害者等を対象に常時の連絡体制を確保し、緊急時には必要な支援を行います。
●障害児支援利用援助
障害児通所支援の申請に係る支給決定前に、障害児支援利用計画案を作成し、支給決定後に、サービス事業者等との連絡調整等を行うとともに、障害児支援利用計画の作成を行います。
●継続障害児支援利用援助
支給決定されたサービス等の利用状況の検証(モニタリング)を行い、サービス事業者等との連絡調整などを行います。
障害福祉サービス利用にあたり、相談相手になり、実際のサービス計画を立案する役割を持っているのが相談支援です。
障害者総合支援法の地域生活支援事業とは、地域の特性や利用者の状況に応じて柔軟に実施され、効果的かつ効率的なサポートを提供するための事業です。
この事業の目的は、全ての国民が人格と個性を尊重し合い、安心して暮らせる地域社会の実現に寄与することにあります。具体的には、障がい者の理解促進研修や啓発、成年後見制度の利用支援などが含まれます。
地域生活支援事業は、地方自治体が主体となり、委託契約や広域連合を活用し、地方分権の観点から自主的に取り組まれるものです。
障害者総合支援法の障害福祉サービス利用の手続きは、以下の7つのステップで行われます。
障害者が必要な福祉サービスを受けるためには、まず相談支援事業者や市町村に相談・申し込みを行わなければいけません。利用を検討している方は、まず窓口で相談しましょう。
障害者総合支援法における利用者負担は、障害福祉サービスの自己負担が所得に応じて設定された負担上限月額によって決定されます。ここでは、障がい者や障がい児の利用者負担額と、高額障害福祉サービス費などについて詳しく解説します。
障害者総合支援法における利用者負担について、障害福祉サービスの自己負担は所得に応じて4つの区分に分けられ、その負担上限月額が設定されています。詳しくは以下の表をご参照ください。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限 (月額) |
生活 保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) ※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除きます。 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
所得を判断する際の世帯の範囲は、18歳以上の障がい者の場合は障害のある人とその配偶者で、障がい児の場合は保護者の属する住民基本台帳での世帯となっています。
障害者総合支援法における利用者負担について、障がい児も障がい者と同様に4つの区分に分けられ、その負担上限月額が設定されています。詳しくは以下の表をご参照ください。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限 (月額) | |
生活 保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 | |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 | |
一般1 | 市町村民税課税世帯 (所得割28万円未満) | 通所施設・ホームヘルプ 利用の場合 | 4,600円 |
入所施設利用の場合 | 9,300円 | ||
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
医療型障害児入所施設へ20歳未満方が入所する場合、所得要件なしで地域で子供を養育する世帯と同程度の負担となるように設定され、限度額を上回る額については減免されます。
高額障害福祉サービス費とは、障害福祉サービスを利用する世帯で、1ヶ月間の利用者負担額が一定の基準を超えた場合、超過額が還付される制度です。この制度は、同じ世帯に複数の障害福祉サービス利用者がいる場合や、一人で複数のサービスを利用する場合に適用されます。
また、65歳を迎えた障がい者が介護保険を利用する際、自己負担額が増加するため利用者負担が軽減されます。
高額障害福祉サービス費や高齢障がい者の利用者負担軽減など、サービス利用費が高額になった場合の軽減制度も把握しておくとよいでしょう。
2016年の障害者総合支援法改正では、障がい者が地域社会で円滑に生活し、就業する際のサポートが強化するため、「障がい者の望む地域生活の支援」「障がい児支援のニーズの多様化への対応」「サービスの質の確保・向上」を柱とし、自立生活援助や就労定着支援などが導入されました。
しかし、2024年の障害者総合支援法改正に向けて、障がい者の重度化や高齢化、グループホームの減少などの問題が指摘されています。また、災害対策や感染症対策のための業務継続計画(BCP)の策定、ICTの活用によるサービスの効率化や質の向上なども考慮すべき重要な課題です。
今後は、多様化する障がい者のニーズに合わせて柔軟にルールを見直しつつ、制度の持続可能性を確保することが重要なポイントとなるでしょう。
この記事では、障害者総合支援法の基礎的な知識と今後の展望について解説しました。
障害者総合支援法は、障がい者や障がい児が尊厳ある生活を送れるよう全面的に支援することを目的とした制度です。2000年の社会福祉基礎構造改革を起点にして、利用者の自主選択やサービス質の向上や財源の問題を解決するために進化してきました。
現在も、障がい者の重度化や高齢化、働き方の多様化などの問題に直面しており、次回の法改正による問題解決が求められています。
時代と共に変遷してきた障害者総合支援法は、これからも障がい者や障がい児が尊厳ある生活を送れるように、時代の変化と共に進化し続けていくでしょう。
参考資料:
e-GOV法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた主な論点(案)」