リハビリテーション実施計画書は、医療機関や介護事業所でリハビリテーションを提供する際に作成が義務づけられている重要な書類です。初めて作成する方や経験が浅い方にとっては、「何を書けばいいのか」「総合実施計画書との違いは何か」と戸惑うことも多いでしょう。
しかし、基本的な構成要素と目的を理解すれば、確実に作成できる書類です。本記事では、リハビリテーション実施計画書の目的から必要な記載内容、具体的な書き方、そして実務上の注意点まで、実践的に解説します。
この記事を読むことで、明日からの業務で自信を持って計画書を作成できるようになります。
目次
リハビリテーション実施計画書は、患者・利用者に対して提供するリハビリテーションの内容を具体的に示す文書です。医療保険、介護保険いずれにおいても、リハビリテーション料や加算を算定する際に作成が求められます。
この計画書には3つの重要な目的があります。
- 目標の明確化 :患者・利用者が何を目指してリハビリテーションをおこなうのか、具体的な目標を設定します
- リハビリ内容の可視化 :どのようなアプローチで、どのくらいの頻度でリハビリテーションを実施するのかを明示します
- 多職種連携の促進 :医師、看護師、介護職員など、関係する職種間で情報を共有し、統一した支援を提供します
リハビリテーション実施計画書と混同されやすいのが「リハビリテーション総合実施計画書」です。両者の違いを明確に理解しておきましょう。
項目 | リハビリテーション実施計画書 | リハビリテーション総合実施計画書 |
対象 | 入院・外来・訪問・通所リハビリ全般 | 回復期リハビリテーション病棟入院患者 |
作成義務 | リハビリ料算定時に必須 | 回復期リハビリ病棟入院料算定時に必須 |
内容の詳細度 | 標準的な詳細度 | より包括的で詳細 |
カンファレンス | 定期的な実施 | 週1回以上の多職種カンファレンスが必須 |
つまり、リハビリテーション実施計画書は標準的な計画書であり、総合実施計画書は回復期リハビリ病棟という特定の場面で求められる、より詳細な計画書という位置づけです。
初回作成 :リハビリテーション開始前または開始時
更新 :医療保険では概ね1ヵ月ごと、介護保険では3ヵ月ごとが標準
状態変化時 :患者・利用者の状態が大きく変化した場合は随時更新
リハビリテーション実施計画書に記載すべき必須項目を整理します。厚生労働省が示す標準様式に基づいて解説します。
- 患者・利用者氏名、生年月日、年齢
- 診断名(主病名と副病名)
- 障害名・障害の部位
- 作成日、作成者(リハビリ担当職種名と氏名)
- 心身機能・身体構造: 関節可動域、筋力、麻痺の程度など
- 活動:ADL(日常生活動作)の自立度、移動能力など
- 参加:社会参加の状況、家庭内役割など
- 環境因子:住環境、家族構成、介護力など
- 個人因子:本人の希望、性格、生活歴など
目標設定は短期目標と長期目標に分けて記載します。
- 長期目標:最終的に目指す生活の姿(例:自宅で妻と二人暮らしを再開する)
- 短期目標:1~3ヵ月程度で達成を目指す具体的な目標(例: 屋内を杖歩行で移動できる)
目標は必ず具体的かつ測定可能な表現で記載することが重要です。
- 実施するリハビリの種類(理学療法・作業療法・言語聴覚療法)
- 具体的なアプローチ方法(関節可動域訓練、筋力増強訓練、歩行訓練など)
- 実施頻度(週○回、1回○分など)
- 実施期間
- 禁忌事項(おこなってはいけないこと)
- 留意事項(注意が必要なこと)
- 血圧、心拍数などのバイタルサインの管理基準
- 本人・家族への説明日と説明者
- 同意取得の記録
- 次回評価予定日
実際の記入例を示しながら、書き方のポイントを解説します。
良い例 | 悪い例 | |
心身機能 | 右片麻痺(Br.stage上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ)、右肩関節屈曲100度、ROM制限あり | 麻痺あり |
