サービス提供実績記録票は、介護サービスを提供した事実を記録し、適正な介護報酬請求をおこなうための重要な書類です。しかし、記載方法を誤ると運営指導での指摘や、最悪の場合は報酬返還のリスクにつながります。「何をどこまで書けばいいのか」「日々の業務で効率的に記録するには」と悩む事業所も多いでしょう。
本記事では、サービス提供実績記録票の基本的な書き方から具体的な記入例、よくあるミスと回避方法まで、実務ですぐに活用できる内容を解説します。正確な記録管理により、運営指導への不安を解消し、安心してサービス提供に専念できる体制を整えましょう。
目次
サービス提供実績記録票は、介護サービスを提供した日時、内容、時間などを記録する帳票です。介護保険法に基づき、サービス事業所に作成・保管が義務づけられています。
サービス種別 | 作成者 | 作成時期 | 提出先・時期 |
通所介護 | 生活相談員またはサービス提供責任者 | サービス提供後、速やかに記録(当日中が望ましい) | 月末締めで翌月初めに居宅介護支援事業所へ提出 |
訪問介護 | サービス提供責任者 |
実績記録票は、利用者ごとに1ヵ月分をまとめて作成するのが一般的です。毎日のサービス提供内容を漏れなく記録し、月末に集計・確認をおこないます。
介護保険法により、完結日から5年間の保管が義務づけられています。紙媒体での保管のほか、電子データでの保管も認められていますが、必要時に速やかに出力できる体制を整えておく必要があります。
サービス提供実績記録票に記載が必須となる項目を整理します。記載漏れは運営指導での指摘対象となるため、確実に押さえておきましょう。
項目カテゴリ | 記載内容 | 詳細 |
基本情報 | 利用者氏名、生年月日 | 利用者を特定するための基本情報 |
事業所名、事業所番号 | サービス提供事業所の情報 | |
作成者氏名 | サービス提供責任者等の氏名 | |
対象年月 | 実績記録の対象となる年月 | |
サービス提供の記録(日ごと) | 提供日 | サービスを提供した日付 |
サービス内容 | 提供したサービスの種類(通所介護、訪問介護等) | |
サービス提供時間 | 開始時刻と終了時刻、または提供時間数 | |
算定した単位数 | その日に算定した基本サービス費と加算の単位数 | |
特記事項 | 通常と異なる対応や利用者の状態変化など | |
加算の算定記録 | 算定した加算 | 個別機能訓練加算、入浴介助加算、口腔・栄養スクリーニング加算など |
加算の単位数 | 各加算の単位数を明記 | |
訪問介護の追加記載 | サービス提供者 | 実際にサービスを提供したヘルパーの氏名 |
具体的なサービス内容 | 身体介護(入浴介助、排泄介助等)、生活援助(調理、掃除等)の内容 | |
月間集計 | サービス提供回数(日数) | 1ヵ月間の合計提供回数 |
合計単位数 | 1ヵ月間の合計単位数 | |
利用者負担額 | 利用者が負担する金額 |
これらの項目が漏れなく記載されていることで、適正な実績記録となります。
具体的な記入例を示します。実務での参考にしてください。
利用者:山田太郎様(要介護2) 令和6年10月分
日付 | サービス内容 | 時間 | 算定単位 | 特記事項 |
10/1(火) | 通所介護 | 9:30-16:45 | 基本765単位+個別機能訓練56単位+入浴50単位 | 通常どおり |
10/3(木) | 通所介護 | 9:30-16:45 | 基本765単位+個別機能訓練56単位+入浴50単位 | 通常どおり |
10/5(土) | 通所介護 | 9:30-16:45 | 基本765単位+個別機能訓練56単位 | 入浴拒否あり |
10/8(火) | 通所介護 | 9:30-14:00 | 基本765単位+個別機能訓練56単位 | 体調不良により早退 |
10/10(木) | 通所介護 | 9:30-16:45 | 基本765単位+個別機能訓練56単位+入浴50単位 | 通常どおり |
… | … | … | … | … |
月間合計 | 利用回数: 12回 | – | 合計単位数: 10,332単位 | 利用者負担: 10,332円(1割負担) |
【ポイント】
- 時間は実際の送迎到着・出発時刻を記載
- 算定単位は基本単位と加算単位を分けて明記
- 通常と異なる対応があった場合は特記事項に記録