活動 | 移乗見守り、歩行は4点杖使用で屋内20m程度可能、整容・更衣に一部介助必要 | ADL一部介助 |
参加 | 自宅退院を希望、妻と二人暮らし、家事は妻が担当 | 自宅退院希望 |
【ポイント】
具体的な数値や状態を記載することです。「麻痺あり」ではなく、麻痺の程度や部位を明確に記載します。
良い例 | 悪い例 | |
長期目標 | 自宅にて妻と二人暮らしを再開し、デイサービスに週2回通所する | ADLの向上 |
短期目標 | 1.屋内を4点杖で自立歩行できる 2.整容動作を自立しておこなえる 3.階段昇降を手すりと見守りでおこなえる | 歩行能力の改善 |
【ポイント】
「いつまでに」「何が」「どのレベルまで」できるようになるかを明確にすることです。抽象的な表現ではなく、具体的な生活場面での達成状態を記載します。
良い例 | 悪い例 | |
理学療法 | 週5回、1回40分 | 理学療法を実施する |
【ポイント】
何をどのくらいの頻度でおこなうのか明示することです。ただし、あまりに詳細すぎると柔軟な対応ができなくなるため、適度な具体性が重要です。
- 心疾患の既往あり。運動時は血圧150/90mmHg以下、心拍数120回/分以下を目安とする
- めまいの訴えあり。立ち上がり時は転倒リスクに注意
- 高次脳機能障害(注意障害)あり。指示は短く、繰り返しおこなう
これらの記載により、安全にリハビリテーションを実施するための情報が共有されます。
実務で計画書を作成する際に注意すべきポイントを解説します。
計画書は専門職の一方的な判断で作成するものではありません。本人や家族が何を望んでいるのか、どのような生活を送りたいのかを丁寧にヒアリングし、それを目標に反映させることが重要です。
リハビリ担当職種だけでなく、医師、看護師、介護職員、ケアマネジャーなど、関係する職種と情報を共有しながら作成します。カンファレンスの機会を活用し、多角的な視点を取り入れましょう。
計画書は作成して終わりではありません。設定した評価時期には必ず評価をおこない、目標の達成度や状態変化に応じて計画を更新します。更新を怠ると算定要件を満たさなくなる可能性があります。
計画内容を本人・家族に説明し、同意を得ることが必須です。説明した日付と説明者を記録し、可能であれば署名をもらいましょう。口頭での説明だけでなく、文書を渡して確認してもらうことが望ましいです。
現在の状態、目標、リハビリ内容に矛盾がないか確認します。例えば、歩行に関する問題がないのに歩行訓練を大きな目標にしていないか、目標に対して実施内容が不足していないかなど、全体の整合性をチェックしましょう。
本人・家族が読んで理解できる内容であることも重要です。専門用語を使う場合は、必要に応じて補足説明を加えるなど、分かりやすさにも配慮しましょう。
計画書は法定書類であり、サービス提供終了後も一定期間(通常5年間)保管する必要があります。紛失や破損がないよう、適切に管理しましょう。
リハビリテーション実施計画書は、患者・利用者に質の高いリハビリテーションを提供するための重要なツールです。作成のポイントを整理すると以下のようになります。
- 具体的で測定可能な目標設定
- 本人・家族の意向を反映
- 多職種で情報共有
- 基本情報と診断名
- 現在の状態(心身機能、活動、参加、環境)
- 長期・短期目標
- リハビリ実施内容と頻度
- リスク管理事項
- 定期的な評価と更新
- 本人・家族への説明と同意取得
- 記載内容の整合性確認
- 適切な記録保管
初めて作成する方は完璧を目指す必要はありません。基本的な項目を押さえ、本人の状態と目標が明確に記載されていれば十分です。経験を重ねることで、より質の高い計画書が作成できるようになります。
リハビリテーション実施計画書は、単なる事務書類ではなく、患者・利用者の生活の質を向上させるための道しるべです。この記事で解説した内容を参考に、実務で自信を持って計画書を作成していただければ幸いです。