利用者: 佐藤花子様(要介護1) 令和6年10月分
日付 | サービス内容 | 時間 | 提供者 | 算定単位 | 特記事項 |
10/1(火) | 身体介護 | 8:00-8:45(45分) | 田中ヘルパー | 身体2: 388単位 | 起床介助、朝食準備 |
10/1(火) | 生活援助 | 10:00-11:00(60分) | 鈴木ヘルパー | 生活2: 225単位 | 掃除、洗濯 |
10/3(木) | 身体介護 | 8:00-8:45(45分) | 田中ヘルパー | 身体2: 388単位 | 起床介助、朝食準備 |
10/5(土) | 生活援助 | 10:00-11:00(60分) | 山本ヘルパー | 生活2: 225単位 | 買い物代行 |
10/7(月) | 身体介護 | 8:00-8:45(45分) | 田中ヘルパー | 身体2: 388単位 | 起床介助、朝食準備 |
… | … | … | … | … | … |
月間合計 | 身体介護: 12回、生活援助: 8回 | – | – | 合計単位数: 6,456単位 | 利用者負担: 6,456円(1割負担) |
【ポイント】
- サービス提供者(ヘルパー)の氏名を必ず記載
- 身体介護と生活援助を明確に区別
- 具体的なサービス内容を簡潔に記載
運営指導で指摘されやすいミスと、その回避方法を解説します。
ミスの種類 | 悪い例 | 良い例 | 解説 |
1. 提供時間の記載ミス | 9:00-17:00(送迎時間を含めた記載) | 9:30-16:45(実際の到着・出発時刻) | 通所介護の場合、送迎車が事業所を出発した時刻ではなく、利用者が事業所に到着・出発した実際の時刻を記載します |
2. 加算の算定根拠が不明確 | 加算の記載があるが、実施記録が別書類にない | 個別機能訓練加算を算定している場合、訓練実施記録が別途保管されている | 加算を算定する場合、その根拠となる記録(計画書、実施記録等)が必ず必要です。実績記録票と関連書類を紐づけて管理しましょう |
3. サービス未提供日の記載 | 利用予定だったが欠席した日も「提供あり」と記載 | 欠席日は空欄または「欠席」と明記 | 実際にサービスを提供していない日は算定できません。欠席の場合は必ずその旨を記録します |
4. 訪問介護でヘルパー名の記載漏れ | ヘルパー名が空欄または「訪問介護員」とだけ記載 | 田中ヘルパー(資格: 介護福祉士)と具体的に記載 | 誰がサービスを提供したかは必須記載事項です。ヘルパーの特定ができない記録は不適切とされます |
5. 単位数の計算ミス | 要介護度や時間区分を誤って高い単位を算定 | 報酬単位表を確認し、正確な単位数を記載 | 単位数の誤りは過誤請求・返還の原因となります。記載後のダブルチェック体制を整えましょう |
6. 利用者署名・確認の不足 | 署名・確認なし | 月末に実績記録票のコピーを渡し、確認印をもらう | 一部自治体では、利用者または家族による実績確認の署名を求めています |
日々の業務の中で、効率的かつ正確に実績記録を残すための工夫を紹介します。
サービス提供当日、または翌朝の業務開始時に記録する習慣をつけます。まとめて記録しようとすると、記憶が曖昧になりミスが増えます。
事業所で統一された記入フォーマットを用意し、記載漏れを防ぎます。月末には確認用チェックリストを使用し、必須項目の記載を確認します。
チェックリスト例
□ 利用者氏名、生年月日は記載されているか
□ サービス提供日・時間は正確か
□ 算定単位数は報酬単位表と一致しているか
□ 加算の算定根拠資料は揃っているか
□ 特記事項は適切に記載されているか
□ 月間集計は正確か
介護ソフトを使用すれば、実績記録の自動集計や単位数計算が可能です。手書きに比べて転記ミスが減り、業務効率が大幅に向上します。
記録作成者とは別の職員(管理者等)が確認する体制を作ります。特に月末の集計時には、複数名で確認することで誤りを防げます。
運営指導では、特定の利用者について「○月○日のサービス内容を説明してください」と求められることがあります。実績記録票と日々のサービス提供記録、加算の根拠資料を紐づけて保管しておくことで、スムーズに対応できます。
月に1回、管理者とサービス提供責任者で記録内容を確認する時間を設けます。記載の不備や改善点を共有し、継続的に記録の質を向上させましょう。